「Z世代=SDGs高関心」は本当か?アンケートとWeb行動ログから見えるSDGs関心層の実態

「Z世代=SDGs高関心」は本当か?アンケートとWeb行動ログから見えるSDGs関心層の実態

企業がSDGsの開発目標に取り組む際、どんな点に留意すれば反応や効果が得られるのでしょうか。またSDGs関連商品を開発する際には、どんな切り口から商品化すればビジネスチャンスにつながるのでしょうか。 今回、ヴァリューズが行った約15,000人規模のアンケート調査とWeb行動ログ分析から、「SDGs行動層/関心層/非関心層」それぞれの生活者の実態を明らかにしました。結果から見える行動層/関心層へのアプローチ方法をご紹介します。  ※詳細なセミナー資料は記事末尾のフォームから無料でダウンロードできます。


スピーカー紹介

株式会社ヴァリューズ ソリューション局  インサイトアナリティクスG  リサーチャー/マネジャー 海野 秋生

株式会社ヴァリューズ ソリューション局  インサイトアナリティクスG
リサーチャー/マネジャー 海野 秋生

SDGs×生活者の本当の関心テーマとは

SDGsに関する取り組みを行う企業は年々増えています。帝国データバンクが実施した1万社以上への調査結果では、現在何らかの取り組みを行っている企業は27.4%、これから取り組みを行おうと思っている企業も含めると、53.6%と半数以上がSDGsに対しての行動意識を持っているという回答がありました。

SDGs17のテーマ

SDGs17のテーマ

一方で、SDGs施策に取り組む担当者の方からは、「17の目標のうち、どのテーマから取り組んだらよいのだろうか」という悩みや、既にSDGsに取り組んでいるものの「どうしたら自社のSDGs施策を知ってもらえるのか」という悩みをお聞きします。有効な生活者との接点、ターゲット層を見つけることが難しいと感じる企業も多いのではないでしょうか。

また、SDGsを意識した商品開発に取り組まれている企業の担当者様からは、「そもそも時間やお金をかけてSDGsに取り組んだとしても、消費が動くのか」「 ビジネスにどれだけインパクトがあるのか」という悩みや、「SDGsに関心がある層は一部だけではないのか」という疑問を持たれている方もいらっしゃいました。

そこで、まず生活者におけるSDGsという言葉の認知度や行動状況を分析しました。下記グラフは、弊社が2022年度に実施した15,000人以上の方へのアンケートを元に、男女年代ごとにSDGsに関連する行動の実践状況とSDGsの認知状況をグラフにしたものです。薄い緑色がSDGsの認知者、濃い緑色が実践者になります。

SDGs関連行動の実践状況と認知状況(性年代別)

SDGs関連行動の実践状況と認知状況(性年代別)

男女とも、10代のSDGs関連行動の多さや認知度の高さが目立ちますが、一方でその次にSDGsを認知している世代は、男女とも60代以上という結果となりました。

「Z世代=SDGs高関心」と言われますが、実際に調査をすると、10代のSDGs浸透率は確かに高いものの、Z世代が現在の27歳くらいまで含むことを考えると、一概にSDGsの関心は若者だけではないことが分かります。

逆にSDGsに関する行動をとっている人は、10代を除くほぼすべての性年代で10%前後ほど存在していました。SDGsに関心がある層は一定層いて、どの世代にも均等に分布しているというのが実態といえそうです。人口ボリュームを考えると、60代以上がSDGsのターゲットとして大きいことがうかがえます。

企業の取組みと生活者の関心の違い

続いて、SDGs17の指標のうち、生活者が関心を持っているテーマをご紹介しましょう。
比較として、先に企業サイドが力を入れている取り組みを見ると、帝国データバンクの調査結果では、1位が「働きがいも経済成長も」、2位が「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」でした。労働環境や産業に関するテーマが目立ちます。

企業が力を入れているSDGsのテーマ

企業が力を入れているSDGsのテーマ

一方で、弊社で調査・分析した生活者が関心の高いテーマをご紹介すると、1位から順に「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」という結果でした。貧困救済や健康、福祉の領域が上位にあがっています。

生活者が関心のあるSDGsのテーマ

生活者が関心のあるSDGsのテーマ

企業が力を入れているテーマと比較すると、上位の顔ぶれがずいぶん違うことに気がつきます。
企業側が取り組みやすい労働環境や産業に関するテーマは、生活者の関心が低いため、自社のSDGs施策に目を向けていただけないという場合、取り組まれているテーマのギャップにも理由があるのかもしれません。

男性60代と女性10代では関心テーマが異なる

また、60代以上の男性と10代の女性が関心のあるテーマについて上位項目を比較すると、違いがありました。
60代以上の男性では、気候変動や海の豊かさ、エネルギーといった地球環境保全へのテーマに、一方で10代の女性では、ジェンダーや国家間の平等性に関するテーマに関心が高いことがうかがえます。

SDGsにおける男性60代以上、女性10代の関心テーマ

SDGsにおける男性60代以上、女性10代の関心テーマ

背景に、環境破壊が問題視されはじめた時期と共に成長した60歳以上、ジェンダー平等への関心は女性×若年層というように、身近なテーマがSDGsにも直接結びついていることが推察されます。性年代による傾向差があることも、SDGs施策の難しいポイントといえるでしょう。

弊社でも行動ログデータを用いて、SDGsにおける性年代別の関心テーマを調査したところ、若い女性ではジェンダー平等が、若い男性ではエネルギーや貧困が特徴としてあがりました。
企業がSDGs施策を推進するうえでは、自社顧客やステークホルダーの関心テーマを捉え、それに沿って設計することが必要といえそうです。

行動層・関心層・無関心層のペルソナ比較

では、どのようにすれば生活者がSDGsへの行動を起こすのでしょうか。
今回、SDGsに関する行動を行っている「行動層」、知っているけれど実践までは結びついていない「関心層」、よく知らない、聞いたことがないという「無関心層」の3つに分類し、「行動層」の方がなぜ動くのか、「関心層」がなぜ動かないのか、その理由を明らかにするために分析を行いました。

SDGsへの態度を軸に分類した「行動層」「関心層」「無関心層」

SDGsへの態度を軸に分類した「行動層」「関心層」「無関心層」

はじめに、それぞれの層のペルソナをご紹介します。
まずはSDGs行動層です。回答者の1割程度で、世帯年収は約580万円と比較的高めです。アンケート調査を元に興味や関心があることをマッピングしてみると、音楽鑑賞や料理、園芸といった項目が目立ち、丁寧な暮らしを行っていることが見てとれます。政治経済への関心が高いことも特徴で、社会派の人が多い層といえるかもしれません。

SDGs行動層のペルソナ

SDGs行動層のペルソナ

また、オンライン上で接触しているサイトにも特徴が見られます。全体と比較して、NHKやYahoo!ニュース、朝日新聞など大手ニュースメディアが上位にあがりました。普段から新聞やテレビのニュースにきちんと目を通している人が多いことがうかがえます。

続いては、SDGs関心層です。回答者の半数以上で、かなりのボリュームを占めています。

SDGs関心層のペルソナ

SDGs関心層のペルソナ

興味や関心では、映画・テレビや国内旅行、マネー・投資といった項目が目立ちます。行動層と比較すると、個人で楽しめる趣味だったり、利益をもたらす行動が特徴といえるかもしれません。また接触サイトでは、ボリュームが多いので特徴は見えづらいものの、ECの利用に特徴がありそうです。

最後は、SDGs無関心層です。やや女性が多く、3つのセグメントでは世帯年収が低めでした。

SDGs無関心層のペルソナ

SDGs無関心層のペルソナ

また興味や関心では、ゲームやアニメ、パチンコといったエンタメ、接触しているサイトは、ゲームやサンプルに関する口コミサービスといった特徴が見られました。

実は関心層もSDGs行動を取っている

ここからは、SDGs施策の効果が期待できる行動層と関心層に絞ってみましょう。この2つの層について、SDGsへの関心テーマを調査した結果をご紹介します。

SDGs関心テーマ(行動層、関心層別)

SDGs関心テーマ(行動層、関心層別)

全体的に行動層の方が関心が高いのですが、10%以上の差があるテーマでは「陸の豊かさ」「パートナーシップ」「つくる責任」「人・国家間の不平等性の解消」など、社会的なテーマに対する関心の高さが強く見られました。社会派の行動層ならではの特徴といえそうです。

続いて購買傾向に関する調査もご紹介します。SDGsの達成につながる行動として、マイバッグの持参やリサイクル、節電などの行動を行っているか、分析を行いました。

SDGs達成のための購買行動(行動層、関心層別)

SDGs達成のための購買行動(行動層、関心層別)

差分から行動層の特徴を見ると、「リサイクル素材」「環境負荷の低さ」「社会問題の解決」など、付加価値をつけた商品を購入していることがうかがえます。

一方で関心層でも「マイバッグの持参」「節電」「省エネを意識した行動」を実践していました。メインの目的は、SDGsではなく節約と考えられますが、結果としてSDGsの目標達成につながる行動を取っていることが分かります。
これらの結果から、行動層だけではなく、実は関心層にも接点を持つことは可能といえるでしょう。

行動層には積極型、関心層には消極型アプローチ

ただ、それぞれの層を動かすには異なるアプローチが必要です。
行動層には、積極型のアプローチです。というのは、行動層は社会派でSDGsに対してポジティブ、行動もしている層ですが、全体的なボリュームは1割程度です。社会貢献意識、商品に付加価値を持たせるなど、インサイトを直接刺激をしていくことが必要でしょう。また、普段からニュースをよく見ている層なので、ニュースメディアを通じて訴求できる層といえそうです。

行動層、関心層へのアプローチ方法

行動層、関心層へのアプローチ方法

一方で関心層は、自身の関心に沿った行動をとる一般的な生活者です。市場ボリュームは半数程度と多く、実質的なSDGs行動を取っている層でもあるので、SDGs施策に巻き込みやすい層といえそうです。
この層に対しては、SDGsを押し出さない消極型のアプローチが必要です。つまり、エコやコスト削減など、生活者自身のメリットも享受できることをアピールしておくことです。また接点では、ニュースサイト等を通じてよりも、実際の買い場などのほうが接触しやすいといえるでしょう。

※本セミナーの詳細な資料は、記事末尾のフォームより無料でダウンロードいただけます。

購入動機から探るSDGs商品企画のポイント

次に、ビジネスにSDGsを活用するにはどうすればよいか、探ります。SDGs×商品開発といっても、フェアトレード、サステナブル、クルエルティーフリーなど、様々な切り口が存在します。商品化の際には、どんな切り口で進めればよいのでしょうか。
SDGsに関する商品が豊富な化粧品、アパレル、食品3つの領域を例として、購入動機を調査した結果をご紹介します。

まず化粧品です。「容器の一部に植物由来のバイオマスプラスチックを採用した化粧品」「オーガニック原料を使用した化粧品」「使用済み容器の回収・リサイクルを行っているブランドの化粧品」「製品開発において動物実験を行っていない化粧品」について調査しました。

「商品やブランドの世界観が自分に合っている」や「社会問題を意識した行動」といった行動層に関心がありそうなモチベーションに着目したところ、バイオマスプラスチックの化粧品やオーガニック素材の化粧品、動物実験なしの化粧品のいずれにも見られました。

SDGs商品の購入動機比較

SDGs商品の購入動機比較

一方、オーガニック素材の化粧品は10%と低めで、1位は「自分の体に良さそうと感じたから」でした。SDGsではなく、関心層が気にするであろう実利よりモチベーションで購入されていることが分かります。そして「商品自体の質が高い」という動機は、どの商品も上位にあるため、そもそも必要といえそうです。

続いてアパレルです。「植物由来の素材やヴィーガンレザーを使用した衣類や靴」「労働環境へ配慮した商品」については、「商品やブランドの世界観が自分に合っている」「社会問題に配慮した商品」といったモチベーションで行動層に、「リサイクル素材の商品」については「購入コストを抑える」等を理由に関心層に購入されていました。

最後に、食品です。フェアトレード商品では「商品やブランドの世界観が自分に合っている」と、行動層に刺さるモチベーションで購入されている一方、プラントベースフードは「自分の体に良さそう」といった実利よりのモチベーションで購入されていることがうかがえます。

2つの層の購入動機に合った商品設計を

行動層と関心層を巻き込む切り口をまとめます。行動層では、クルーエルティフリー、労働環境への配慮、フェアトレードといった社会貢献の切り口で、関心層では、購入コストの抑制や健康への効果など、実利寄りの切り口で商品設計をすることが必要です。

SDGs行動層と関心層に刺さる商品のポイント

SDGs行動層と関心層に刺さる商品のポイント

今回SDGsをマーケティングに活かすことを考える中で、3つの難しさを感じました。

1つ目は、生活者の関心と企業が取り組むテーマのギャップです。生活者の関心が高い貧困対策や福祉といったテーマに寄りすぎると、企業のCSRといった社会貢献観点からは遠くなってしまいます。
2つ目は、性年代でセグメンテーションすることの難しさです。SDGsに関心がある層はどの世代にも均等に見られ、単純に「Z世代=SDGs高関心」ではないことがうかがえます。各年代で関心のあるテーマにも違いがあり、生活者の関心を細かく補足する必要性を感じました。
3つ目は、SDGsに関する意識と行動のギャップです。積極的に行動している層以外にも、結果としてSDGsへの貢献活動を行っている人たちは存在します。商品や取組の企画において、2つの層をどのように巻き込んでいくか、設計が必要といえそうです。

その他では、SDGs施策は業種やステークホルダーといった個別具体性が高いことも、難しさの一つでした。個別ケースに沿った分析については、ヴァリューズがお手伝いさせていただければ幸いです。

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この記事のライター

大学卒業後、損害保険の営業事務を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事した後、独立。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。

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