第2次トランプ政権が発足 日本企業への影響は

第2次トランプ政権が発足 日本企業への影響は

2025年1月20日。ついに第2次トランプ政権が発足しました。大統領選挙前後からすでにトランプ政権に対するさまざまな憶測が飛び交っており、就任式でいくつもの大統領令へ署名をする姿には大きな反響も。そのような第2次トランプ政権の大きな肝となる政策は一体何なのでしょうか。本稿ではトランプ大統領がことあるごとに強く押し出している「関税」にフォーカスし、国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が解説します。


2025年、地政学リスク分野で最も注目されているトランプ政権の外交政策とは

米国でトランプ政権が再発足しました。2025年の地政学リスクの動向で最も注目されるのがトランプ政権の外交政策であり、トランプ大統領が世界情勢に行方にとって最大の変数となると言っても過言ではありません。トランプ大統領が取り組む問題は対中国、ウクライナ、中東など多岐に渡りますが、日本企業が最も懸念しているのはトランプ関税でしょう。日本企業の間では、トランプ政権の発足は自社ビジネスにとってマイナスと捉える見方が多いようですが、今後の4年間はその動向を注視しながらビジネスを継続していくことになります。

トランプ大統領は今後の4年間、何をしようとしているのでしょうか。簡単に説明すれば、トランプ大統領はMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大な国家にする)という目的に向けて、同盟国を含む諸外国から最大限の譲歩や利益を引き出すツールとして関税を武器として活用してきます。トランプ大統領はタリフマン(関税発動男)を自認しており、今後あらゆる場面で関税を前面に出してくるでしょう。

トランプ関税の標的となるのはどこ?そして、その手段とは

トランプ関税の主たる標的となるのが、中国です。トランプ大統領は政権1期目の時、米国の対中貿易赤字を是正する手段として、2018年以降、計3700億ドル相当の中国製品に対して最大25%の関税を課す制裁措置を4回に分けて発動し、米中間では貿易摩擦が激しくなりましたが、今回も同じような事態が再来する可能性があります。

トランプ大統領は今回、通商・製造業担当の大統領上級顧問に対中強硬派のピーター・ナバロ氏を起用しましたが、ナバロ氏はトランプ政権1期目で通商政策担当の大統領補佐官を務め、ライトハイザー元通商代表とともにトランプ政権の貿易保護主義化を主導した人物です。また、国務長官にはマルコ・ルビオ氏が、安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ氏がそれぞれ起用されましたが、いずれも対中強硬派して知られ、トランプ政権は今回も中国に対して貿易規制措置を積極的に展開していくことが予想されます。

トランプ政権は中国製品に対して10%の追加関税を課すと発表しており、最新の情報によると、2月1日から実施される方向で調整が進んでいるとされます。しかし、中国製品と言っても、それは中国企業が生産した製品ではなく、中国から輸入される製品を意味し、要は中国でモノを製造し、それを米国へ輸出する日本企業も10%の追加関税の対象となるのです。また、トランプ大統領はメキシコやカナダからの全ての輸入品に25%の関税を課すと発表していますが、これも同じように両国に生産拠点を持ち、製造したモノを米国で輸出する日本企業も25%のトランプ関税の標的となります。

例えば、メキシコにはトヨタや日産など日本の大手自動車メーカーの工場が多くありますが、JETROによると、日産は2023年にメキシコで60万台あまりを生産、その4割を米国へ輸出し、同じようにトヨタも9割、マツダも5割、ホンダも8割をそれぞれ米国へ輸出しています。従ってそれら全てが25%のトランプ関税の影響を受けることになります。カナダにもトヨタとホンダの生産工場がありますが、その多くは米国へ輸出されており、大手自動車メーカーは既にトランプ関税という大きな壁に直面しています。

トランプ大統領は国内の製造業の建て直し、国内への生産回帰を強く掲げ、外国企業に対しても国内での生産拡大を求めており、一部の日本企業からは米国内での生産強化、米国向けの輸出量削減と第3国シフトを示唆する声も聞かれます。今後、トランプ大統領は中国に対してさらなる追加関税に踏み切ったり、その他の貿易相手国から譲歩を引き出すために先制的に関税を導入したりすることが十分に考えられ、しかもそれがいつどのような形で発動されるか予測が難しいことから、米国内での生産強化、米国向けの輸出量削減と第3国シフトといったものが日本企業の間で増えるかも知れません。

貿易関税

トランプ関税と日本の立ち位置。日本企業は注視が必須

現時点では中国やメキシコ、カナダのように日本を標的とするような関税制裁は発表されていませんが、その可能性は排除できません。トランプ大統領は政権1期目の際、日本の自動車や自動車部品に対する25%の追加関税を示唆したことがありましたが、この時は日本が米国産牛肉や豚肉などの関税を引き下げたことでトランプ関税は見送られました。しかし、政権1期目の時と同様に、トランプ大統領は米国の貿易赤字国を意識していると考えられ、実際に1位に中国、2位はメキシコで、その次に日本がランクインしていることからも、日本をトランプ関税の対象国と優先的に意識する可能性があります。

また一方で、石破総理がどこまでトランプ大統領と良好な関係を構築できるかが極めて重要です。石破総理が日本は米国の最大級の投資国であることを、トランプ大統領に納得させることができれば、日本がトランプ関税を回避できる可能性は高まるでしょう。

いずれにせよ、トランプ関税への日本企業の懸念は根強く、日本企業は常にその動向を注視しながらビジネスを継続していく4年間となるでしょう。

この記事のライター

国際政治学者、一般社団法人カウンターインテリジェンス協会 理事/清和大学講師

セキュリティコンサルティング会社OSCアドバイザー、岐阜女子大学特別研究員を兼務。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障の研究や教育に従事する一方、実務家として海外進出企業へ地政学リスクのコンサルティングを行う。

関連するキーワード


地政学

関連する投稿


グローバルマーケティングとしての台湾情勢の行方

グローバルマーケティングとしての台湾情勢の行方

全世界的に情勢が揺れている今。我が国日本においても、注視すべき情勢があらゆる方向に存在していると言っても過言ではないでしょう。国の経済を支える企業の経営方針も、さまざまな情勢情報をあらゆる視点から取り込む必要があります。本稿では、特に注視すべき隣国情勢である台湾有事を取り囲む世界の動きにフォーカス。その焦点となる台湾での企業マーケティングはどのように進めるべきか、国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が深掘り解説します。


米大統領選挙の行方 〜 日本企業が注視するべきポイント(台湾、朝鮮半島)

米大統領選挙の行方 〜 日本企業が注視するべきポイント(台湾、朝鮮半島)

全世界が注目する米国大統領選挙まであと2ヶ月。トランプ氏とハリス氏の攻防も熱を帯びてきましたが、いずれの結果においても政府間のみならず、日本企業の安定的かつ友好的な立場も維持したいものです。本稿では、米大統領選挙によって、日本企業にどのような影響があるのか、特に台湾情勢・朝鮮半島情勢についてフォーカス。国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が解説します。


米大統領選の行方で日本企業が注視するべきポイントとは

米大統領選の行方で日本企業が注視するべきポイントとは

世界中の注目が集まっているアメリカ大統領選。再選を狙うトランプ氏銃撃事件に現アメリカ大統領バイデン氏の候補撤退表明など、日々さまざまなニュースが飛び込んできています。次期候補には誰が就任するのか、そして、その結果によって日米の直接の関係性はもとより、現在アメリカが抱える関係国との問題はどのようにして日本へも波及するのか。国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が解説します。


中国はどのような基準で輸出入規制の対象品を選ぶのか

中国はどのような基準で輸出入規制の対象品を選ぶのか

世界の歴史を見れば分かりますが、国家と国家が紛争するのは、主に軍事や安全保障という領域でした。しかし、グローバルなサプライチェーンが毛細血管のようになり、国家と国家の経済の相互依存が深化している今日、国家と国家の紛争の主戦場は経済、貿易といった領域です。そして、国際政治が大国間競争の時代に回帰する中、諸外国の間では経済的威圧という問題に懸念が広がっています。本稿では、最近身近で起きている中国の経済的威圧について、国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が解説します。


台湾で新政権が発足〜今後の中台関係の行方〜

台湾で新政権が発足〜今後の中台関係の行方〜

2024年5月、台湾の新総統として頼清徳氏が就任したことは記憶に新しいところでしょう。新たに発足した頼政権によって中台関係はどうなっていくのでしょうか。また、それによって、日本はどのように影響が及ぶのでしょうか。国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が解説します。


最新の投稿


音声検索利用者の半数が「頻度増加」と回答!ハンズフリーでの検索ニーズがトップに【PLAN-B調査】

音声検索利用者の半数が「頻度増加」と回答!ハンズフリーでの検索ニーズがトップに【PLAN-B調査】

株式会社PLAN-Bは、全国の10代から70代の男女を対象に「音声検索の利用状況に関する調査」を実施し、結果を公開しました。


「就活」の検索を時系列で分析してみた。既卒、CAB、キミスカって?

「就活」の検索を時系列で分析してみた。既卒、CAB、キミスカって?

大学生や大学院生、専門学生などの多くが経験する「就活」。彼らは就活を進めるなかで、どんな情報収集しているのか、どんな悩みを抱いているのでしょうか。今回は、120日分の「就活」検索者の検索行動データを分析し、就活生の動きや悩みを明らかにしていきます。


Salesforce、「Agentforce for Marketing」の国内提供開始を発表

Salesforce、「Agentforce for Marketing」の国内提供開始を発表

株式会社セールスフォース・ジャパンは、自律型AIエージェントでマーケティング担当者の生産性向上を実現する「Agentforce for Marketing」を日本市場で提供開始したことを発表しました。


ゼンリンデータコム、ゼンリングループ所有の地図データとAIを活用し、オリジナルデザイン地図を作成できるデモサイトを公開

ゼンリンデータコム、ゼンリングループ所有の地図データとAIを活用し、オリジナルデザイン地図を作成できるデモサイトを公開

株式会社ゼンリンデータコムは、ゼンリングループが所有する地図データとAIを活用し、オリジナルデザイン地図を簡単に作成できるデモサイト「デザイン地図AI 」を公開しました。本サイトは無料で利用可能で、イベント開催時の会場へのアクセスマップや、店舗などの案内マップの作成時など様々なシーンで活用できるとのことです。


博報堂キースリーと博報堂、web3を活用した「界隈」マーケティングソリューション開発

博報堂キースリーと博報堂、web3を活用した「界隈」マーケティングソリューション開発

株式会社博報堂キースリーと株式会社博報堂は、博報堂が2024年11月に公開した「界隈消費」に関するレポートでの調査・研究結果をもとに、web3を活用した「界隈」発想によるマーケティングソリューションを開発したことを発表しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ