地政学リスクを知り、企業にとって重要な利益・モノ・ヒトを守る
今日、日本企業を取り巻く世界情勢、地政学リスクは厳しさを増しています。最近でも、日本政府は2023年3月末に最先端の半導体製造装置など23品目について対中輸出規制を敷くことを発表しました。この背景には米国からの強い要請があります。バイデン政権は昨年10月、先端半導体関連の技術が軍事転用される恐れから、中国への半導体輸出規制を強化し、先端半導体に必要な製造装置で高い世界シェアを有する日本やオランダに同規制に加わるよう要請しました。
一方、中国は、バイデン政権が日本に同規制で足並みを揃えるよう要請した時から、断固とした対抗措置を取ると強く日本をけん制してきました。加えて今回の規制決定を受け、電気自動車や風力発電用モーターなどに欠かせない高性能レアアース磁石の製造技術の禁輸を検討しているとみられます。中国は依然として日本とって最大の貿易相手国であり、このような不安定な情勢に不安を抱えている企業関係者も多くあると思います。
では実際に、地政学リスク、経済安全保障リスクから企業にとって重要な利益やモノ、ヒトを守るためにはどうすればいいのでしょうか。100%リスクを回避することは簡単ではありません。しかし、事前に地政学リスク、経済安全保障リスクに関する情報を入手し、それを社内で共有しておけば、リスクを回避できる可能性を高めることは出来るでしょう。では、そのような情報はどこで見つければいいのでしょうか。ここでは4つの情報サイトをお伝えします。
有益な地政学リスク情報を収集できる情報サイト4選
■世界各国のニュースを集約したポータルサイト「NEWS25NOW」
まず、紹介したいのがNEWS25NOWです。
NEWS25NOWは世界各国のメディアが報じたニュースを集約したポータルサイトで、各国ごとのニュース、またテロや暴動、戦争などテーマ別に情報を入手することが可能です。しかもすばやく情報が上がってくるので、最新のアップデート情報に辿り着くことができます。
ヤフージャパンやMSNの国際情報、またNHKやキー局、共同通信や時事通信などからも最新の情報を入手することはできますが、たとえばインドのテロ警戒情報など、日本のメディアでは取り上げられないような情報も多くあります。しかし、NEWS25NOWではそのような情報もアップされる可能性が高く、有益な情報源になりえると考えます。
※画像は日本語訳したもの
■インドなど南アジア各国の治安情勢のサイト「SATP(South Asia Terrorism Portal)」
SATPは、インドなど南アジア各国の治安情勢に関するニュースを集約したポータルサイトです。
米中対立や台湾情勢の不透明から脱中国を図る日本企業の動きが少なからず拡がっていますが、その中にはインドを中心にバングラデシュやスリランカなど南アジア諸国に目を向ける企業もあります。しかし、南アジア諸国ではイスラム過激派などテロ組織が常態的に活動している国も多く、常にテロや反政府デモなど中国では考えにくいリスクが存在します。そのような企業にとって、SATPは極めて重要なインテリジェンスを提供することでしょう。
SATPで掲載される情報の多くは日本のメディアで報道されません。大規模なテロ、邦人が巻き込まれるようなテロなどではない限り報道はされないことから、南アジアを強化しようとする企業はSATPから治安情勢に関する情報を入手するべきでしょう。
※画像は日本語訳したもの
■各国の政治、治安情勢を提供する世界的なシンクタンク「国際危機グループ(ICG)」
国際危機グループも貴重な情報を提供してくれます。
国際危機グループは本部をベルギーブリュッセルに置き、アジアやアフリカ、中南米など各国に専門家を配置、同専門家が現地に駐在し、現地の政治、治安、経済情勢などを詳しくレポートにまとめ、情報発信に努めています。世界各国の国際政治や安全保障の専門家たち、各国政府や大使館なども国際危機グループの情報をよく利用しており、世界的な評判も高い専門機関と言えます。
※画像は日本語訳したもの
■地政学リスクを専門にするコンサルティング会社「ユーラシアグループ」
そして日本の企業にとって最も身近になっているのがユーラシアグループだと思われます。
ユーラシアグループは米国の国際政治学者イアン・ブレマーが創設した地政学リスクを専門とするコンサルティング会社で、特に毎年初めに発表する世界10大リスクは日本内外で大きな注目を集めています。これはその年に大きなリスクになるであろう問題をランキング化し、その動向について深く鋭い分析が書かれています。今年はロシアによるウクライナ侵攻、中国の習政権の動向などがトップ10に入りました。このように、企業が地政学リスクに対処していく上で重要な情報を提供してくれます。
以上、今回は地政学リスクや海外危機管理を見る上で有益な情報サイトを4つご紹介しましたが、もちろん情報サイトは他にも多くあります。このような中で重要なことは、日本のメディアで報道されない最新情報、深い情報も多くあり、それらを適切に選び取り、定期的に使用することです。
外務省の海外安全情報やニュースの国際情報を見れば、それで事が足りると考える人もいるかもしれませんが、企業を取り巻く世界情勢がいっそう複雑化する中、企業は率先してオープンソースの情報を入手し、それを活かすことが求められているのです。
国際政治学者、一般社団法人カウンターインテリジェンス協会 理事/清和大学講師
セキュリティコンサルティング会社OSCアドバイザー、岐阜女子大学特別研究員を兼務。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障の研究や教育に従事する一方、実務家として海外進出企業へ地政学リスクのコンサルティングを行う。