広告が嫌われている今
栗田宏美さん(以下、栗田):本日司会を務めます、クレディセゾンの栗田と申します! どうぞよろしくお願いします。
株式会社クレディセゾン 栗田宏美(くりた・ひろみ)さん
クレディセゾンのオウンドメディアの立ち上げと運営、ブランディングと働き方改革の2軸を推進。2018年4月からデータビジネス部にて、カード購買データの利活用及びBiz Devを担当。
栗田:セッションのテーマは「嫌われない広告活動を行うためにはどうすればいいのか」です。ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス=政治的・社会的に公正・中立な言葉や表現を使用すること)の時代、誰にでも好かれる広告は成立するのかを考えていければと思います。ではまず「広告が嫌われる」とはどういう状況なのか、ヴァリューズのデータで見てみましょう。
栗田:齋藤さん、これは一体どういうデータなのでしょうか?
齋藤義晃(以下、齋藤):これは私たちが保有しているインターネット行動ログのデータからまとめたグラフです。ヴァリューズはクレディセゾンさんの会員のうち、約30万人の方々から許諾を得た上で行動ログを収集しており、このデータ分析に基づいたマーケティングコンサル事業を行っています。
株式会社ヴァリューズ 齋藤義晃(さいとう・よしあき)さん
ネット証券会社のマーケティング部長、経営企画室長を務めたのち、2018年にヴァリューズに入社。デジタルプロモーション事業の責任者として売上昨対比2倍を実現。
齋藤:行動ログデータには、モニター会員の方々がどういったアプリをインストールしているのか、またどれくらいの頻度で起動されているのかといったデータが含まれています。そこで主要なアドブロックアプリの月間利用者数をまとめてみると、利用者数が2年間で1.8倍に増加していることが分かりました。
栗田:なるほど。ユーザーのリテラシーも上がっていますよね。例えばFacebookの広告などでも、右上の✕印を押せば広告を消せるということも当然理解しています。
齋藤:Facebook広告を不快に思った女性の4割が、その広告を非表示したという調査もあります。広告が嫌われてしまうと、広告主とのタッチポイントを切ってしまうという現象がますます多く起きていると思います。
ユーザーに好かれるライオンの広告とは?
栗田:こうした状況を踏まえて、企業はユーザーに嫌われない広告活動を行うために何をどう努力すべきなのでしょうか。まずライオン株式会社の内田さんに聞いてみたいと思います。ライオンさんではどのような広告活動を意識されていますか?
内田佳奈さん(以下、内田):ライオンは低単価の日用品商材を販売しているので、企業としてはたくさん買ってもらわないと商売になりません。なので、10人いたら最低でも8人までには嫌われない、というスタンスであるべきなのかなと思っています。ただ、何年もこうしたスタンスでやってきている中で、情報がスルーされがちという現状もあります。そう考えると、たった1人にでも広告が心に残り、店頭で想起されることをマーケターとしては目指したいと思いますね。
ライオン株式会社 内田佳奈(うちだ・かな)さん
コミュニケーションデザイン部にてオウンドメディアの運用や統合型コミュニケーションのプランニングに携わる。SNS中心設計の施策で市場シェアをアップさせた実績や、コーポレートブランディングで企業好意度を30ポイント以上アップさせた実績を持つ。
内田:その例としてお見せしたいのは、香りを楽しむ柔軟剤「アロマリッチ」が、「She is」というメディアとタイアップした事例です。She isは「自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティ」というタグラインを掲げており、アロマリッチの「一人ひとりの選択を肯定する」というブランドパーパスと非常に親和性が高かったんです。
内田:そこで、アロマリッチが眠りと香りに関するキャンペーンを実施しているタイミングで、She isに、眠りについて考える「夢の時間特集」を組んでいただきました。制作いただいた記事のひとつは、She isの「ガールフレンド」いわばインフルエンサーの方々に出演していただく記事です。もうひとつはShe is読者のオピニオンリーダーの方たちに、「夢の時間」というテーマについてTwitter上で考えてもらい、投稿を基にした記事を制作しました。UGC(User Generated Content)のような設計ですね。
川本太郎さん(以下、川本):メディアのタグラインに広告主の方に共感していただけるなんて、メディア側としてはこれ以上ない喜びですね。これは代理店さんからキャンペーンを提案されたんですか?
ルームクリップ株式会社 川本太郎(かわもと・たろう)さん
2015年よりビジネス担当役員に就任し、取締役を務める。セールスチームを立ち上げ、住まい・暮らし関連の企業を中心にUGCのマーケティング活用を提案している。
内田:いえ、実は私がShe isが好きで、以前からメディアを見ていたんです。なので代理店を通さずに、She isの方に直接アポイントを取ったのが始まりです。
川本:「夢の時間」特集を作るところから、一緒にプランニングしていった形なんですね。
内田:そうですね。どんな特集を組んだらShe isのフォロワーたちに喜んでもらえるのかを大事にしながら、一緒に考えました。もうひとつ、スライドの右側は柔軟剤「ソフラン プレミアム消臭」のスポンサードコンテンツです。「北欧暮らしの道具店」さんのWebドラマ「青葉家のテーブル」のオマケのもう一話をタイアップで制作しました。
川本:「青葉家のテーブル」、とても良かったですよね。面白かった。
内田:そうなんです。1話ずつ数百万回ほどの再生があるとても人気のあったドラマで、終わっちゃって悲しいと思っていた人たちの反響がすごくて。タイアップにも関わらず「ソフランよくやってくれたな、ありがとう」と言っていただいて、マーケター冥利につきますね。
川本:できるだけみんなに嫌われない広告を行うのも重要ですが、ユーザーの嗜好や「好き」に合わせて、熱量のある広告を届けるのは非常に効果的ですよね。それを理解しているマーケターの方が主導して進めるのが重要だと思いました。
データから文脈とモーメントを理解する
栗田:RoomClipさんはメディアの特性上「好かれる」広告を目指して作ることが多いと思うのですが、実際そうなんですか?
川本:その通りです。メディアの立場としては「嫌われないようにしよう」とはあまり考えず、いかに好かれるかを考えます。RoomClipはリビングやダイニングやお風呂も含めて、家の中の写真をユーザーが投稿するというサービスで、現在約400万人が利用しています。タイアップメニューのひとつにはモニターキャンペーンがあります。広告主はインテリアや家電のメーカーさんが多いのですが、ユーザーに商品を提供してインテリア写真を投稿していただき、拡散を図るというものですね。
栗田:その事例もお聞きしたいです。
川本:はい。あるとき、商品の使い方を伝えるためのDIYワークショップをやりたいとおっしゃったお客様がいました。しかしワークショップに参加する人を募集したところ、文脈が合ってなくて集まらなかったんですね。そこで、RoomClipユーザーの「モノを使って愛用する」という文脈に寄せて、「モニターやりませんか、ワークショップで使い方を教えますよ」という企画にしました。すると応募数がぐんと跳ね上がりました。こうした企画のニュアンス変更は、メディアがカスタマージャーニーやニーズを理解しているからこそできることだと思います。
栗田:なるほど。では、こうした消費者の文脈はどのように理解を深めているのでしょうか。
川本:ユーザーのRoomClip内アクションのデータから理解していきます。その一例を次のグラフにまとめてみました。
川本:青の折れ線グラフは写真閲覧枚数の変化、赤の棒グラフは検索ワード数の変化を簡易的に図示しています。これを見ると、ある時期に内装材の検討を始め、4〜5月といろんなショールームを回って、6月にほぼ商品を決めて、そこから競合の検索を始めるといったカスタマージャーニーがかなり正確に分かります。ただ逆に、ある特定のモーメントにおかれたユーザーさんを対象に広告を打つことは現状の段階では難しいです。
齋藤:カスタマージャーニーやモーメントを理解する上では、このような行動データがとても効きますよね。ヴァリューズでも行動データを用いてカスタマージャーニーの分析や、ユーザー文脈の実態把握をよく行っています。例えば次の図は、RoomClipを訪問したユーザーが前後に検索したキーワードを分析し、ユーザーがどのような文脈でRoomClipに訪れていたのかを8つのクラスタに分類したものです。
齋藤:例えばDIY文脈のユーザーもいれば、IKEAや無印といった家具を気にしている人、100均グッズや整理・収納を考える人などがいることが分かります。川本さんはこの結果を見て、どう感じられましたか?
川本:まさにこのキーワードはそうだろうなという感じで、RoomClipの中でも似たようなタグで使われている印象です。ただ、メディアが保有しているデータでは訪問のあとにどんな行動をしているのかは分からないので、その点がとても気になりますね。ヴァリューズのデータでは訪問前後の行動分析も可能なんでしょうか?
齋藤:はい、可能です。今回も試しにそれぞれのクラスタについて、前後の訪問サイトを分析してみました。すると例えば「収納」クラスタはDIY情報サイトを見に行っていたことが分かりました。このように、ユーザーが次にどんな情報を求めに行っているのかを把握することで、文脈がより立体的に見えてくると思います。
内田:クラスタはユーザーの文脈を把握するもので、そのあとに訪問したサイトがモーメントのヒントになっているんだと思いました。例えばその後ECサイトに行っていたのであれば、まさに買う直前なので、そのモーメントに合った広告を当てるべきだといったことが分かりますよね。モーメントと文脈を分けて考えることはこれまであまり細やかにできていなかったので、とても参考になります。
齋藤:文脈をもとに潜在的なニーズを探り当てつつ、モーメントまで理解できれば、見せるコンテンツやクリエイティブを精度高く決めていくことができます。これが文脈を阻害しない広告につながると思いますね。
まとめ
栗田:ありがとうございます! ではそろそろお時間ですので、今日の議論を振り返っておきましょう。まとめると次の2点に集約されるかなと思います。
1.広告が嫌われないためには文脈に合った訴求をすべき
文脈はユーザーが求めている情報やコンテンツ。ライオンさんやRoomClipさんの事例では、ユーザーの嗜好や「好き」に合わせて、熱烈に好かれるような広告キャンペーンのあり方が示されました。
2.データから文脈やモーメントを理解する
RoomClipさんとヴァリューズさんのお話しから、データを使ってユーザーのカスタマージャーニーやモーメントを把握する方法が示されました。文脈とモーメントを合わせて理解することで、嫌われない広告が可能になるでしょう。
栗田:それではセッションは以上となります! 本日はありがとうございました。
齋藤:ありがとうございました。データを使ったヴァリューズのデジタルプロモーションに興味を持った方は、ぜひお気軽にお問い合わせくださいね。
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マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。