企画と商品開発の「おいしい」関係。ヴァリューズの新サービスDockpit誕生までのあらすじ

企画と商品開発の「おいしい」関係。ヴァリューズの新サービスDockpit誕生までのあらすじ

Web行動ログ分析サービス「eMark+」を提供してきたヴァリューズは、2020年10月、新たに「マーケターのためのリサーチエンジン」Dockpitをリリースしました。その商品開発は非常にスピーディーに行われたそう。背景には企画サイドとエンジニアサイドががっしりとタッグを組んだ、製販一体のあり方がありました。Dockpit誕生までのあらすじを、企画サイドのリーダーの岩村さん、開発リーダーの山本さんのお二人に取材しました。


マーケターのためのリサーチエンジン「Dockpit」とは?

――今日はヴァリューズの岩村さんと山本さんに、Dockpit(ドックピット)の開発秘話をいろいろとお聞きしたいと思います。岩村さんは主に企画サイドのリーダーとして、山本さんは開発サイドのリーダーとして、プロジェクトを進められていたんですよね。開発のお話の前に、まずDockpitとはどんなサービスなのか改めて教えてもらえますか?

岩村大輝さん(以下、岩村):Dockpitは、ヴァリューズが保有しているWeb行動ログデータを使った「マーケターのためのリサーチエンジン」です。機能としては現在、3C分析でのCompetitorを分析できる「競合分析」、Customerの検索データでニーズを考察できる「キーワード分析」、業界全体を俯瞰して見る「業界分析」、今の流行をキャッチアップできる「トレンド分析」の4つのメニューが用意されています。

全体の設計を通じてポイントとしたのは「簡単にわかりやすく、誰でも使うことができる」こと。企画時の思いとしては、マーケターの方々がGoogleなどの検索エンジンで情報収集を行うように気軽にDockpitで検索して、データを見ることによって取るべきアクションが分かるような、そんなツールを目指しました。

岩村大輝(いわむら・だいき)
株式会社ヴァリューズ データマーケティング局 マネジャー

――開発の背景には、どんなニーズが現在の世の中にあると考えたのでしょうか。

岩村:いま、マーケターの方々が日々の業務を行うとき、あるいは意思決定のタイミングにおいて、データを扱うことはとても重要になっています。一方でデータの種類は膨大になり、かついろいろな場所に散在していたりして、データに対する煩わしさや複雑性を感じる状況でもあるかと思います。

Dockpitという名前は「Data」と「Cockpit」を合体させた造語なのですが、その名の通り「見るべきデータがすべて集約されているコックピット」のようなツールになっています。マーケターの方々が「データに関してはDockpitを見ておけば大丈夫!」と感じられるツールを作るべき、というのが設計時の思想でした。

「Dockpit」のトップ画面。キーワード、競合、業界、トレンドの4領域の分析が手軽に行える。「現在の機能はフェーズ1で、今後はGAデータや1stパーティーデータなどもDockpit内に取り込める仕様を目指す」と岩村さん

増改築を繰り返したeMark+をリプレイスすることに

――プロジェクトの始まりについても教えてください。ヴァリューズはもともとWeb行動ログ分析ツール「eMark+(イーマークプラス)」を提供していましたが、そもそもなぜDockpitを作ることになったのですか?

山本和高さん(以下、山本):それについてはちょっと昔の話までさかのぼってお話しします。まず、ヴァリューズはインターネット行動ログ分析サービスの立ち上げ当時、分析の仕事は全てアドホックで行なっていました。つまり、クライアントにコンサルタントがつき、お話を聞いてデータ分析の要件を決めてから、当時の技術やExcel等を使って納品物を作る個別案件がメインでした。

ただ、当然それだけだと規模は拡大していかない。そこで、個々の案件の分析結果から汎用性を見出した上で、Webサイトのユーザー数推移やユーザー属性の分布がパッと見られる機能をつけ、第一弾のASP型サービスとして世に出したのがeMark+でした。これが今から6年前、2014年のことです。

山本和高(やまもと・かずたか)
株式会社ヴァリューズ ソリューション局 シニアマネジャー

山本:その後、検索キーワード分析ができる「Keyword Finder」や、ターゲットを絞って分析できる「Target Focus」、競合分析ができる「Site Analyzer」、さらにはスマートフォンデータなどの機能が足されていって、現状のeMark+の巨大な仕組みが出来上がってきた。だから機能追加ごとにメニューがどんどん増えるという、日本家屋の増改築感が出ていると思うんですけど(笑)。

ただ、私はこれまでもいろいろとシステム開発に携わってきましたが、最初はスモールスタートしてその後メニューを増やしていくのはよくあるパターンです。始めから全体の絵を描ければいいんですが、そんな簡単なことはなくて。売れそうなところからちょっと作ってみてだんだんと増やすのが実際の現場ではわりと王道だと思います。

eMark+のメニュー画面。「General Overview」「Site Analyzer」「Keyword Finder」「Target Focus」の4つの機能がeMark+には含まれている

山本:eMark+もこのような例に漏れず進化してきましたが、増改築を繰り返しすぎた結果、ユーザビリティや機能間の整合性に問題が出てくるようになりました。

また、内部のシステム的にも立ち回りが難しくなってきていて。機能改善の要望がビジネスサイドから上がってきても、どこまでシステムに手を入れればいいか迷うシーンが増えていました。なので、世の中も変わってニーズも変化していく中で、主力サービスが現在の形のまま増改築によって進化していく方向性が、現実的でなくなっていたんです。

そこで、データも含めた基盤を作り直した新サービスを作る話が持ち上がってきました。そして、Dockpitプロジェクトが始まっていったのです。

――商品として売る側の目線で、岩村さんは企画サイドとしてどのようなアクションを行なったのですか?

岩村:市場のお客様にとってどんなサービスを提供すべきかという顧客観点と、ヴァリューズとしてどんなサービスを出したいのかというメンバーの思いの2つを重視しました。

前者についてはCS(顧客満足度)調査を行い、eMark+を利用されていたお客さまにインタビューして評価を聞いたり、今後どんな機能があればよいかをヒアリングしました。その上で、かなり大きなシートを作り、クライアントを含む世の中の業務と、それに対するニーズや課題をできる限り網羅的に洗い出したんです。

また、その際は社内のメンバー全員を集めてワークショップをして、ブレスト会議を行いました。ポストイットを使って、新しいツールでは何ができれば良いかをみんなに書き出してもらって。

これまでの固定概念や、eMark+の機能の制限もとっぱらって、とにかく「こんなことができたらいいな」を書き出すところから始まっている。自由な発想で商品を企画し、そこに制限を設けない部分はとてもこだわった点でした。

処理が困難なデータの大きさ…それでも開発を可能にした理由

――商品開発プロジェクトではいろいろな紆余曲折もあったかと思うのですが、その中でここは勝負どころだった、といったポイントがあればお聞かせいただけますか。

山本:技術的な面で大変だったのは、とりあえず信じられないくらいデータが大きかった点ですね。DockpitのWeb行動ログデータは数千億レコードにも及び、おそらくeMark+の10倍ぐらいには増えています。かつ、Dockpitではデータのリクエストから30秒ぐらいでWeb画面上に返せる仕様を目指そうと。例えば5年前の技術だったら、どう考えても実現不可能なものでした。

だから最初から困難なことは分かっていたのですが、実際にやってみると想像を絶する壁にぶち当たったんです。例えば、ただ「ダイエット」の検索キーワードの分析結果を出すのさえ、永遠に返ってこない事態が続いて……。

そんな中、2020年にAWS(アマゾン ウェブ サービス)のテクノロジーパートナーとなったのは大きな出来事でした。チーム内のデータを扱うプロがAWSのアーキテクト担当の方とも相談したりして、ようやく実用化に漕ぎつけましたが、データが許容できる時間で返ってくるまで数ヶ月かかったのはなかなかの重い開発でしたね。いろいろな技術や方法を試しては諦め、試行錯誤を繰り返しながらなんとかたどり着いたという感じでした。

――なるほど……。試行錯誤の過程が見えてきますね。

山本:もうひとつ、フロントエンド側もeMark+とは使い勝手を一新しようと思っていました。お題としては、初心者でもとっつきやすく分かりやすい、かつ上級者の要求も満たせるようにというもの。そんなUIどこにある?というくらいわがままな理想がありました。誰かが正解を出してくれるわけでもないので、試行錯誤しながらUI/UXを作り込んでいきましたね。

――開発の方法では例えばアジャイル型開発などがありますが、ヴァリューズでは企画サイドとエンジニアサイドの関係性はどんなものだったのですか?

岩村:こういう言い方で合っているのかは分からないんですが、ヴァリューズのエンジニアの方々は、無理難題を言ったときにまず嫌な顔をしないという部分が大きいと思っています。

だから、企画サイドとしては全力で要望を出せる。無理かもとエンジニアの方が思ったとしても、それはキツイですと断るのではなく、一旦やってみるねと回答が来るんです。それが、お客さんのやりたいことや、我々が売れると信じた機能や仕組みをぶつけられることにつながり、良いプロダクトができた鍵だったのかなと思っています。

――山本さんから見て、無理難題を言われたこともありましたか。

山本:無理難題は、もう常日頃からいろいろ自由に言われてきて慣れてます(笑)。たしかに、企画サイドの要望に対してシステム側が拒否をせず、むしろ近寄っていく姿勢はヴァリューズの強みだと思います。

一般的な開発に比べたヴァリューズの良い特徴は、製販一体なところだと思うんです。本来、システムやサービスを作るときは、構想を描く人が細かくシステムの要件を定義して、開発者側に伝えます。そうしないと当然、作る側としても何を作っていいかが分かりませんし、スタートラインにも立てません。

しかしヴァリューズでは、一般的な開発のようなきちっとした要件定義フェーズを作っていないのが特徴だと感じますね。なぜそれができるかと言うと、お互い物理的にも距離が近くて企画サイドとのコミュニケーションが取りやすく、普段からお客さまの声を聞いている気持ちになっているから。

だから今回のDockpit開発でも、モックアップの段階からクライアントの要求にもけっこう近い範囲のものが出せて、企画側から見てもそんなに違和感はなかったと思います。要件定義の詳細を詰めるフェーズをカットして、何をやりたいかからどんな画面を作るかまで一気にやってしまった感じはあるので、短期間の開発が実現できたのかなと。

岩村:そうなんですよね。だから企画側からすると、最初のモックアップを見た段階で「何これスゴイ」という感じで。なぜこんなに細かいところまで分かっていて、かゆいところに手が届くモックアップが作れるんだろうなと。

でもそれにはおそらく背景もあって、ヴァリューズは会社全体として、できる限り生の状態の顧客の声を、メンバー全員に伝える文化があるからだと思います。エンジニアの方々はどうしても日々クライアントと触れることはできませんし、なぜその機能が必要なのかの背景やニーズは肌感覚では分かりません。そこは企画や現場サイドがクライアントの代弁者となり、意識して各所に共有する必要があると思います。

もちろん、それが成り立つためにはビジネスサイドに興味や理解のあるエンジニアの方々がいることが大前提ですけどね。

――山本さんから見て、コミュニケーションの取りやすさやニーズの理解しやすさは、企画サイドのどんな点にあると思いますか?

山本:企画側というよりは、社風としての部分が大きい気がします。例えば「もしもドラえもんがいたら」、略して「もしドラ」というSlackのチャンネルがあって、そこにはソリューションに関するあれこれを社員のみんなが投稿できます。投稿には何の制約条件もなく、新卒1年目から役員までが、もしこういう機能があったらいいなとか、お客さんにこう言われましたといった内容を投稿していて。

で、投稿にはエンジニアチームがすぐさま返信して議論します。関心を表し、背景を知りたいという姿勢を示すことによって、発言は無駄じゃないんだという空気感もできてくる。何かしらの遠慮や部署ごとの垣根がある会社は多いと思いますが、ヴァリューズはそういう雰囲気は少ないと思います。

岩村:たしかに「もしドラ」は文化として大きいかもしれませんね。クライアントから機能に関する要望があったときも「現状は無理です」と答えるのではなく、「ちょっと社内にリクエスト投げてみます」と新卒1年目の人も言える社風になっています。しかもそれは良いことだねという空気感もある。

今回のDockpit開発において要件定義の細かい議論をするまでもなかったのは、何よりも「お客さまの声はみんな知っている」という状態があったからこそだという気がします。

――新卒1年目、2年目の方もとても生き生きと働いている印象があります。

山本:アクションをしたら何かが変わるという雰囲気がないと、働いていても虚しくなってしまいます。ヴァリューズは、上司や社長に何か要望を言えば体制が変わる雰囲気も感じますし、自分が売る製品・サービスに対しても、変わっていく雰囲気がやっぱりあると思う。たぶんそこが、若手が仕事する上でやりがいに繋がりやすい点かなと思います。

Dockpit開発秘話の取材風景。全社リモートワークの状況が続く中、取材はオンラインで行った

現在はまだフェーズ1、目指す場所は「プラットフォーム」

――Dockpitには機械学習などの先端的な技術も使われているとお聞きしましたが、実際どのような技術が使われているのですか。

山本:Dockpitで使われている分析技術は合計や平均、時系列やクロス集計など基本的な集計手法がほとんどですが、ワードにベクトルを付与してワード間の類似性を見つける(類似ワード)など機械学習の要素も新たに取り入れています。

機械学習の強みは分類や予測なので、以前は考えられなかった有意義な示唆がデータから得られるようなアウトプットを開発していきたいと考えています。

――お客さまの声としては現在どのようなものを聞きますか?

岩村:特に脚色するつもりはなく、使いやすいという声は多く上がっています。例えば大手化粧品メーカーさまからは、「何か気になったことがあればとりあえずDockpitで検索しています」と言われたり。「マーケターのためのリサーチエンジン」として活用いただけています。

あとは、製品開発部門の方からはこれまでになかった切り口で消費者を捉えられるという声もいただきました。自社ブランド名と競合ブランド名を検索するとそれぞれのブランドが持たれている印象や、比較されているブランドなどが見えてきます。トレンドをおさえようとするならば、「レシピ」や「おすすめ」、「解約」といったキーワードで検索すると、消費者がいつの時期に何が食べたくなるのかや何を買いたくなるのかといったトレンドなどが簡単にわかります。すでに使いこなしている方には「こういう風に市場を見たら面白いよね」などとおっしゃっていただけたり、新しい気づきを提供できるのは嬉しいことです。

――では最後にDockpitを今後どのように育てていこうと考えているのか、展望を教えてください。

山本:もともとDockpitの仮の名称として、私は「マーケティングダッシュボード」と考えて開発を進めていたんです。それが表す通り、今まで蓄積されたビッグデータハンドリング技術や分析ノウハウを活かし、今後はマーケティングに関わるデータを、すべて一元的に集約できるダッシュボードづくりを目指します。

そしてそれが完了したら、次は「マーケティングプラットフォーム」に進化させたいと思っています。一元的に管理されたマーケティングデータを基に、そこからいろいろな施策や打ち手も打てるようなイメージ。データとアウトプットが一体となった世界まで広がれば、まさしくプラットフォームと呼べるのではないでしょうか。

岩村:Dockpitはまだフェーズ1の段階で、今は予想以上の反響と感じています。GA(Google Analytics)と連携したり、外部データや1stパーティデータを取り込めたり、あるいは機械学習も取り入れたりと、フェーズ2、3と進めていくことで、最終的には世の中のマーケターはじめ、消費者と向き合ういろいろな部門の方々が日々使いたくなくなるような、そんなツールにしていきたいです。

併せて私自身の思いとしては、大袈裟かもしれませんがこのツールを通じて世の中の消費者の負の解消や新しいサービスとの出会いなどに貢献していきたいと思っています。消費者の方々から預かっているデータには、消費者が日頃感じる悩みやニーズ、ホープがたくさん詰まっています。それらのデータを通じて、世のマーケターの方が商品やサービスを作り届けていくことができれば、間接的ですが世の中の人々に対して貢献できると考えています。

理想論かもしれませんが、マーケターが仕掛けて売るみたいな世界観ではなく、世の中を良くするためにマーケターが消費者の声を聞き、商品やサービスとの橋渡しをする。そんな世界観の中で、Dockpitを通して、私たちが消費者の声を最適な形でマーケターの方々に届けることができるようになりたいです。そうすることができれば、マーケターの方々へのお力添えだけでなく、生活者としての私たち自身や身の回りの人、ひいては世の中に貢献できると考えており、そんな循環を可能にするポテンシャルがDockpitにはあると思っています。これからもDockpitを通じてマーケターの方々、ひいては世の中に影響力を持って貢献していけるよう、チャレンジを続けたいなと思っています。

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この記事のライター

マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、デジタルマーケティングのテーマを中心とするフリーランスの編集ライターに。

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