そもそもコネクトカーアプリとは?
コネクトカーアプリとは、コネクテッドカーとスマートフォンを連携させて車の状態や情報をリアルタイムで把握できたり、車を遠隔で操作できるようにするアプリです。
車に乗っている状態でないとわからないような残燃料量や総走行距離、燃費などを、アプリ上で知ることができます。またパワーウィンドウが空いていたら知らせてくれて開閉したり、ハザードがついたままになっていたら知らせてくれ、消灯するなどのリモート操作も可能。夏の暑い日や冬の寒い日に、リモートでエアコンを起動させて、あらかじめ適温にしてくれる機能が搭載されているアプリもあります。
今まで車に乗って確認や操作をしなければいけなかったことを、アプリ一つで賄うことができます。その他にもアプリ上で点検予約をすることも可能です。
今回は日本の代表的な自動車メーカー、MyTOYOTA+(以下、トヨタ)、Total Care(以下、ホンダ)、NissanConnect EV(以下、日産)、MyMazda(以下、マツダ)、マイスバル(以下、スバル)の各社が提供するコネクトカーアプリについて、各社のポジションや強みを分析します。
群を抜くユーザー数を誇るホンダ
主要コネクトカーアプリの起動ユーザー数
調査期間:2022年10月
デバイス:スマートフォン
まずは各アプリ5つについて、2022年10月の起動ユーザー数(各社アプリの利用者数)を見ていきます。
(データ分析には、ヴァリューズが提供するWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を使用します)
各アプリのユーザー数は、トヨタ:ホンダ:日産:マツダ:スバルの順でおおよそ49:136:7:18:38。
トヨタは「MyTOYOTA」が「MyTOYOTA+」に移行する期間ではあるものの(2023/1/17 終了予定)、それを加味しても、ホンダが圧倒的な利用者数を誇る結果となりました。
ユーザー数の増え幅もホンダがトップ
主要コネクトカーアプリのユーザー数推移
調査期間:2020年11月〜2022年10月
デバイス:スマートフォン
続いて、2020年11月から2022年10月の2年間のユーザー数の推移を見ていきます。2年前からホンダが首位となっていますが、2年間で約2倍の利用者数となっています。アプリの移行を控えているトヨタは例外として、その他のアプリはほぼ横ばいです。
ホンダが好調な要因として、アプリが利用できる車種の多いことが考えられます。その他のアプリは「コネクテッドカー」限定にアプリを提供しているため、そもそもアプリを利用するユーザーが限られてしまいます。
それに対してホンダは「HONDA Total Care」というカーライフサポートサービスを契約している人全員にアプリを提供しており、コネクテッドカーユーザー以外でもアプリを活用することが可能です。
コネクテッドカーの所有者ではないホンダアプリユーザーに対して、乗り換え先としてホンダのコネクテッドカーをPRする場としてもアプリが活用されているのかもしれません。顧客を囲い込むという点で、ホンダが独自のポジションを築いていることがわかりました。
ホンダは女性ユーザーが多いこともポイントに
主要コネクトカーアプリのユーザーの男女比率
調査期間:2022年10月
デバイス:スマートフォン
ユーザーの性別からも、ホンダが好調の理由が見えてきました。直近1年のユーザーの性別を見てみると、他アプリは女性のユーザーが10〜25%なのに比べ、ホンダはユーザーの28%が女性となっています。
前述した利用できる車種の多さに加えて、アプリの利便性も女性ユーザーの獲得に関係しているのかもしれません。ホンダではアプリの下部から緊急サポートの連絡をすることができます。緊急サポートは24時間365日対応しており、もしもの事故や故障の際は適切にサポートしてくれます。
緊急サポートと同じ画面で
・HONDA Total Care 会員番号
・今いる場所(住所+緯度経度)
の情報が表示され、緊急時でも焦ることなく自分の情報を伝えることができ、最短でサービスを受けることが可能になっています。
このような緊急時のサポートへの「安心感」が女性ユーザーの獲得に貢献しているのかもしれません。
高額商材で気になる世帯年収。メーカーごとの特徴は?
主要コネクトカーアプリのユーザーの年収比率
調査期間:2022年10月
デバイス:スマートフォン
直近1年のアプリ利用者の世帯年収を見てみると、メーカーごとに差が出る結果となりました。
幅広い車種に対応しているホンダは、世帯年収が400万円未満の層が、特にマツダやスバルと比べて高い割合となっており、800万以上の割合が低いことがわかります。
対してマツダは400万円未満の層は10%ほどとなっていますが、1000-1500万円の層が約22%と、高収入ユーザーが多く利用している結果となりました。
MyTOYOTA+とMyTOYOTA利用者の年収比率
調査期間:2022年10月
デバイス:スマートフォン
ちなみにアプリの移行最中であるトヨタにフォーカスしてみると、「MyTOYOTA+」は前身の「MyTOYOTA」に比べ1000-1500万円の高年収層の割合が高くなっており、より高年収なユーザーの方がいち早く新しいアプリへの乗り換えを行っていることが伺えます。
ホンダは女性らしいアプリが多くランクイン
MyTOYOTA+とTotalCare女性利用者の関心のあるアプリ
調査期間:2022年10月
デバイス:スマートフォン
では、コネクトカーアプリを使用している方はどのようなアプリに関心があるのでしょうか?今回は割合の差が大きかった女性ユーザーに絞って、トヨタとホンダを比較してみます。
トヨタはJAFやTS CUBICといった自動車に関連するアプリ以外には、スターバックス、モスバーガー、丸亀製麺と行った外食系のアプリが好まれている結果となった一方で、ホンダはAMOSTYLE BY Triumph、ドットエスティ、ルナルナといった、車との関連性が薄い女性らしいアプリがランクインしていることがわかります。
その他にもアイチケット、アカチャンホンポといった、小さな子どもが関係するようなアプリがランクインするなど、女性の中でも子育て世代が多く利用しているのかもしれません。これらの女性ユーザー全員がコネクテッドカー利用者とは限りませんが、子育てで忙しい中、空き時間にぱっと手元で自車の状況を確認できると、給油のスケジュールなども立てやすく、便利に感じるママ層が多そうです。アプリ紹介ページにこういった想定利用シーンを盛り込むと、消費者に自分ごととして感じてもらいやすく、集客に活きるのかもしれません。
ホンダはライト層の囲い込みにも成功
次に、ホンダアプリの利用者を女性に絞って、ユーザーの興味関心マップを見てみます。
※縦軸がリーチ率、横軸が特徴値で、右上にいくほど、対象者のうち多くの人がネット人口全体に比べて特徴的に関心が高いトピックといえる
TotalCare女性利用者が興味関心のあるトピック
調査期間:2021年11月~2022年10月
デバイス:スマートフォン
車のアプリユーザーではあるものの、車は中心よりも左側にあり、平均と比べても車への関心は高くないという結果になりました。一方で、中心よりも右側にはファッション、コスメ・化粧品、ダイエット、ショッピングなど車とは関連性の低いワードが並んでいます。
このことからホンダは、車への関心が高くないライト層も囲い込めていそうだと考えられます。
トヨタ・日産・ホンダ。自動車業界のトップ企業サイトに見る動向分析 | [マナミナ]まなべるみんなのデータマーケティング・マガジン
https://manamina.valuesccg.com/articles/2056新型コロナウイルス感染症やウクライナ侵攻を端緒とした半導体不足で、苦戦を強いられる自動車業界。一方で、世界で加速するEVシフトが象徴するように、業界は今大きな転換期を迎えています。自動車生産大国・日本でも、自動車産業のデジタルマーケティングに変化の兆しが見えているかもしれません。今回は、自動車メーカー3社の企業サイトから、各社動向を探りました。
まとめ
今回はコネクトカーアプリについて分析しました。分析対象は「MyTOYOTA+(トヨタ)」「Total Care(ホンダ)」「NissanConnect EV(日産)」「MyMazda(マツダ)」「マイスバル(スバル)」の5つのコネクトカーアプリです。
分析の結果、ホンダのユーザーが特に多いことがわかりました。その理由としては、ホンダアプリは利用できる車種が多く、車への関心が薄い女性ユーザーも囲い込めていることなどが考えられそうです。
自動車業界の潮流として、今後はコネクテッドカーの比率が高くなっていくことが予想されており、さらにアプリの利用者も増えていくと考えられます。
その中でも車に関心があるユーザーだけでなく、CRM施策として付帯するサービスなどで車への関心が薄い層を取り込むことが、今後のポイントになるかもしれません。
▼今回の調査にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えます。Dockpitには無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
アメリカ留学中にWebの仕事に出会い、帰国後に起業。自社で物販を行う側、ライターとして活動。アウトドアが趣味