身近な所にも!行動経済学の活用事例8選

身近な所にも!行動経済学の活用事例8選

人は時として非合理な判断をくだすという前提に立ち、どのような振る舞いをするのかを分析する行動経済学。「学」とつくので難しく感じるかもしれませんが、身の回りには行動経済学を元にした仕組みがたくさん存在しています。プロスペクト理論、サンクコスト効果、アンカリング効果、バンドワゴン効果の具体的な活用事例を見ていきましょう。


ビジネス・マーケティング文脈で注目される行動経済学

多くの業界、分野で成熟が進みライバル他社との差別化を図りづらいなか、自社の商品やサービスを手にとってもらうために「行動経済学」に基づいたアプローチが注目されています。

行動経済学に基づき、経済的な報酬や罰則といった手段を用いずに、人々の意思決定をデザインし、自発的な行動を促す手法を「ナッジ」と呼びます。以降、ビジネスやマーケティング文脈において実際に用いられている行動経済学の例を紹介します。

マーケティングで活用がすすむ「行動経済学」とは?

https://manamina.valuesccg.com/articles/1147

経済学や経済行動に心理学を交えて分析する「行動経済学」。サンクコストや現状維持バイアスなど有名な理論も含まれ、2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞し、さらに注目を集めるようになりました。今回は、行動経済学と経済学の違いから行動経済学をビジネスやマーケティングにどのように落とし込んで実践するかを解説します。

先着○○名限定・○日まで半額セール ~「プロスペクト理論」

消費者を焦らせるような「先着○○名限定特価」「○日まで半額セール」といった施策は、行動経済学における「プロスペクト理論」に基づいた施策です。

プロスペクト理論は「損失回避性」とも言われ、人は損失に対して過大に評価する傾向があり、実際の損得と心理的な損得が一致しない場合があることを指します。人は得をする可能性があるときはそれを得られるようにし、損をする恐れがあるとそれを避けようとする、という理論です。

上記の例では、限定条件を外してしまうと、買えなくなったり高くなると「損」をした、と感じがちです。この損失を避けるために、必要性が薄くても決断を迫られ、とりあえず買ってしまいがちです。

ユーザーが「この機会を逃したら損をしてしまう。だから今このタイミングで購入しよう」と思うようなキャッチフレーズ・文言がプロスペクト理論の活用になります。

注意点としては、実際には限定でなかったり、値引き前価格での販売実績がない場合は、景品表示法違反に問われる可能性があります。

割引クーポン・無料お試し期間 ~「サンクコスト効果」

お得感を演出する来店時に配られる割引クーポンや無料お試し期間といった施策は、行動経済学の「サンクコスト効果」を活用しています。

サンクコスト効果とは、 費やして既に取り戻せない金銭・時間・労力を「サンクコスト」と言い、それを取り戻そうとする心理効果です。

例えば、パチンコで負け始めた時に、取り返すまでは帰れない!と止められない心理は、典型的なサンクコストです。

割引クーポンは、せっかくもらったのだから使わなくては損、という心理、無料お試し期間は申込みの手間がサンクコストになります。無料お試し期間の場合、無料期間内にその商品やサービスを気に入ってもらい、無料期間終了後に正規の価格でそれを購入してもらう、という狙いもあります。

サンクコストのそのほかの例を紹介します。

入会金、年会費制度
せっかく入会金(年会費)を払ったんだから元を取らないと、という心理(=入会金、年会費というサンクコスト)

〇〇円以上購入での特典
もうすぐ〇〇円だから、余計なものを購入しても特典を得たい、という心理(=払った金額+特典というサンクコスト)

会員のランク付け
顧客の購入金額の多寡や会員期間の長さによってランク付けが変わる場合、その地位を確保したい、という心理(購入金額や時間といったサンクコスト)

付録つき月刊誌
特に数ヶ月以上にわたって付録がつく月刊誌の場合、付録をコンプリートしたい、という心理(ここまで買い続けたんだから完成させないともったいないというサンクコスト)

本日限りの特価・通常価格から○○%OFF ~「アンカリング効果」

力強い「本日限りの特価!」「通常価格から○○%OFF!!」というキャッチコピー。これらは行動経済学における「アンカリング効果」を狙ったものです。

アンカリング効果とは、初めに提示された情報が強い印象としてインプットされ、その後の意思決定に影響を与える効果のことです。

本日限りの特価!であれば、安いのは今日「だけ」。通常価格から○○%OFF!!の場合は「○○%OFF!!」という情報が強烈なインパクトとして、この文言に触れた人に刻まれ、購入の後押しになります。ちなみにここでの「○○%OFF!!」は、具体的にいくらお得になるかではなく「安くなっている」という印象を与えるためのメッセージです。

このような商品のキャッチコピー以外にも、アンカリング効果は営業マンが有利に話を進めるためにも利用されます。ファーストコンタクト時に自分の強み、例えばそのジャンルについての造詣が深いことを印象づけたり、見積書提出時に「特別値引き」として、相手にお得感を持ってもらうといった方法でも、アンカリング効果を得られます。

繰り返しになりますが、値引き前価格での販売実績がないと景品表示法に抵触するので、関連法規に注意しましょう。

販売累計○○万突破・業界シェア率ナンバーワン ~「バンドワゴン効果」

販売数の多さを感じさせる「販売累計○○万突破!」「業界シェア率ナンバーワン!」といった文言ですが、これらは行動経済学の「バンドワゴン効果」を利用したものです。

バンドワゴン効果とは、その商品を持っていたり、使っている人数が多いほどその商品を欲する人が増える現象を指します。人気商品ほど「あの人が持っているから私も欲しい」や「これを持っていないと流行遅れになってしまう」という心理が働き、人がさらに人を呼ぶ流れを呼びます。

バンドワゴン効果は、数字の多さを強調するだけにとどまらず「今もっとも売れています!」「残りわずか」といった、人気を表す言葉を用いたり、店舗であれば陳列棚の一部をあえて空けておき、この商品は売れている=人気があるという雰囲気づくりも有効です。

そのほかにも、テレビ番組で紹介されました、〇〇賞受賞!といった社会的評価を得られていることを前面に出すのもバンドワゴン効果につながります。この評価を購入の判断軸にする人は少なくないはずです。

同じく、バンドワゴン効果を狙っての宣伝、過度になったり事実と異なる宣伝をすると景品表示法に抵触してしまう点を留意してください。

まとめ

今回紹介した行動経済学を用いたさまざまな例、いずれも目にしたことがある機会が多いのではないでしょうか?行動経済学的観点から自社の宣伝の内容や他社の動向をチェックすると、自社に適した新たなマーケティング施策が思い浮かぶのではないでしょうか。

​​

メールマガジン登録

最新調査やマーケティングに役立つ
トレンド情報をお届けします

この記事のライター

マナミナは" まなべるみんなのデータマーケティング・マガジン "。
市場の動向や消費者の気持ちをデータを調査して伝えます。

編集部は、メディア出身者やデータ分析プロジェクト経験者、マーケティングコンサルタント、広告代理店出身者まで、様々なバックグラウンドのメンバーが集まりました。イメージは「仲の良いパートナー会社の人」。難しいことも簡単に、「みんながまなべる」メディアをめざして、日々情報を発信しています。

関連する投稿


ロイヤルカスタマーとは?事例から学ぶ優良顧客の育成方法を紹介

ロイヤルカスタマーとは?事例から学ぶ優良顧客の育成方法を紹介

ロイヤルカスタマーとは、企業に愛着・忠誠心を持つ顧客層のことを指しており、売り上げ貢献度が高いことから、こういった顧客層を獲得することが企業存続・成長を目指す上で重要とされています。しかしながら、ロイヤルカスタマーを獲得するといっても、何をすればいいのかわからない企業の担当者の方も多いでしょう。ロイヤルカスタマーは新規顧客のように獲得するのではなく、既存顧客を育成することで徐々に増やしていく戦略が有効となります。そこで本記事では、ロイヤルカスタマーの基本的な内容に加え、優良顧客やリピーターとの違い、ロイヤルカスタマーの具体的な育成方法について解説します。


ARPUとは?客単価との違いや計算方法・向上のための6つの施策

ARPUとは?客単価との違いや計算方法・向上のための6つの施策

ARPU(アープ)とは、ユーザー一人当たりの平均収益・売上を示す指標です。 もともとは携帯電話等の一契約当たりの売り上げを表す際に用いられていましたが、Saasや課金制のビジネスモデルでもARPUが活用されています。ARPUを用いることで、「優良顧客の選定」や「事業の成長性や収益性の判断」といった経営判断を行えます。本記事では、ARPUの計算方法に加え、ほかの関連指標との違い、ARPUを向上させる施策について解説します。SaaSの運営や、課金のあるサービスの運営をしている方や、ARPUの数値を改善したい方は参考にしてください。


ROASとは?計算方法や目標値・目安、ROASを改善する7つの手法をわかりやすく解説

ROASとは?計算方法や目標値・目安、ROASを改善する7つの手法をわかりやすく解説

ROASとは、全体の売上の中で広告費用がどれだけの影響を及ぼしたかを測る指標です。 ROASを分析することにより、「効果測定を簡単に行える」「広告キャンペーンの予算配分を最適化できる」「リアルタイムでの改善が可能」などのメリットがあります。 しかしながら、「ROASはどうやって計算すればいい?」「ROASを改善する具体的な方法は?」について気になっている方も多いのではないでしょうか。 そこで本記事では、ROASの基礎や計算式の解説に加え、ROASを具体的に改善する方法やROAS分析に役立つツールについて解説します。


行動経済学の“ナッジ”とは?環境デザインで望ましい自発的な行動を促す

行動経済学の“ナッジ”とは?環境デザインで望ましい自発的な行動を促す

行動経済学で使われる「ナッジ(nudge)」は、聞き慣れない英単語でしょう。報酬によるインセンティブや罰則によらず、環境デザインによって望ましい自発的な行動を促す手法で、政策やマーケティング・UI/UXなどに活用されています。ナッジの事例やナッジの作成に役立つフレームワークを紹介します。


CROとは? Webマーケティングにおいて効果的な施策例を紹介

CROとは? Webマーケティングにおいて効果的な施策例を紹介

Webサイトのコンバージョン率を高めるCRO。CROは売上に直結する重要な施策です。この記事では、CROの目的や施策例、実践方法などについて詳しく解説します。Webサイトのコンバージョン率を高めたい方はぜひ参考にしていただければ幸いです。


最新の投稿


現役大学生のうち約4割がマスメディアよりSNSを信用!情報は正確性よりも"早さ"で選ぶのが主流【RECCOO調査】

現役大学生のうち約4割がマスメディアよりSNSを信用!情報は正確性よりも"早さ"で選ぶのが主流【RECCOO調査】

株式会社RECCOOは、同社が運営するZ世代に特化したクイックリサーチサービス『サークルアップ』にて、最新のZ世代調査として「情報リテラシー」をテーマにした調査を実施し、結果を公開しました。


コスモヘルス、シニア世代の保険加入に関する実態調査結果を公開

コスモヘルス、シニア世代の保険加入に関する実態調査結果を公開

コスモヘルス株式会社は、同社が運営するシニア専門の調査プラットホーム「コスモラボ」にて、保険に関する市場調査・アンケートリサーチを実施し、結果を公開しました。


カスタマージャーニーマップ(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

カスタマージャーニーマップ(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回はカスタマージャーニーマップ(体験設計のアウトプット)について寄稿いただきました。※本記事は菅原さんの書籍『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)と連動した内容を掲載しています。


コンタクトレンズを使用したい子どもは6割以上!対して9割超の親が子どものコンタクトデビューに不安あり【メニコン調査】

コンタクトレンズを使用したい子どもは6割以上!対して9割超の親が子どものコンタクトデビューに不安あり【メニコン調査】

株式会社メニコンは、小学4年生以上中学3年生以下の子どもを持つ親を対象に「子どものコンタクトレンズ選びに関する調査」を実施し、結果を公開しました。


Z世代が最も利用しているSNSは「YouTube」で利用率8割超!前年から利用率が最も伸びたのは「BeReal.」に【サーバーエージェント調査】

Z世代が最も利用しているSNSは「YouTube」で利用率8割超!前年から利用率が最も伸びたのは「BeReal.」に【サーバーエージェント調査】

株式会社サイバーエージェントは、インターネット広告事業の「サイバーエージェント次世代生活研究所」において、「2024年 Z世代SNS利用率調査」を実施し、Z世代が利用しているSNSおよび各世代のSNS利用率・認知率を発表しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ