トランプ関税がもたらす変化とグローバルマーケティング戦略の潮流

トランプ関税がもたらす変化とグローバルマーケティング戦略の潮流

2025年1月20日に第2次トランプ政権が発足し、連日数々の「大統領令」が発令されている今。その中でもトランプ政権の主軸となるのは通商政策、いわゆる「トランプ関税」でしょう。本稿では、日々耳にする「トランプ関税」の意味する中身を詳しく紹介。国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が、「トランプ関税」の大局を見極め、関係国・関係企業に及ぶ影響の光と影の部分や、今起きているグローバルマーケティングの潮流を解説します。


次々と展開されるトランプ関税の本当の狙い、そしてその行方は

2025年1月20日に第2次トランプ政権が発足して以来、トランプ関税は公約に基づいて急速に展開され、諸外国では波紋が広がっています。本稿では、トランプ政権発足から今日までのトランプ関税の状況を振り返り、それがグローバルマーケティングにどのような影響を与えているのか、そして企業がどのように備え、新たな可能性を見出すことができるのかについて説明したいと思います。

トランプ氏は2024年秋の大統領選挙で勝利を収め、2025年1月20日に第47代アメリカ合衆国大統領として再び就任しました。選挙戦での公約の柱の一つが「米国第一主義」を掲げた通商政策であり、特に輸入品に対する関税引き上げが注目されていました。
就任初日、トランプ大統領は「米国第一の通商政策」を発表し、中国からの輸入品に10%の追加関税、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課す大統領令を打ち出しました。これに加え、全世界からの輸入品に一律10~20%の「ベースライン関税」を検討する方針も示唆され、市場は一気に緊張感に包まれました。

2月に入ると、トランプ政権は具体的な動きを見せ始めます。2月1日には中国産品への10%追加関税が発動され、2月4日からの実施が始まりました。一方、カナダとメキシコへの25%関税は、当初2月1日から予定されていましたが、両国との交渉を理由に3月4日まで延期されました。
しかし、トランプ大統領は2月10日に鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税適用除外制度の廃止を発表し、3月12日からアルミ製品の関税率をさらに引き上げる方針を示しました。
さらに、2月13日には「相互関税」導入の大統領覚書を公表し、貿易相手国が米国に課す関税率に合わせた報復的関税を検討すると表明しました。こういった措置により、関税政策が単なる経済措置を超え、国益を守る政治的手段としての性格が鮮明になりました。

今日、トランプ関税の全貌はまだ見えていません。半導体や医薬品、自動車などへの新たな関税も近い将来に発動する可能性が報じられており、産業界や市場関係者は先行きの不透明さに警戒を強めています。
特に自動車産業では、4月2日以降に追加関税が課される可能性が指摘され、サプライチェーンの混乱が懸念されています。こうした状況下で、トランプ関税は米国経済だけでなく、世界市場全体に大きな変動をもたらしているのです。

通商政策

トランプ関税に日本企業としていかにして対応するべきか

トランプ関税の展開は、グローバルマーケティング戦略に深刻な影響を及ぼすことになります。
まず、コスト構造の変化が挙げられます。輸入品に高関税が課されることで、原材料や製品の価格が上昇し、企業は利益率の低下や価格転嫁の必要性に直面することになります。例えば、中国からの輸入品に10%の関税が加わったことで、米国市場向けの商品価格が上昇し、消費者の購買意欲に影響を与えるでしょう。JETRO 日本貿易振興機構(ジェトロ)の報告によれば、在米日系企業はコスト増を懸念しつつも、サプライチェーンの即時変更が難しいため、状況を見極めようとする姿勢が目立っています。

次に、市場の不確実性が増している点です。トランプ大統領は今後も関税を積極的に導入していくでしょうが、その対象や税率、期間などが明確でないため、企業は長期的なマーケティング戦略を立てにくくなっています。2月に実施された中国向け関税や、予定されている自動車関連関税が市場に与える影響を見越して、一部の企業は輸入の前倒しや在庫積み増しに動いていますが、これが逆にインフレ圧力を高めるリスクも指摘されています。
米国の消費者物価指数(CPI)は2025年1月に前月比0.5%上昇するなど、関税による物価上昇が顕在化しつつあり、消費者の購買行動にも変化が見られます。

このような状況下で、企業はどのように備えるべきでしょうか。
まず、サプライチェーンの見直しが進められています。在米・メキシコの日系企業は「サプライチェーンの変更は現実的ではない」と感じており、短期的な対応としてコスト吸収や価格調整に頼るケースが多いようですが、長期的な視点では、生産拠点の多元化や米国内での生産強化を検討する企業も増えています。
例えば、日本企業の中には、米国での現地生産比率を高めることで関税リスクを回避しようとする動きが見られます。また、リスク管理の強化も重要な備えとなっています。関税政策の不透明さに対応するため、企業はシナリオプランニングを導入し、複数の関税シナリオに基づいたマーケティング戦略を準備しています。
さらに、為替変動への対応も欠かせないでしょう。トランプ関税が貿易相手国の通貨切り下げ圧力を生む可能性があるため、為替ヘッジや価格設定の柔軟性を高める取り組みが進められています。例えば、円安が進む場合、日本企業は輸出価格を抑えることで米国市場での競争力を維持しようとしています。

トランプ関税に対応する日本企業

トランプ関税がもたらす影響には光の側面も?

一方、トランプ関税は関係国や関係企業に難題を突き付けますが、新たな可能性も生み出しています。
まず、自由貿易圏の活用が注目されています。TPPやEUとの取引では関税が免除されるため、これらの地域を基盤としたマーケティング戦略が強化される可能性があります。日本企業にとっては、TPP枠組みを活用してカナダやメキシコとの関係を深め、対米輸出の迂回路を確保するチャンスです。実際に、第一次トランプ政権時(2017~2021年)に日本がTPPを維持・拡大した経験が、ここで活かされるかもしれません。

次に、イノベーションの加速です。関税によるコスト増を補うため、企業は生産効率の向上や新技術の導入に注力しています。例えば、AIや自動化技術を活用したサプライチェーン最適化が進められ、コスト削減と同時に競争力強化につながっています。また、環境対応型の製品開発も新たな市場を開拓する可能性を秘めており、トランプ政権下での気候変動政策の後退を見越して、グリーンマーケティングが注目されています。

最後に、地域市場の再評価です。米国市場への依存度を下げるため、アジアや新興国市場への進出が加速する可能性があります。これにより、グローバルマーケティングは多極化し、新たな成長機会が生まれるでしょう。特に、インドなどのグローバルサウスは今後飛躍的な経済成長が考えられ、関税リスクを回避しつつ収益を拡大する場として期待されています。

トランプ関税は2025年1月の政権発足以来、段階的に実施され、世界市場に不確実性と変動をもたらしています。グローバルマーケティングにおいては、コスト上昇や市場の不透明さ、地域間競争の変化が課題となる一方、企業はサプライチェーンの見直しやリスク管理、消費者対応の強化で備えています。
さらに、自由貿易圏の活用やイノベーション、地域市場の再評価といった新たな可能性も見えてきました。揺れる世界市場の中で、企業は柔軟性と創造性を発揮し、トランプ関税を乗り越える戦略を模索しているのです。
今後の政策展開を見据えつつ、グローバルマーケティングの潮流はさらなる進化を遂げていくでしょう。

この記事のライター

国際政治学者、一般社団法人カウンターインテリジェンス協会 理事/清和大学講師

セキュリティコンサルティング会社OSCアドバイザー、岐阜女子大学特別研究員を兼務。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障の研究や教育に従事する一方、実務家として海外進出企業へ地政学リスクのコンサルティングを行う。

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