経済圏確立へキャリアが向かう道|通信領域編(1) 楽天本格参入の影響は?

経済圏確立へキャリアが向かう道|通信領域編(1) 楽天本格参入の影響は?

第1回に続き、キャッシュレス決済やEC、金融等の総合的な提供を通じた顧客LTV最大化へ向け、通信キャリア各社の動向を探ります。まずはソフトバンクによるボーダフォン買収以来14年ぶりに第4の通信キャリア・楽天を迎えたモバイル通信事業から概観してみましょう。


携帯電話契約数は増加中

一般社団法人電気通信事業者協会によると、日本における携帯電話の契約数は、2019年12月時点で1億8203万件。人口1億2595万人のうち95.7%にあたる1億2393億人が携帯電話を保有しているので、1人あたり1.4台以上が使われています。少子高齢化で人口自体は増えていないなかですが、主要キャリアの契約者は微増傾向を続けています。とくにドコモは8,000万件をうかがい、2016年6月からの4年間で800万件以上契約者が増えました。同期間の増加数ではau(沖縄セルラーを含む)が1,100万件以上と最多で、2社に比べると増加率が低いソフトバンクでも300万件は契約数が増えています。

2018年6月に総務省が「携帯電話料金は4割下げる余地」を示して囲い込み規制へ向けた2年契約の途中解約違約金の値下げ、端末の大幅値引き禁止といった政策を進め、9月には消費者庁が「半額値引き」広告を規制するなど、先行3社に収益構造に対するプレッシャーが続きますが、格安スマホも2019年時点で1,312万契約といわれ、いまのところ市場のパイ自体は大きな影響を受けていないようです。

主要通信キャリアの携帯電話契約数

一般社団法人電気通信事業者協会事業者別契約数より
※PHSを除く

各社顧客満足度やLTVの重要KPIとして位置づける「解約率」を公表していますので、その傾向もみてみましょう。総務省としては、3社寡占状態による携帯料金の高止まりを打開し、乗り換えやすくすることで競争を促してわかりやすく低価格な料金とサービスの実現を意図していたわけですが、実際には解約率が低下傾向。どの指標も最新の2019年10-12月期は0.1%を下回っています。算定基準や方法が異なるため単純比較はできませんが、3社ともむしろユーザーの囲い込みに成功しています。

2017年9月から家族割を提供してきたソフトバンクに加え、2019年6月にはドコモとauも通話料無料と家族一人あたり固定費を割り引く「家族割」の影響でしょうか。まさにキャッシュレス決済やECといった関連サービスの総合的な提供による顧客LTV獲得策が奏功しているのかもしれません。

主要通信キャリアの解約率

主要通信キャリアの解約率(各社IR情報より)

契約者コミュニケーションはauが高密度

各社が契約者向けに利用料金や通信量、各種設定機能などを提供するサポートアプリの利用は「My docomo」が最多で、この1年は8,000万人近い契約者のうち毎月1,000万人以上が使っています。「auサービスTOP」は2019年7月をピークにやや減少傾向ながら、5,000~5,800万契約者のうち同800万人以上は使っているので、契約者数における利用率はドコモを上回っています。

各社サポートアプリのユーザー数推移

各社サポートアプリのユーザー数推移

※My SoftBankは終了予定の旧アプリMy SoftBankプラスのいずれかを使ったのべユーザー数

「My SoftBank」は4,000万人程度で推移する契約者数を考慮しても2社に比べるとユーザーが少なく、最多の2020年3月でも208万人にとどまりました。価格などに比べるとサポートアプリ自体が差別化要素にはなりづらいかもしれませんが、アプリを通じたユーザーコミュニケーションはauの密度が高そうです。

囲い込みは奏功も、併用トップアプリは「LINE」

サポートアプリユーザーの上位併用アプリからは、通信契約というチャネルを通じた「経済圏」への囲い込みが一定の成果をあげていることがわかります。

My docomoは3位「d払い」、auサービストップは2位「au PAY」、My SoftBankは2位「PayPay」と、いずれのキャリアも自社決済アプリが3位以内につけています。ただしリーチ率はMy SoftBank-PayPay86%やauサービスTOP-au PAY78%に比べMy docomo-d払いは59%にとどまります。またMy docomoは9位に「PayPay」が入り、主要キャリアのうち唯一ライバルの決済アプリランクインを許しました。

決済以外の契約者サービスでは、My docomoの2位「dポイントクラブ」、au3位「auスマートパス」や6位「デジラアプリ(データ容量ユーティリティ)」の併用が目立ちました。

サポートアプリユーザーの上位併用アプリ

サポートアプリユーザーの上位併用アプリ

※2020年3月
※緑はSNS/コミュニケーション、黄は自社ユーザー向けユーティリティ、オレンジは結成、紫はEC、ピンクはニュース/コンテンツ。
※太字は各社及びグループの提供アプリ
※リーチ差はモニター全体のリーチ率との差分を示し、スコアが高いほど、特徴的に利用しているアプリと言える

コンテンツ系アプリでは、Yahoo!ブランドを擁するソフトバンクの優位が鮮明
My SoftBankユーザーの3位だけでなく、My docomoは6位、auサービストップは9位に「Yahoo! JAPAN」が入りました。My SoftBankユーザーはほかに「Yahoo!ショッピング」や「Yahoo!天気」といったグループコンテンツを利用しています。KDDI陣営がグノシーとの提携により提供する「ニュースパス」は、auユーザーの囲い込みには奏功。Yahoo!の各アプリ同様にどのキャリアでも利用できるのですが、他キャリアのユーザーでは併用トップ10には入りませんでした。

いずれにせよスマホユーザーの実態を表すのは、併用1位がどのアプリも「LINE」で、93%を超えているという結果。コミュニケーションアプリとして圧倒的な強さを見せつけています(10月からはLINEもまたソフトバンクグループですが)。ほかに「Twitter」、「Instagram」、「Facebook」のSNSも併用が多く、チャットや通話といったユーザー間コミュニケーション領域における通信キャリア同士の闘いは、もはや意味が薄れているとみることもできます。

実際、携帯電話契約者数の伸長と反対に通信時間は減り続けていて、多くはアプリを通じた通話やビデオ通話、あるいはメッセージ機能にシフトしていると考えられます。

発信端末別の通信時間推移(令和元年版情報通信白書より)

電気通信以外の収入はKDDIがリード

ソフトバンクグループ「PayPay100億円あげちゃうキャンペーン」を号砲にキャッシュレス決済をはじめとする通信以外の売上確保へ注力する各社ですが、売上に占める電気通信事業収入にはばらつきがみられます。意外にも電気通信事業収入比率はソフトバンクが最も高く、直近2018年度決算では75%。NTTドコモは同68%、KDDIが同64%でした。電気通信事業収入だけでみるとKDDIの2.6兆円に対しソフトバンクは2.4兆円で2015年以降は大差がないのですが、電気通信以外の収入の差分が4,000億円ほど開いています。ソフトバンクは図表 5の通り1,500万人ほどKDDIより契約者が少ないので単価の高い顧客をつかんでいるとみられますが、通信以外のLTV獲得では、実はまだ改善の余地がありそう。それがまさに、当面赤字覚悟で経済圏確立を急ぐ理由でもあるのかもしれません。

通信以外の収入は2018年度でNTTドコモ1.6兆円とKDDIの1.5兆円がほぼ拮抗していますが、5年間微増にとどまるドコモに比べるとKDDIの成長率が高め。ソフトバンクは5年間大きな変動がありませんでした。

主要携帯キャリア3社の業績推移

一般社団法人電気通信事業者協会「テレコムデータブック2019(TCA編)」より

ただし、まだ電気通信事業者としての業績を公開していない楽天のデータが加わり、ドコモとメルカリのポイント連携、KDDIとローソンの提携、ZHDによるZOZO買収といった2019年度以降の動向が反映されると、各社の収益構造はまだまだ大きく変化していきそうです。

キャッシュレス決済アプリバトルに関しては当面各社とも持ち出し状態ですが、キャッシュレス・ポイント還元事業やマイナポイントといった官製キャッシュレス施策が一巡して加盟店手数料が収益化されたとき、分布はどう塗り替わるのでしょうか。

楽天参入「衝撃的な価格」で通信費に風穴あくか?

2020年3月8日に第4のキャリアとしてシンプルで「衝撃的な価格」を提示し、4月から本格的に通信事業へ参入した楽天の月額利用料は2,980円。先着25,000人を対象に実施してきた「無料サポータープログラム」に加え、1年間は300万人に対する無料期間も設けて一気にシェアを広げ、2023年度黒字化、2028年に1,000万契約を目標に掲げます。

主要通信キャリアの大容量プラン(2020年4月現在)

 

NTTドコモ

KDDI(au)

ソフトバンク

楽天

大容量プラン

ギガホ

auデータMAXプラン

メリハリプラン

Rakuten UN-LIMIT

税別月額

6,980

7,480

7,480

2,980

自社容量

60GB(キャンペーンで倍増中)

無制限

50GB(動画、SNSは使い放題)

無制限

ローミング

容量

5GB

楽天は自社ネットワーク圏内なら容量無制限とあって7,000円程度の既存キャリア大容量プランに比べ大幅におトクです。ただし現時点のサービスエリアは東名阪の都心部に限定され、地下や大規模施設はつながりづらいといわれます。KDDIローミングエリアでの利用は5GBまでで、超過分には別途追加費用1GBあたり500円が発生(または最大128kbpsに制限)し、そのままKDDIの収入になります。3月時点で4,400箇所にとどまる自社基地局の設置計画を前倒して自社ネットワーク構築を急ぎますが、市場はいまのところ他キャリアによる追随値下げなどの「衝撃」を受けたとはいえないかもしれません。

モバイル通信市場において楽天が当面狙えるセグメントとしては2022-26年に終了予定のガラケー契約4,000万台弱、格安スマホ1,312万台、そして2台目需要喚起、5Gが考えられます。通話品質必須のガラケーユーザーにはおそらく大容量のメリットを訴求しづらく、主要3キャリアユーザーからは通信品質を厳格に比較されることになります。格安スマホユーザーにはコストメリットが支持されそうですが、当面は2台目利用も多いとみられる1年間無料のサポーター300万人の顧客満足度を確保しつつ、切り替えを促していくのが現実的でしょうか。

次回は2020年もうひとつの注目トピック、5Gにフォーカスしていきます。

調査概要

全国のヴァリューズモニター(20歳以上男女)の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「VALUES eMark+」を使用し分析しました。
※アプリのユーザー数は、Androidスマートフォンでの起動を集計し、ヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。アプリのカテゴリはGoogle Playのアプリカテゴリより取得。メール、Google Chrome、YouTube、Googleマップ、Gmailなどプリインストールアプリは対象外とする。

本記事では調査・分析ツールとして、市場・自社・競合の3C分析ができる「eMark+」を使用しました。
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この記事のライター

法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。

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