書籍『データ分析失敗事例集』の著者インタビュー!分析で陥りがちな失敗とは

書籍『データ分析失敗事例集』の著者インタビュー!分析で陥りがちな失敗とは

他者にデータ分析を依頼する際、または自身が分析する際、失敗が起こらないよう、どんなことに気を付けているでしょうか。 2023年8月3日に出版された『データ分析失敗事例集』(共立出版)では、25の失敗事例が掲載されています。株式会社ヴァリューズからは、輿石 拓真、川島 彩貴、竹久 真也の3名が著者として参画。敢えて成功ではなく失敗を取り上げた出版の背景や、失敗しないためのポイントを伺いました。 データ分析を担当する方だけでなく、データ分析を依頼する方、依頼の可能性のあるマーケターの方も必見です。


書籍紹介

データ分析失敗事例集:失敗から学び、成功を手にする(共立出版)

データ分析失敗事例集:失敗から学び、成功を手にする(共立出版)

ヴァリューズからの参画著者

著者紹介:輿石 拓真、川島 彩貴、竹久 真也 共に株式会社ヴァリューズ ソリューション局 インサイトアナリティクスG マネジャー

著者紹介:輿石 拓真、川島 彩貴、竹久 真也
共に株式会社ヴァリューズ ソリューション局 インサイトアナリティクスG マネジャー

共有されないけれど、失敗事例から学べることは多い

―― まず出版された背景について教えてください。なぜ失敗がテーマなのでしょうか。

株式会社ヴァリューズ 輿石 拓真(以下、輿石): この書籍は編者の尾花山さん、ホクソエムさんの呼びかけによって実現した企画ですが、失敗は語られることが少ない、ということが理由の一つだと伺っています。

企業がプレスリリースで成功事例を発表することはありますが、失敗を共有するモチベーションはあまりあがらなかったりしますよね。また、データ分析って失敗するのが当たり前なんだよ!と世の中に伝えたかったというのもあるそうです。

ビジネスに対する科学的なアプローチ(見える化→ビッグデータ→データサイエンティスト→DXみたいな変遷)が幅広い業界に広がった結果、思うように成果が出ずハイプサイクルの幻滅期に差し掛かってきたとの見方もあります。特にビジネス畑では失敗はキャリアの途絶になる場合もあるため、ビジネス側の人にこそ失敗し得ることや、失敗から学べることを伝えたいということですね。

またデータ分析では、依頼者とデータ分析者の双方が存在しています。データ分析者だけではなく、依頼者側も失敗を知ることで、失敗しないためにはどうすればいいのか、データ分析者とどのように接すればいいのか、見えてくる部分があると思うんですよね。データ分析の失敗事例からは双方学ぶところがあると思っています。

―― 確かに、失敗にフォーカスした本はあまりないですよね。この書籍には複数の著者が参画されていますが、どのような方が多いのでしょうか。

輿石著名なデータサイエンティストの方が多く参加されていました。この本ではデータを分析する側の方が、分析するうえでの失敗を語る本になっています。元々のキャリアが事業会社という方も結構いらっしゃるので、まんべんなく色々な方が参加されている印象があります。

株式会社ヴァリューズ 川島 彩貴(以下、川島):そうですね。事例の内容では、自社内で取り組んだケースと受託したケースのそれぞれがあるかと思います。

輿石:Twitter(現X)や分析系のユーザ会などでよく目にする方も多く参加されているので、そういった方が失敗を語ってくれることは、非常に良い機会ではないでしょうか。

自社データだけでなく多面的に見ることが大切

―― 次に具体的な本の内容について、教えてください。25個の失敗事例が掲載されていますが、竹久さんが本書の中で印象に残った事例を教えていただけませんか。

株式会社ヴァリューズ 竹久 真也(以下、竹久):自社サービスの利用度合いに基づいてユーザーを区分している事業会社から、自社をたくさん使っている人、つまりロイヤルユーザーを増やそうとする施策の一環で行った分析の事例です。自社だけでなく多面的にデータを見て、より行動の実情を確かめていきたい、という背景がありましたが、蓋を開けてみると、自社の利用が多い人は競合の利用も多いという、いわゆる「ロイヤルティ(忠誠心)」とは違う実情が見えてきたそうです。そのため、分析の前提が大きく変わったという事例でした。

その後は立て直しをされ、深く使われているユーザーなら、どのような行動を取っているのかを計測されたそうです。この事例は自社で決めたロイヤルユーザー像が、ちゃんと分析してみると実情は結構違っていたということがポイントかと思います。

―― このようなケースはよくあるのでしょうか。

竹久:自社へのロイヤルティ、つまり忠誠心が高いことと、自社をメインで使っていることは、必ずしも一致するわけではない。特に特定カテゴリのサービスしか提供していない場合、ごく一部のデータしか取れていないということはよくあるのではないかと思います。

というのは、自社に溜まるデータは消費者の生活全体のごく一部、ということが多いんですよね。自社が独占できていると捉えて頑張ろうとするマーケティングが多いんですが、実は単純にそのカテゴリの消費が多いとか、ECをよく使う人がたまたま自社をたくさん使っていて、他社も多く使っていたというのはよくあることです。自社データだけで議論することって、とても危ういなと思います。

―― 特に学びになると思う点はどんなところですか。

竹久取れていないデータに敏感になろう、という点でしょうか。取れているデータを前提に、現実と一対一の対応で捉えるのではなく、実際にはデータを取れている範囲と取れていない範囲があるはず。その限界を意識し、多面的にデータを突き合わせて初めて分かることもあるというのが学びだと思います。

もちろん、取れるデータで考えることは当然です。ただそのデータから分かることと真実とは距離があるので、たまにはその距離をちゃんと見ていくことが必要かなと。

画像イメージ

画像イメージ

―― データを多面的に見ることが大事ということですね。このパートをどんな方に読んでほしいと思われますか。

竹久:自社データの分析を中心に携わっている方、もしくはデータ分析というと自社で蓄積されたデータだけを使うと思っていらっしゃる方ですね。自社データというのは、自社サービスを利用する際に取れるデータで、一例をあげると利用ログやGA(Google Analityics)、会員データなどです。

実際そういう方も多いとは思いますが、それだけでは片手落ちになる可能性があることを知っていただけたらと思うんですよね。そのデータは、正しく顧客像を捉えているかということです。自社ですごく分析をしていたり、顧客像を描いている人こそ、ユーザーの行動を幅広く見ることができる外部のデータや調査と組み合わせることで、より良くなるのではと思います。

前提の把握が手戻りを防ぐ

―― 次に川島さんにお伺いします。どんな事例が印象に残りましたか。

川島:市場や業界状況を理解するというテーマで実施した調査案件での事例です。

―― この事例の失敗ポイントはどんなところでしょうか。

川島:案件の始まりから終わりまでの進行方法をもっとよくできたのではと思う点がいくつかありました。

―― 印象に残った背景を教えてもらえますか。

川島:データ分析における失敗というと、分析の手法における失敗がまず思い浮かぶかと思うのですが、このテーマはそもそものプロジェクトの進行に関する振り返りがメインです。関係者と目的に向けてどう進めていくのかということは、仕事全般において大事だと思いますが、データ分析という結果が未知なものに取り組むからこそ、より一層重要だと感じました。

―― 事例のようなケースは、よくあることなんでしょうか。

川島:ここまではないものの、小さい範囲で結構起きているケースかと思います。

この件では、提案段階からプロジェクトが進むにつれてそもそもの知りたいことが変わってきたり、スケジュール的に早くやらないといけなかったりという事情がありました。報告では分析者が想定していないところで質問があがり時間を使ってしまったなど、関係者の認識や状況共有がうまくいっておらず、なかなかうまく進めることができていない様子でした。

―― この事例から、特に学べる点を教えてください。

川島前提の把握が大事ということです。クライアントの担当者が何のために調査をしたいのか、その分析を使ってどんなアクションをしたいのか、なぜそのスケジュールなのかなどといった点です。

また、担当の方が調査慣れしているのか、やり方の面で共通の見解を持てているのか、プロジェクトを進める目的や背景も重要です。それが曖昧だとズレてくることがあるので、最初におさえておくことが大事だと思います。

画像イメージ

画像イメージ

川島:そしてプロジェクトが進む中で状況が変化してくるので、疑問に思ったらその時点で確認することや、今どういうステップで、どこまで進行しているのか、そういった位置や目線の確認が大事だと思います。

―― 色々な人が入り関係者が増えたことで認識が違っていったのか、またはそもそもの認識が違っていたのか、というとどちらでしょうか。

川島:そもそもの認識の違いかと思います。この条件で、こういう風に進めていきましょうと、提案段階で決め切っていない状態で、スケジュールもあるのでスタートしましょうと進めていた面があったようです。

―― データ分析する側もそうですが、依頼者側の意識やスケジュール感覚にも課題がありそうですよね。

川島:そうですね。どちらが悪いとかではなく、その背景を理解した上で、コミュニケーションを取ることが大事だと思います。

―― どんな方にこのパートを読んでもらいたいでしょうか。

川島:データ分析する方と活用する方、双方に参考になるかと思います。

また個人的には、これからデータ分析を仕事にしていく人や目指す人にも読んでもらえるといいですね。外から見ると、きらびやかな部分がクローズアップされて見えたりしますが、いい意味で地道に考えて積み重ねて、興味深く役に立つ分析ができるんだなと分かってもらえれば。実務経験を積むことは大事ですが、こういった実体験を書籍を通じて知ることができると、知見が得られるように思います。

―― 実務に基づく実体験なので、書籍を通じてリアルな追体験ができるということですね。

失敗を避けるために、何をやらないのか知る

―― 最後に輿石さんからもメッセージをお願いできますか。

輿石:この書籍は依頼者側の方にも読んでもらえる内容だと思っています。データ分析を仕事にしている方だけではなく、お願いする可能性がある方、例えばマーケターの方などですね。会社としていい分析プロジェクトを進めていくためにも、ぜひ読んでほしい内容になっています。

画像イメージ

画像イメージ

―― 上手くいったケースの本はたくさんあるけれど、それを自社で再現できるかというと難しいですよね。一方、失敗例は実感値として落とし込みやすいと思いました。

輿石:書籍に記載があるように、「失敗を避けるために、何をやらないのかを知る」ことができますね。

―― 本日はありがとうございました。

データ分析失敗事例集 - 共立出版

https://www.kyoritsu-pub.co.jp/book/b10032587.html

データ分析失敗事例集詳細をご覧いただけます。

この記事のライター

大学卒業後、損害保険の営業事務を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事した後、独立。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。

関連するキーワード


データ分析事例

関連する投稿


【10/28(月)開催セミナー】【参加特典あり】リサーチャー菅原大介氏 新刊!『ユーザーリサーチのすべて』出版記念セミナー|マナミナ講座

【10/28(月)開催セミナー】【参加特典あり】リサーチャー菅原大介氏 新刊!『ユーザーリサーチのすべて』出版記念セミナー|マナミナ講座

『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』(明日香出版社)などリサーチに関する著書を持つ、リサーチャーの菅原大介さんの新刊『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)の発売を記念して、特別セミナーを10月28日(月) 17:00〜18:15に配信します!ゲストにブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 CMOの黒澤友貴さんと株式会社マテリアルデジタル 取締役の川端康介さんをお迎えし、プロジェクトの企画段階からリサーチ手法の選定・実行、分析に至るまでのノウハウを集約した、菅原さんの新著『ユーザーリサーチのすべて』をもとにディスカッションいただきます。


行動経済学の入門書籍24選!教科書や今人気のベストセラーも紹介

行動経済学の入門書籍24選!教科書や今人気のベストセラーも紹介

経済学に心理学を組み合わせる「行動経済学」。マーケティングとの親和性の高さ、そしてマーケティング活動のためのヒントがあるとされており、さまざまな場面で活用が進んでいます。行動経済学をビジネスに活かすには、そのエッセンスがよくまとまった本・書籍で学ぶのが近道です。今回は、ベストセラー本から教科書的なものまで、行動経済学についてまんべんなく学べるよう、24冊のおすすめ本を紹介します。


プロが選ぶ!学び続けるマーケターにおすすめしたいビジネス書5選(2023年10月)

プロが選ぶ!学び続けるマーケターにおすすめしたいビジネス書5選(2023年10月)

コンサルタントやアナリスト、リサーチャー、エンジニアなど、マーケティングに関わる全ての人へ。第一線で活躍するマーケターが「読んでためになった!」というビジネス書を、連載でご紹介します。これからマーケティングやデータ分析の世界に足を踏み入れようと思っている学生や社会人にもおすすめです。


1年目データアナリストに読んでほしい本 ~ データ分析者の考え方・心構え編

1年目データアナリストに読んでほしい本 ~ データ分析者の考え方・心構え編

ヴァリューズの在籍2年目以上のデータアナリスト達に、1年目の自分に向けておすすめするとしたら、「これだけは読んでおいてほしい!」と思う本を紹介してもらいました。テーマは「技術以外の面で、データアナリストとしての自分の礎になっていると感じる本」です。技術が求められる職種でありながら、技術面以外にも分析者として読むことで視野が広がる本は沢山あるようです。記事内で紹介される本をめくってみると、データアナリスト達の脳内が覗き見できるかもしれません。


Z世代マーケターが音部さんに訊く!最新作『マーケティングの扉』の読み方

Z世代マーケターが音部さんに訊く!最新作『マーケティングの扉』の読み方

悩めるマーケターからの質問に痛快な回答と気づきを与えることで人気の「Agenda note」連載「音部で『壁打ち』」が2023年4月に『マーケティングの扉〜経験を知識に変える一問一答』として書籍化。この出版に際し、著者である株式会社クー・マーケティング・カンパニー音部大輔氏をお招きし、ヴァリューズのZ世代マーケター代表として小幡のぞみが本書の中身の深掘り、出版にまつわる裏話などをインタビューしました。 ※書籍プレゼントの受付は終了いたしました。皆さまのご応募、誠にありがとうございました。


最新の投稿


メールDMを確認する日は"月曜日"が6割!「新商品・サービス発表」「業界トレンド等の調査結果や最新ニュース」「商品の割引」が開封されやすい傾向あり【PRIZMA調査】

メールDMを確認する日は"月曜日"が6割!「新商品・サービス発表」「業界トレンド等の調査結果や最新ニュース」「商品の割引」が開封されやすい傾向あり【PRIZMA調査】

株式会社PRIZMAは、メールDM経由で商談を受けた経験のあるBtoB企業の社員を対象に、「メールDMに関する調査」を実施し、結果を公開しました。


電通デジタルと電通、Amazon Ads動画広告のリーチ・購買効果を把握・検証できる統合動画マーケティングソリューションを開発

電通デジタルと電通、Amazon Ads動画広告のリーチ・購買効果を把握・検証できる統合動画マーケティングソリューションを開発

株式会社電通デジタルと株式会社電通は、Amazon Adsの動画広告のリーチ指標や、実店舗での「オフライン購買」およびECサイトなどでの「オンライン購買」に与える影響を把握し、プランニングおよび効果検証に活用することができる統合動画マーケティングソリューションを開発したことを発表しました。


食料危機 ~ 天災か人災か

食料危機 ~ 天災か人災か

食料・食糧の危機が迫っています。地球上では、気候問題や行政の責任下で今なお続く飢饉もあります。私たちの未来を豊かにするために欠かせない食料・食糧。それを恒常的に守っていくためには、今この時にどのような行動が必要なのでしょうか。基本的な言葉の意味の説明や、それぞれに対する詳細な対策案を交え、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


“第2次”アサイーブームは続くのか? 検索者属性や検索ニーズからカテゴリ浸透の未来を考察

“第2次”アサイーブームは続くのか? 検索者属性や検索ニーズからカテゴリ浸透の未来を考察

近年再び話題になっている「アサイー」。若い女性を中心に人気を集めているようです。他にはどのような特徴を持つ人がアサイーに関心を持っているのか、アサイー検索者がアサイーのどんなことに興味を持っているのかについて、Web行動ログデータから分析・考察します。そして、アサイーブームのこれからを考えます。


2024年のソーシャルメディアマーケティング市場は1兆2,038億円、前年比113%の見通し。2029年には2024年比約1.8倍、2兆1,313億円に【サイバー・バズ調査】

2024年のソーシャルメディアマーケティング市場は1兆2,038億円、前年比113%の見通し。2029年には2024年比約1.8倍、2兆1,313億円に【サイバー・バズ調査】

株式会社サイバー・バズは、株式会社デジタルインファクトと共同で、2024年国内ソーシャルメディアマーケティングの市場動向調査を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ