ノーベル経済学賞と歴代受賞者
ノーベル経済学賞とは、経済学の分野において傑出した重要な研究を成し遂げた人物に授与されるもので、1969年より毎年授与されています。
ノーベル経済学賞を受賞した代表的な人物として、1976年に受賞したミルトン・フリードマンがいます。シカゴ学派の重鎮として知られたアメリカの経済学者で、人間にとってもっとも重要なのは自由であることとする「新自由主義」を掲げ、市場原理主義、金融資本主義を唱えました。
続いては2008年に受賞した、ポール・クルーグマンです。氏は自由貿易とグローバリゼーションの影響を解明し、世界的な都市化の発展を説明する新理論を打ち出した功績が認められ、ノーベル経済学賞を受賞しました。
なお、日本人のノーベル経済学賞受賞者は現段階ではいません。
■「ノーベル経済学賞」は「ノーベル賞」ではない?
ノーベル賞はスウェーデンの実業家だったアルフレッド・ノーベルの遺言に従って設立され、物理学、化学、医学生理学、平和という5つの部門が用意されています。この中に「経済学」は含まれていないので、ノーベル物理学賞などとは異なるものと言えます。
ここに経済学賞が加わった経緯は、スウェーデン国立銀行が創立300周年の記念として賞金などの諸費用を負担して創設したものです。
行動経済学の基本概念
経済学では、物事を一般化・抽象化するために「人は常に自分の利益を最大化すべく意思決定をする」という前提を置く場合があります。「合理的経済人」の概念です。
とはいえ、各個人の行動に注目すると、全員がそのような意思決定をするわけではありません。例えば、300m先に飲料の安売り店があります。しかし、目の前に自動販売機があった場合、喉がとても乾いていたり、安売り店まで行くのが面倒だと、自動販売機で購入するケースが往々にしてあります。
このように、人は必ずしも合理的な行動(できるだけ安く飲料を購入する)を取るわけではないのです。
ある意味で人間らしいと言える非合理さ、心理学的なアプローチを経済学に加味し、人がどのように考え、どのように行動するかの実験を繰り返しながら探り、ひとつの方向を見極めようとするのが「行動経済学」の基本です。
経済学や経済行動に心理学を交えて分析する「行動経済学」。サンクコストや現状維持バイアスなど有名な理論も含まれ、2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞し、さらに注目を集めるようになりました。今回は、行動経済学と経済学の違いから行動経済学をビジネスやマーケティングにどのように落とし込んで実践するかを解説します。
■マーケティング文脈で行動経済学が注目される理由
どの業界も成熟が進み他社との差別化を図りづらい状況のなか、「経済的な報酬や罰則などの手段を用いるのではなく、人が意思決定する際の環境をデザインし、自発的な行動変容を促す」という行動経済学の理論がマーケティングに取り入れられるという点が注目されています。
また、公共政策の分野でも、報酬によるインセンティブや刑罰によらず目的を実現できる点が注目され、政策に取り入れられています。
行動経済学を世に知らしめたノーベル経済学者「ダニエル・カーネマンの理論」
行動経済学が脚光を浴びた契機は、2002年に「心理学的研究から経済学、特に人間の判断と不確実性の下での意思決定に関する洞察を統合した」とし、心理学者であるダニエル・カーネマンのノーベル経済学賞受賞によります。ダニエル・カーネマンともうひとりの心理学者、エイモス・トヴェルスキーの両名が行動経済学の祖とされています。
ダニエル・カーネマンが提唱する「プロスペクト理論」は「損失回避性」とも言われ、人は損失に対して過大に評価する傾向があり、実際の損得と心理的な損得は一致しないというのが基本的な考え方です。
プロスペクト理論を応用した事例は身近にもさまざまあります。例えば、期間限定イベント、全額返金保証制度、無料キャンペーンなどがそれにあたります。
プロスペクト理論をさらに追究した「行動ファイナンス理論」という、金融市場分析理論の研究も進んでいます。
行動経済学のプロスペクト理論は「損失回避性」とも呼ばれます。「期間限定」や「もう一品で○円」などは、それを使わないと損するのではという心理が働くと説明できます。こうしたプロスペクト理論の基礎からビジネスへ応用する方法を説明します。
「バイアス(偏見・先入観)」という言葉はよく知られていますが、「行動経済学」のなかでも使われています。一般的な経済学では、議論を一般化するため「人は常に自分の利益を最大化すべく意思決定をする」という前提を置きます。一方「人は必ずしも合理的な行動を取るわけではない」という現実に対して、経済学に心理学的なアプローチを加えて分析する学問が行動経済学です。バイアスには現在バイアス・サンクコスト・正常性バイアス・確証バイアスなど複数の種類があります。
ダニエル・カーネマンのおすすめ書籍
「ファスト&スロー(上・下)」
人の意思決定は「直観的な早い思考」と「論理的な遅い思考」が作用し、非合理的な判断をしてしまう場合があるとし、その理由と証拠を結びつける実験内容を紹介しています。合理的な判断をしなければならないとき、非合理的な判断をしないようにするにはどうすべきか?といった知見を上下巻で多数提示しています。
経済学に心理学を組み合わせる「行動経済学」はマーケティングと親和性が高いと言われます。行動経済学をビジネスに生かすには、よくまとまった本で学ぶのが近道です。今回は行動経済学書籍を10冊紹介します。
行動経済学の貢献に寄与したノーベル経済学者「リチャード・セイラー」の理論
ダニエル・カーネマンによって世に送り出された行動経済学、2017年にリチャード・セイラーが「行動経済学の理論的な発展に貢献した」としてノーベル経済学賞を受賞したことにより、世間の注目を集めるようになりました。
リチャード・セイラーは行動経済学にまつわるさまざまな研究、理論を発表していますが、中でも特に注目を集めているのは「ナッジ(nudge)」というものです。
これはもともと「肘などで軽く相手をつついて注意をうながす」という意味の英単語で、行動経済学用語としては、報酬によるインセンティブや罰則によらず、環境デザインによって望ましい自発的な行動を促す手法を意味します。
このナッジはマーケティングやビジネスの分野のみならず、UI/UX、さらに政策決定に際しても利用されています。
人を動かす行動経済学の「ナッジ」
行動経済学的なナッジをもう少し詳しく説明すると、「望ましい自発的な行動を促す手法」となり、ある目的を達成したいと考える人に対してそのための行動を促進するもの、そして、具体的な目的を持っていない人に対し、理想を持たせて行動させるという2つのパターンが存在します。
ひとつの例として、納税率を向上させるために滞納通知書に「あなたが住むこの地域の納税率は○○%です」という一文を書き添えることによって、納税率がアップしたという事例があります。これは実際にイギリスで行われたもので、ナッジを利用して納税率を上げようという取り組みのひとつになります。
そのほか、有名なナッジの事例を以下のリンクで紹介しています。
行動経済学の“ナッジ”とは?環境デザインで望ましい自発的な行動を促す
https://manamina.valuesccg.com/articles/1434行動経済学で使われる「ナッジ(nudge)」は、聞き慣れない英単語でしょう。報酬によるインセンティブや罰則によらず、環境デザインによって望ましい自発的な行動を促す手法で、政策やマーケティング・UI/UXなどに活用されています。ナッジの事例やナッジの作成に役立つフレームワークを紹介します。
日本でも環境省が日本版ナッジユニット「BEST」が発足し、環境に関する取り組みを行っています。
リチャード・セイラーのおすすめ書籍
「実践 行動経済学」
ナッジを活かせるシーンを紹介、検証し、合理的な判断を元にベターな暮らしを送るための解説が中心となっています。そして医療や環境、婚姻制度などの社会制度変革の実践的なアイデアについても言及しています。
まとめ
行動経済学によってノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとリチャード・セイラー。ダニエル・カーネマンが提唱する「プロスペクト理論」は、すでにさまざまなシーン取り入れられています。
また、リチャード・セイラーによる「ナッジ」は、日本国内でもこれを省庁主導の取り組みが始まっており、ビジネス・マーケティングにとらわれないムーブメントとなっています。
行動経済学を知るにあたり、まずは両者の理論を学んでおくことをおすすめします。
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