「スキルシェア」「クラウドソーシング」とは
スキルシェアとクラウドソーシングは「スキルのマッチング」という面では共通していますが、出品形式か募集形式か、という違いがあります。スキルシェアは、自分のスキルを売りたい人が出品し、欲しい人がそれを買う一方で、クラウドソーシングは、個人や企業が委託したい業務を募集し、その仕事を請け負いたい人が応募する、という流れです。
特定のスキルを持った人材にスポットで業務を依頼できるため、同等のスキルを持った人を正社員として雇用する場合に比べて採用コストを抑えることができ、人材不足の解消に役立つことが期待されています。
それぞれ代表的なサービスとして、スキルシェアではココナラ、クラウドソーシングではクラウドワークス、ランサーズが挙げられます。今回はこの3サービスを対象に、公式サイトへ訪れた人のデータから、どのような人がスキルシェア・クラウドソーシングサービスを検討・利用しているのか、ニーズは伸びているのか、分析していきます。
なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。
国内のフリーランス市場は増加傾向
まずは3サービスを合算し、サイト訪問者数の推移を集計しました。見ると、2年間で概ね右肩上がりになっていることがわかります。

「ランサーズ」「クラウドワークス」「ココナラ」公式サイト閲覧者数の推移
期間:2023年1月~2024年12月
デバイス:PC&スマートフォン
ランサーズ株式会社が2021年9月30日~10月4日に実施した『新・フリーランス実態調査 2021-2022年版』によると、国内フリーランス人口は、2015年の640万人と比べ68.3%増の1,577万人でした。2020年1月の調査では1,062万人であったことから、コロナ禍でフリーランス市場が拡大したことがうかがえます。
「リスキリング」の風潮も後押しになり、フリーランスという働き方が、より一般的な選択肢になってきているのかもしれません。
なお、ランサーズはフリーランスを「副業系すきまワーカー」「複業系パラレルワーカー」「自由業系フリーワーカー」「自営業系独立オーナー」の4種類に分類しており、専業フリーランスのみならず、お小遣い稼ぎ程度の作業系の業務も含んでいるため、フリーランス人口が大きく見えている点には注意が必要です。
訪問者は女性が10%多く、20~30代がボリュームゾーン
では、こうしたサービスを検討・利用している人はどのような人たちなのでしょうか。
3サイトの訪問者の性別、年代、職業を順に見ていきましょう。
まずサイト訪問者の男女比です。男性が約45%、女性が約55%と、女性の方が10%ほど多くなっています。

「ランサーズ」「クラウドワークス」「ココナラ」公式サイト閲覧者の性別
期間:2024年1月~2024年12月
デバイス:PC&スマートフォン
続いて年代割合です。ネット利用者全体と比べても、20~30代の割合が高いことがわかります。サイト訪問者には発注側のユーザーも含まれていることは念頭に置くべきですが、年代割合のデータから、柔軟な働き方を望む若年層が多いといえるのではないでしょうか。

「ランサーズ」「クラウドワークス」「ココナラ」公式サイト閲覧者の年代
期間:2024年1月~2024年12月
デバイス:PC&スマートフォン
先述のランサーズ株式会社の調査によると、フリーランスになったきっかけとして、「収入の拡大のため」「時間にとらわれない働き方をするため」と回答した人の割合が最も高くなっていました。「老後2,000万円問題(退職金や年金額の減少により、老後30年間で約2,000万円の資金が不足するというもの)」が話題になったように、若いうちから自主的に資産形成をしていく必要性を感じる若年層が、スキルシェアやクラウドソーシングサービスの利用を検討する傾向にあるのかもしれません。
また、オンラインで完結する業務に対して抵抗が少ないことも、20~30代のサイト訪問者が多いことに表れている可能性があります。
さらに年代の推移を見ると、この2年間で20代の割合が増加傾向にあることがわかりました。

「ランサーズ」「クラウドワークス」「ココナラ」公式サイト閲覧者の年代の推移
期間:2023年1月~2024年12月
デバイス:PC&スマートフォン
女性はパート・アルバイトや専業主婦、20代は学生が特徴的
続いて、サイト訪問者に多かった「女性」「20代」「30代」それぞれの職業を見ていきます。なおこの分析には、Web行動データとアンケートデータを用いたペルソナ分析やクラスタ分析で、誰でも簡単に顧客理解ができる、ヴァリューズの分析ツール「Perscope(ペルスコープ)」を用います。
まずは女性です。ネット人口全体と比べて「一般社員」の割合が低く、「パート・アルバイト」「専業主婦」が高くなっている他、「フリーランス・SOHO」もやや高く出ています。家事育児の隙間時間でスキルシェア・クラウドソーシングサービスを利用し、収入の足しにする人が多いのかもしれません。

「ランサーズ」「クラウドワークス」「ココナラ」公式サイト閲覧者の職業(女性)
期間:2023年12月~2024年11月
デバイス:PC&スマートフォン
20代では「学生」が顕著に高くなっています。学生のうちに専門スキルを身に着け、実績を積んで、就活を有利に進めようという人が多いのでしょうか。コロナ禍で学生生活を過ごしたことで、飲食などの接客業よりも、「オンラインでできる仕事」をアルバイト感覚で行う人も増えているのかもしれません。
ネット人口全体と比べると「フリーランス・SOHO」もやや高く出ているものの、「一般社員」の割合が平均と近いことから、会社員としての業務の傍ら、副業的にスキルシェア・クラウドソーシングサービスを利用する人が多いことが考えられます。

「ランサーズ」「クラウドワークス」「ココナラ」公式サイト閲覧者の職業(20代)
期間:2023年12月~2024年11月
デバイス:PC&スマートフォン
30代はネット人口全体と比べ「一般社員」の割合が高く、20代と比べると「フリーランス・SOHO」もやや高くなっています。スキルシェア・クラウドソーシングサービスを通して、業務を委託する側に回る人も20代より多いのかもしれません。また、30代になって一定の社会人経験やスキルを習得した人、ライフステージが変わって新しい働き方を求める人などが、フリーランスを選ぶ傾向にあることも考えられます。

「ランサーズ」「クラウドワークス」「ココナラ」公式サイト閲覧者の職業(30代)
期間:2023年12月~2024年11月
デバイス:PC&スマートフォン
人気の仕事は「データ入力」「アンケート」など
最後に、クラウドワークスとランサーズで募集されている案件のうちどのような仕事が人気なのか、サイト内の「仕事を探す」配下のページに絞り、閲覧の多いコンテンツから探っていきましょう。
まずはクラウドワークスです。「事務・カンタン作業」「データ入力・作成」「質問・アンケート」「ライティング・記事作成」「テープ起こし・文字起こし」といったカテゴリが上位に来ています。スキルや経験をあまり問わず、隙間時間にこなせる簡単な仕事が人気のようです。

「クラウドワークス」の「仕事を探す」配下の閲覧ページ①
期間:2024年1月~2024年12月
デバイス:PC&スマートフォン

「クラウドワークス」の「仕事を探す」配下の閲覧ページ②
期間:2024年1月~2024年12月
デバイス:PC&スマートフォン
続いてランサーズです。該当のページ群の中では、「ライティング・ネーミング」「データ収集・入力・リスト作成」が上位10位以内に上がっていました。

「ランサーズ」の「仕事を探す」配下の閲覧ページ①
期間:2024年1月~2024年12月
デバイス:PC&スマートフォン
11~20位では、「モニター・アンケート・質問」「デザイン制作」「写真・動画・ナレーション」「データ作成・テキスト入力」「事務・バックオフィス・コンサルティング」などがランクインしていました。全体的にクラウドワークスに比べ、専門的なスキルを求められる仕事カテゴリが目立ちます。

「ランサーズ」の「仕事を探す」配下の閲覧ページ②
期間:2024年1月~2024年12月
デバイス:PC&スマートフォン
専門性の面でクラウドワークス・ランサーズですみ分けがされつつも、「データ入力」「事務作業」「アンケート回答」といった簡単な仕事から始めてみようという人が多いのかもしれません。
まとめ
今回は、スキルシェア・クラウドソーシングサービス市場の動向を探るため、ココナラ、クラウドワークス、ランサーズの3サービスについて、各サイトの訪問者を分析してきました。
3サイトを合算すると、サイト訪問者は直近2年間で増加傾向にあり、女性が55%とやや多く、20~30代がボリュームゾーンであることがわかりました。訪問者の職業を見ると、女性はパート・アルバイトや専業主婦、20代は学生が特徴的でした。
各サイトでよく閲覧されている仕事カテゴリでは、ランサーズでより専門的な仕事が上位入りしているものの、データ入力やアンケート回答など、誰でも気軽に始められる仕事が人気であることがわかりました。
日本のフリーランス人口は欧米と比べるとまだまだ少ないとされていますが、女性の社会復帰の選択肢として、少しずつ存在感を増してきている印象を受けます。また、学生のうちにスキルシェアやクラウドソーシングサービスを通して仕事を経験した人が、社会に出てフリーランスになることを選ぶ、というケースも増えてくるかもしれません。
加えて、今の若い世代はコロナ禍を経験し、「老後2,000万円問題」も話題になるなど、会社に頼らず自分のスキルで資産形成していく、ということもより一般的になってきているのではないでしょうか。
今後も市場の動向に注目です。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
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1997年生まれ、大阪大学卒。データアナリストを経て、Webマーケティング・リサーチを軸に、コンテンツディレクション、SNS運用、デジタル広告運用などを担当。現在はフリーで活動しています。