東京コピーライターズクラブ創始者が立ち上げたクリエイティブハウスは、なぜ提案にデータを活用するのか?その理由を聞く

東京コピーライターズクラブ創始者が立ち上げたクリエイティブハウスは、なぜ提案にデータを活用するのか?その理由を聞く

東京コピーライターズクラブ(TCC)の初代会長、上野壮夫(うえのそうふ)氏が1966年に創立したクリエイティブハウス、ユー・ピイ・アール。心を動かすクリエイティブが伝統でもある同社では、競合分析ツール「eMark+」を使い、データによる提案も行なっているといいます。それはなぜなのか?また、その実態はどんなものなのでしょうか。マナミナ編集部がユー・ピイ・アールの田地さんにお聞きしました。


UPRとは?キーワードは「プランニング」

―まずあらためて、上野壮夫氏が創始者であるユー・ピイ・アールとはどんな会社なのか、教えていただけますか。

上野壮夫さんは花王の宣伝部を立ち上げた人物なのですが、その上野氏が自分のプランニングルームを作り、ノウハウを多くの方に提供するために創立したのが、上野プランニングルーム(=UPR)です。そうした背景もあって弊社はビューティー系に強みがあります。事業内容はコミュニケーション全般で、Webサイトやビジュアルの制作から店頭POPなど、幅広いアウトプットを得意としています。

株式会社ユー・ピイ・アールの田地昌章(たち・まさあき)さん

―上野壮夫氏は花王の宣伝部やTCC、そして上野プランニングルームを立ち上げるなど、今の広告・マーケティング界の源流となった数々のプロジェクトを進めた方だったのですね。

そうですね。特筆すべきは、上野「プランニング」ルームと名付けたように、上野さんはプランニングの重要性を当時から指摘していた点だと思っています。洞察から仮説を導き、仮説に基づいて戦略を立て、そして最終のアウトプットを消費者に届ける。このような全体観を持ったプランニングです。

世の中的にはマス広告による華やかなビジュアルが重要視された時代もありましたが、現在はWebやデジタルの興隆によって、全体戦略のプランニングの必要性が高まっていますよね。そういう意味では、上野さんが語った「プランニングを重視せよ」という志は、今Webマーケティングの世界でもう一度花開くことができている。これは喜ばしいことですし、これからも引き継いでいきたいと思っています。

―では、田地さんはユー・ピイ・アールで現在どのような業務に携わっているのでしょうか。

Web関連の仕事はほぼすべて担当しています。最近はより上流の、全体設計やコンセプトを形作る、ちょうど今話したようなプランニングの仕事に携わることが多いですね。

また、コピーを書くような仕事もしています。ただ、現在では昔に比べて、コピーライティングは少し地味な仕事になってきた節もあるような気がします。上野さんがTCCを立ち上げた時代、そして糸井重里さんが「おいしい生活」と言った時代とは違って、彼らのようなカリスマ的コピーライターは現在ほとんどいないですよね。

しかし僕は、Webマーケティングの仕事の上で、コピーこそが鍵を握っていると思っています。例えばGoogleの検索広告は、見出し一発でクリックしてくれるか決まりますよね。そう考えると、コピーってこの時代でもすっごく重要なんです。ひょっとすると昔よりも大きいかもしれない。だから上野さんが立ち上げた会社で、しかもコピーライターとして書く機会を与えてもらって良かったなと思いながら、仕事をしています。

データは「クリエイティブの根拠付け」のため

―田地さんはWebのプランニングやクリエイティブの提案においてデータを活用しているとお聞きしたのですが、概要としてはどのような形なのでしょうか?

データ活用では、主にヴァリューズの競合調査ツール「eMark+(イーマークプラス)」を使い、競合サイトの情報・サイト設計で必要なキーワードをデータとして出し、Webのソリューションを考案します。そして、それを踏まえた上でクリエイティブをセットで提案するような形です。

前提として案件ではコンペになることが多いのですが、そのとき、クリエイティブの根拠づけがしづらい問題があります。よく私たちは感覚的に「こういうターゲット、フェーズだからこういうクリエイティブでいきましょう」と言います。でも当然のことながら、可愛らしいクリエイティブを若い女性みんなが好きなわけではないですよね。人の嗜好はもっと細かく分かれています。

そこでデータから根拠を見出し、クリエイティブと一緒に提案しています。すると、クライアントに案への共感をしてもらいやすく、納得度も高いんです。かつ、Webサイトを作ったあとの運用フェーズまで一緒に歩んでいけるシーンも多く、戦略まで一気に辿り着くプランニングが可能になってきます。

競合調査ツール「eMark+」の画面。国内主要サイトのユーザー数に加え、性年代などの属性割合も手軽に分析できる

―なるほど…! eMark+を使った提案の具体例としてはどんなものがありますか?

eMark+を使ってクライアントの競合サイトを調べます。切り口は単純なPV、UUといった数字の差に加え、広告の流入元内訳などを分析することもありますね。あとは、流入につながった自然検索キーワードなども比較します。これらはクライアントもあまり気づいていないときが多いです。

店舗での販売を主とするクライアントでは、エンドユーザーの顔が見えないことが多いのですが、ある楽器メーカー様の事例ではまさに、購買を検討している方がどんなキーワードで検索し、どういうサイトに流入しているかを分析しました。結果、「楽器名+メーカー名」の検索が多いと分かり、市場での認知度の有無を把握できました。競合サイトを見たり、キーワードの中身を具体的に知ったりすることで、自分たちの状態を明確化できるのはeMark+の大きな利点です。

個人的に僕が便利だなと思ったのは、奥の階層のURLまで競合サイトを調べられる点です。例えばランディングページを指定すれば、競合の広告キャンペーンの集客状況を調べることもできます。また、人気のあったランディングページを調べることができるのでそれをもとにターゲットへの訴求内容を考えたりするなど、利用シーンが幅広いですね。

「おみやげ感覚」でデータの案を出してもいい

―先ほど「クリエイティブの根拠付けがしづらい」というお話がありましたが、田地さんはどんなきっかけでそう感じるようになったのですか?

きっかけですか…。明確にこれ、というタイミングは難しいですが、もともと納得できないと感じていた部分はありました。クリエイティブに対してかっこいい、クールだとかはよく言われます。しかし、人それぞれ感じ方は違うので、「本当にクールなのか?」と思う人は一定数いるはず。そう考えていくと、主観で「クールだからこの案で行こう」と進めるより、データで語った方が腹にストンと落ちるなと。ただ、その納得度を高めることに関してはeMark+を使って初めて得ることができたので、ありがたく思っています。

加えてクライアントとの商談においても、漠然とWebサイトを作りたいと言っていた状態から曖昧さが消えて問題点がより明確になり、新しいお客さんを獲得するために必要な施策について一歩進んだ議論ができるようになりました。

―ありがとうございます。

もうひとつ、クライアントの方々は今、お金を使うことに対して「これでいいのかな?」と不安に思いがちな時代なのかなとも思っています。代理店が持ってきた大きな予算規模の提案に対して、みんな真剣に悩んでいる。昔みたいな「思い切って使いましょうよ」という時代ではないですよね。

もちろんクライアントははっきりと言いませんが、漠然とした不安があるのは感じます。するとその不安は、Webサイトを作ったり広告を打ったりする時点まで続くわけですね。一方、データは一本の軸を作ってくれます。だから不安はこの方法でしか取り払われないんじゃないかとも思っています。

ユー・ピイ・アール社のWebサイト。「最終表現で差をつける。」には、モノを言うのは最終表現のみという信条が表されている

―業界のトレンドとして、クリエイティブ領域の提案にデータを使っていこうという流れは感じられますか?

どうでしょうか。でもあまり積極的に使ってはいないと思いますね。そもそもですが、中・小規模の制作会社ではマーケティング・プランも合わせて提案するところがあまりない気がします。クリエイティブにデータで補完をする、という形でこれからはやっていくべきだとは思います。

―新たにデータを活用していくことに対して、会社のこれまでの営業スタイルや商習慣によって、あるいはクリエイティブの中身に矜持を持たれる方を中心に抵抗を感じる方もいらっしゃると思います。新たな取り組みとして田地さんが社内で進めてこられたように、データ活用をゼロから始めるにあたっては、ファーストステップとしてどのようなことを取り組んでいくのがよいでしょうか?

もちろん、クリエイターとしての矜持や美学のようなものがアートディレクター(AD)にあるから、データは特に意識しないという組織・文化もあると思います。ただ、若い方にお伝えしたいのは、こういう切り口もあるんじゃないですかとADに伝えてみるのはアリ、ということです。そういう案をある種「おみやげ感覚」でクライアントに持っていくと、割と喜んでくれて意外と採用されたりすることもあるんです。

これは難しい話でもなくて、偉いADの案だけでなく、データで出した案も持っていく。すると喜ばれる可能性もある、というのが僕の意見ですね。若い人が、偉い人の考えに則ったものしか作れない空気感はあるのかもしれませんが、思っているよりクライアントは喜ぶよ、という話です。

また、これから先は代理店・制作会社も、コンサルティングの視点から戦略を提案できるパートナーになれれば、関係性がよくなります。ものは考えようで、もっといい関係でいることを目指せば考え方は変わるかもしれません。クリエイティブだけでは、いつ関係が終わるかわからないという案件も多いです。そうなる前に関係性を強化するため、仕事の幅を広げていくことが必要だと思います。そんな視点から見ても、データマーケティングはクリエイティブ業界にとって有用だと思っていますね。

―データ活用からクリエイティブ制作まで、幅広いテーマでお話をお聞きすることができました!本日はお時間をいただきありがとうございました。

取材協力:株式会社ユー・ピイ・アール

eMark+ 無料で競合調査ができる! 無料登録はこちら

この記事のライター

マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。

関連する投稿


サービスの改善や価値を高める「アプリの利用習慣アンケート」。ユーザーアンケートならではの付加価値とは?

サービスの改善や価値を高める「アプリの利用習慣アンケート」。ユーザーアンケートならではの付加価値とは?

「ユーザーアンケート」はお客さまの生の声を収集できる貴重な機会。アンケートを通して得るユーザーの嗜好分析をもとに、企業はサービスの現状把握や改善へと繋げていけます。しかしマーケティング環境が進化し整備されていく中、「普段行っているデータ分析結果とアンケート結果の使い分けはしっかりできていますか?」。そう話すのは、リサーチャーの菅原大介さん。今回はユーザーアンケート全体のお話から、アプリを運営する企業にフォーカスしたユーザーアンケートにおける“オススメの活用法”について解説していただきました。


「そもそもデータ量が少ない」地方の課題を克服!生活者目線とデータを掛け合わせた、地方のデータマーケティングとは

「そもそもデータ量が少ない」地方の課題を克服!生活者目線とデータを掛け合わせた、地方のデータマーケティングとは

「データの重要性はわかっているが、自社でも活用できるかわからない」と考えている企業は多いのではないでしょうか。地方にあり、都会とは状況が異なると思っている企業もあるかもしれません。今回紹介するアド・セイル株式会社は、香川県にあるデジタルマーケティング企業。地域密着という強みを活かした取り組みのほか、地方企業がデータマーケティングを行う際の課題や可能性について、同社の関氏に伺いました。


データマーケティングとは?メリットや手順、 効率化のポイントを解説

データマーケティングとは?メリットや手順、 効率化のポイントを解説

データマーケティング(データドリブンマーケティング)とは、顧客データをもとに戦略を立案するマーケティング施策。近年では活用が進み一般化しています。しかしデータマーケティングが何を指しているのか、どのようなメリットがあるのか、認知されていない方もいるでしょう。この記事では、データマーケティングの詳細やメリットについて詳しく解説します。


ソーシャルメディアではできない顧客体験を。Pinterest 広告の魅力に迫る

ソーシャルメディアではできない顧客体験を。Pinterest 広告の魅力に迫る

アイデアを画像や動画で発見・保存・整理できる「Pinterest(ピンタレスト)」。“ビジュアル探索プラットフォーム”として、SNSとは異なる独自ポジションを築き、全世界で毎月4億人超のオーディエンスが利用しているといいます。そんなPinterest は2022年6月に日本国内でも広告事業を開始し、広告出稿先としても注目を集めています。マナミナ編集部では、Pinterest ユーザーの購買やアクションとの関係性を行動ログデータから独自調査。広告プラットフォームとしてのポテンシャルを探るとともに、Pinterest Japan ビジネスマーケティングリードの石井恵子さんに、今後のPinterestアドの展望についてもお話を聞きました。


企業のコアファンはメルマガに潜む?「メルマガ会員アンケート」の重要性【リサーチャー・菅原大介】

企業のコアファンはメルマガに潜む?「メルマガ会員アンケート」の重要性【リサーチャー・菅原大介】

業務の効率化、またコロナ禍の影響もあり、スピーディーかつスムーズなコミュニケーションが求められるようになった昨今。チャットツールの導入が急速に加速し、メールでの情報共有が減ってきています。そんな時代の流れがある中でも、企業は「メルマガ」配信に注力しているとおっしゃるのはリサーチャーの菅原大介さんです。その証拠として、カスタマーサポートセンターやフォームにはメルマガに関する問合せが異例の量、届いているというのです。詳しく伺っていきましょう。


最新の投稿


Search on 22:Google mapで情報探索が完結する、新しい検索体験とは|「2022年11月 コンテンツマーケティング最新動向レポート」

Search on 22:Google mapで情報探索が完結する、新しい検索体験とは|「2022年11月 コンテンツマーケティング最新動向レポート」

2022年9月にGoogleが開催した「Search on 22」では、新しい検索体験の広がりを予感させる様々な機能が発表されました。一体何が変わり、マーケティングにはどのような影響があるのでしょうか。ヴァリューズのマーケティングコンサルタントがポイントや今後の対応について、解説していきます!


【急上昇サイト】根強い人気のラーメンフェスと複数の年賀状サイトがランキングを席巻!|2022年10月

【急上昇サイト】根強い人気のラーメンフェスと複数の年賀状サイトがランキングを席巻!|2022年10月

2022年10月にユーザー数を伸ばしたWebサイトは? SaaS型のWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を使うと、どんな人がどんなWebサイトを見ているのか、いろいろな切り口で簡単に調べることができます。訪問ユーザー数の前月比が急上昇したWebサイトを調査しました。


Toyota, Nissan, Honda: Analysis of Top Automotive Companies' Strategies seen from each websites

Toyota, Nissan, Honda: Analysis of Top Automotive Companies' Strategies seen from each websites

The automotive industry suffers from semiconductor shortage due to the pandemic and war in Ukraine. However, the industry is experiencing a major shift to EVs, globally. Japan, a major auto manufacturing market, is seeing changes in the industry’s digital. We explore websites of three major auto manufacturers.


サービスの改善や価値を高める「アプリの利用習慣アンケート」。ユーザーアンケートならではの付加価値とは?

サービスの改善や価値を高める「アプリの利用習慣アンケート」。ユーザーアンケートならではの付加価値とは?

「ユーザーアンケート」はお客さまの生の声を収集できる貴重な機会。アンケートを通して得るユーザーの嗜好分析をもとに、企業はサービスの現状把握や改善へと繋げていけます。しかしマーケティング環境が進化し整備されていく中、「普段行っているデータ分析結果とアンケート結果の使い分けはしっかりできていますか?」。そう話すのは、リサーチャーの菅原大介さん。今回はユーザーアンケート全体のお話から、アプリを運営する企業にフォーカスしたユーザーアンケートにおける“オススメの活用法”について解説していただきました。


みんなはどんなプチプラアイテムを買っている?支持される「プチプラ」の特徴と傾向を分析

みんなはどんなプチプラアイテムを買っている?支持される「プチプラ」の特徴と傾向を分析

さまざまなものが値上がりしている2022年。いま、世間ではリーズナブルな価格をコンセプトとする「プチプラ」商品への関心が高まっています。今回は1年を通してどのような「プチプラ」へのニーズがあるのか、ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」のデータをもとに検証しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら