データ活用は「魔法」ではない。課題解決のために地に足をつけて考える手段だ

データ活用は「魔法」ではない。課題解決のために地に足をつけて考える手段だ

データ活用が話題となっていますが、一体どういうことを指すのでしょうか。株式会社ヴァリューズで企業のデータコンサルティングを行う和田尚樹さんに、企業のデータ活用の実態を聞きました。


注目される「データ活用」

企業のデータ活用への注目が盛んになっています。そこにはAIや機械学習といった新しいテクノロジーがもたらす可能性への期待感もあるでしょう。データをうまく使うことができれば、画期的なビジネスやマーケティング施策が作れるのではないかと考える企業も多いと思います。

「ただ、データ活用という言葉にはイメージが先行しすぎている面があります」

このように話したのは、株式会社ヴァリューズでデータ活用コンサルティングを行う和田尚樹さんです。

和田 尚樹(わだ なおき)
京都大学博士課程単位認定退学。2013年株式会社ヴァリューズ入社。入社後は数学の知識を活かし、大手日用品メーカーや住宅メーカー、証券会社などをはじめとするクライアントに、ビッグデータの解析手法を用いた分析企画、提案、施策・提言をおこなう。現在はデータアナライズグループのマネジャーを務める。

どういうことでしょうか。今回は、多様な企業でデータ組織づくりを支援してきた和田さんに、企業が抱えるデータ活用の課題や、進め方について取材します。

「データ活用」という言葉には2つのイメージがある

「データ活用と言うとき、大きく2つの方向があると思っています。1つ目は、スマホで写真を撮ったらこれが何なのかが分かる、画像認識のようなイメージのものです。自動翻訳も同じですね。これらは、解釈するというより出てきた結果が確からしいものであれば嬉しいというような、解釈の必要がないデータ活用と言えるでしょう」

「例えば広告の配信データがあったときに、多いのはそれを使って自動的に入札するというようなこと。この場合、中身はブラックボックスとなり解釈の必要はありません」

「もうひとつは、解釈の必要があるデータ活用です。これは僕が仕事としている領域ですが、データ分析の結果をすぐに見れるような形で可視化しておき、例えばマーケティング戦略における意思決定につなげるような形があります。商品のラインナップを変えるのは人間が考えなきゃいけないし、戦略も人間が考えるべきでしょう」

この2つを分けて考える必要がある、と和田さんは話します。

「いま『データ活用』と言うとき、前者の機械学習のように入れればパッと求める結果が出てくるものといったイメージが先行しすぎているように思います。解釈の必要がないものという考え方に捉われすぎていて、そういうふうには使えないデータや、使わない方がいいシーンにまで拡張されてしまっている。これがデータ活用にまつわる課題かと思いますね」

この2つを混同してしまっているため、データを活用すれば魔法のように結果が出てくると勘違いしてしまう場合もあるようです。例として和田さんは次の例を挙げました。

「僕がアドバイスで入った話ですが、最近『Google Analytics(GA)のデータを商品の在庫管理に活用できないか』みたいな話を受けました。ただ、GAのデータと在庫管理というアウトプットは直接的につながっているわけではありません」

「でも『データ分析とは魔法である』のようなイメージを持っていると、何かできるんじゃないかみたいな話になってしまいます。実はこの話を解きほぐしていくと、担当の部署に在庫管理の業務があって、かつGAのデータ活用をしようという話が社内で出てきた。そこでちょうどいいから2つをつなぎ合わせてみることになった、という背景があったようです」

「在庫管理には『ある商品Aが売れているかどうか』を把握する必要がありますが、それをWebのアクセスデータから予測できるのかというと、Webで見られている商品と実際に買われている商品が違えばできませんよね。だったらむしろ購買記録のデータを見たり、GAデータと購買データにどれくらい相関があるのかをチェックした方がいい。しかしこの例では、何ができるか分からなかったから一足飛びに一緒になってしまった。実は問題の設定自体がうまくいっていないんです。データ分析は意外と難しくないけれども、イメージ先行で問題設定が変になっちゃっていることが多いと思いますね」

地に足をつけて考えるべき

データ活用の際に正しく問題設定をするにはどうすればいいのでしょうか? 和田さんは「地に足の着いた形で考えるのが大事」と言います。

「先ほどの例で言えば、まずGAのデータとはそもそも何なのか、と書き出してみればよいのではないでしょうか。すると、それはWebアクセスのデータだと分かりますよね。で、どういうときに数字がカウントされるのかと言うと、ユーザーがPCやスマホで見たときです」

「このように分かったら、次は購買と紐付けられるか考えてみる。ユーザーがお店で商品について調べるという行動もあると思うので、買おうとしたタイミングでサイトを見ている人もいるでしょう。しかし、みんなが買おうとしているときに見ているわけではない。あるいはサイト自体、一部のコアなファンのみが見ているような状態であれば、一般のネットで調べるユーザーの行動は入っていないでしょう。この場合10%の特殊な人の動きを使って、全体の傾向を掴んでいるようなもの。GAを知っていればあたりまえのことではありますが(笑)、こういうように順番に追っていけば分かると思うんですよね」

しかしこのような当たり前も、データ活用に慣れていない企業ではつまずきやすいと言います。

なんとなくできるというツールが世の中に蔓延しているのが原因のひとつかと思いますね。PCが普及してツールがいろいろ出てきています。すると、中身はどうなっていて、どう結果が出てくるのか分からない人が多い。そして、そこを追求しないことに慣れすぎている。買ってきたらできるのではないかというイメージを持っているのではないでしょうか」

機械学習のようにプロセスがブラックボックスのツールも多く世の中に出てきていますが、戦略上の判断をする際には何が起こっているか知らなければできないでしょう。

「データ活用といったときに、自動的に結果が出てくるようなデータ活用のイメージだけではなく、解釈や意思決定につなげるようなタイプのデータ理解もある、と思うのがいいのかもしれないですね。そこの違いをしっかりと把握するのが大事です。一方で、話題になるのは解釈のいらないデータ活用の方です。ITに詳しい人が画像認識を使ってプロダクトを作りました、みたいな話が流行っていますよね。そちらのイメージに惑わされて、意思決定まで自動でできると思って依頼することが多い気がしています。ただ、特にマーケティングにおける意思決定の場合、データから出すべき結論は人間が考えることが大事な気がしますね」

言葉の意味に疑問を持て、シンプルに考えよ

実際の依頼では、和田さんはどのように企業のデータ活用を支援しているのでしょうか。具体的なところも聞いてみました。

「ある飲食系メーカーさんが消費者の食のインサイトをあぶり出したいということで、ヴァリューズのデータを使えないかという話をいただいたことがありました。ヴァリューズでは消費者のインターネット行動ログデータを保有していて、どんな検索ワードでどんなURLを見ているかといったものがメインです」

「ただ、実際考えてみれば分かると思いますが、インターネットで検索しているデータから消費者の毎日の食の話が直接出てくるかというと、そこには自分の食べているものの情報の1%くらいしか入っていない気がして。食のところまでヴァリューズが持っているデータでやるのは、使い方として少し変になってしまいます」

「そこで視点を変えて、どういう人がどういう時間の使い方をしているかを見てみる。例えば、働いている人のスマホの利用波形を見ると、通勤、お昼、夜に回数が上がっています。その時間の使い方と、例えばゲームが好きな人というので分けると、世の中にはこういうタイプの人がこういう割合でいて、その人たちは悩みとしてこういうことを持っていそうだ、といったことが分かるでしょう」

「提案では、ヴァリューズのデータではそれらを明らかにして、食に関係する部分はクライアントのデータを使って考えましょうと話しました。もちろん、食にまつわる検索データをヴァリューズのログから取ってくることはできます。ただ、そこからインサイトまでジャンプできるかと言うと、それは少し疑問です。設定をすることはできるけど、もう少しデータから分かることの足場をちゃんと作ってからジャンプする設定にした方がまっとうなのかなと思いますね」

マーケティングでは「インサイト」という言葉もよく言われますが、これも「データ活用」同様にふわっと使われがちだと言います。

「インサイトを発見すると言ったときに、それがインサイトかどうかって、実際に業務に携わっている人の感覚ですよね。誰でも知っているようなことだったらインサイトじゃない。近いかもしれないけど今まで発見していないものが出れば、それはインサイトです」

「個人的にはインサイトって、あとで商品になったときに『それがインサイトだった』と言えるとは思うんですけど、取り組みの段階で明確に言えるようなものではないと思うんです。具体的なアウトプットとして、こういうものが出てきたらインサイトだとは言えないと思います」

「だからそれは、いままで考えた中で思いつかなかった次の一手のことな気がしていて。すると、担当の人によってどこまで当たり前と思っていたかは違います。世代が違う担当者が来たときに、例えばダイエットだと、世代によってイメージしているものは違う。だから仕事としては、その人の依頼に対する返し方みたいなイメージを持っています」

最後に、これから企業が自社内でデータ活用組織を作っていくためにはどうすればいいか聞きました。

「まずは先ほど話した、課題意識を明確に持っていて、地に足をつけて考えられる人がいることが重要です。そういったタイプの人がまずいれば、データ組織づくりは進んでいくと思います。その上で、まずはデータを使った現状把握から始めればいいのではないでしょうか。例えばECサイトだったら、どういうニーズでユーザーが来ているのかをデータから調べてみる。GAでよく見られているコンテンツを調べるだけでも、ユーザーのニーズはある程度は掴めます」

「それもどうすればいいか分からないときは、現状認識の調査という形で私たちがお手伝いして、そこからどういう仕組みや組織を作っていけるかを考えさせてもらうこともできます。何を依頼して何を依頼しないかは企業ごとの体制によりますが、まずは外部の手を借りるのもいいかもしれないですね」

データ活用の壁打ちサービス「CDM」

CDM -Customer Data Management- | 株式会社ヴァリューズ

https://www.valuesccg.com/service/cdm/

自社と市場で起こっている状況を同時にウォッチ データドリブンな事業改善を実現します。

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この記事のライター

マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。

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