そのアンケート回答は真実か?意識と無意識をアンケート×Webログで読み解く

そのアンケート回答は真実か?意識と無意識をアンケート×Webログで読み解く

ブランドの認知度への違和感、曖昧な回答内容、カスタマージャーニーのつかみづらさ…etc. こうした事に、アンケート調査で悩まされた経験のあるマーケティング担当者は少なくないかと思います。今回は、消費者の記憶と実行動に焦点をあて、その乖離や実態を解説します。


皆様、はじめまして。
ヴァリューズでマーケティングコンサルタントを務めている向井優と申します。
ふだんは海外向けマーケティングでコラムを書く事が多いですが、今回は国内のマーケティングリサーチに焦点を当て、調査会社の「禁忌」ともいえる「アンケート回答の確からしさ」についてお話しします。

向井優

向井優(むかい・すぐる)株式会社ヴァリューズ マーケティングコンサルタント
京都大学大学院で中国哲学史を専攻。前職では外務省や大手ホテル等を中心に訪日外国人施策を担当。ヴァリューズでは、国内でのマーケティング支援を行う一方で、食品・飲料・ヘルスケア領域を中心に中国本土進出・越境EC・訪日中国人市場の調査/マーケティング支援を行っている。趣味は旅行と漢文・民俗学の文献研究。

1.「自分にぴったりな商品」という回答に感じるモヤモヤ

アンケート調査をしているとよく出くわすのが、商品の購入理由での「自分にぴったりだと感じたから」という回答です。消費者の方はそう感じて回答されているのでしょう。

しかし、「ぴったりと言われても、それってどういう事?」と思った事のあるマーケティング担当者の方は少なくないのではないでしょうか?

こうした傾向が如実に出るのが保険です。
各社の保険を選んだ人について、選択理由を聞くと、たいていアンケートでは「保険料が安い」「自分にぴったり」「保障が充実している」などが上位に来ます。

「まあ、そりゃそう」ではあります。

しかし、各社に加入するすべての消費者が、果たして本当に「自分にぴったりな保険」を見つけ、理解できているのかは、非常に疑問です。

では、実際には消費者はどのように保険を検討しているのでしょうか。
下の図は、ある保険検討者が、保険会社に最初の接触から、指名検索に至るまでのネット行動の変遷をまとめたものです。

保険のカスタマージャーニー

最初、安い保険を調べてアクサ生命やライフネット生命の広告に接触し、その後も比較サイトや保険各社に接触しながら検討を重ねています。最終的にこの方は、最初に接触していたライフネット生命を指名検索するようになります。

検索キーワードを見て行くと、保険の必要性に疑問を持ちながら、「50代独身男性」である自分に合った保険が無いのかを調べている事がうかがわれます。

ライフネット生命が指名検索されるようになった要因の一つとして、同社の取っている「保険について迷っている層に、保険を自分事化させるコミュニケーション」が考えられます。

例えば、今回の対象者の様に保険に悩む消費者に向けて「保険が必要かどうか」を解説するコンテンツを用意していたりもします。

ライフネット生命のオウンドメディアの記事

ライフネット生命のオウンドメディアの記事

実際、ライフネット生命の検討者にはこうしたコンテンツがキーになっているケースがしばしばみられました。

もちろん、ライフネット生命が本当にその対象者に合った「唯一の保険会社」である可能性もありますが、どちらかと言えば検討行動におけるコミュニケーションの中で、「自分に合っている」と感じて貰えたかどうかが、鍵になっているとみられます。

「自分に合った商品だから」と消費者が答える裏側では、このような検討行動がなされているのです。

2.アンケートと矛盾するネットの実行動

アンケートの結果と、実際の行動が如実に矛盾するのが、サイトやアプリへの接触です。
下のグラフは、利用しているサイト・アプリについて、アンケートでの回答結果と、実際のWebログ行動でのサイト接触・起動の乖離を表したものです。

緑色:「アンケートで利用と回答したが、実際にはWebログで利用が確認できなかった人」の割合

黄色:「アンケートで利用していないと回答しているが、実際にはWebログで利用が確認できた人」の割合

サイトの接触有無

アプリは乖離が小さいものの、サイトは乖離が大きい事が分かります。特にQ&Aサイトやまとめサイト、直接サイト名を検索しないようなサイトは閲覧を覚えていないことが多く、15~30%程度のズレが生じています。また、YouTubeは自然と起動している事が多いからか、アプリにも関わらずダントツでアンケートとの乖離が大きく出ています。

その他、ある調査ではアンケートでの「商品を検討し始めた時期」の回答内容と、Webでの実行動上で「その商品に接触し始めた時期」が大きくずれていたり、「検討していない」とアンケートで答えていた商品に、実際にはネット上で接触しているケースも見られました。

この様に、具体的な検討行動になる程、人の記憶は曖昧になってしまっている事が分かります。

3.アンケートが信じられるケースも

もちろん、アンケート回答の全てが信じられないという訳ではありません。その典型が「記憶に残るようなイベント」や「購入月」のような大きな粒度での情報です。

下のグラフは、犬の飼育者に対し、アンケートで「犬を飼い始めた月」を聴取し、Web行動ログで、犬の飼い始めの前後の月の、ネット上での閲覧コンテンツを集計したものです。

犬の飼い始めユーザーの閲覧コンテンツ

犬の飼い始めユーザーの閲覧コンテンツ

犬の飼い始め前から、犬の食事に関するコンテンツへの接触率は高いですが、飼い始めの当月になると、犬のトイレについての閲覧が急増しています。ペットを迎える前後で、トイレのしつけやお世話という現実的な問題への関心が高まっている事がうかがえます。

その後、2か月目には去勢についての閲覧が増加しており、ペットの今後を見据えたケアが飼い主の念頭に浮かぶようになっています。

こうしたネット上での接触情報の変遷は実際の消費者の行動として説得力があるのではないでしょうか。

まとめ … 意識・実行動の組み合わせが重要

ここまで、アンケート回答と実行動の乖離を軸に、いくつかの事例をご紹介しました。

アンケートは重要な調査手法である一方で、曖昧な回答内容の背景にあるインサイトや、実際のネット行動は、アンケートでは明らかにすることが難しい事が見えてきました。

一方で、アンケートと実行動のデータ(Web行動ログ)をうまく組み合わせる事で、従来の調査では明らかにすることが難しかった具体的な粒度で、消費者のインサイトを明らかにする事が可能です。こうした観点は、消費者の購買へのネットの影響が高まっている現在、ますます重要と言えそうです。

※本記事で取り上げたような様々な消費者のネット行動について、特にwithコロナでの変化を中心としたホワイトペーパーをまとめています。よろしければ、こちらもご覧ください。

「デジタル・トレンド白書2021-withコロナ編-」を公開 ~ コロナ禍における消費者のデジタル動向調査

https://manamina.valuesccg.com/articles/1326

マナミナでは、これまで消費者トレンドや、さまざまな業界事情、withコロナの変化などの調査を行ってきましたが、その内容を一つにまとめた「デジタル・トレンド白書2021」をリリースしました。「第一部 withコロナ編」についてご紹介します。※レポートは無料でダウンロード頂けます。(ページ数|137p)

​​

メールマガジン登録

最新調査やマーケティングに役立つ
トレンド情報をお届けします

この記事のライター

京都の大学で長らく中国哲学史を研究。現在は事業会社に対するマーケティング支援を担当。中国・東南アジアを中心にグローバルリサーチにも携わっている。趣味は旅行と文献研究。

関連するキーワード


アンケート

関連する投稿


【調査リリース】Z世代メンズの美容意識を調査 ミレニアル世代より10%以上高く70%以上が美容に関心

【調査リリース】Z世代メンズの美容意識を調査 ミレニアル世代より10%以上高く70%以上が美容に関心

SNS上のバズやトレンドへの感度が高く、流行を生み出す世代として注目のZ世代。企業のライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を高めるためには、顧客ライフサイクルが長いと思われる若い世代の獲得は避けて通れません。そこで今回は、「メンズメイク」「メンズコスメ」への関心が高まっているという背景から、Z世代男性の美容に関する意識や購買行動を、ミレニアル世代と比較しながら調査。美容潜在層を顕在層にするために、どのような環境やきっかけが必要なのか、現役Z世代アナリストが分析しました。


【調査リリース】2024年夏の旅行トレンド全国調査~海外旅行は早めの予約が人気、20代女性の旅行意欲の高まりが目立つ

【調査リリース】2024年夏の旅行トレンド全国調査~海外旅行は早めの予約が人気、20代女性の旅行意欲の高まりが目立つ

インターネット行動ログ分析によるマーケティング調査・コンサルティングサービスを提供する株式会社ヴァリューズ(本社:東京都港区、代表取締役社長:辻本 秀幸、以下「ヴァリューズ」)は、国内の20歳以上の男女45,818人を対象に、今夏の旅行予定に関する消費者アンケート調査を実施しました。またヴァリューズが保有する約250万人の独自消費者パネルを活用したインターネット行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を使用して、消費者の観光ニーズを分析しました。


【調査リリース】4大SNSのヘビーユーザーを比較調査!X利用者はフォロー/シェア等での割引施策参加に積極的、 TikTok利用者は高価でも衝動買いの傾向

【調査リリース】4大SNSのヘビーユーザーを比較調査!X利用者はフォロー/シェア等での割引施策参加に積極的、 TikTok利用者は高価でも衝動買いの傾向

アプローチしたい顧客セグメントに到達するためには、コミュニケーション媒体として適切なSNSを選定し活用することが重要です。数多くの新興SNSも登場する中、どんなユーザーがどのSNSを選び、どのような購買活動をしているのか。今回は4大SNSとも言える、Facebook、Instagram、TikTok、X(旧Twitter)それぞれのヘビーユーザーの属性、購買動機や興味関心などのサイコグラフィック、メディアの利用状況や消費行動などを調査し、ユーザープロファイルを作成しました。


初心者歓迎!実例で学ぶマーケティング・リサーチ基礎<2024年最新版>|セミナーレポート

初心者歓迎!実例で学ぶマーケティング・リサーチ基礎<2024年最新版>|セミナーレポート

多くの企業でマーケティング活動の基礎になっているマーケティング・リサーチ。インサイト探索から商品の育成まであらゆるテーマが存在し、扱うデータも増えていることから、どこから手をつければいいかという悩みを抱いている方も多いのではないでしょうか。本セミナーでは初めてマーケティング・リサーチに携わる方を対象に、基本的な考え方やリサーチの進め方を分かりやすく解説。また、ヴァリューズで2022年1月に実施した市場分析調査レポートを実例として、仮説の立て方や具体的な調査票設計、分析、レポーティングまでの工程・ノウハウの解説に加え、Web行動ログとアンケート調査の活用方法もご案内しました。※本セミナーのレポートは無料でダウンロードできます。


YouTube, Shorts & TikTok: Comparing Gen X, Y, & Z! Usage rates, how they’re used, & effectiveness of ads <Part 2>

YouTube, Shorts & TikTok: Comparing Gen X, Y, & Z! Usage rates, how they’re used, & effectiveness of ads <Part 2>

Gen Z has been enjoying videos since their school days and known as one of the first to adopt short-form videos. We’ll analyze how they use video-format social media and compare with Gen X and Y. This analysis will cover medium usage, popular content, daily integration, purchasing behavior, and awareness.


最新の投稿


BtoB企業の半数以上が2023年と比較して広告施策のCPAの高騰を実感!対策は「コンテンツマーケティングの実施」が上位【IDEATECH調査】

BtoB企業の半数以上が2023年と比較して広告施策のCPAの高騰を実感!対策は「コンテンツマーケティングの実施」が上位【IDEATECH調査】

株式会社IDEATECHは、BtoB事業の広告担当者を対象に、【2024年版】BtoB企業の広告施策の実態調査を実施し、結果を公開しました。


新型iPhone16を購入・買い替え予定の方は約1割!? 購入に消極的な理由として「今のスマホに満足」「価格の高いので見送り」が上位に【イード調査】

新型iPhone16を購入・買い替え予定の方は約1割!? 購入に消極的な理由として「今のスマホに満足」「価格の高いので見送り」が上位に【イード調査】

株式会社イードは、同社が運営する格安SIMやスマホについてユーザー目線で最新情報をお届けするメディア「LiPro(インターネット)」において、新型モデルiPhone 16に関する買い替えについてのアンケート調査を実施し、結果を公開しました。


博報堂DYMP、過去14年間分の初出稿のテレビCMデータを分析したレポートを発表

博報堂DYMP、過去14年間分の初出稿のテレビCMデータを分析したレポートを発表

株式会社博報堂DYメディアパートナーズの研究開発コミュニティ「TV AaaS Lab(テレビアースラボ)」は、関東・関西・名古屋いずれかのエリアでテレビCMに初出稿を行った企業の過去14年間分のデータを分析した「テレビCM初出稿広告主分析2010-2024」を実施し、結果を公開しました。


東急エージェンシー、企業ブランディングの取り組みに関するアンケート調査結果を公開

東急エージェンシー、企業ブランディングの取り組みに関するアンケート調査結果を公開

株式会社東急エージェンシーは、同社のブランドコンサルティングユニット「ゆえん」にて、企業の経営者と従業員に対して「ブランディング実践企業の実態調査」を実施し、結果を公開しました。


電通グループ、CMO調査レポート2024を発表

電通グループ、CMO調査レポート2024を発表

電通グループは、日本を含む世界の主要14市場における企業のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を対象に、グローバル規模の「CMO調査レポート2024」を発表しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ