ビジネス・マーケティング文脈で注目される行動経済学
多くの業界、分野で成熟が進みライバル他社との差別化を図りづらいなか、自社の商品やサービスを手にとってもらうために「行動経済学」に基づいたアプローチが注目されています。
行動経済学に基づき、経済的な報酬や罰則といった手段を用いずに、人々の意思決定をデザインし、自発的な行動を促す手法を「ナッジ」と呼びます。以降、ビジネスやマーケティング文脈において実際に用いられている行動経済学の例を紹介します。
経済学や経済行動に心理学を交えて分析する「行動経済学」。サンクコストや現状維持バイアスなど有名な理論も含まれ、2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞し、さらに注目を集めるようになりました。今回は、行動経済学と経済学の違いから行動経済学をビジネスやマーケティングにどのように落とし込んで実践するかを解説します。
先着○○名限定・○日まで半額セール ~「プロスペクト理論」
消費者を焦らせるような「先着○○名限定特価」「○日まで半額セール」といった施策は、行動経済学における「プロスペクト理論」に基づいた施策です。
プロスペクト理論は「損失回避性」とも言われ、人は損失に対して過大に評価する傾向があり、実際の損得と心理的な損得が一致しない場合があることを指します。人は得をする可能性があるときはそれを得られるようにし、損をする恐れがあるとそれを避けようとする、という理論です。
上記の例では、限定条件を外してしまうと、買えなくなったり高くなると「損」をした、と感じがちです。この損失を避けるために、必要性が薄くても決断を迫られ、とりあえず買ってしまいがちです。
ユーザーが「この機会を逃したら損をしてしまう。だから今このタイミングで購入しよう」と思うようなキャッチフレーズ・文言がプロスペクト理論の活用になります。
注意点としては、実際には限定でなかったり、値引き前価格での販売実績がない場合は、景品表示法違反に問われる可能性があります。
割引クーポン・無料お試し期間 ~「サンクコスト効果」
お得感を演出する来店時に配られる割引クーポンや無料お試し期間といった施策は、行動経済学の「サンクコスト効果」を活用しています。
サンクコスト効果とは、 費やして既に取り戻せない金銭・時間・労力を「サンクコスト」と言い、それを取り戻そうとする心理効果です。
例えば、パチンコで負け始めた時に、取り返すまでは帰れない!と止められない心理は、典型的なサンクコストです。
割引クーポンは、せっかくもらったのだから使わなくては損、という心理、無料お試し期間は申込みの手間がサンクコストになります。無料お試し期間の場合、無料期間内にその商品やサービスを気に入ってもらい、無料期間終了後に正規の価格でそれを購入してもらう、という狙いもあります。
サンクコストのそのほかの例を紹介します。
入会金、年会費制度
せっかく入会金(年会費)を払ったんだから元を取らないと、という心理(=入会金、年会費というサンクコスト)
〇〇円以上購入での特典
もうすぐ〇〇円だから、余計なものを購入しても特典を得たい、という心理(=払った金額+特典というサンクコスト)
会員のランク付け
顧客の購入金額の多寡や会員期間の長さによってランク付けが変わる場合、その地位を確保したい、という心理(購入金額や時間といったサンクコスト)
付録つき月刊誌
特に数ヶ月以上にわたって付録がつく月刊誌の場合、付録をコンプリートしたい、という心理(ここまで買い続けたんだから完成させないともったいないというサンクコスト)
本日限りの特価・通常価格から○○%OFF ~「アンカリング効果」
力強い「本日限りの特価!」「通常価格から○○%OFF!!」というキャッチコピー。これらは行動経済学における「アンカリング効果」を狙ったものです。
アンカリング効果とは、初めに提示された情報が強い印象としてインプットされ、その後の意思決定に影響を与える効果のことです。
本日限りの特価!であれば、安いのは今日「だけ」。通常価格から○○%OFF!!の場合は「○○%OFF!!」という情報が強烈なインパクトとして、この文言に触れた人に刻まれ、購入の後押しになります。ちなみにここでの「○○%OFF!!」は、具体的にいくらお得になるかではなく「安くなっている」という印象を与えるためのメッセージです。
このような商品のキャッチコピー以外にも、アンカリング効果は営業マンが有利に話を進めるためにも利用されます。ファーストコンタクト時に自分の強み、例えばそのジャンルについての造詣が深いことを印象づけたり、見積書提出時に「特別値引き」として、相手にお得感を持ってもらうといった方法でも、アンカリング効果を得られます。
繰り返しになりますが、値引き前価格での販売実績がないと景品表示法に抵触するので、関連法規に注意しましょう。
販売累計○○万突破・業界シェア率ナンバーワン ~「バンドワゴン効果」
販売数の多さを感じさせる「販売累計○○万突破!」「業界シェア率ナンバーワン!」といった文言ですが、これらは行動経済学の「バンドワゴン効果」を利用したものです。
バンドワゴン効果とは、その商品を持っていたり、使っている人数が多いほどその商品を欲する人が増える現象を指します。人気商品ほど「あの人が持っているから私も欲しい」や「これを持っていないと流行遅れになってしまう」という心理が働き、人がさらに人を呼ぶ流れを呼びます。
バンドワゴン効果は、数字の多さを強調するだけにとどまらず「今もっとも売れています!」「残りわずか」といった、人気を表す言葉を用いたり、店舗であれば陳列棚の一部をあえて空けておき、この商品は売れている=人気があるという雰囲気づくりも有効です。
そのほかにも、テレビ番組で紹介されました、〇〇賞受賞!といった社会的評価を得られていることを前面に出すのもバンドワゴン効果につながります。この評価を購入の判断軸にする人は少なくないはずです。
同じく、バンドワゴン効果を狙っての宣伝、過度になったり事実と異なる宣伝をすると景品表示法に抵触してしまう点を留意してください。
まとめ
今回紹介した行動経済学を用いたさまざまな例、いずれも目にしたことがある機会が多いのではないでしょうか?行動経済学的観点から自社の宣伝の内容や他社の動向をチェックすると、自社に適した新たなマーケティング施策が思い浮かぶのではないでしょうか。
メールマガジン登録
最新調査やマーケティングに役立つ
トレンド情報をお届けします
マナミナは" まなべるみんなのデータマーケティング・マガジン "。
市場の動向や消費者の気持ちをデータを調査して伝えます。
編集部は、メディア出身者やデータ分析プロジェクト経験者、マーケティングコンサルタント、広告代理店出身者まで、様々なバックグラウンドのメンバーが集まりました。イメージは「仲の良いパートナー会社の人」。難しいことも簡単に、「みんながまなべる」メディアをめざして、日々情報を発信しています。