家具・家電など耐久消費財のWeb広告出稿量は伸びているのか?コロナ禍におけるEC化の影響を見る

家具・家電など耐久消費財のWeb広告出稿量は伸びているのか?コロナ禍におけるEC化の影響を見る

Web広告の出稿量は年々増加しており、マス広告主体であったビジネスの集客構造は大きな転換期を迎えようとしています。特に、2020年はコロナ禍の影響を受け、実店舗とECの販売割合を戦略的に見直す企業も増えています。今回は、「耐久消費財」の3ジャンルに絞り、Web広告の出稿量が伸びているのかどうかを探っていきます。


新型コロナウイルスの感染拡大が起きた2020年以降、加速するEC市場。企業のDX推進も必要性がしばしば語られるようになり、市場は今後も拡大していくものと予想されます。また、ステイホームが推奨され始めた時期から、ECサイトの利用が増えたり、これまでネットで購入したことのなかった商品を注文するようになったり、と人々の消費行動にも大きな変革が起きている印象です。

2019年には日本全体の広告費において、Webの広告費がついに、テレビメディアに投下される広告費を超える規模へと成長を遂げました。そして、インターネット上の広告費は例年、昨対比110~120%弱ほどの成長を続けています(電通のニュースリリースより)

今回は、こうして大きく成長を続けるネット広告の市場において、様々な耐久消費財のWeb出稿量はどういう状況にあるのかを探ります。

▼前回は日用品や化粧品など消費財について、同様のテーマで調査を行いました。気になる方はぜひそちらも併せてお読みください。

Web広告出稿量が多い消費財の業界はどこ?各ジャンルの購買行動の違いやEC化率との関係を探る

https://manamina.valuesccg.com/articles/1115

電通の調査によれば、2019年の「インターネット広告費」は全体で2兆円を超え、媒体別でテレビメディア広告の規模を初めて抜いたと言われています。そこで今回は、拡大を続けるWeb広告市場において出稿量が多い業界はどこなのかを調査・分析。ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「<a href="https://www.valuesccg.com/dockpit/" target="_blank">Dockpit</a>」を使い、「日用品」「化粧品」「ファッション」「食品」「飲料」の5つの通販ジャンルにおける、集客構造の違いとその背景を探っていきます。

本記事ではヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を用いて、「家電」「家具」「ジュエリー」の3ジャンルにおける、それぞれの集客構造の違いを調査・分析していきます。

方法としては、上記3つの業界の通販サイト全体を対象に調査します。Dockpitの業界分析機能では各Webサイトが独自にカテゴリ分けされており、「家電 通販」等のWebサイトについて、業界全体のユーザー数やセッション数、PV数等の分析が可能です。これを用いて各業界全体を俯瞰して比較していきます。

3つの通販ジャンルにおけるWeb広告出稿量の違い

はじめに、3つの耐久消費財の分野が、ネット全体を通じてどのような集客構造を取っているのかを見ていきましょう。
以下は、「Dockpit」によって抽出された3ジャンルの集客チャネルのセッション数を集計し、割合に置き換えたデータです。

「Dockpit」業界分析機能で、耐久消費財3ジャンルの通販サイト全体へのWeb広告セッション流入比率を集計
期間:2020年7月〜2020年12月
デバイス: PC・スマートフォン

自然検索と外部サイトからのセッション割合は、3ジャンルでそれほど大きな差は見て取れず、合算で全体の40%ほどです。

Web広告だけに焦点を絞ると以下のグラフに表したように、最も広告のセッション割合が大きいのは「ジュエリー」分野で、リスティング広告とディスプレイ広告の合算値が全体の3割を超えています。

「Dockpit」で5業界の通販サイト全体へのWeb広告セッション流入比率を集計。なお、「Web広告」の内訳はディスプレイ広告・アフィリエイト広告・リスティング広告の3項目
期間:2020年7月〜2020年12月
デバイス: PC・スマートフォン

広告別に見ると、リスティング広告は「ジュエリー」の10.5%→「家電」の7.4%の順で大きく、ディスプレイ広告は「ジュエリー」の22.5%が他ジャンルより圧倒的に大きな割合です。

Web広告による集客割合は「ジュエリー」分野が大きい

前述した通り、Webサイトへの集客におけるWeb広告割合は、3ジャンル内では「ジュエリー」分野が最も大きいという結果が出ました。特に、ディスプレイ広告の比率が大きく、集客チャネル全体の2割を超えています。

ディスプレイ広告はリスティング広告と異なり、広告文だけでなく画像や動画を商品訴求に使用できるという特徴があります。
ジュエリー、アクセサリーといった身に着けるものは文章だけでは商品の外観が掴みづらく、視覚的なアプローチに優れるディスプレイ広告による販促が必要なのでしょう。

また、ディスプレイ広告はリターゲティングによって、同一のユーザーに対してくり返し商品訴求を行えるという特性も持ち合わせます。
「ジュエリー」ジャンルで扱われる商品には高価な宝飾なども多くあり、購入までの比較・検討期間が長くなりがちなことから、繰り返し訴求可能なディスプレイ広告との相性が良いと推察されます。

「家電」「家具」のWeb広告セッションの多さにはEC化率も影響か

全集客チャネルに対するWeb広告の比率が最も大きいのは「ジュエリー」分野でしたが、割合ではなく実数値で比べた場合は、「家電」と「家具」のセッション数は「ジュエリー」の比ではありません

「Dockpit」で3業界の通販サイト全体へのWeb広告セッション流入数を集計。なお、「Web広告」の内訳はディスプレイ広告・アフィリエイト広告・リスティング広告の3項目。
期間:2020年7月〜2020年12月
デバイス: PC・スマートフォン

過去半年の各ジャンルのWeb広告のセッション数を見ると、最もセッションが多いのは「家電」の1.48億、次いで「家具」の4.4千万となっており、「ジュエリー」分野の38万という数値とは大きな差があります。

この各分野のセッション数の大小は、以前「Web広告出稿量が多い消費財の業界はどこ?各ジャンルの購買行動の違いやEC化率との関係を探る」でも触れましたが、それぞれの市場におけるEC化率も大きく関係していると考えられます。

上記、2019年の各市場のEC化率を見ると「生活家電」分野では32.7%、「家具・インテリア」の分野では23.3%と全体の中で高い比率であるのに対し、「衣服・服装雑貨」の分野では13.8%と低めです。

さらに言えば、「衣服・服装雑貨」ジャンルにおいても取り扱いの主流は衣類であることが想定されるため、ジュエリーやアクセサリー類のEC化率はさらに低いと言えるでしょう。

このように、「家電」と「家具」のジャンルは比較的インターネットを通じた購買が進んでいる分野であり、同ジャンルのWeb広告出稿量の多さは、EC化率の数字と比較しても整合性を感じられます。

2020年はコロナ禍で家電・家具のWeb広告セッションがさらに拡大

既に様々なメディアで報じられている通り、新型コロナウイルスによって小売市場も大きく影響を受け、これまでリアル店舗での販売が主であった商品群に関しても、ECによる流通が拡大しています。

今回調査をしている3つのジャンルにおいても、2020年のWeb広告による集客状況は2019年比で拡大している傾向です。

「Dockpit」で3業界の通販サイト全体へのリスティング広告とディスプレイ広告の合算セッション流入数を集計
期間:2019年7月〜2020年12月
デバイス: PC・スマートフォン

上のグラフより、3つの業界全てで、2019年の下半期よりも2020年上期のWeb広告によるセッション数が上昇しているのが見て取れます。
その中でも、セッション数が大きな「家電」と「家具」についてさらに掘り下げていきましょう。

上半期は「新しい生活様式」や給付金により「家電」ジャンルのが伸び

先のグラフを見ると、「家電」ジャンルのセッション数は2019年下半期から2020年の上半期にかけて110%ほどの成長を見せたものの、下半期には数値が横ばいで推移しているのがわかります。

「Dockpit」で「家電」分野の通販サイト全体へのリスティング広告とディスプレイ広告の合算セッション流入数を集計
期間:2019年7月〜2020年12月
デバイス: PC・スマートフォン

わかりやすく1年半の推移を月次で並べたものが上記のグラフです。
コロナ第1波、「緊急事態宣言」発令と続いた2020年4月にセッション数は最大値を記録し、その後は夏にかけて再びセッションが微上昇、下半期にかけては水準が大きく変わらず推移しています。

これは、コロナ拡大を受けた2020年春に家電類の需要が拡大し、また政府による「特別定額給付金」の給付が初夏から行われたことも背景にあると推察されます。

また、家電量販店大手である「エディオン」の決算資料によれば、同時期は「新しい生活様式」が謳われ始め、厚生労働省からは熱中症対策のためにエアコンの推奨がされたこともあり、春~夏にかけての家電の購入が増えたことも要因の1つであるようです。

株式会社エディオン 2021年3月期 第1四半期 決算補⾜資料より引用

下半期も続く「巣ごもり需要」により「家具」のセッションが増加

前述の「家電」同様に「家具」ジャンルも大きなセッション数の伸びが見られますが、「家具」は上半期を終えて、下半期に入ってもセッション数が伸び続けているのが特徴です。

先ほどと同様に、1年半の推移を月次のグラフにしてみましょう。

「Dockpit」で「家具」分野の通販サイト全体へのリスティング広告とディスプレイ広告の合算セッション流入数を集計
期間:2019年7月〜2020年12月
デバイス: PC・スマートフォン

上記グラフを見ても、「家具」ジャンルにおいてはコロナ第1波が起きた春先だけでなく、下期にかけてもWeb広告セッションの伸びが見られます。

これは、消費者の「巣ごもり需要」が継続していることで、部屋の模様替えや家具の買い替えニーズなどが高い状態のまま推移しているためだと思われます。
家具販売の大手である「ニトリ」の決算資料上でも、2020年下期のネット通販事業が、2019年下期と比べて好調であることが報じられています。

ここまでを総括すると、コロナの感染拡大および在宅需要によって、まずはPC環境や生活家電などから見直す人が増え、その後も続く「巣ごもり需要」が居住環境全体へと消費者の視点を移させ、家具の需要が高い状態が継続している、ということです。

そして、これをきっかけに「家電」「家具」両ジャンルのWeb広告セッションがさらに伸びたことからわかるように、「ネットで家電や家具を買う」という消費者の意識変化と、今後の両ジャンルのEC化率にも大きく影響をすると思われます。

まとめ

今回調査した耐久消費財のジャンルにおいては、「家電」「家具」の2つはWeb広告によるセッション数が大きく、市場全体のEC化率の観点からしても、ネットを通じた購買が盛んになってきている分野です。
コロナ禍の影響を強く受け、各企業がECよる販売促進を加速したこともあり、今後はさらにWeb広告による集客数が大きくなっていく可能性が高いです。

また、「ジュエリー」分野においてはWeb広告による集客比率が比較的に高いものの、EC化率が低く、販売の現場はまだまだリアル店舗に主軸が置かれているものと思われます。
「家電」「家具」の2ジャンルのように商品購入をする機会が多くなく、また実際に手に取って商品の購入・検討がなされる側面が強いことから、Eコマースへ大きくシフトするのはまだまだ難しいのかもしれません。

ただし、既にWeb広告による集客比率が高いことから、業界全体でネット販売しやすい商品開拓が進めば、一気にEC化が進む可能性も秘めていると言えるでしょう。

本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。

【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2019年7月〜2020年12月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス

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この記事のライター

国内大手の採用メディア制作部を経てフリーライターとして独立。現在はWebマーケティング、就職・転職、エンタメ(ゲーム・アニメ・書籍)等の各種メディアにて記事制作を担当。「マナミナ」では一人でも多くの読者に楽しく読んでもらえるマーケティングコンテンツを提供していきます。

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