チョコザップの台頭が目立つフィットネス業界
「データドリブン就活」シリーズ7回目となる今回は、全く新しいコンセプトを持った「チョコザップ」というジムが現れたことで、フィットネス業界各社のポジションニングがどのようになっているのか、分析していきます。フィットネス業界には数多の企業が乱立しており、企業研究が難しいと感じる方も多いはず。ぜひ、この記事を参考にしてみてください。
今回は、チョコザップに焦点を当てつつ、その他に「カーブス」「ルネサンス」「メガロス」などを含めた合計10社を取り上げます。各社がオンライン上でどのようなマーケティング施策を行い、他社と差別化しているか、どのようなユーザーにリーチしているか、各社ジムのサイトを分析していきます。
なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を使用します。
分析する企業(ジム)の紹介
今回取り上げる企業が展開しているジムをまとめた表がこちらです。
このように並べてみると、それぞれのジムでコンセプトの差別化がされていることがわかります。例えば、カーブスは女性限定にすることで女性が利用しやすくし、チョコザップは低価格と24時間営業を組み合わせることで、時間がない人でも利用しやすくするなどの方法が見受けられます。その中でも、多くのジムで見られた差別化の方法は、プログラムの多様性でした。それぞれの利用者の目的をかなえるために、豊富なプログラムを提供しているジムが多く見つかりました。
本記事では、これら10社(ジム)をまとめてフィットネス業界と呼びます。
サイトシェアはカーブス、ルネサンスが首位。チョコザップのシェア拡大も
まずは、各サイトセッション数ベースのシェアを見ていきましょう。
フィットネス業界のシェア(セッション数べ-ス)
期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PCおよびスマートフォン
カーブスのシェアが3割以上と、最も大きなシェアを占めています。2位のルネサンスと合わせて、50%近くのシェアです。そこから、メガロス、セントラルスポーツ、エニタイムフィットネスの3つがそれぞれ8~10%のシェアで、残りのジムが4~6%のシェアとなっています。女性限定とし、ターゲットを絞っているカーブスがセッション数でトップであることは興味深いですね。
次に、業界シェアの推移を見てみましょう。
フィットネス業界のシェア推移(セッションべ-ス)
期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PCおよびスマートフォン
直近1年間を通してみると、シェア1位のカーブスには波があるのに対し、ルネサンスなどその他のジムの多くは、安定的にシェアをとっていることもわかります。しかし、ここで最も特徴的なのは、チョコザップ(茶)のシェアが2022年7月から急成長していることです。サイトのセッション数のみでなく、会員数も速いスピードで伸びています。
この急成長の理由を他ジムと比べながら、マーケティングの観点から分析していきます。
性年代、年収軸で各ジムのポジショニングを見ると?
■カーブス、チョコザップの女性人気が高い
フィットネス業界各社のポジショニングマップを見てみます。縦軸が年齢、横軸が性別です。
フィットネス業界のポジショニングマップ(縦軸:年齢|横軸:性別)
期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PCおよびスマートフォン
チョコザップ(茶)はメガロス(緑)と近いですが、主に中年女性からの支持が厚く、独自のポジションを獲得しているようです。女性専用のカーブスに次いで女性ユーザーが多い理由の一つとしては、セルフエステやセルフ脱毛の機器も利用できることがあげられそうです。
また、カーブスは最も極端なポジションをとっています。女性が多いのは当然、女性専用であるためだと考えられますが、高齢の方が多いのはなぜなのでしょうか。一つの理由として考えられるのが、カーブスが一人ひとりの体力に合わせた運動を提案しサポートしているということです。カーブスはジムで体を鍛えるというよりは、適度に体を動かし、程よく体をひきしめるためのサポートを重点的に行っていることを宣伝しています。自分の体力に合った、程よい運動を提案してくれて、かつ女性専用という安心感が高齢の方に刺さっているのではないでしょうか。
カーブスと対称の位置を陣取っているエニタイムフィットネスも特徴的です。エニタイムフィットネスは比較的若年の男性にリーチしていることがわかります。これには、エニタイムフィットネスの会員を親に持つ高校生が無料で施設を利用できる、「HIGH SCHOOL PASS」という制度が影響していると考えられます。
この制度を利用する男子高校生の存在が、エニタイムフィットネスが上記のようなポジションをとることにつながったと考えられます。
次に、縦軸を世帯年収に変えたポジショニングマップも見てみましょう。
フィットネス業界のポジショニングマップ(縦軸:世帯年収|横軸:性別)
期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PCおよびスマートフォン
チョコザップはカーブス、JOY FITに次いで世帯年収の低いユーザーが多くなっています。これには、チョコザップの月額3278円という料金の安さが影響しているのでしょう。2023年1月時点でチョコザップのサービスが開始してから1年3ヵ月ほどしかたっていないことを考えると、これからブランド認知がより広がり、チョコザップがターゲットとする層の利用者が増えることによって、チョコザップのポジションはこれからもっと世帯年収の低い下のほうへ降りていくかも知れません。
一方、カーブスに比較的低年収のユーザーが多いのは、年配層が多く、現役で働いていないユーザーが多いということが理由として考えられます。
各ジムの集客方法は?
続いて、集客構造を見てみましょう。
フィットネス業界の集客構造
期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PCおよびスマートフォン
まず自然検索の割合が高いサイトと低いサイトがはっきりと分かれました。カーブスやメガロスなどの自然検索からの流入が少ないサイトは、ディスプレイ広告からの流入割合が他サイトより高いことが共通点として挙げられます。一方、セントラルスポーツ、エニタイムフィットネス、JOY FIT、ゴールドジム、スポーツクラブNASは自然検索の割合が特に多くなっています。自然検索の割合が高いサイトの流入キーワードを見てみます。
「セントラルスポーツ」「エニタイムフィットネス」「JOY FIT」「ゴールドジム」
「スポーツクラブNAS」の流入キーワード|自然検索のみ
期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PCおよびスマートフォン
基本的にはそれぞれのジム名がメインのキーワードとなっています。指名検索が多いことから、各ジムのブランド認知が高いことがわかります。一方で、JOY FITのみ「体脂肪率 落とし方」や「ふくらはぎ 筋トレ」などのジムとは直接的な関係の薄いキーワードが目立ちます。これにはJOY FITサイトに「ちょっとFIT」「かんたんレシピ」「食とカラダの基礎知識」など、体づくりに関する情報発信をするページがあることが、関係していると考えられます。
■チョコザップはリスティング広告流入が目立つ
チョコザップは様々なチャンネルから比較的バランスよくユーザーを獲得しています。その中でも、リスティングの割合は他のサイトと比べると非常に高くなっています。そこでリスティングからの流入につながった検索キーワードを見てみると、「エニタイムフィットネス」や「カーブス 料金 一覧 表」といった他のジム名を含むキーワードもありましたが、ほとんどが「チョコザップ」や「chocozap」を含んだものでした。
「チョコザップ」の流入キーワード|リスティングのみ
期間:2022年2月~2023年1月
デバイス:PCおよびスマートフォン
「チョコザップ」などのサービス名を含むキーワードでリスティングを通じてサイトに流入した割合が高いことから、リスティング広告以外の方法でブランド名の認知拡大に成功していたということが予測されます。その一方で、エニタイムフィットネスなど他のブランド名を含むキーワードからの流入も見受けられることから、リスティング広告を積極的に仕掛けているということがわかります。
■カーブスとチョコザップのLINEを利用したアプローチ
また、カーブスとチョコザップはソーシャルからの流入の割合も高くなっています。セッション数ベースでシェア1位のカーブスと、急成長中のチョコザップがソーシャルを重要な流入元としているということは、ソーシャル上でのユーザーへのアプローチがフィットネス業界の新しいトレンドである可能性を示唆しているのではないでしょうか。
さらに2社のソーシャル戦略を深掘りするために、カーブスとチョコザップのソーシャルの内訳をみていきます。
「カーブス」と「チョコザップ」のソーシャル内訳
期間:2022年1月~2022年12月
デバイス:PCおよびスマートフォン
どちらもLINEが大部分を占めています。カーブスは、カーブス全体としてのLINE公式アカウントと、各店舗ごとのLINE公式アカウントを運営しています。
カーブス全体のアカウントでは健康や美容に関する情報や、LINE限定のキャンペーンなどのお得情報を提供しているようです。カーブスによると比較的高齢の方のLINE利用率が上昇しており、カーブス利用者にその年代の方が多いため、LINE公式アカウントを開設したとのことです(参考:カーブス初のLINE公式アカウントを開設)。実際にDockpitで調べてみると、LINEのスマホアプリユーザーは、ネット利用者全体に比べて60代の割合が高いことがわかりました。
「LINE」スマホアプリユーザーの年代
期間:2022年11月~2023年1月
デバイス:スマートフォン
各店舗ごとのアカウントでは、その店舗のスタッフの日常動画や店舗情報を配信しているようです。それに加えて、チャット画面からカーブスのサイトにとべるボタンも設置されています。このボタンからサイトへ流入することが、カーブスのソーシャル経由流入の割合の高さにつながっていると考えられます。
チョコザップのLINEからの流入に関しては、「毒舌あざらしとゲスくま」をはじめとした人気スタンプとのコラボで友だち追加を促し、投稿でサイトへ誘導するという流れが見えてきました。そのスタンプの入手条件はチョコザップのLINE公式アカウントを友だち追加することだったので、このコラボを通じて友だち数を増やしたと考えられます。このように、日本でなじみ深いLINEを利用してユーザーにアプローチする方法が、これからフィットネス業界にも広がっていくのではないでしょうか。また、チョコザップはカーブスとは異なり、InstagramやTwitterなどLINE以外のSNSも活用しています。多様なSNSを駆使して集客している点もチョコザップの強みといえそうです。
まとめ
今回はフィットネス業界の分析と銘打って、計10社(ジム)を取り上げました。最後に、分析による発見をまとめます。
・セッション数ベースのシェアはカーブスが1位
・チョコザップがセッション数ベースのシェアを伸ばしてきている
・チョコザップのサイトは世帯年収が平均的な中年女性ユーザーが多い
・女性専用ジムのカーブスのサイトは高齢女性ユーザーが多い
・エニタイムフィットネスのサイトはHIGH SCHOOL PASSなどにより若年男性のユーザーが多い
・チョコザップは様々なチャンネルから網羅的に流入
・セッション数トップのカーブスと急成長中のチョコザップでソーシャル、特にLINEからの流入が増えている
今回は以上です。業界分析、企業分析の参考となれば幸いです。
参考記事
3分でわかるカーブス | 個人投資家の皆様へ | IR情報 | 株式会社カーブスホールディングス
https://www.curvesholdings.co.jp/ir/individual/3min.html
なるほどルネサンス|ルネサンスについて|株式会社ルネサンス
https://www.s-renaissance.co.jp/about/i-see/
メガロス2Q決算 7-9月 売上回復も会員減少止まらず
https://bthefit.com/news/post-5665
エニタイムフィットネス会員数70万人突破のお知らせ|エニタイムフィットネス
https://www.anytimefitness.co.jp/ne220817/
LINE公式アカウントはじめました! | インベントクリエイション株式会社
https://inventcreation.jp/archives/84454
【LINE無料スタンプ】『chocozap×毒舌あざらしとゲスくま』が登場、配布期間は2022年11月07日まで
https://appllio.com/ls-26696
2023年4月にヴァリューズ入社予定の大学4年生です。大学では主に経済学を学んでいます。