2025年、地政学リスク分野で最も注目されているトランプ政権の外交政策とは
米国でトランプ政権が再発足しました。2025年の地政学リスクの動向で最も注目されるのがトランプ政権の外交政策であり、トランプ大統領が世界情勢に行方にとって最大の変数となると言っても過言ではありません。トランプ大統領が取り組む問題は対中国、ウクライナ、中東など多岐に渡りますが、日本企業が最も懸念しているのはトランプ関税でしょう。日本企業の間では、トランプ政権の発足は自社ビジネスにとってマイナスと捉える見方が多いようですが、今後の4年間はその動向を注視しながらビジネスを継続していくことになります。
トランプ大統領は今後の4年間、何をしようとしているのでしょうか。簡単に説明すれば、トランプ大統領はMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大な国家にする)という目的に向けて、同盟国を含む諸外国から最大限の譲歩や利益を引き出すツールとして関税を武器として活用してきます。トランプ大統領はタリフマン(関税発動男)を自認しており、今後あらゆる場面で関税を前面に出してくるでしょう。
トランプ関税の標的となるのはどこ?そして、その手段とは
トランプ関税の主たる標的となるのが、中国です。トランプ大統領は政権1期目の時、米国の対中貿易赤字を是正する手段として、2018年以降、計3700億ドル相当の中国製品に対して最大25%の関税を課す制裁措置を4回に分けて発動し、米中間では貿易摩擦が激しくなりましたが、今回も同じような事態が再来する可能性があります。
トランプ大統領は今回、通商・製造業担当の大統領上級顧問に対中強硬派のピーター・ナバロ氏を起用しましたが、ナバロ氏はトランプ政権1期目で通商政策担当の大統領補佐官を務め、ライトハイザー元通商代表とともにトランプ政権の貿易保護主義化を主導した人物です。また、国務長官にはマルコ・ルビオ氏が、安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ氏がそれぞれ起用されましたが、いずれも対中強硬派して知られ、トランプ政権は今回も中国に対して貿易規制措置を積極的に展開していくことが予想されます。
トランプ政権は中国製品に対して10%の追加関税を課すと発表しており、最新の情報によると、2月1日から実施される方向で調整が進んでいるとされます。しかし、中国製品と言っても、それは中国企業が生産した製品ではなく、中国から輸入される製品を意味し、要は中国でモノを製造し、それを米国へ輸出する日本企業も10%の追加関税の対象となるのです。また、トランプ大統領はメキシコやカナダからの全ての輸入品に25%の関税を課すと発表していますが、これも同じように両国に生産拠点を持ち、製造したモノを米国で輸出する日本企業も25%のトランプ関税の標的となります。
例えば、メキシコにはトヨタや日産など日本の大手自動車メーカーの工場が多くありますが、JETROによると、日産は2023年にメキシコで60万台あまりを生産、その4割を米国へ輸出し、同じようにトヨタも9割、マツダも5割、ホンダも8割をそれぞれ米国へ輸出しています。従ってそれら全てが25%のトランプ関税の影響を受けることになります。カナダにもトヨタとホンダの生産工場がありますが、その多くは米国へ輸出されており、大手自動車メーカーは既にトランプ関税という大きな壁に直面しています。
トランプ大統領は国内の製造業の建て直し、国内への生産回帰を強く掲げ、外国企業に対しても国内での生産拡大を求めており、一部の日本企業からは米国内での生産強化、米国向けの輸出量削減と第3国シフトを示唆する声も聞かれます。今後、トランプ大統領は中国に対してさらなる追加関税に踏み切ったり、その他の貿易相手国から譲歩を引き出すために先制的に関税を導入したりすることが十分に考えられ、しかもそれがいつどのような形で発動されるか予測が難しいことから、米国内での生産強化、米国向けの輸出量削減と第3国シフトといったものが日本企業の間で増えるかも知れません。
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トランプ関税と日本の立ち位置。日本企業は注視が必須
現時点では中国やメキシコ、カナダのように日本を標的とするような関税制裁は発表されていませんが、その可能性は排除できません。トランプ大統領は政権1期目の際、日本の自動車や自動車部品に対する25%の追加関税を示唆したことがありましたが、この時は日本が米国産牛肉や豚肉などの関税を引き下げたことでトランプ関税は見送られました。しかし、政権1期目の時と同様に、トランプ大統領は米国の貿易赤字国を意識していると考えられ、実際に1位に中国、2位はメキシコで、その次に日本がランクインしていることからも、日本をトランプ関税の対象国と優先的に意識する可能性があります。
また一方で、石破総理がどこまでトランプ大統領と良好な関係を構築できるかが極めて重要です。石破総理が日本は米国の最大級の投資国であることを、トランプ大統領に納得させることができれば、日本がトランプ関税を回避できる可能性は高まるでしょう。
いずれにせよ、トランプ関税への日本企業の懸念は根強く、日本企業は常にその動向を注視しながらビジネスを継続していく4年間となるでしょう。
国際政治学者、一般社団法人カウンターインテリジェンス協会 理事/清和大学講師
セキュリティコンサルティング会社OSCアドバイザー、岐阜女子大学特別研究員を兼務。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障の研究や教育に従事する一方、実務家として海外進出企業へ地政学リスクのコンサルティングを行う。