現在バイアス:将来よりも“現在”の利益が大切
現在バイアスとは、未来に大きな利益を得られる可能性よりも、目先の小さな利益を優先してしまう心理を指します。具体的にはどのようなものか、以下の質問で考えてみます。
A.今すぐ10万円もらえる
B.1ヶ月後に10万1,000円もらえる
1ヶ月待てば1%という、金利としてはかなりのものになりますが、この場合、目先のAを選択する割合が多いことが知られています。続いて、以下の場合はどちらを選ぶ割合が高くなるでしょうか?
C.1年後に10万円もらえる
D.1年1ヶ月後に10万1,000円もらえる
こちらは「D」の選択割合が高くなります。1年後という比較的遠い未来となると、少し待ってでも多い金額をもらいたいという心理が働くからです。
こうした目先の小さな利益を優先する傾向をマーケティングに応用する場合、「今すぐにできる」「すぐに効果が現れる」「すぐ結果を得られる」という点を強くアピールします。
キャッチコピーによるアピールのほかにも、高額商品であればクレジット払いやローンでの分割払いが可能な点も加え、支払いというコストを先延ばしにして、結果をすぐに得られるように誘導するのも有効です。この場合、過度のプッシュは後々問題になる可能性があるので、十分に注意する必要があります。
サンクコストバイアス:“もったいない”精神
サンクコストバイアスは、「サンクスコスト」あるいは「コンコルド効果」としても知られます。 費やしてすでに取り戻せない金銭・時間・労力を「サンクコスト」と言い、それを取り戻そうとする心理効果です。ここまで投資したから「もったいない」という心理、と言い換えればわかりやすいでしょう。
投資、というと株やギャンブル、オンラインゲームへの課金などが挙げられますが、人間関係にも当てはまります。相手に対して不信感などを持ったとしても、ここまでお付き合いしてきたのだから、この関係を終わらせるのは気が引ける……というのもサンクコストバイアスのひとつです。
サンクコストバイアスを用いたマーケティングの一例として、「割引クーポン」や「無料お試し期間」が挙げられます。
割引クーポンは、せっかくもらったのだから使わなくては損、という心理、無料お試し期間は申込みの手間がサンクコストになります。無料お試し期間の場合、無料期間内にその商品やサービスを気に入ってもらい、無料期間終了後に正規の価格でそれを購入してもらう、という狙いもあります。
そのほかには、入会金制度(せっかく入会金を払ったのだから元を取らないと)、〇〇円以上購入での特典(あと少しで〇〇円以上になるから、取り急ぎ必要ではないけれど買ってしまおう)、会員のランク付け(あともう少し継続してランクをアップさせたい)、付録つき月刊誌(飽きてきたけど、ここまで買い続けたからコンプリートしたい)といったものが挙げられます。カッコ内の心理がサンクコストバイアスになります。
正常性バイアス:“自分だけ”は大丈夫!
正常性バイアスとは、非常事態のような突然の変化が起きたとき、自分の先入観や思い込みを基準として、その変化は自身にとっては問題ないもの、とする心理効果です。ひとことで言い表すと、見出しにもあるように「自分だけは大丈夫」と考える心理です。
災害時に逃げ遅れてしまい、犠牲になってしまうケースがその最たるものと言えるでしょう。変化が起こっても「自分はおそらく大丈夫であろう」という心理は、変化への対応を遅らせます。
正常性バイアスをマーケティングに取り入れる場合、これまで紹介したような、これを「利用」するというよりも、正常性バイアスを「壊す」のが正解と言えるでしょう。
自社の商品やサービスに注目してもらうためには、変化への対応が遅れてしまう消費者の正常性バイアスを取り払わなければなりません。具体的には、アピールすべき点を「端的」かつ「明確」に示す必要があります。
そのためにメッセージを強くしたり、ビフォーアフターの提示、音の変化など、五感でライバルとの違いが明確に示します。
確証バイアス:自分にとって“都合良い”情報のみ信じる
確証バイアスとは、深く意識せずに自分の考えや仮説にフィットした情報を優先してしまう心理です。
有名な確証バイアスの例として、血液型占いがあります。「A型は几帳面」「O型はおおらか」など、血液型と性格の傾向をリンクさせたものです。
科学的に血液型と性格は関係ないとされていますが、特に日本人には血液型占いが浸透していて、実際は大雑把な性格でも、たまたま几帳面なシーンを捉えて「やっぱりA型は几帳面だね」などと相手を評価してしまいがちです。
確証バイアスを利用したマーケティングの主な例として、以下のものが挙げられます。
・ディスプレイネットワーク広告(DSP)
・リターゲティング広告
ディスプレイネットワーク広告(DSP)は、頻繁にその広告を目にすると「この商品やサービスは流行っているのかな?それならチェックしてみないと(手に入れてみないと)」という心理を狙ったもので、リターゲティング広告は、ユーザーは何度も同じ広告を目にするため、思わずクリックしてしまい見込み客になる、という効果を狙ったものです。
自己奉仕バイアス:成功は“自分のおかげ”
自己奉仕バイアスとは、なにかを成し遂げた、成功した理由は自分の能力、失敗してしまった場合は、自分以外の要因によるものと考える心理効果です。例えば、ネット対戦できる任天堂のゲーム「スプラトゥーン」では、チームメンバーは毎回システム側が決めます。勝てば自分のおかげ、負ければチームメンバーのせい、と心理的な負担が軽くなる効果を期待していると考えられます。
自己奉仕バイアスは、自身のプライドや他人から良く見られたいといった、ある種の自己保身から生じるものと言われています。このように見るとあまり歓迎されないようなバイアスではありますが、マーケティングではそこを突く手法も考えられます。
自己奉仕バイアスをマーケティングに活かすには、具体的な施策というよりも、キャッチコピーなどで消費者の自己奉仕バイアスを刺激する内容を盛り込みます。内容の一例として「あなたは特別である」「これを使えばさらに周囲からよく見られる」、そして「周囲のよくない環境を変えるためには?」といったものが挙げられます。
内集団バイアス:“身内びいき”
内集団バイアスとは、自分の所属グループやそのメンバーを、ほかのグループやそこに属している人よりも優れていると感じる心理効果です。見出しにもあるように「身内びいき」のほか、「仲間意識」というのも内集団バイアスによるものと言えるでしょう。
自分が応援している野球チームがあるとします。それまで接点がなかった人もそのチームが好き、となると、共通の話題がある点も加わって、一気に親近感がわいたりするといった現象があります。反対に、ライバルチームのファンであるとなると、少しその人を敬遠してしまいたくなったり……というようなことも出てきます。
「野球」という同じスポーツの愛好者であっても、チームという内集団の範疇外の人を軽んじてしまうケースを多々経験してはいませんか?
この内集団バイアスをマーケティングで活用するのであれば、消費者に対して「同じ範疇にいる」ことを前提にし、消費者をいかに自分の内集団にいると思ってもらえるかが重要です。そのために、消費者が抱えていると想定される問題、悩みなどを提起し、その回答に自社の商品やサービスのアピールを絡めることで共感してもらう手法が考えられます。
後知恵バイアス:“やっぱりそうなったか”
後知恵バイアスとは、物事の結果を知った後の方が、そうなるであろうと予測できた、と考える心理傾向です。よくある「だからそうなると思っていたんだ」という後出しジャンケン的心理を指します。
後知恵バイアスが起きる理由としては、人の記憶が意外と曖昧で、また結果から逆算して自己正当化しがちという要素が考えられます。
後知恵バイアスは、消費者など外に向けたマーケティングよりも、自社内でのマインドセットに使います。事後評価を甘くしがちな傾向があることを意識して内省する姿勢が大事です。
バイアスも登場する行動経済学とは
人の意思決定や購買行動を心理学を交えながら分析する「行動経済学」は学問でありながらビジネスの現場でも使えると注目されています。実際、バイアスやサンクコストなど行動経済学を離れて一般に知れ渡った用語もあります。
経済学や経済行動に心理学を交えて分析する「行動経済学」。サンクコストや現状維持バイアスなど有名な理論も含まれ、2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞し、さらに注目を集めるようになりました。今回は、行動経済学と経済学の違いから行動経済学をビジネスやマーケティングにどのように落とし込んで実践するかを解説します。
経済学に心理学を組み合わせる「行動経済学」はマーケティングと親和性が高いと言われます。行動経済学をビジネスに生かすには、よくまとまった本で学ぶのが近道です。今回は行動経済学書籍を10冊紹介します。
行動経済学の活用事例を沢山まとめました!バイアスやサンクコストなど、一般にもよく知られた理論を含む行動経済学は、マーケティングの現場でも活用が広まっています。従来経験的に知られていた販促テクニックが理論的に補強されたことで、より再現性がある形になったことがメリットです。 それでは、行動経済学のさまざまな理論や現場で使える活用例を見ていきましょう。
まとめ
誰しもが身につけているこうしたバイアス=偏見を解消するのはかなり難しいことと言えます。したがって、これらバイアスを正しく理解したうえで、消費者に対して意思決定の道筋や環境を提示するには?といったアプローチで考えていくと、ビジネス文脈において新たな施策の発見につながるのではないでしょうか。
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