株式会社デジタルガレージCDOの渋谷直正さんが語る、データ分析組織づくりの2つの方向とは

株式会社デジタルガレージCDOの渋谷直正さんが語る、データ分析組織づくりの2つの方向とは

データ分析組織づくりの2つの方向性は、トップダウンかボトムアップか。日本航空(JAL)にて10年間データ分析に携わり、現在は株式会社デジタルガレージにてCDO(チーフ・データ・オフィサー)を務める渋谷直正さんが語ります。


チーフデータオフィサーの渋谷さんとは

日本航空(JAL)にて10年間データ分析を主導してきた、データアナリストの渋谷直正さん。2019年4月からは株式会社デジタルガレージでCDO(チーフ・データ・オフィサー)を務めており、移籍のニュースは業界でも話題となりました。その主なミッションは、デジタルガレージグループのデータや技術を活用して新しいビジネスを創り、デジタルガレージをデータドリブンな会社にすることだと言います。

渋谷直正(しぶや なおまさ)
株式会社デジタルガレージ 執行役員 CDO(チーフデータオフィサー)
2002年に日本航空株式会社に入社。JALホームページのログ解析や顧客情報分析、航空券などのレコメンド施策の立案・企画・実施を担当。2014年、日経情報ストラテジー誌による「データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」受賞。2019年より現職、デジタルガレージグループでのデータ活用を統括・推進する。ビジネスアナリティクスや実務に役立つ分析手法に詳しく、データを使ったマーケティングを得意とする。総務省統計局講座や大学での講演・記事掲載など多数。

マーケティングやビジネスにデータを活用したいという思いは、現在多くの企業が持っているはず。しかしその文化が根付いている企業はそれほど多くないでしょう。実際、CDOのポジションがある国内企業は、全体の3%(出典:一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2018」)しかないと渋谷さんは語ります。

ビジネスの中で当たり前にデータを活用するような企業組織は、どのように作っていけばよいのでしょうか。今回、CDOというポジションからこのテーマにアプローチする渋谷さんと、企業のデータ活用コンサルティングを行う株式会社ヴァリューズ執行役員・子安亜紀子さんとの対談が行われました。

データ分析の組織づくりの方法を、渋谷さんがあらゆる角度から語ります。

データ分析組織、国内企業の現状は

子安 「企業のデータ分析をお手伝いする事業をここ1年くらいやっています。渋谷さんから見て、最近増えてきたと感じるデータ分析組織の形態はどんなものでしょうか?」

子安亜紀子(こやす あきこ)
株式会社ヴァリューズ 執行役員
慶應義塾大学 環境情報学部卒。システムエンジニア・Webコンサルタントを経て、(株)マクロミルに入社。マクロミルのベンチャー時代から、商品開発、事業企画、営業企画などを手掛ける。2011年よりヴァリューズに参画。現在は執行役員として、事業企画やグローバルリサーチ、マーケティング部門の統括などを担当している。

渋谷 「仕事でお客さまのところに行くと、企業内に分析組織を作るかたちが増えてきているという話をよく聞きますね。いままで基本的に、企業は分析をコンサルに外注していました。でもそれではダメだと気づき始め、自社で人材を育成しようという動きになってきています。また、Google Analyticsがかなり普及してきていて、クライアント企業側にも使える人が増えてきています。そうすると必然的に、Webサイト分析からより深い分析に進むという人が多くなってきていますね」

子安 「まずは小さく始めるということですね」

渋谷 「そうです。定例会議で数字を報告しなければならないというのが必ずデジマケの場合ついてくるので、そのために集計しなければなりません。だから最初はGoogle Analyticsとかでできる範囲で分析しますが、それだけじゃできないと気づき始め、次にTableauみたいなBIツールを入れる。でももっと深いところをやろうとすると、必然的にSQLが書けなきゃダメだと気づくんです。すると本格的になってきて、会社としても組織を作ったり、スキルセットを共有したりする。そういう流れが多いように見受けられますね」

子安 「ただ思うのが、マーケティング部も大体2,3年で人が移り変わっちゃうじゃないですか。だから新しい方が異動してきて『GAやらなきゃいけないけど分からないんです』と言っているうちに、また別の部署に異動になることがありますよね」

渋谷 「まさに。大企業の総合職は基本的に2年から3年で異動してしまい、専門家になりません。だから本格的に内製化しようと思うと、それなりの時間をかける必要があります。10年は長いかもしれないけど、3年で変わるような人事ローテーションだと作れないかもしれません」

子安 「データ分析組織が本格的にできているところはまだまだ少ないと思いますね。ただ、少しずつ進んでいるとも思います。私たちは社内データをTableauで可視化するお手伝いを行っていますが、それによって発見があり、データを見る重要性が組織内で認識されていくことがよくあります。すると担当者の上司の方も『じゃあ組織を作ってみようか』などと動きができてきます。異動の流れはなかなか変えられないですけど、データ文化を根付かせたいという思いを持った方が1人でもいると、組織ができていきやすいかなと思いますね」

重要なのは「分析できるようにデータを加工すること」

渋谷 「さっき少し言いましたが、データをTableauなどで可視化するステップの先、もっと深い分析をやろうと思ったら、どうしてもSQLが書けないといけない。で、僕はマーケターに分析を教える講座を毎月持っているんだけど、そこではSQLを書きたいというニーズがすごく多いんです。ただ残念ながらちょうどいいツールがない。みなさん『分析はEXCELでできるんですか』と必ず質問してくるんですけど、やはりEXCELでは機能的にもパワー的に限界があります。

 そうなってくると、次はSQLをやりましょうとなる。さらに、統計解析や機械学習をやろうとするとRとかPythonを書きましょうとなる。そこのスキルの乖離がものすごく大きいんですよ。マウスで使えるEXCELの次が一気にプログラミングになっちゃう。だからそこで挫けちゃう人がたくさんいます。でも実際、生データを分析できる形に加工する、ここが一番分析において大事なんですよ。

 例えば料理で考えてみると、調理をするところはレシピがいっぱいあって、ある意味マニュアル化されている。だけどそもそも、そのレシピに使う野菜をどこから選んでくるかという問題があります。そしてどう加工するか、例えば皮を剥くとか、アクを取るとかも野菜ごとに違う。

 同じように、データ集計を簡単にできるGAのようなツールもあるし、ワンタッチで可視化するTableauみたいなBIツールもできてきた。だけど、どこからどうやって元のデータを取ってきて、それをどう加工するかのツールはほとんどないんです。そこにはマーケターの勘やセンスが必要で、加えてSQLなどのスキルも必要。ここのハードルが高いので、結局は誰かが作ってくれたデータベースをちょこちょこいじるという話になってくる。それが僕の感じている、現在の日本企業の大多数の分析組織です。その先をできる人はかなり少ないですね」

子安 「渋谷さんの講座に来る人って、特にデータの知識がない方なのでしょうか」

渋谷 「そうです。データマーケター養成講座なので、事業会社でマーケティングの部署に配属になったという人が多いですね。数式は使わずに、最低限の5つの手法であるクロス集計、ロジスティック回帰、クラスタ分析、アソシエーション分析、決定木分析を普通にマーケターが使えるようになりましょうという講座なんです。手法を教えると、みなさんイメージが湧くしやってみたいと思ってくれます。自分が持っているデータをこういうふうに料理できるんだと分かるので。

 でもこれって後半部分の、野菜がきれいにカットされたあとに料理するところです。実は講座では、食材つまりデータを持ってくる方法は教えていないんです。というか、教えられないんですよ。なぜかというと、どの食材を選んでくるかというのは、自分たちの企業のビジネスをよく知っているマーケターの人がやるべきところだから。そこは企業ごとに違います。ただ、いきなりそこまで行くのは難しいから、まずは誰かが作ってくれたきれいなデータをガリガリいじるところから入っていくと、その先に行けるかなと思いますね」

子安 「何を持ってくるかは、大企業の場合はデータによっては情シスにあったりとか、あるいは営業部の紙にあったりとか、ソース自体が非常に分かれていますよね。マーケターとしてこれを分析したいと思って、材料のありかも分かったとしても、全部がバラバラにある。だから、なぜこれが欲しいのかをそれぞれの部署の人に伝えるコミュニケーションで折れてしまうこともある気がします。時間を割けないからGAだけやります、というような」

渋谷 「おっしゃる通りそこもすごいポイントです。データを集めるところが結構大変で、どんなスキルが必要かというと人間的なコミュニケーション力なんです。相手の懐に入り込んでいくスキルや、どこそこの部署の人を知っているという人脈とか。意外とそこも重要で、僕の講演でも話しています。

 だから、自社データ分析において重要なことは次の3つです。まずは目利きですよね。どのデータを使うか。◯◯を明らかにしたいという目的に沿って、どういうデータを取ってくればいいかをその人が決めるのが最初です。

 次に、それがどこにあるかを探す力。これも意外と大変で、社内のいろんなところにあります。そのためには自分から動かないといけません。違う部署の人にいきなり連絡することはときに難しいから、人脈が必要だったりする。そしてお願いする。泥臭い、まったくサイエンスではないスキルが必要です。

 ようやくデータが集まったら、最後はSQLなどの加工するスキルが必要。そこまできて初めて分析のスタートラインに立てるわけですよ。機械学習を使ったモデリングの部分や可視化は美しく華やかで、だからこそデータサイエンティストが注目されがちですが、実はそこって全体の工程から言えば最後のところです。でもその前にものすごく泥臭い部分がある。そこはサイエンスというよりも、ビジネスマン的な社内営業力が必要なんですね」

CDOというポジションが可能にしたデータ組織づくり

子安 「渋谷さんはいま、デジタルガレージの中でデータ組織のトップというような形で立っていますよね。すると『データのことは渋谷さんに伝えておくといいことがありそうだ』という空気感が醸成されているのではないかと思うのですが」

渋谷 「それはすごくあります。いままでこの会社の中でもそういうデータ組織はなくて、CDOというポジションもなかったんですが、まさに僕が来たことによってそういうことが起こっています。最近デジタルガレージのグループ会社の人が『こんなデータがあるんですけど何かに使えませんか』と言ってきまして。結構面白いデータだったので、こういうふうに使っていけばとアドバイスしました。僕は直接彼が所属する会社の業務に関係しないですけど、僕がデータをやっていると聞いたから彼は相談しに来てくれた。だからおっしゃる通り、ポジションが明確になっていると話しやすいですよね。データ組織がなかったところで、いきなりそれをやったデジタルガレージはすごいと思います。CDOを作ったことによってデータ組織づくりのフェーズ1としては成功していますよね

子安 「いまの渋谷さんのお仕事は、社内にあるデータを把握して、社内の改善やビジネス改善など様々な場面で活用していくようなものなのでしょうか?」

渋谷 「僕の仕事は大きく3つあります。まず、デジタルガレージはグループ会社も含め、多くのデータを持っています。でもそれぞれの事業部ごとにデータを持っているので、つなげようという発想はなかった。それらをひとつにまとめて使っていきましょうというのがミッション1。

 ミッション2は少し先の話なんだけど、僕はこの会社の全社員をデータドリブンな人にしたいんですよ。そのために僕が今後組織を作っていきますが、そこに凄腕のデータサイエンティストを連れてきてもたぶんそうはなりません。事業会社がいっぱいある中で、社員たちが普通にエクセルを使うように分析をしているような世界を作りたい。これはまだ先ですが、そのために教育機能も含めた分析組織としてビジネスアナリティクスセンターといったものを作るんです。

 ミッション3は僕のいまのメイン業務ですが、僕はDG Labという部署にも所属していまして、ここではブロックチェーン、AI、セキュリティ、バイオヘルス、VR/ARという5つの分野を研究しています。いろんなお客様と協業してビジネスを作っていく、事業化を意識したラボなんですね。そのためにはデータを使う必要があって、ビジネスとうまくつなぐためにはデータを分かっている人間がやらないといけない。まずは事業を成功させ、そこから生まれたデータをさらに次のビジネスに活かしていこうというのが、いまの僕のメインですね」

子安 「部署ごとのデータをつなげるというミッション1に関しては、事業部ごとに理解の差がありますよね。A部署からするとデータをつなげたいけど、B部署からするとなぜそんなことをしなきゃいけないのかと思ったり。こういう場合トップダウンでつなげろと言っても、現場レベルではつながらなかったりすると思います。そのあたりの苦労はありますか?」

渋谷 「あまりなかったですね。いままでデジタルガレージではデータをつなげるという発想がなかったからやっていなかっただけで、言えばどの事業部でも出してくれます。横串を刺すためのCDOというポジションの人が現れたのは良かったのかもしれません」

子安 「ただ、企業ごとの文化はありますよね」

渋谷 「ありますね。他の企業ではCDOを作ったとしても、データを出さない可能性はありますよね。よくある横断組織とか社長特命組織って、嫌われて終わるものも多いですからね(笑)。そういう意味では、デジタルガレージではそういうことはないです」

子安 「企業がインハウスでデータマーケティングをやりましょうとなったときに、社風の壁があったりする場合は、何か別の手段が必要なんでしょうね」

渋谷 「そういう会社はボトムアップで上げる方がいいかもしれない。まずはGAやTableauといったツールをデジマケの部署内で使うという一歩を踏み出し、そこから少しずつ全社に広げていくようなかたちです」

IT部門がデータ組織づくりに果たす役割

渋谷 「話は変わりますが、この間ふと思ったことがあります。というのは、データを全社でつなげていく取り組みの上ではやはり、IT部門が入るとドライブするんですよね。僕はデータ分析に関しては、お客さまや現場のニーズを理解できるユーザー部門がやらなければいけないものだと思っています。ただ残念ながら、ユーザー部門だけだと最初はいいんだけどスケールしないんですよ。その組織だけでGAを使ってデータベースみたいなものを作ることはできますけど、全社的にやろうと言った瞬間に無理です。

 前職での良い話があります。IT部門がデータベースを改修する際、ある素敵な男がユーザー部門の意見を聞こうということで、いろんな組織で分析をやっているメンバーを取りまとめてくれて。そして『データカレッジ』というプロジェクトチームが生まれたんです。その結果、全社体制での分析が進みました。重要なのはそこにIT部門が絡んでいたことで、組織間の横串を刺してくれたんですよ。

 もうひとつIT部門というのは予算を持っているんですよね。データベースを構築するとき、大規模なものだと数億円の投資になります。そんなお金はユーザー部門では動かせませんが、IT部門が入った途端に簡単にできる。さらにIT部門は事業部ごとの利害関係に比較的巻き込まれにくいので、横串を刺しやすく分析がドライブしやすいんです。

 ただ気をつけなきゃいけないのは、データ組織づくりにおいて最初からITを使うと失敗します。なぜなら、ツールを入れることが目的化してしまうから。ある程度ユーザー部門での分析体制が熟成してきて、そのあとでIT部門が入り込んでくると一気にドライブする。そこはタイミングですが、ずっとユーザー側だけでやろうとすると難しいんです」

子安 「確かにそうですね。一方で、ユーザー部門の方でデータ分析の理解がまだ進んでいないが、何かやってみたいと思ってまずIT部門に相談すると、けんもほろろな応対をされることがあると聞きます」

渋谷 「ええ、全くその通りです」

子安 「そこで『ヴァリューズさんだったら代わりにやってくれるのかな』とお声がけいただくのですが、予算的な問題もあるのでまずは1つ、例えばデータの可視化といった小さなプロジェクトからやりましょうとなります。大きなお金を使ってやろうとすると、情シスにお願いしなきゃいけない。でもそこで動いてもらうのは難しかったりしますよね」

渋谷 「よくありますよね。でもやっぱり、アナリティクスはIT部門だけでなくユーザー部門も含めてやった方が良いんです。ただツールを入れてデータベースを作るだけで、結局使われないなんてことも多い。こういった目的でこういったデータを得たいというニーズをユーザー部門側できっちり掴んで、それをIT部門が実現する。そういう流れにしないとうまくいかないと思いますね。

 あともうひとつ重要なのが、分析って最初からうまくいかないんですよ。僕も前職では、同じデータで2回データベースを作りました。どうすればうまくいくかは最初の段階では分からないので、とりあえずまず全部のデータを入れてくれと。それをガリガリいじるとだんだん分かってきて、5年後に素晴らしいものを作ったんです。ところがIT部門は、必要なものが要件定義されていないと動きづらい面があります。とりあえず何かやりたいんだけどというのはIT部門の仕事として認められづらい。ここが結構ネックになったりもしますね」

子安 「渋谷さんの話にはヒントがあるなと思いました。おそらくIT部門の中にも、データ分析をしてマーケティングやビジネスに活かすというような、CDO的な立ち位置を目指している方がいると思ったんです」

渋谷 「いるいる。そういう人はチャンスだと思っています。さっきの素敵な男は、このままだとIT部門はどんどんクラウド化、外注化が進んで、企業内でのプレゼンスが弱まっていくだろうと思っていた。だからデータアナリティクスというのはIT部門が輝けるチャンスかもしれないと。

 でも僕がこのことに気づいたのは結構最近でしたね。それまでは正直、自分たちで分析やるからIT部門はいなくてもいいやと思っていた。だから、お互いが必要だという思いがあればうまくいくでしょうね。ユーザー部門側から見れば、IT部門がいないとスケールしない。逆にIT部門側からは、ユーザーニーズを理解しているチームが必要だと。こうやって手を組めば最高のチームができると思いますね」

データ組織、トップダウンかボトムアップか

ここまで、広範囲にかつ詳細にデータ分析の組織づくりの話が語られました。内容を振り返っておきましょう。

まずデータを全社的に利用していく取り組みには、大きく2つの方向がありました。それは、トップダウンかボトムアップかというものです。

トップダウンの動きは、現在渋谷さんが在籍しているデジタルガレージ社のように、いきなりCDOというポジションを作り進めていくというもの。ネット系企業の場合はデータを使うべきだといった意識が浸透しやすいため、この方針で取り組むのも効果的でしょう。

一方ボトムアップは、事業部内のマーケティング施策における1プロジェクトとして小さく始めるというアプローチ。事業内容や社風によっては、データ活用の文化が定着しづらい企業もあります。こうした場合はまずデータで何ができるかを掴むところからスタートし、その先にIT部門との連携を見据え、全社レベルに広げるという話でした。

その際、まずはGAの分析やTableauでのデータ可視化を行います。その後SQLまで進んで生データを料理できるようになれば、次は社内のいろいろなところからデータを集める段階に進む。こうした地道な活動を経て事業部間の理解が深まってきた段階で、IT部門と連携して一気に全社にドライブさせる。これが理想的な形になるでしょう。

このように企業内のデータをつなげていった先、今後は企業間でデータをつないでいくべきだと渋谷さんは話します。そしてデータの「主権」を個人に戻していくべきだと。どういうことでしょうか。対談は最終局面に移ります。

データが可能にする素敵な世界を描かなければならない

渋谷 「いまは企業がユーザーの個人データを“取得、管理”しているという状況です。でも、例えば僕がJALを使った、あるいはAmazonを使ったというようなデータは本来僕のモノなはず。だから企業が管理するのではなく、個人が自分のデータを貯めるパーソナルデータストレージがこれから必要だと思っています。データ管理の主体は個人だと。こうした考え方はインテンション・エコノミーと言われています。

 これは企業が個人のデータを使う面でもいいことがあります。まずユーザーは自分からデータを貯めるから、パーミッションが既に取れているので扱いやすいわけです。しかも、僕がJALに乗ったデータとAmazonで買い物したデータが何の苦もなく紐づきます。情報銀行もこの考え方の延長線のひとつだけど、これからはそういうふうになっていくべきだと思うんですよ。実は2012年ころから言われていましたが、いまいち流行ってないんですよね。GDPRなどが始まったヨーロッパではかなり一般的になってきていますが」

子安 「仕組み化していくところが難しいですよね。いろいろな企業に散らばっている個人のデータが一箇所に集まり、ユーザーが主権を持つという状態にするためには、企業が協働しなければなりません」

渋谷 「そのための仕組みづくりをいま僕はやっています。個人情報を守るためのセキュアな仕組みは当然しなきゃいけないんだけど、それよりも僕が重要だと思うのは、インテンション・エコノミーの考え方が広がるかどうかです。

 そのためには、それによって何ができるのかという未来像と世界観をセットで見せる必要があると思っています。例えば健康データだとPHRというパーソナルヘルスレコードがあります。僕らが毎年受診している健康診断ってあるじゃないですか。これはいま1年に1回結果の数字を見る以外はほとんど何の役にも立っていないんです。でもこれを提供してデータベース化したら、例えば薬価が下がるかもしれない。あるいは医療報酬のレセプトデータと健康診断のデータをうまく使えばそれで命が助かったりするかもしれない。

 いまはそういう個人データが紐付いていないし、重要なパーソナル情報だから集めようとしても集まらない。だから、集めたらどんないいことがあるのかを描かなきゃいけないんです。いろいろな生活のデータを提供することで、例えば街がよくなるとか、犯罪が減る、道路の渋滞が減る、エネルギーの消費が減る、命が助かるというような、多少夢物語みたいな世界観まで僕は見せていかなければいけないと思っています。自動運転だって、いろいろ難題はあるけど、それが実現した時の夢のような世界をみんなが心に描いているからこそ『やってみよう』とみんなが力を合わせられるんです。リスクやハードルばかりを言っていては前に進めない。

 役に立つ、リターンがあるといった良いことがあると分かれば、自分のデータをどんどん使ってくださいとなってデータが集まっていくはず。僕はそういう未来を作りたいですね。」

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この記事のライター

マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。

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