旅行需要はどれだけ回復したのか
まずは大まかな旅行需要の流れを見ていきましょう。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を使用します。
下記グラフは2021年1月から2022年12月の2年間における「旅行」の検索者数の推移を表しています。長期的には検索者数は増加しており、全国旅行支援が始まった2022年10月は特に急増していることが分かります。
また、新型コロナウイルスの感染状況が悪化している月には検索者数も連動して落ち込んでいます。(第4波:2021年4月~6月、第5波:2021年7月~10月、第6波:2022年1月~3月)
「旅行」検索者数の推移
集計期間:2021年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
出典:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/
2021年は感染者数の増加に対して旅行需要も敏感に影響を受けていましたが、2022年は感染状況に対する検索者数の増減は小さくなっています。感染拡大は懸念しつつも、少しずつ旅行に積極的になろうという動きが伺えました。
では、気になる海外旅行に関する検索には、どのような変化があったのでしょうか。
海外旅行の需要はどれだけ戻ってきた?
まず、2021年〜2022年の2年間における「海外旅行」検索者数の推移を見てみましょう。グラフは、「海外旅行」検索者と、「海外」「旅行」の2単語の掛け合わせ検索者を合算したものです。
「海外旅行」または「海外 旅行(掛け合わせ・順不同)」検索者数の推移
集計期間:2021年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
2022年1月以降、検索者数は増加傾向にあることがわかります。日本・諸外国ともに、海外からの入国規制が徐々に緩和されたことで、「帰国時の面倒な工程が無くなるのであれば、自分も海外旅行を検討してみよう」と考えた人が増えたのかもしれません。
また、2021年12月に一度検索者数の落ち込みが見られるのは、この時期は日本でもオミクロン株が猛威を振るい始めた時期であり、得体の知れない変異株に対する恐怖から、旅行に慎重になった人が多かったためと考えられます。
「海外旅行はいつから?今行ける国や隔離期間など知っておきたい最新渡航情報」 | 楽天トラベル
ちなみに、「海外」と「旅行」の掛け合わせに絞ると、検索者数がかなり少なくなることがわかります。海外旅行をブラウザで検討する人は、掛け合わせよりも「海外旅行」と検索する人が多いようです。また、掛け合わせ検索に関しては、検索者数の少なさから、上の合算版よりも月単位での変動が大きいことがわかります。
「海外 旅行(掛け合わせ・順不同)」検索者数の推移
集計期間:2021年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
海外旅行にまつわる消費者の最近の「気になりごと」は?
上記を踏まえ、ここからは「海外旅行」検索者に絞り、検索者がどのような関心を持っているのか、「海外旅行」との掛け合わせワードから分析してみましょう。下図からは、検索者のボリュームが減少したワードと、増加したワードの違いが顕著に現れました。
直近で減少したのは、「いつから」・「ワクチン」・「隔離」・「PCR検査」など、新型コロナウイルスに関連するワードでした。国どうしの移動における規制が緩和されてきたこともあり、出入国時の制限に対する心配が解消されてきたと考えられます。
一方で増加したのは、「保険」・「おすすめ」・「持ち物」・「ツアー」など、実際に海外旅行を計画する際に考慮しそうなワードでした。「ツアー」に関しては、密を避けた個人旅行からの回帰が伺えます。
「海外旅行」との掛け合わせ検索ワード ランキング
集計期間:2021年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
「海外旅行」と「おすすめ」を掛け合わせ検索した人が、実際にどのようなページに流入しているのか見てみると、旅行先の国のおすすめランキングを発信しているサイトが多く見られました。現時点で入国可能な国はどこなのか気になっている人に加えて、「海外旅行はしたいけれど、具体的にどこに行くかは定まっていない」という人が多いのかもしれません。
「海外旅行」「おすすめ」で掛け合わせ検索した人の主な流入ページ
集計期間:2021年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
同様に、「持ち物」の掛け合わせ検索についても流入ページを見てみましょう。こちらでは海外旅行で必要な持ち物リストの一覧が見られており、「接種証明など、コロナ禍の海外旅行で持っていくべきものを確認したい」「久々の海外旅行で何を持っていけばいいか忘れてしまった」という人々のニーズが伺えます。
「海外旅行」「持ち物」で掛け合わせ検索した人の主な流入ページ
集計期間:2021年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
まとめると、新型コロナウイルスに対する懸念は少しずつ薄れている可能性が高く、今は実際に旅行計画を立て始める段階にある人が多いと考えられます。その中で、久々の海外旅行であるが故に、行き先や持ち物について検討している人が多いことも分かりました。
「行き先が決まっていない」、「久しぶりすぎて必要な持ち物を忘れてしまった」という点につきましては、以前マナミナでも取り上げた2022年シルバーウィークの旅行動向に関する記事で、国内旅行の場合でも同様の結果が見られたことが分かっています。ご興味のある方は、あわせてこちらの記事もご覧ください。
コロナ後の旅行動向はどう変化する?2022年シルバーウィークから分析
https://manamina.valuesccg.com/articles/2046#outline4新型コロナウイルスと戦い続けて3年。2022年は9月のシルバーウィークで、長い連休を取って遠出した人も多いのではないでしょうか。感染症の流行がある程度落ち着いていた2022年のシルバーウィークは、「コロナが落ち着いたら旅行動向はどう変化するのか」を分析するのに適した時期でもあります。そこで今回は、旅を計画したときに検索するであろう「旅行」と「観光」という2つのワードを中心に、消費者の要望や行動を調査しました。
では、海外旅行の検索者は、具体的にどのようなエリアを旅行先として検討しているのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
海外旅行の人気エリアは欧米から近場へ集中?
まずは、「旅行」検索者の掛け合わせワードから人気エリアを分析します。下図は2022年に「旅行」と掛け合わせて検索されたワードのうち、上位50位に含まれていた海外エリアをピックアップしたものです。
韓国、台湾、タイなどのアジア圏やハワイといった、日本から近いエリアが人気なようです。
「旅行」の掛け合わせワード ランキング
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
一方で、コロナ禍前の人気エリアはどこだったのか比較してみましょう。下図では、2019年11月〜12月の人気エリアについて、掛け合わせワードをもとにピックアップしています。
2019年末時点でも、台湾や韓国は既に高い人気をもっていました。しかし、その他にもアメリカやヨーロッパの国々がよく検討されていて、当時は人気が分散されていたことが分かります。現在は遠出の旅行に対して感染症対策に不安を感じる人や、円安で旅行を躊躇う人が多いと考えられます。
「旅行」の掛け合わせワード ランキング
集計期間:2019年11月~12月
デバイス:PC、スマートフォン
なぜ最近は近いエリアの人気が高いのでしょうか。各エリアの検索者がどのようなページを閲覧しているのか、主な流入ページを見てみます。
韓国、台湾、タイの3ヶ国で共通して多かったのは、新型コロナウイルスの感染状況を海外旅行者・海外出張者向けにまとめている情報サイトでした。やはり旅行先を検討するうえで、感染状況に対する懸念は未だに無視できないようです。
また台湾に関しては、現在の市民生活など現地情報が詳しく書いてあるページや、ホテル情報をまとめているページも人気でした。旅行に向けて、本格的・具体的に検討している人が多いのかもしれません。
「旅行」と「韓国」を掛け合わせて検索した人が流入した主なページ
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
「旅行」と「台湾」を掛け合わせて検索した人が流入した主なページ
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
「旅行」と「タイ」を掛け合わせて検索した人が流入した主なページ
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
また上記3つのエリア全てで、以下のサイトが利用されていることも特徴的でした。海外旅行を検討されている方は一度訪れてみてはいかがでしょうか。
韓国・台湾が人気の理由は?
さらに人気エリアの秘密を詳しく探るために、特に検索者数が多かった韓国と台湾を代表に分析していきます。それぞれの国の検索者の男女比を見てみると、台湾はほぼ半々なのに対し、韓国は女性の割合が7割と高いことが分かりました。
「旅行」と「韓国」・「台湾」を掛け合わせて検索した人の性別割合
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
つづいて、それぞれの検索者数の年代についても見てみましょう。韓国は特に若い世代の人気が顕著に集まっています。一方で台湾は検索者の年代がばらけており、男女年代を問わず、幅広い層に検討されていることが、人気の秘訣と考えられそうです。
「旅行」と「韓国」・「台湾」を掛け合わせて検索した人の年代割合
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
なぜ韓国では女性や若い層からの人気が厚いのでしょうか。韓国といえば、近年ではKPOPや韓流ドラマなど、エンターテインメントのコンテンツが充実していることが印象的です。韓国旅行と韓国のエンタメに関心を持っている人の属性についても比較してみましょう。
下図では、「KPOP」と「韓国ドラマ」の検索者層について分析しました。いずれも検索者の約7割が女性であり、韓国旅行に興味を持っている層と重なっている可能性が高いと考えられます。また、「韓国ドラマ」は特に女性の検索者が多いことが分かりました。韓国ドラマと言えばやはり恋愛ジャンルが王道なので、作品の内容としても女性の人気を集めやすいのかもしれません。
「旅行 海外(掛け合わせ・順不同)」と「KPOP」と「韓国ドラマ」の検索者の性別割合
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
さらに、それぞれを検索した人の年代の割合についても見てみましょう。KPOPは20代が圧倒的に高く、こちらも韓国旅行者の割合と似たような形になっていることが確認できました。一方、「韓国ドラマ」については韓国旅行者との相関は見られませんでした。
韓国作品の中には、「イカゲーム」や「パラサイト 半地下の家族」など爆発的なヒットを記録したものもありますが、「韓国ドラマ」と直接検索する層は40〜60代に多いようです。
「旅行 韓国(掛け合わせ・順不同)」と「KPOP」と「韓国ドラマ」検索者の年代割合
集計期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PC、スマートフォン
ここまで見てきた通り、主にKPOPの関心層と韓国旅行の検討層は重なっているようです。KPOPの関心層は女性・20代に多く、美容への意識も高いと考えられます。自分の好きなKPOPアイドルが実際に使っているコスメを含め、いま日本でも人気の「韓国コスメ」を現地で調達したいという人が、一定数いるのではないでしょうか。
また、そもそも可処分所得の少ない若い世代にとっては、手軽な海外旅行先として、近場かつコンテンツを通して馴染みのある韓国が想起されやすいという可能性も考えられます。
まとめ
今回は最新の旅行事情として海外旅行を中心に分析しました。まとめると、下記のようなことが分かりました。
・旅行需要は全体としては増加傾向。
・新型コロナウイルスの感染リスクには慎重になりつつも、出入国時の規制についての懸念事項は減少している。
・海外旅行を実際に検討する初期段階の人が多く、久々の旅行で行き先や持ち物から見直している。
・海外旅行の人気エリアはアジアを中心に日本から近い国。
・KPOPに興味を持つ層と韓国旅行者の関心層がおよそ重なっている。
水際対策の規制緩和や全国旅行支援などの施策も相まって、人々の旅行需要は高まっています。実際に旅行を計画し始める人も増え、近場エリアで小規模な海外旅行を再開する動きも見られました。
しかしながら、海外旅行者の人数はコロナ禍以前の水準には回復しておらず、大規模な旅行も未だに避ける人が多いようです。2023年の旅行はどうなるのか。引き続き動向を追っていきます。
大学では経済学部で主に会計学を学び、2024年に新卒でヴァリューズに入社しました。現在はデータプロモーション局にて、弊社プロモーション事業のフロントを担当しています。