タイのコーヒー市場の現状と展望
上のグラフから分かるように、近年タイのコーヒー市場は右肩上がりで成長しています。2019年におけるタイのコーヒー市場全体の価値は360億バーツ(約1,440億円)でした。
しかし、タイにおける一人当たりの年間コーヒー消費量は約300杯であるのに対し、日本では400杯、ヨーロッパでは600杯で、一人当たりのコーヒー消費量が最も多いのはフィンランドで年間約1,000杯です。このことから、タイには今後もコーヒー市場拡大の可能性がまだあるとの見方ができます。
また、2020年の新型コロナウイルスの影響により、タイのコーヒー市場の規模が大幅に減少しました。実際、2019年から2020年の市場成長率は18%ほど減少。また、デリバリーやドライブスルーの需要も高まっているため、新たなコーヒーの体験価値を創出できる企業にとっては、タイでのコーヒーショップやコーヒー関連製品の展開が商機になるでしょう。
タイコーヒーの特徴
タイはアジアの中でもコーヒーの生産ランキング3位と隠れたコーヒーの名産地と言えます。タイで主に栽培されている「ロブスタ種」は苦味や香ばしさの強いコーヒー豆で甘いスイーツとの相性がぴったりです。
酸味がほとんど感じられないコーヒーなので、ミルクやフレッシュジュースと混ぜ合わせるなど、日本とは違った飲み方ができるのもタイコーヒーの特徴です。
日本で提供されるコーヒー豆はほとんどがアラビア種でロブスタ種が提供されるコーヒーショップは多くありません。コーヒー豆はタイのコーヒーショップだけでなくスーパーでも購入できるため、タイのお土産としても人気です。
■世界が認めるタイコーヒーの豆は少数民族のアカ族が栽培
タイでは盛んであったケシ栽培(麻薬)をやめさせるために、コーヒーやお茶、ナッツ類の栽培をタイ王室が主導して行っていました。その結果、アカ族によるケシ栽培をやめさせ、世界でも認められるコーヒー豆の栽培につながりました。
こうしたタイのコーヒー豆栽培が行われている農園は観光することもでき、現地で焙煎前の豆を購入することも可能です。
例えば、Tripadvisorでは、タイのチェンマイにあるコーヒー農園ツアーが提供されています。観光客自らが焙煎した豆をつかってコーヒーを淹れることができるので、タイのコーヒーを身近に感じたい方はこのようなツアーへの参加もおすすめです。
参考:チェンマイ コーヒー農園ツアー|Tripadvisor
タイでコーヒーの人気急上昇の火付け役となった3つのブーム
タイでコーヒーが人気になったとされる3つの出来事、ブームがあります。
■第1次コーヒーブーム:ネスレが産んだインスタントコーヒーがタイで大流行
タイは何世紀にもわたって紅茶が親しまれていた国でした。そんなタイでコーヒーが流行した最初のきっかけは第二次世界大戦後に普及したインスタントコーヒーの登場です。
ネスレ社が発売したインスタントコーヒー「ネスカフェ」が第二次世界大戦中にアメリカ軍の間で軍備品として使用され、戦後はアメリカの影響を受けて世界中でインスタントコーヒーが普及しました。
インスタントコーヒーが広まる中、その当時タイの人々が飲んでいたコーヒーにはもう一種類、タイ語で「カフェー・ボーラーン」と呼ばれる、いわゆる現在の屋台コーヒーがあります。
コーヒー豆が不足して高価だった第二次世界大戦中に開発され、今でも屋台で売られています。コーヒー豆以外にとうもろこしやタマリンド、大豆、玄米などのコーヒーと香りが似ている穀物をブレンドして抽出し、そこに砂糖やコンデンスミルクを加え甘くして作っていました。
値段はお手頃で現在でも屋台で一杯20バーツ(約80円)程で売られています。通常のコーヒーとは異なる独特な香りが特徴です。特にタイのコーヒーはミルク以外に甘みのある飲み物を混ぜる傾向があり、コーヒーの苦味や渋味、酸味を味わうのではなく、「甘くして飲む」というのが現地タイコーヒーの楽しみ方です。
■第2次コーヒーブーム:スターバックスの進出によるコーヒーの日常化
第2コーヒーブームの火付け役となったのはスターバックスです。1980年代後半からマクドナルドなどの欧米企業がタイに参入していく中、スターバックスも1998年7月バンコクに初出店しました。
それまでインスタントコーヒーかカフェー・ボーラーンの二択しかなかったタイ人にとってスターバックスの登場が、本物のコーヒーの味を知るきっかけになりました。
しかし、一杯あたりの値段は100バーツ(約400円)程で、屋台のコーヒーの約5倍と非常に高価な飲み物でした。そのため庶民の間ではインスタントコーヒーや屋台コーヒーという選択肢が残ったものの、中間所得層の増加などの要因と共にその後タイ国内でも着実に成長し、現在はタイ国内に400店舗以上展開しています。
スターバックスが火をつけたコーヒーブームに乗って市場を広げたのが、タイのローカルチェーンであるCafé Amazonです。
タイを訪れた際に必ず目にするこのカフェは、タイ最大級の企業である石油公社PTTによって2002年に創設されました。
ガソリンスタンド内のコーヒー店として店舗数を増やし、現在はタイ国内に3,000店舗以上展開しています。店舗の拡大だけでなく品質にもこだわっており、タイ国内の厳選されたコーヒー農家から慎重に調達したコーヒー豆を自社が独自に設立した焙煎工場で焙煎しています。
またバリスタトレーニングセンターも設けられており、フランチャイズオーナーはここでトレーニングを受けなければならないなどの徹底した管理体制が整っています。
また、Café Amazonの特徴の一つと言えるのが品質に比べて高すぎない「価格」です。値上げしてもなお一杯65バーツ(約260円)程でコーヒーを提供しています。品質が良い上、お手頃な価格であることがタイで一気に広まった理由であることに間違いないでしょう。
また、海外にもアジアを中心に10ヵ国以上展開しており、日本には2016年に日本の震災復興を願って福島県に一号店をオープンしています。そして2023年11月29日にオープンした三井ショッピングパーク ららテラスTOKYO-BAYには首都圏初となる新店舗をオープンしました。大型商業施設への出店による日本国内での知名度や今後の展開が期待されます。
■第3次コーヒーブーム:コーヒーショップに付加価値をつけるSNS映えするコーヒーショップの増加
大手チェーン店が市場シェアを争う一方、バンコクやその周辺の地域では2010年頃から小規模な独立系コーヒーショップが増え始め、第三次コーヒーブームが到来しました。
最近の若者達が独立系のコーヒーショップに求めるものとして共通しているのは、品質の良い美味しいコーヒー、SNS映えする雰囲気、安定しているWiFi、清潔なトイレが挙げられます。その中でも特に品質の良さへのこだわりが強く、高価でもコーヒー豆や焙煎にこだわり、世界チャンピオンを獲ったバリスタが働くコーヒーショップでは連日お客さんでいっぱいです。
ショップ例|ナナ・コーヒー・ロースタリーズ
ナナ・コーヒー・ロースタリーズのコーヒーショップにはサイフォンコーヒーの抽出技術を競う「世界サイフォン大会」での優勝者を始め、コーヒーについての知識豊富なトップレベルのバリスタが集結しています。コーヒー豆はもちろん高品質のものを使用しており、各種のコーヒーの豆の産地や詳細についても透明性を持たせています。コーヒーの価格は比較的高価で、安価なものは100バーツ(約400円)から高価なものになると600バーツ(約2,400円)もします。
コーヒー以外に建築にもこだわっており、利用者がコーヒーに集中できるようにシンプルで機能的なデザインの建築が施されています。一軒家のお店であることもコンセプトの一つとされており、バンコク内にある3店舗はそれぞれ違った雰囲気があります。
こうした「コーヒーを飲む意外の楽しみ」を提供している店舗を中心にコーヒートレンドが変化しています。
まとめ
タイでのコーヒーブームの歴史について見てきました。
最近ではコンセプトが明確で独自のスタイルやこだわりを持ったカフェが安定した成長を遂げており、コーヒーに求めるものが手軽さやお手頃な価格から品質やこだわりへと変化していることが分かります。
朝の飲み物として飲むだけではなく、品質の良いものを求めるようになったタイ人のライフスタイルの変化によってタイのコーヒーの文化も変わりつつあるのです。タイではコーヒー自体がブームであり、店舗展開だけでなく「自宅で簡単に作れるコーヒーメーカー」や大手チェーン店ではできない「こだわった豆の焙煎・味」を提供することで、タイのコーヒーブームの流れに乗れるかもしれません。
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