米大統領選挙の行方 〜 日本企業が注視するべきポイント(台湾、朝鮮半島)

米大統領選挙の行方 〜 日本企業が注視するべきポイント(台湾、朝鮮半島)

全世界が注目する米国大統領選挙まであと2ヶ月。トランプ氏とハリス氏の攻防も熱を帯びてきましたが、いずれの結果においても政府間のみならず、日本企業の安定的かつ友好的な立場も維持したいものです。本稿では、米大統領選挙によって、日本企業にどのような影響があるのか、特に台湾情勢・朝鮮半島情勢についてフォーカス。国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が解説します。


目前に迫る米大統領選挙。現在の動向は?

2024年11月5日に行われる米大統領選挙まで2ヶ月を切りました。今日までに多くのメディア、調査機関などが支持率調査の結果を公表していますが、例えば、クック・ポリティカル・リポートが公表した結果によると、選挙戦の行方を左右する激戦(スイングステート)7州のち、民主党のハリス氏が5州でトランプ氏をリードしている状況です。ペンシルベニア州でハリス氏49%、トランプ氏48%、アリゾナ州でハリス氏48%、トランプ46%、ウィスコンシン州とミシガン州でハリス氏49%、トランプ氏46%などとなっており、スイングステートでトランプ氏がリードするのはネバダ州のみとなっています。

他の州では共和党、民主党のどちらかが明らかに優勢となっており、これまでの大統領選でもスイングステートの行方が勝敗を大きく分けてきましたので、トランプ陣営にとっては都合の悪い数字と言えるでしょう。しかし、選挙戦の行方はまだ分からず、海外に展開する日本企業としてはそれぞれが勝利したシナリオを想定し、それが会社の事業にどのような影響を与える可能性があるかを検討しておくべきでしょう。

今回は、それぞれが勝利した場合、台湾と朝鮮半島をめぐる情勢がどのようになっていくかを検討してみたいと思います。

日本企業に影響。米大統領選挙後の台湾情勢・朝鮮半島情勢

まず、日本企業の間でも懸念が強まる台湾情勢ですが、ハリス政権となればバイデン政権のように台湾を民主主義と権威主義の戦いの一部と位置付け、台湾への防衛支援を惜しまないでしょう。台湾では頼政権が5月に誕生しましたが、中国はその直後から台湾本島を取り囲むように大規模な軍事演習を実施するなど、中台の間では緊張が続いていますが、ハリス政権は頼政権との結束を強化し、中国による圧力には屈しない姿勢を強調することでしょう。よって、これまでのような状況が続く可能性が高く、ハリス政権の誕生によって大きな変化は起こりにくいと思われます。

一方、トランプ政権となれば、それよりは大きな変化が生じる可能性があります。トランプ氏はこれまでに、「台湾は我々に防衛費を払うべきだ」、「台湾が半導体産業を米国から奪った」などと発言しており、実際にトランプ政権が再び発足しないと分かりませんが、トランプ政権の台湾軽視の姿勢が顕著になれば、米国と台湾の間で政治的な溝が生じ、それによって中国の台湾へ軍事的、経済的な威嚇がエスカレートすることが懸念されます。

また、朝鮮半島ですが、バイデン大統領は核・ミサイル問題で北朝鮮が率先して改善策を示さないと交渉には応じないという姿勢に撤し、対北朝鮮では日米韓3カ国の結束を強化してきたことから、北朝鮮はそれに強い不満を抱き、ミサイルの発射など軍事的挑発を続けています。バイデン政権は発足当初から中国問題を最重要課題に位置付けてきましたが、2022年2月のウクライナ侵攻によってロシアにも対応する必要性に迫られ、北朝鮮問題は蚊帳の外のような状況となり、結局バイデン政権の4年間で米朝関係は良くも悪くも大きな動きはなかったと言えます。最近でも、ハリス氏は「暴君や独裁者に寄り添うつもりはない」と北朝鮮を非難する発言をしており、ハリス政権もバイデン路線を継承していくことになるでしょう。

一方、トランプ政権となれば、朝鮮半島をめぐる軍事的緊張は緩和される可能性があります。トランプ氏は政権1期目の際、始めのころは北朝鮮の金正恩氏をロケットマンなどと揶揄し、米朝間では一時期軍事的な緊張が高まりましたが、2018年以降はベトナム、シンガポール、板門店と3回も金正恩氏と米朝首脳会談を実現し、北朝鮮の指導者と対面した初の米国大統領となりました。トランプ氏は最近の演説でも、「自分が大統領に返り咲くことを金氏も望んでいるだろう」と主張しており、大統領に返り咲けば北朝鮮へ関係改善を目的に率先して接近する可能性があると言えるでしょう。

この記事のライター

国際政治学者、一般社団法人カウンターインテリジェンス協会 理事/清和大学講師

セキュリティコンサルティング会社OSCアドバイザー、岐阜女子大学特別研究員を兼務。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障の研究や教育に従事する一方、実務家として海外進出企業へ地政学リスクのコンサルティングを行う。

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