“質”重視の消費観がもたらす。2024年中国経済の新傾向

“質”重視の消費観がもたらす。2024年中国経済の新傾向

緩やかな回復を続けている中国経済では、人口の半数近くを占める「80後(1980~89年生まれ)」、「90後(1990~99年生まれ)」、「00後(2000年以降生まれ)」が消費の主力となっています。これらの年代の消費者は生活の質や精神的満足をより重視する傾向にあり、中国経済に新しいトレンドを生み出しています。


質や精神的満足をより重視する消費観の台頭

中国国家統計局のデータによると、2023年のGDPは5.2%の増加を達成、消費者物価指数(CPI)は0.2%上昇しました。このように緩やかな経済回復を続けている中国では近年、「数量至上主義」から「品質至上主義」へ消費者の消費観が変化しています。特に「80後」、「90後」、「00後」と呼ばれる消費の主力層の年代にこの理性的な消費の傾向が強く見られます。

消費者が2023年実施した消費行動。知萌咨詢機構《2024中国消费趋势报告(2024中国消費趨勢報告)》のデータを基にヴァリューズが作成

生活の質や精神的満足を重視する消費観への変化は、新しいビジネスの台頭や新しい市場機会の創出を生み出し、市場を拡大させています。例えば、生活の質を高めより健康的な毎日を過ごすためのアウトドア傾向の増加や健康食品消費の増加。さらには、物的消費より精神的な満足を求める文化旅行の増加などです。以下では上記のトピックを取り上げ紹介していきます。

増加するアウトドア志向

知萌咨詢機構が発表した《2024中国消费趋势报告(2024中国消費趨勢報告)》のデータによると、2023年は65.3%の消費者が外に出る回数が増加しており、アウトドアの人気が増加していることが分かります。アウトドアは体を動かすことによって健康を増進するだけでなく、外へ出て自然と触れることで日々のプレッシャーから解放されリラックスできる面もあり、生活の質を高めることに貢献しています。
アウトドアのスタイルは多様で、その中でも散歩やサイクリング、ピクニック、登山などが特に人気を集めています。

消費者が2023年実施したアウトドアアクティビティ(複数回答可)。知萌咨詢機構《2024中国消费趋势报告(2024中国消費趨勢報告)》のデータを基にヴァリューズが作成

アウトドアアクティビティをより楽しむために、専用衣服や装備などの関連商品の売上も伸びています。例えばECサイトJD.com(京东)では、ウインドブレーカーの2023年の販売数は140万枚以上で前年比89%増加、売上額は9.4億元以上と前年比96%増加しました。その他にもサイクリングをするための自転車や風防ゴーグル、ランニングシューズ、スキー用品などが売上を伸ばしています。2024年においても消費者のアウトドア志向が続き、関連市場の規模が拡大することが予測されます。

健康意識の向上による健康食品需要の増加

2016年以降、国家主導で推し進めてきた「病気予防」の理念が健康食品業界の発展を支え、健康的な生活を推進し、消費者の健康需要が拡大しています。先述の知萌咨詢機構が発表した《2024中国消费趋势报告》によると、2023年において62.2%の消費者がより健康に注意を払うようになったと回答しています。
消費者の中では、予防を重視する中国式の養生で健康を増進しようという新しいトレンドが生まれています。さらに不健康な若者たちの健康への渴求が中国式養生の需要を増加させた結果、養生茶や養生食品などの関連商品が次々と生み出されています。

消費者が2023年に試した健康/養生食品(複数回答可)。知萌咨詢機構《2024中国消费趋势报告(2024中国消費趨勢報告)》のデータを基にヴァリューズが作成

また、CBNDataが発表した《2024蓝帽子国内保健品消费趋势报告(2024ブルーハット国内健康食品消費趨勢報告)》によると、2023年においてECサイトTmall(天猫)内のヘルスケア関連商品ECプラットフォーム「天猫健康」で購入したユーザーは3億人近くに達し、1人当たり平均5回商品を購入しており、千億元規模の取引規模を達成しました。

蓝帽子ブルーハット)」とは、中国国家食品薬品監督管理局が認可した健康食品につけられるマークです。《2024蓝帽子国内保健品消费趋势报告》によると、「蓝帽子」を理解した消費者の約87%が積極的に「蓝帽子」マークのついている健康食品を購入したいと述べています。
健康食品市場では、心臓や脳の血管、肝臓保護に関する健康食品が高い成長を期待されており、免疫力向上やカルシウム補給、ビタミンなどの健康食品が長期的に高い需要があると見込まれています。さらに、目の保護や記憶力向上に関連する健康食品も小規模ながら注目を集めています。人々の健康意識が強まっていくに伴い、健康食品市場は規模の拡大を続け、製品の種類もより細分化されていくことが予測されます。

精神的満足を求める芸術活動、文化旅行

近年中国では、商業活動と文化芸術要素、旅行の融合が促進されています。そのうち、漫画・アニメ展や音楽祭などが文化旅行の消費を増加させる重要な要素となっています。
中国演出業界協会のデータによると、2023年の1月~9月の期間においてコンサートは34.2万回開催され、前年同期比278.26%の増加となりました。また、同期間では総計315.4億元のチケット収入を記録し、前年同期比453.74%の増加となりました。Z世代の若者層を中心に、文化・芸術のイベント市場は人気を集めています。

コンサート市場の「下沈」も新トレンドになっています。文化芸術方面の消費増加に伴い、中国都市階級の新一、二、三、四線都市でのコンサート需要が盛んです。例えば、2024年は武漢では30人のアーティストが合計で46回、南京では25人のアーティストが合計で30回、さらに成都では24人のアーティストが合計で33回のコンサートを開催することが既に決まっています。武漢、南京、成都など新一線都市以外では、済南、無錫、海口、衢州が人気の高い都市です。
文化旅行の主題となるテーマを与え、都市独自のコンテンツ価値を付与し、新たな市場領域を創出することが各都市に求められています。都市が積極的に商業と音楽や美術などの文化芸術要素、旅行を組み合わせることが、今後も求められると予測されます。

まとめ

中国の消費者の、生活の質や精神的満足を重視する消費観の変化がもたらした、新しいビジネスの台頭や新しい市場機会の創出に伴う、2024年の中国経済の新傾向を紹介しました。生活の質を高めより健康的な毎日を過ごすためのアウトドア関連市場と健康食品市場が今後も拡大を続けると予測され、さらに精神的な満足感を高めるための文化、芸術、旅行方面の市場の高い人気の継続が予測されます。緩やかな回復傾向を続ける中国経済が2024年どのような発展を遂げるか、注目です。

参考URL

万字必读!2024中国10大消费趋势 | 知萌发布
https://finance.sina.cn/2024-01-16/detail-inacspfh4899355.d.html
2024消费趋势:品质生活的需求永不止境 | 知萌发布
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_26400705 
2024消费趋势:情绪价值引导年轻态消费
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_26403128
2024新春走基层|冰雪游带火户外市场 冲锋衣“上位”
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1790328954208082170&wfr=spider&for=pc
保健食品行业迎来黄金发展期
https://www.cnfood.cn/article?id=1742148029849374722
2023年消费观察与2024 年热点展望
https://www.bbtnews.com.cn/2024/0222/504598.shtml
中国演出行业协会:前三季度演出票房收入315.41亿 同比增长453.74%
https://www.guandian.cn/article/20231121/365063.html

この記事のライター

早稲田大学在学中。

関連するキーワード


中国トレンド調査 中国市場

関連する投稿


勢いを見せる中国国外旅行のトレンド調査

勢いを見せる中国国外旅行のトレンド調査

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によって大打撃を受けた中国の国外旅行産業ですが、2023年からは徐々に回復傾向にあり、2024年現在は感染症流行前の2019年に追いつく勢いを見せています。現在中国ではどのような国外旅行トレンドが形成されているのか、その背景と共に紹介します。


史上最もシンプルな「618セール」?2024年中国「618セール」の変化を解説

史上最もシンプルな「618セール」?2024年中国「618セール」の変化を解説

中国のコロナ後の618として、今年の「618セール」は例年とは少し異なるようです。経済が低迷し、競争が依然として非常に激しい中、各大手ECサイトはこぞって「予約販売」を取りやめ、「史上最もシンプルな618セール」を推進しています。しかし、より理性的になった中国の消費者はどのように反応しているのでしょうか。また、中国のAIGC(人工知能生成コンテンツ)の発展はどのようにEC業界に取り入れられているのでしょうか。今回の記事では、中国における2024年の「618セール」の変化について解説します。


What is “reverse consumption,” the new consumption trend among Gen Z in China?

What is “reverse consumption,” the new consumption trend among Gen Z in China?

At the end of 2023, “reverse consumption” became a hot topic on Chinese social media and still remains popular. In the rapidly changing Chinese society, new consumption attitudes and trends are constantly emerging. We will introduce “reverse consumption,” the most popular consumption trend among China's Gen Z.


中国Z世代の新しい消費トレンド「逆消費」とは

中国Z世代の新しい消費トレンド「逆消費」とは

2023年の年末から中国のSNSで「逆消費」というホットトピックが現れ、今日まで人気が続いています。急速に変化している中国社会では常に新しい消費観念や消費トレンドが生まれており、この記事では現在の中国のZ世代において最も流行している消費トレンドである「逆消費」について紹介します。


中国の若者に人気!生活の各分野で広がる「新中式」スタイルを調査

中国の若者に人気!生活の各分野で広がる「新中式」スタイルを調査

2023年に大流行した“新中式”。新中式とは、中国の伝統的な要素と現代的な要素を融合させたスタイルを指します。この新中式の流行は発展変化しており、小紅書が発表したデータによると、ファッションのみならず、メイク、グルメ、インテリアなどの領域にも次々と広がっています。それらに関する投稿は実に前年同期比350%以上の増加となりました。この記事ではファッション、グルメ、インテリアに焦点を当て、新中式がどのように広がっているのかを紹介します。


最新の投稿


アパレル系の店舗アプリを知ったきっかけは「店員からの案内」が約6割【Repro調査】

アパレル系の店舗アプリを知ったきっかけは「店員からの案内」が約6割【Repro調査】

Repro株式会社は、アパレル系店舗アプリのインストール前後の利用状況に関するユーザー調査を実施し、結果を公開しました。


認知度の向上にはコンテンツマーケティングが必須と回答した人は9割以上!実施の結果、7割以上が成果を実感している【未知調査】

認知度の向上にはコンテンツマーケティングが必須と回答した人は9割以上!実施の結果、7割以上が成果を実感している【未知調査】

未知株式会社は、全国の企業に在籍する20〜60代の方を対象に「コンテンツマーケティングの実施・成果」に関する調査を実施し、結果を公開しました。


「美容成分オタク」のオンライン行動を分析!スキンケアの情報収集実態に見る、コミュニケーションのヒント|セミナーレポート

「美容成分オタク」のオンライン行動を分析!スキンケアの情報収集実態に見る、コミュニケーションのヒント|セミナーレポート

近年、美容インフルエンサーの発信により特定のスキンケア成分がフォーカスされ、「成分関心層」が増加しています。今回は、@cosmeを運営するアイスタイル社が保有する、日本最大級の美容に関する生活者データと、ヴァリューズが保有するオンライン行動データを活用。成分に関する情報感度の高いアーリーアダプター層に注目し、その裏にあるユーザーインサイトから、成分関心層と取るべきコミュニケーションを探ります。※本セミナーのレポートは無料でダウンロードできます。


官民連携の智略 ~ PPP/PFI

官民連携の智略 ~ PPP/PFI

高い効率性が求められるのは今や個人の仕事や学業の範疇にとどまらず、国の施策運営である公共事業などにもその思考傾向は浸透しつつあります。その結果、国は民間企業の協力を得て「官民連携」で公共事業を進めることでそれらを効率化し、さまざまな事業を支えている例が多く存在します。本稿では、このような「官民連携」で効率化を目指す手法のPPPやPFIなどについて、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が解説します。


観るだけでポイントが貯まる「TikTok Lite」はSNSビジネスを革新するか。TikTokユーザーデータと比較調査

観るだけでポイントが貯まる「TikTok Lite」はSNSビジネスを革新するか。TikTokユーザーデータと比較調査

動画視聴を通じてポイ活を行うアプリ「TikTok Lite」が注目を集めています。「TikTok」に少し変化を加えただけに思えるこのアプリですが、実は「TikTok」と同じぐらい勢いがうかがえます。そこで、本記事では「TikTok Lite」と「TikTok」のアプリユーザーのデータを分析し、双方の違いから「TikTok Lite」の人気の要因を探っていきます。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ