経済圏確立へキャリアが向かう道|EC編(1) コロナ禍がもたらした市場変化

経済圏確立へキャリアが向かう道|EC編(1) コロナ禍がもたらした市場変化

通信キャリアの経済圏確立へ向けた動向について、第4回ではEC領域を分析してみます。新型コロナウィルス感染拡大防止に伴う外出自粛でさらに欠かせない存在となり、市場成長が見込まれるEC市場。米国では過去5週間に失業給付金申請が2,650万件を記録するなか、Amazonが3月に10万人、4月に7.5万人を採用するなど労働力の受け皿としても期待されています。


巣ごもり消費が追い風に

2020年1-3月期の決算では、楽天が国内EC流通額9,271億円(前年同期比9.8%増)、Yahoo!ショッピングとPayPayモールを擁するZホールディングス(ZHD)のEC取扱高は6,111億円(同27.6%増)をマーク。楽天は楽天トラベルやチケット、スポーツ事業への打撃で2019年10-12月期よりは取扱高が減ったものの、楽天市場をはじめとするショッピングECがカバーし、4月の流通総額は前年同期比+57.5%に達したそうです。

事業セグメントや算定基準が異なるため単純比較はできませんが、通信キャリアEC関連事業はそれぞれ規模を拡大しています。

キャリア系ECの四半期業績

キャリア系ECの四半期業績

※各社IR資料より。Yahoo!はショッピングのほかヤフオク!やPayPayフリマ等を含む。楽天は楽天市場、トラベル、楽天ダイレクト、物流、ラクマ等。ドコモはコンテンツ・ライフスタイルサービスと金融・決済サービスを含む営業収益。auはコンテンツ事業を含むライフデザイン領域。算出基準が異なるため単純比較はできない。

経済産業省によると2018年のBtoC-EC市場規模は17兆9,845億円(前年比8.96%増)です。

日本のBtoC EC市場規模

経済産業省「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」より

eMark+のECブランド別月間ユーザー数からも、自粛要請が始まった3月、4月はECユーザーが増加しています。とくにAmazon、楽天市場(以下楽天)、Yahoo!ショッピング(以下Yahoo!)のトップ3は、いずれも過去2年間で最多のユーザーを集めました。PayPayモール(以下PayPay)はYahoo!の半分程度ですが1,700万人程度が利用。ただしYahoo!とPayPayいずれかのサイト、アプリを使ったユーザー数は最多の4月でも4,010万人にとどまり、ZHD内の併用が多かったようです。dマーケット/ショッピングとau Wowma! (※現au PAYマーケット。以下Wowma!)は1,200万人ほどが利用していますが、4月よりも3月のほうが若干ユーザーは多めでした。

※2月に「au PAYマーケット」へブランド名を変更していますが、本稿ではとくに指定しない場合、認知度の高いWowma!と記載しています。

Amazonは日本市場の売上を年1回しか発表していないので2020年の業績はわかりませんが、ログからみる限り日本勢を引き離しています。

主要ECのブランド別ユーザー数推移

主要ECのブランド別ユーザー数推移

※スマートフォン及びPCでサイトまたはアプリを使ったユーザー数。Yahoo!+PayPayはいずれかのサイトまたはアプリ利用ユーザー、dマーケット/ショッピングはサイトのみ。

チャネル別にみると、いずれのECブランドもサイトの方がアプリよりユーザーが多い傾向です。経済産業省の調査によるとECのうち物販分野における2018年のスマートフォン経由のBtoC-ECの市場規模は6,462億円増の3兆6,552億円(前年比21.5%増)で成長余地は大きいと思われますが、いまのところサイトの方が使いやすいということでしょう。

Amazonと楽天はアプリも増加傾向ながら、最多の4月でも3,000万ユーザーには届きませんでした。Yahoo!サイトは2020年初来増加しましたが、アプリは1,000万程度で推移し大きな変化がありません。Wowma!はサイトがじわっと増加し、dマーケットと同程度の利用でした。ECモールアプリではWowma!、PayPayはやや存在感が低めです。

主要ECのユーザー推移

主要ECのユーザー推移

(サイトはPC+スマートフォン)

コロナへはあまねく反応、各ECともユーザー属性に大きな変化なし

直近のEC利用増にはコロナ禍、外出自粛要請の影響が大きかったと考えられますが、どんなユーザーが反応したのでしょうか。eMark+のユーザー属性で変化を確認してみます。

男女別では、どのECブランドもやや男性の伸び率が女性を上回りました。とくにWowma!は半年前420万人程度だった男性ユーザーが632万人へ1.5倍増加しています。在宅勤務で家にいる人が増えた影響でしょうか。ただし全体で見ると男女比に大きな変化はありません。

キャリア系ECブランドのユーザー数推移【男女別】

キャリア系ECブランドのユーザー数推移【男女別】

(PC+スマートフォン)

年齢層も同様に目立った変化はありませんが、dマーケット/ショッピングは20代、Wowma!は60才以上の増加率がやや高めでした。

キャリア系ECブランドのユーザー数推移【年代別】

キャリア系ECブランドのユーザー数推移【年代別】

(PC+スマートフォン)

世帯年収分布も大きな変化はなく、いずれのECブランドも年収400-600万円の平均的家庭、次いで200-400万円ゾーンが多い傾向です。ただし「増税を機に定着するキャッシュレス決済 実態そして普及推進のキー」でとりあげた通り、世帯年収200万円未満の家庭は20%存在しており、これらの層にほとんど動きがなかったのは気になるところです。非正規雇用労働者に対する解雇・雇止めは飲食、宿泊や旅客などの業種を中心に1万人を超え厳しい状況が続いているわけですが、低所得者層ほどECではなくリアル店舗を頼っているとしたら、安心・安全な買い物手段の選択肢にも格差の存在を感じてしまいます。

キャリア系ECブランドのユーザー数推移【世帯年収別】

キャリア系ECブランドのユーザー数推移【世帯年収別】

(PC+スマートフォン)

EC間の比較検討は増加

トイレットペーパーやマスクの品薄でチャネルにこだわらず欲しいものを探すニーズ、また巣ごもりで時間に余裕ができたことも影響して、EC間の買い回り傾向は増えました。

もともとキャリアECのユーザーは楽天の併用が多く、最も併用率が低いdマーケットユーザーでも51%が併用。Yahoo!ショッピングやPayPayモール、Wowma!ユーザーは半年前の2019年11月時点でも70%以上が楽天市場を併用していましたが、4月にはさらに併用率が上がっています。

「併用なし」の高ロイヤリティユーザーはdマーケットが42%でコロナ禍の影響も少ないようです。他方、楽天は11月の40%から4月は37%と3ポイント低下し、その分Yahoo!の併用が増えています。

PayPayユーザーのYahoo!併用は76%から82%に増えてZHD内シナジーといえそうですが、Yahoo!ユーザーのPayPay併用は40%から38%に2ポイント低下。両ECとも11月に比べてじわっとWowma!の併用が増えています。

キャリアECの併用状況変化

キャリアECの併用状況変化

(上段は2019年11月、下段は2020年4月。スマートフォン)

二次流通はメルカリが独走

ECにとって、フリマやオークションといった二次流通市場は、短期的な競合でもあり、中長期的にはLTV獲得チャネルでもあります。ZHDは「ヤフオク!」に加え2019年10月のPayPayモール開店と同時に「PayPayフリマ」で受け皿を設け、楽天は日本初のフリマアプリ「フリル」を2018年2月に「ラクマ」に統合して二次流通を含む経済圏を目指します。他方、ドコモは2月にメルカリと提携し決済やポイント、利用促進などで協業を進めています。

巣ごもりでは断捨離に勤しむひとが増えた影響か、これらフリマ/オークションは3月に利用が増加右肩上がりで成長していたメルカリに比べると低迷気味だったヤフオク!にとっても追い風が吹きました。ヤフオク!とPayPayフリマいずれかを使ったユーザーは3月に2,410万人をマーク。自前ブランドにこだわらず提携により経済圏を拡張するドコモの強みがにじみ出たという見方もできますが、ZHDとしてはメルカリ2,620万人との差200万人まで詰め寄りました。ラクマやPayPayフリマも500万人以上が利用しましたが、メルカリ、ヤフオクほどの存在感はありませんでした。

二次流通フリマ/オークションのユーザー推移

二次流通フリマ/オークションのユーザー推移

(PC+スマートフォン。サイトまたはアプリのユーザー。ヤフオク!+PayPayはヤフオク、PayPayフリマのいずれかを使ったユーザー)

EC編第2回では、キャリア各社のEC戦略、そしてキャッシュレス決済とのシナジーを掘り下げてみます。

本記事では市場・自社・競合の3C分析ができる「eMark+」を用いて調査を行いましたが、eMark+の機能がパワーアップした新ツール「Dockpit(ドックピット)」が2020年10月にリリースされました。まずは無料版に登録して、実際にDockpitを体験してみてくださいね。



dockpit 無料版の登録はこちら


関連記事

経済圏確立へキャリアが向かう道|EC編(2) ペイとの親和性は?

https://manamina.valuesccg.com/articles/889

EC編第1回は、コロナ禍の影響を中心に通信キャリアEC事業の近況を概観しました。第2回は各社のビジネスモデル、そしてキャッシュレス決済とのシナジーを分析してみます。キャリア系ECといっても、楽天、Zホールディングス(ZHD)、NTTドコモ(ドコモ)、KDDI(au)のビジネスモデルは少しずつ異なります。ECから通信へ事業を拡張する楽天、ポータル等ウェブメディアから第3の通信キャリアとしてポジションを固めてきたZHD、固定通信からモバイルへ、そしてECへと事業を広げてきたドコモとau。4社の競合は2018年以降のキャッシュレス決済をターニングポイントに、さらなる変革を迫られてきました。

経済圏確立へキャリアが向かう道|通信領域編(1) 楽天本格参入の影響は?

https://manamina.valuesccg.com/articles/851

第1回に続き、キャッシュレス決済やEC、金融等の総合的な提供を通じた顧客LTV最大化へ向け、通信キャリア各社の動向を探ります。まずはソフトバンクによるボーダフォン買収以来14年ぶりに第4の通信キャリア・楽天を迎えたモバイル通信事業から概観してみましょう。

経済圏確立へキャリアが向かう道|通信領域編(2) 5G市場を展望

https://manamina.valuesccg.com/articles/852

前回はモバイル通信キャリアの動向を統計データや各社IR資料等から概観し、契約者向けサポートアプリの利用状況やロイヤルティ、収益構造の変化などを確認しました。今回はいよいよ3月下旬からサービスが始まった5G関連の動向にフォーカスしてみます。

この記事のライター

法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。

関連する投稿


ChatGPTの登場で検索行動はどう変化した?「検索離れ」の5つの要因

ChatGPTの登場で検索行動はどう変化した?「検索離れ」の5つの要因

世間ではさまざまな「〇〇離れ」が話題になっています。その一つに、「検索離れ」があります。この記事では、実際に検索離れが起きているのか、検索ワードごとで変化に違いがあるのか、そして検索行動が変わった要因について、2022年からの3年間のデータを分析していきます。


生成AIは誰がどう使っている? ChatGPT、Gemini、Copilot、Claudeの利用データを比較調査

生成AIは誰がどう使っている? ChatGPT、Gemini、Copilot、Claudeの利用データを比較調査

ChatGPTやGeminiをはじめとした生成AIが近年急拡大しています。生成AIではテキストのみならず画像や音声など様々なものを出力できますが、実際はどのように使われているのでしょうか。本稿では、そんな生成AIを利用するユーザーの属性や関心を比較・分析し、各AIとそのユーザーの実態を明らかにしていきます。


ドコモのeximo・ahamo・irumoを比較。料金プラン・ユーザーの違いは?

ドコモのeximo・ahamo・irumoを比較。料金プラン・ユーザーの違いは?

通信会社はさまざまなプランを展開し、幅広いユーザー層の獲得を目指しています。本記事ではNTT docomo(以下ドコモ)が提供する3つの料金プランeximo・ahamo・irumoを比較しながら、料金プランの違いがどのようなユーザー層の違いを生み出しているのか分析していきます。


【2025年】タイのEC市場トレンドと成長中のTikTok Shop

【2025年】タイのEC市場トレンドと成長中のTikTok Shop

タイで急成長中のTikTok Shopは、動画視聴とショッピングを融合した新しいECプラットフォームです。2024年にはライブコマースで500%以上の伸びを記録し、多くの企業やクリエイターが成果を上げています。本記事では、タイのEC市場のトレンドと、TikTok Shopの魅力や成功事例について解説します。


Z世代がショッピングモールに足を運ぶ理由は?求められるのはリアルな体験 | 海外トレンドに見るビジネスの種(2025年2月)

Z世代がショッピングモールに足を運ぶ理由は?求められるのはリアルな体験 | 海外トレンドに見るビジネスの種(2025年2月)

海外からやってくるトレンドが多い中、現地メディアの記事に日々目を通すのはなかなか難しいもの。そこでマナミナでは、海外メディアの情報をもとに世界のトレンドをピックアップしてご紹介します。今回は、アメリカのZ世代が見出す実店舗の魅力や、Z世代の集客をねらった各社の事例について取り上げます。


最新の投稿


ChatGPTの登場で検索行動はどう変化した?「検索離れ」の5つの要因

ChatGPTの登場で検索行動はどう変化した?「検索離れ」の5つの要因

世間ではさまざまな「〇〇離れ」が話題になっています。その一つに、「検索離れ」があります。この記事では、実際に検索離れが起きているのか、検索ワードごとで変化に違いがあるのか、そして検索行動が変わった要因について、2022年からの3年間のデータを分析していきます。


レイ・フロンティア、大阪・関西万博初日の来場者データをもとにした行動傾向調査結果を公開

レイ・フロンティア、大阪・関西万博初日の来場者データをもとにした行動傾向調査結果を公開

レイ・フロンティア株式会社は、2025年4月13日に開催された大阪・関西万博の初日における来場者の行動を、同社のAI位置情報解析技術「SilentLog Analytics」を用いて分析した結果を公開しました。


適応力と柔軟性 ~ ナレッジマネジメントの導入

適応力と柔軟性 ~ ナレッジマネジメントの導入

経済や環境改善を底上げするためには企業や組織の能力向上が求められます。ではその求められる力とは一体何でしょうか。それは組織、及びそれを形成する人間が持つ、変化に対する適応力と柔軟性が軸であると説く本稿。企業成長に欠かせかない「暗黙知」にも言及し、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が真のナレッジマネジメントの重要性を解説します。


VOSTOK NINE、主要オンラインマスメディア購入意向度調査2025を公開

VOSTOK NINE、主要オンラインマスメディア購入意向度調査2025を公開

株式会社VOSTOK NINEは、「購入・利用のきっかけとなる主要オンラインマスメディア調査2025」を実施し、その調査結果を公開しました。


コスメ・スキンケア用品のEC利用者、4割以上がレビューを"毎回"見る!良い評価と悪い評価のどちらを参考にするかは半々に【eBay Japan調査】

コスメ・スキンケア用品のEC利用者、4割以上がレビューを"毎回"見る!良い評価と悪い評価のどちらを参考にするかは半々に【eBay Japan調査】

eBay Japan合同会社は、全国の20代から30代女性を対象に「コスメの買い方とレビューに関する調査」を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ