話題のメタバースとは?定義と歴史|メタバースの現在地と未来を考える

話題のメタバースとは?定義と歴史|メタバースの現在地と未来を考える

5G時代が本格的に到来し超高速の大容量通信が実現。新たなコミュニケーションの手段として 「XR(XReality:VR、AR、MRなどの総称)」への注目が高まっています。経営コンサルタントで上級VR技術者としてXRの市場調査や新規事業創成支援等の活動を行っているパトリック・ショウさんが、XRビジネスの今と未来を解説する連載企画がスタート。初回テーマは今後のテックトレンドとしてマーケターも見逃せない「メタバース」です。メタバースとはどんなもので、近年どのように進化しているのでしょうか。


はじめまして。パトリック・ショウと申します。
普段は、外資系IT企業で経営コンサルタントをしつつ、VR技術者としてXRビジネスの市場調査と市場開拓戦略策定・XR新規事業創出支援等の業務に携わっています。マナミナでは、VRの中でも注目領域について寄稿記事形式で解説していきます。今回はその第1弾で、「メタバース」がテーマです。

シリコンバレーやゲーム業界から、突然のように「メタバース」が新しい流行語として多くの注目を集めました。「メタバース」は多くの主流メディアに続々取り上げられたことになり、それをキーワードに資本市場もやや過熱気味にもなっています。

ところが、実は「メタバース」というもの自体は新しい概念でもなく、それがブームとなったのも初めてではありませんでした。ここでは、「メタバース」の定義と特性、及びその歴史を振り返りながら、この再びバズワードとなったものについて共に紐解いていきたいと思います。

パトリック・ショウ

パトリック・ショウ
現在は外資系IT企業勤務。経営コンサルタントとしてXRビジネスの市場調査・市場開拓戦略支援・XRの新規事業の企画支援・ビジネスクリエーション・プロジェクトマネジメントなどを経験。VR技術者。Facebook Developer Circleメンバー。京都大学経済学部卒。

1. メタバースとは

メタバースの定義と分類

メタバースは造語であり、初めて紹介されたのは「スノウ・クラッシュ」というSF小説でした。その語源は、ギリシア語で「越える」の意の接頭語「Meta-」と、現実事象をあらわす「Universe」を融合して作られました。
現時点ではメタバースについてまだ公式的な・統一された定義はありませんが、ここでは、メタバースを以下のように定義します。

人々があたかも現実のような「パーセプション」を実現でき、リアルタイム・参加型の「ソーシャル性」を持ち、オープンでありながら、独立の経済・価値を保障した「エコシステム」を構築できている「場=仮想空間」である

つまり、メタバースは最小限3つの要素を同時に備えなければありません。パーセプション、ソーシャル、そしてエコシステムです。

1. パーセプションは、人が世界に対する感知・認識のことです。メタバースにおいて、人々はそれを現実世界と同じように感じて、行動できます。それを実現するには、ユーザー自身による認知はもちろん重要ですが、今までゲーム・映像領域で多用されている3Dモデルやレンダリング技術、物理演算・シミュレーション、そしてXRをはじめとするイマーシブテクノロジー(没入型技術)を用いて、現実世界に限りなく近い五感を再現する手段も有力です。

2. ソーシャルは、文字通りに社交性のことを指しています。メタバースではリアルの人々同士が繋がり、コミュニケーション、またはインタラクションをしたりすることができます。また、メタバースでのインタラクションはリアルタイムで同期されることや、メタバースの一員としてはコンテンツの消費者であると同時にクリエイターでもあり、メタバースはUGC(User Generated Contents、ユーザーによって創作・提供されるコンテンツ)によって構築されることも重要な特徴です。

3.エコシステムは、経済・価値システムのことを指しています。メタバース自身、並びにその経済インフラは現実と同様に半永続的に機能しています。また、資産の価値が認められ、保障される上、価値交換のための手段も整備されていることが必要です。

メタバースの構図

メタバースの構図

また、「エコシステム」にフォーカスして、その機能を維持する形式の違いから、さらにメタバースを「クローズドメタバース」と「オープンメタバース」に分類することができます:

クローズドメタバースは、単一または複数特定の組織・団体によってエコシステムの機能を維持されています。
フィクション作品での仮想世界を例でいうと、「レディ・プレイヤー1」という作品で描かれた、グレガリアス社という主体によってエコシステムを維持されている仮想世界=「オアシス」は、「クローズドメタバース」に当たると考えられます。

クローズドメタバースでは、往々にしてユーザーが持つデジタル資産の利権が最終的には運営主体に帰属し、ユーザーの行動データも特定の組織・団体によって管理されます。一方、メタバースに対するガバナンスが比較的に整備されていることが多いです。現在Facebook等のテックジャイアントが主導で構築しようとしているメタバースは、高い確率でクローズドメタバースになると予想されています。

レディ・プレイヤー1 プロモーションイメージ

レディ・プレイヤー1 プロモーションイメージ

Image Credit: Warner Bros. Pictures/Amblin Entertainment

オープンメタバースは、脱中央集権で、オープンで高度な自治によってエコシステムが維持されています。「真のメタバース」とも見られることがあります。また、ブロックチェーン等の脱中心化技術によって構築されることが多いです。同じくフィクション作品での仮想世界を例でいうと、「竜とそばかすの姫」という作品で描かれた仮想世界=「U」は、作中ではエコシステムを運営している主体が存在しておらず、自由主義で、脱中央集権型の「オープンメタバース」に当たると考えられます。

オープンメタバースでは、ユーザーのデジタル資産の利権は運営主体に帰属することなく、行動データも基本的に匿名で維持・分散化されています。一方、ガバナンスが十分に機能できないことで、メタバースは無法地帯になるのではないかとの懸念もあります。

「竜とそばかすの姫」映画シーン

Image Credit: スタジオ地図

その他メタバースの特徴・要件

前述した通り、現在メタバースについては公式的な・統一された定義はありません。「パーセプション」×「ソーシャル」×「エコシステム」の3要素による定義以外に、その他の切り口で整理しているものもあります。

例えば、現在メタバースに一番近いではないかと期待されており、2021年3月に上場を果たしたRoblox社のCEO Baszucki氏が主張しているメタバースの8つの要素が特に有名です。

【メタバースの8つの要素】
  • Identity(アイデンティティ)
  • Friends(友達)
  • Immersive(没入感)
  • Low Friction(少ない軋轢)
  • Variety(多様性)
  • Anywhere(地理的制限なし)
  • Economy(経済システム)
  • Civility(社会的規範)

How to make a metaverse

Image Credit: Roblox

2. メタバースの過去と未来

メタバースの啓蒙期だった80・90年代

1981年にアメリカの数学者、計算機科学者、SF作家であるVernor Vinge氏が著した「マイクロチップの魔術師(原題:True Names)」はメタバースの雛形となる仮想空間(Cyber-space)のコンセプトを初めて打ち出しました。

作中で描かれていた、人々が脳と直接接続されたコンピュータによって接続する仮想空間(Other Plane)では、リアル世界と同じような五感が実現されただけでなく、各人が自由な外見を装うことができます。また、高度に発達したこの仮想空間は現実世界の隅々までとリンクしており、データをコントロールすることで現実世界にも影響することができます。

パーソナルコンピューターとインターネットですらまだ普及していなかった80年代では、「マイクロチップの魔術師」が描画した仮想空間は時代を大きく先行していました。

「マイクロチップの魔術師」

Image Credit: Wikipedia

「マイクロチップの魔術師」

続いて、「メタバース」という言葉が初めて誕生したのは、1992年にアメリカのSF作家Neal Stephensonによって発表されたSF小説「スノウ・クラッシュ(Snow Crash)」でした。

小説の中で描かれた仮想空間(Metaverse)は、全周65,536kmにも及ぶ黒い球体の惑星を走る、幅100mの道路(The Street)に沿って開発された巨大な都市です。メタバースにおける土地は購入可能で、様々な建物を建てることができます。メタバース内の交通手段は、ストリートの全長を走るモノレールや、256km間隔で等間隔に配置された256のエクスプレスポート、1km間隔で配置されたローカルポートに停車するなど、現実と同様の徒歩や乗り物による移動に限られます。また、ユーザーは携帯端末やゴーグルなどを身につけてメタバースに接続し、一人称の視点でメタバースを体験できます。また、メタバースに接続したユーザーは様々な形態を持った化身=「アバター(avatar)」を通して登場できます。

時代を先行した「スノウ・クラッシュ」は「メタバース」という概念・言葉を広げただけでなく、ヒンドゥー教の概念・言葉である「アバター」も仮想空間における人々の「化身」として、人々に広く受け入れられました。

また、「スノウ・クラッシュ」はすでに多くのシリコンバレーのエンジニアや起業家にとって仮想空間のバイブルとなっています。例えば、ARユニコーン企業のMagic Leap社は作者であるStephenson氏をチーフフューチュリスト(Chief Futurist)として招き入れました。また、Google EarthのデザイナーであるAvi Bar-Zeev氏は「スノウ・クラッシュ」に触発され、後にGoogleの地図技術の基礎となる「Keyhole」の開発に携わっていた時に、Stephenson氏をオフィスに呼ぼうとしたこともあったと言います。

「スノウ・クラッシュ」

Image Credit: Wikipedia

2000年代半ば、第一回メタバースの波

また、「スノウ・クラッシュ」にインスパイアされて、2003年にアメリカのLinden Lab社による「セカンドライフ(second Life)」が誕生しました。

セカンドライフでは、ユーザーは自分でカスタマイズしたアバターを操作して、セカンドライフの広大な3Dの世界を歩き回ったり、他のアバター(ユーザー)とコミュニケーションできます。また、セカンドライフ内に流通していて、リアルマネーに換金することも可能である「リンデンドル」という仮想通貨を利用して、他のユーザーとの取引も可能です。

さらに、セカンドライフでは「スノウ・クラッシュ」で描かれているメタバースと同じように、仮想な土地は売買されたり、その上にクリエイテビティを発揮して様々な建物・オブジェクトを設置したりすることができます。ユーザーは現実世界と同じように、セカンドライフという仮想世界で自分の家を設計・建築したり、不動産を他のユーザーにレンタルしたり、売却したり、ひいてはお店やクラブ等として運営したりすることができます。中でも、Anshe Chungのような、大量な土地を購入して分譲住宅を建設し、最終的にセカンドライフを通して100万ドル以上の財産を築き上げたユーザーも現れました。

これのような出来事はビジネスウィーク誌等のメディアに続々取り上げられたことで、2006年半ばにセカンドライフは米国で注目を集めだし、数ヶ月で数十万だったユーザー数が500万人まで登り、さらに2007年に日本版も公開され、日本においても大きなブームを引き起こし、その後すぐに1,000万人ものユーザー数を達成しました。

Second Life 画面イメージ(HPより)

Second Life 画面イメージ(HPより)

Image Credit: Linden Lab

セカンドライフの勢いのおかげで、世界中に第一回メタバースブームが到来しました。

巨大な経済効果のポテンシャルを持つセカンドライフには、一般ユーザーだけでなく企業らも目を向けました。世界の企業らはこぞってセカンドライフでの土地を購入し、仮想空間における自社の「バーチャル拠点」として運営し始めました。

例えば、日本の場合、ブックオフのセカンドライフ店では、同社のCM動画がストリーミングで配信され続けるほか、本棚によって構成された迷路や、アバター用のオリジナルTシャツ等のコンテンツを配布していました。また、ミクシィは2008年度の新卒採用への施策として、採用情報を提供するバーチャルオフィスをセカンドライフにて設置しました。その他、三越、野村証券、ソフトバンク、HIS、NTTドコモ、テレビ東京、トヨタ等、数多くの有名企業が次々とセカンドライフに参入し、「メタバース」は大きく繁栄しているように見えました。

しかし、2007年に爆発的な人気を実現したセカンドライフは、1年で激しいユーザー離れを経験しました。

Googleトレンドの「second life」の検索数推移

Googleトレンドの「second life」の検索数推移

Image Credit: Google

振り返ってみるとその原因は多くありましたが、その中でも特に問題は2つでした。

1. 技術インフラの未成熟によるユーザー体験低下
3Dグラフィックで描かれている世界はもとよりパソコンのスペック要求が高い上、ネットワークの制限により当時のセカンドライフは一つの区画において同時接続できる上限は数十人まででした。セカンドライフは広大な空間を誇りますが、結局のところユーザーを分散させなければならずに、それぞれの空間は閑散してゴーストタウンとなり、ユーザー体験に著しく影響しました。 

2. インフレによる経済エコシステムの崩壊
大量のユーザー流入により、セカンドライフで発行されるリンデンドルの量が急激に増加してしまい、インフレが続いてしまいました。やがてバブルが崩壊し、メディアの記事を見て金稼ぎを狙ってセカンドライフにやってきたユーザーは一気に離脱しました。

こうして2009年頃には、第一回メタバースブームは沈静化してしまいました。セカンドライフも、現時点においても継続してサービス提供をしているものの、アクティブユーザーはピーク時の端数でしかありませんでした。

今、再び盛り上がる第二回メタバースの波

時代が進み、10年もの年月を経て、今メタバースが再び盛り上がりを見せています。その背景には2つのことがあります。

1つ目は、メタバースを支える技術インフラが徐々に成熟化していることです。
10年前と比べて、通信技術やパーソナルコンピューターが数世代の進化も遂げ、SNSの普及・浸透によりインターネット空間がよりリッチになり、UGC(User Generated Contents、ユーザーによって創作・提供されるコンテンツ)の文化も定着しました。さらに近年、AR、VRといったイマーシブテクノロジーもますます成熟化しており、メタバースにより近いデジタル世界を構築するほどのインフラが整いつつあります。

2つ目は、2020年から世界範囲で爆発した新型コロナウイルス感染症のことです。
この未曾有のパンデミックにより、世界各地はロックダウンが実施されている一方、仮想空間の存在感が再び高まったきっかけにもなりました。 

例えば、ニンテンドースイッチのゲーム「あつまれ どうぶつの森」は発売から6週間で1341万本を売り上げるなど、世界中で大ヒットを成し遂げました。現実世界ではソーシャルディスタンスが求められて隔離生活を強いられる中で、人々は仮想世界を通してソーシャルアクティビティを行っています。どうぶつの森の世界で自分の街を建設したり、パーティーを開き友人を招待したり、ファッション展覧会や卒業式、ひいては学術会議まで開催していました。

あつまれ どうぶつの森 プロモーションイメージ

Image Credit: Nintendo

ゲーム領域が旗振りをして、リアルとバーチャルの融合が知らずのうちに行われています。

もう1つの有名な事例として、マルチプレイのオンラインゲーム「フォートナイト(Fortnite)」はゲーム空間内において映画「インセプション」が上映されたり、現実世界のアーティストであるTravis Scott、マシュマロ等のライブパフォーマンスが実施されたりして、延べ3000万人以上の参加者を達成しました。

このように、近年ゲーム領域を皮切りに「メタバース」が再び盛り上がりを見せてくれたのは、もちろん新型コロナウイルスによる影響もありますが、それに加えて、一部のゲーム業界の大手やテックジャイアントらは以前から「メタバース」の構築に向けて布石を打ち続けていることも要因です。

中でも「フォートナイト」の開発・運営会社であるエピック・ゲームズ(Epic Games)はその好例であり、同社は以前からゲームの枠にとどまらずに、コンテンツ制作のためのゲームエンジンやコンテンツ流通のプラットフォームを提供すること等、「メタバースの構築」を意識してビジネス展開を実施してきたとされています。

Marshmello holds his first ever Fortnite concert live at Pleasant Park.

Image Credit: Marshmello

そして2021年3月、ユーザーがゲームを簡単にプログラムしたり、他のユーザーが作成したゲームをプレイしたりできるオンラインプラットフォーム「ロブロックス(Roblox)」が上場を果たしました。そのIPOの目論見書に「メタバース」という言葉が複数回も強調されて、これを機に「第二回のメタバースブームがいよいよ盛り上がるのではないか」と、業界内外から多くの期待が寄せられています。

Roblox プロモーションイメージ

Roblox プロモーションイメージ

Image Credit: Roblox

「メタバース」は、SNSの次に来る世界を変革できるコンセプトと見られています。インターネットの歴史を振り返って、80年代に誕生したPCインターネットから、2000年代から発展してきたモバイルインターネット、そしてソーシャルネットワーク、その次の形態はメタバースであると多くの人が目を光らせています。

フェイスブックの創業者兼CEOのザッカーバーグもメタバースを「次世代のインターネット」と強調し、フェイスブックはソーシャル・メディア会社からメタバース会社に転換するとしています。

一方、最近過熱した資本市場において「メタバース」というキーワードが有象無象に乱用されていることを見て、その上第一回メタバースブームの「失敗」もあった中で、メタバースについて懐疑的な見方を持つ人も少なくありません。この第二回のメタバースブームはどんな面白い展開になっていくか、楽しみです。

※レファレンス

1. Wikipedia-「Snow Crash」
https://en.wikipedia.org/wiki/Snow_Crash
2. Wikipedia-「True Names」
https://en.wikipedia.org/wiki/True_Names
3. THE SCI-FI GURU WHO PREDICTED GOOGLE EARTH EXPLAINS SILICON VALLEY’S LATEST OBSESSION
https://www.vanityfair.com/news/2017/06/neal-stephenson-metaverse-snow-crash-silicon-valley-virtual-reality
4. ITmedia - 「Second Life「企業が続々参入」の舞台裏」https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0708/23/news050.html
5. 「セカンドライフの“知らなきゃ恥ずかしい”常識2 すでに日本企業も続々参入」https://webtan.impress.co.jp/e/2007/08/06/1710
6. 東洋経済 - 「細田守がネット世界を「肯定」し続ける端的な理由 『竜とそばかすの姫』仮想世界で描く自由と恐怖」https://toyokeizai.net/articles/-/441282

この記事のライター

現在は外資系IT企業勤務。経営コンサルタントとしてXRビジネスの市場調査・市場開拓戦略支援・XRの新規事業の企画支援・ビジネスクリエーション・プロジェクトマネジメントなどを経験。VR技術者。Facebook Developer Circleメンバー。京都大学経済学部卒。

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