タイの食文化に浸透しつつある日本の「おまかせ」文化
今、タイでは日本の食文化である「おまかせ」が人気です。これまでタイには「おまかせで料理を注文する」という文化がなかったため、目新しい注文システムが大衆をひきつけている魅力の一つではないかと考えられます。
「おまかせ」の店はバンコクを中心に増えていきました。料理人が日本人のお店もあれば、日本で修行を積んだタイ人のお店も多くあります。メニューもお店によって様々で、タイ人の好みに合うようにタイ風にアレンジして提供しているお店もあります。また、価格帯も様々で、お手頃な価格だと1,500バーツ(約6,000円)から高級なものだと10,000バーツ(約40,000円)以上の価格で提供している店舗もあります。
日本食がブームのタイで「OMAKASE(おまかせ)」が人気な理由
平均所得が日本の半分以下のタイで、なぜ「おまかせ」が流行しているのでしょうか。
タイでおまかせが人気な理由は以下の通りです。
・タイの食文化である「外食事情」の影響
・中間所得層の増加により「おまかせ」料理を楽しめる人が増えた
・SNS利用者による「おまかせ」飲食体験の投稿
タイの食文化である「外食事情」の影響文化
タイで「おまかせ」の人気が高まっている理由の一つに、タイの食文化である「外食事情」も関係していると考えられます。
タイは東南アジアの中でも特に外食文化が浸透している国です。家に台所がなかったり、3食の全てを外食で済ませるという人も少なくありません。
なぜなら、自炊をするよりも外食をする方が安いからです。朝は駅の入り口近くに屋台がいくつか出ており、朝ごはんを屋台で食べたり、購入してから出勤する人々をよく目にします。また夜になるとナイトマーケットが開き、多くの人々が集まります。
屋台でご飯を買うと1食約200円程で済みますが、自炊するには高価な電化製品を購入しなければいけない上、ガス・電気代や手間がかかります。これらを考慮すると外食をする方が良いのです。
そんな外食が主流のタイで「おまかせ」が人気な理由は「安心感」と「コミュニケーション」が関係しています。
「おまかせ」のシステムを提供している店舗では目の前で料理を作ってくれる上に、魚の種類や仕入れ先を丁寧に説明するため「食材への安心感」を得られます。
また、普段の外食ではできない料理人との会話を楽しみながら食事ができるというのも人気の理由です。タイの大手チェーン店の多くには日本よりも一足先に配膳ロボットが導入されており、料理の提供者と顧客との間のコミュニケーションがより一層なくなりつつあります。料理人との会話を楽しみながら食事ができるというのは、現代では貴重な時間になっているのです。
中間所得層の拡大による「おまかせ」料理を楽しめる人の増加
タイの飲食業界の中でも高価格帯で提供される「おまかせ」料理が人気の理由として、中間所得層の増加も考えられます。経済成長に伴い、首都バンコクを中心に富裕層・中間所得層の割合は年々増化しています。2009年から2020年の約10年間で低所得層の割合は36%から16%へと減少し、中間所得層は61%から73%、富裕層も3%から11%へと増加しました。また、2030年にかけてこの所得階層別比率は同じように推移すると推測されています。
中間所得層の増加に伴い、日本へのタイ人旅行客の数もコロナが始まる2020年までは右肩上がりで増加しています。
日本に旅行した経験のある人々が本場の味を追体験をするため、海外に行けないコロナ禍に「おまかせ」に訪れるようになった事が「おまかせ」に人気が出たきっかけとも考えられるでしょう。 ややお手頃な価格帯の「おまかせ」のお店が増えたことにより、富裕層だけではなく中間所得層の人々も訪れることができるようになったことで、より一層人気が広がりました。
SNS利用者による「おまかせ」飲食体験の投稿
「おまかせ」がここまで爆発的なブームを生み出しているのはタイ人のSNSの利用頻度も関係しています。
タイ人のインターネットユーザーの1日のネット利用平均時間は平均8時間44分で、SNSの使用時間は一日平均2時間48分です。日本と比べるとネット利用時間は約2倍、SNS使用時間は約3倍の時間を費やしています。SNSを頻繁に利用使用するタイ人にとってタイの文化にはなかった「おまかせ」の料理をたべることは単に「本物のおいしい料理を食べる」だけではありません。
有名なレストランで料理を食べたという経験をSNS上で共有して反応をもらう目的もあります。シェフが厳選した素材を使って一品ずつ丁寧に盛り付けをした食べ物の写真や、レストランでの自撮りの写真などをSNSにアップする事で、その体験を「周りの人々にシェアしたい」「羨ましいと思われたい」というように、承認欲求を満たす一つの材料でもあるのです。
まとめ
タイ社会の現状を通じて「おまかせ」がなぜタイで人気なのかについて解説しました。
コロナによる水際対策が緩和され、自由に海外に行くことができるようになった現在は、タイ国内で「おまかせ」料理を楽しむよりも、本場の日本食を食べるという流れが加速しつつあります。とはいえ、日本の食文化はタイ人にとっては目新しいものも多いので、「日本の食文化とタイの食文化を融合させる料理」を生み出すことができれば、第二の「おまかせ」につながる可能性があります。
タイでは富裕層向けである「おまかせ」ですが、タイでのビジネスではいかに富裕層に魅力を伝えるかが重要になります。タイは階級社会であり、経済力の高い富裕層は食べ物だけでなく、ほしいものは貪欲に手に入れる特徴があります。富裕層に向けて「タイと日本の文化で相性がいいもの」を見つけることができれば、タイにおけるビジネスの商機となるでしょう。
大阪大学外国語学部でタイ語を勉強中。タイのカセサート大学に約一年間留学をし、それまで知らなかったタイの文化やタイ人の優しさに触れ、タイがいつしか心のふるさとに。老後はタイ移住も検討中。