フェンシング部所属高校生は2010年から2.3倍に
未来のオリンピック選手かもしれない、高体連所属の高校生選手は、2018年時点で男女計約2,600人。もっとも高校生競技人口が多いサッカーの17.7万人には遠く及びませんが、2010年から2018年の8年間で男子2.3倍、女子2.4倍に増加しています。
全国の高校生フェンシング選手数(2010年と2018年の比較)
全国高等学校体育連盟フェンシング専門部「登録後一覧」より作成
有料会員のリテンションが課題
日本フェンシング協会の主催行事参加に必要な有料(一般12,500円、大学生8,000円、高校生5,000円、中学生3,500円、小学生3,000円)の協会登録会員は、2018年12月上旬時点で6,056人。
日本フェンシング協会公式サイト(以下、公式サイト)ユーザーや高校生競技人口の伸びほど、この10年間で大きな変化はありません。高年齢化の傾向も見えないため、一度登録した会員の継続率も高くなさそうです。
収入の多くは助成金や広告費が占めていて、会費収入を追うビジネスモデルではないと推察されますが、登録会員という高ロイヤルティユーザーとの接点を維持するしくみを検討したいところ。
協会主催行事に参加しなくなっても、例えば道具の購入や観戦時の優遇措置、OB会的なイベント等を通じた現役プレイヤー応援などのエンゲージメント維持施策が考えられます。
協会登録会員の推移(日本フェンシング協会「登録数の推移」より)
デジタルマーケティングに期待
試合のエンターテインメント化で新たなファンを獲得しつつあるフェンシングですが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)への道はどうでしょうか。
公式サイトのユーザー数はまださほど多くはないものの、2019年5月には直近2年で最も多くのユーザー数を集めていました。(ネット行動ログ分析ツールeMark+にて調査)
日本フェンシング協会公式サイトのユーザー数推移(2017年6月-2019年5月 PC+SP)
6月のアジア選手権では男子フルーレ団体が優勝するなど、人気・実力ともに注目度が高まっています。
前回ご紹介したように、年齢層が高いユーザーはメダル獲得などのトピックに影響される傾向が強いと考えられるので、オリパラなどのイベントはそうしたユーザーとの「最初の1回」創造に貢献することでしょう。
ゲーム数が多いメジャースポーツのように「来週チケットあるけどどう?」という誘い方は当面難しそうですが、ユーザーとのタッチポイントを逃さないよう、簡単にファン参加できるようなしくみを、いまから備えたいもの。
サッカーや野球と異なり、未体験者がほとんどの種目だけに、中期的には、eスポーツやVRを通じた体験提供が新鮮に受け止められるのではないでしょうか。
プチ改善へ向けた勝手提言
公式サイトでは、ファン育成に有効な定期ニュース「フェンシングレター」を配信しているのですが、残念ながらコンテンツがPDF(2019年5月時点)。SEOの観点からも、提供方法を再考した方が良さそうです。また、「協会登録・ファン登録」というグローバルナビゲーションからの導線は、せっかくの存在が伝わりにくいかもしれません。
「フェンシングレター」の例
「協会登録・ファン登録」というメニュー名からは、ファン向けのコミュニケーション強化が図られるものとみられます。太田会長というキャラクターがビジネス的にも注目されているチャンスを活かし、選手対象の既存会員制度に加え、ファン向け会員システムを通じたファンエンゲージメントに期待したいところです。
会員限定コンテンツやプッシュ型のニュースレターなども考えられます。いきなりハイスペックなCRMでなくとも、SNSチャネルを活用したファン育成など、まずは一人ひとりのファンと接点をもつと良いのではないでしょうか。
報道によると、フェンシングという競技のマネタイズ手段は、現在放映権やチケット販売などの可能性を模索中とのこと。
オリパラ後の日本を見据え、フェンシングがどう「稼げる種目」へ脱皮していくのか、今後も注目です。
法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。