街中で身に着けている人も多く見かけるようになったスマートウォッチ。新型コロナウイルスの感染拡大後はデジタルデバイス全体の好調もあり、国内のスマートウォッチの販売台数が大きく伸びてきています。
今回は、現在のスマートウォッチ需要がどういった消費者ニーズによって引き起こされているのか調査、分析していきます。ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用い、スマートウォッチに興味関心を寄せるユーザーインサイトを深掘りし、最新の市場動向をキャッチしていきましょう。
「スマートウォッチ」検索者数は緩やかに上昇中
最初に、「スマートウォッチ」という語句の検索者数がどのように推移しているのか見てみましょう。
「Dockpit」で抽出した「スマートウォッチ」の検索ユーザー数推移
期間:2019年9月〜2021年8月
デバイス: PC・スマートフォン
上記、過去2年の「スマートウォッチ」の検索者数の推移のグラフを見てみると、緩やかに検索ユーザー数が上昇している様子が見て取れます。
特に、コロナ第1波が起きた2020年春以降、元々30万ユーザーほどだった検索数が上昇し始め、現在では40万弱~50万弱の月間ユーザー数で推移しています。これは冒頭でお話しした、コロナ禍におけるデジタルデバイスの販売拡大が影響しているものと思われます。
■意外にも高年代ユーザーからの興味関心が高い
「スマートウォッチ」検索者のユーザー属性を深掘りしてみましょう。Dockpitにて「スマートウォッチ」の検索ユーザーの性別と年代のデータを抽出します。
「Dockpit」で抽出した「スマートウォッチ」検索ユーザーの「性別」「年代」の割合データ
期間:2019年9月〜2021年8月
デバイス: PC・スマートフォン
性別のデータを見ると検索者の65.2%が男性で、女性よりも男性からの関心が高いことが窺えます。筆者の個人的な印象では男女比半々ほどで利用者がいそうだと思っていたため、ここまで女性割合が低いのは意外な結果でした。
また、年代に関しても意外な結果が返ってきており、ネット利用者全体と比較すると10~20代の若者よりも、40~60代の年配層が比較的関心を持っているようです。
スマートウォッチと聞くと、どうしても"ウェアラブルデバイスを駆使する若者たち"のイメージが先行してしまいますが、例えば心拍数や血中酸素濃度などを計測できるモデルでは、家族が離れて暮らす高齢者のための「見守りツール」として活用するニーズもあり、健康管理のサポート役として中高年からの興味・関心が高いのかもしれません。
■「健康管理」「電子決済」等へのニーズが大きい
続いて、Dockpitから「スマートウォッチ」と合わせて検索されている語句を俯瞰できる、ワードネットワークも出力してみます。
「Dockpit」で抽出した「スマートウォッチ」検索ユーザーの「ワードネットワーク」のデータ
期間:2019年9月〜2021年8月
デバイス: PC・スマートフォン
上記ワードネットワークより、掛け合わせで検索される語句としてまず目立つのは、「おすすめ」「ランキング」といった商品比較を想起させるワードです。そして、これら語句の複合ワードには「安い」「女性(レディース)」「2020(年)」といったものが登場しています。
近年のスマートウォッチ市場の盛り上がりから、「Apple」「Fitbit」「Huawai」といった有名メーカーだけに留まらず、国内外のメーカーから多種多様なモデルが毎月のように発売されています。こうした商品数の増加が消費者の比較検討を推し進め、「自分がどのスマートウォッチを買うべきか」という品定めを誘引していると想像されます。
同じく頻出しているジャンルとしては、「血圧」や「血中酸素濃度」、「睡眠」といったヘルスケア分野のワードがあります。様々な語句と結びついている様子を見ると、日々の健康管理の補助としてスマートウォッチを検討している層が厚いことがわかりますね。
その他、「電子マネー」「SUICA」等の電子決済ツールや、「ロードバイク」「ゴルフ」といったスポーツ・アクティビティへの利用を考えるユーザーも多そうです。
総括すると、まず大きいのが「健康管理」への用途(おそらく、広義ではスポーツ用途もここに含まれます)、次点で「電子決済」を始めとした日常生活のための便利ツール…といったニーズでスマートウォッチへの興味関心は構成されており、これら要素を比較して自身の購入すべきアイテムを見極めたい、といった消費者心理がうかがえるのではないでしょうか。
特に、「健康管理」の文脈ではコロナ禍で運動不足を気にする消費者が増え、スマートウォッチを活用したヘルスケアを思い立つユーザーが増えていそうです。
国内のシェア上位である「Apple Watch」対「Fitbit」の競合分析
MM総研が2020年に発表しているデータによれば、2019年度の国内のスマートウォッチの販売数シェアは、「Apple」が1位で「Fitbit」が2位となっています。そこでこの2つの上位シェアを持つメーカーを比較し、それぞれのユーザーの特徴について分析してみましょう。
まず2つのメーカーサイトへ訪れているユーザーの併用状況をDockpitで確認します。
「Dockpit」で抽出した「Apple」「Fitbit」のサイト流入ユーザーの「併用ベン図」データ
期間:2019年9月〜2021年8月
デバイス: PC・スマートフォン
「Apple」と「Fitbit」の双方のサイトへ訪問しているユーザーは、全体の5.4%に留まります。同じスマートウォッチの上位シェアメーカーながら、両者を比較検討しているユーザーはそれほど多くない印象です。どうやら2つのメーカー商品に関心を寄せるユーザー層は被っているわけではなさそうだと考えられます。
要因の1つとしては、そもそもApple WatchはiPhoneとリンクさせることで使用できる機能が多いため、iPhoneユーザーがスマートウォッチの購入を検討する際は順当にApple Watchを選択肢に考えるのでは、というものがあります。さらにユーザー層の差異を分析するため、「Apple Watch」と「Fitbit」のサイト接触者が関心を持つワードから、それぞれのユーザーをクラスタリングし分析してみましょう。
上記はApple Watchに関心を寄せる層をクラスタ分けしたデータです。このクラスタ内には「アパレル・ブランド好き」なユーザーが一定数おり、「ベイクルーズ」や「ナノユニバース」「エルメス」といったブランド志向なユーザーが属しています。
また、普通のユニクロではなく「ユニクロ+J」というデザイナーズ・ブランドが登場していることからも、オシャレやスタイリッシュさを嗜好する層が、Apple Watchを選択していると考えられます。
一方、「Fitbit」サイト接触者には「健康管理意識が高いクラスタ」が属します。登場している語句を見ても、「体重計」や「健康管理」「ヘルスケア」といったものが多い様子です。
「Fitbit」製のスマートウォッチの大きな特徴が「フィットネストラッカー」であるため、Apple Watchよりも、健康管理に大きく意識が向いているユーザーが母体になっているのは必然と言えるでしょう。
日本国内での大きなシェアを持つ2つのメーカーですが、このように興味・関心層の違いが生まれるのは興味深いです。加えて、まったく違うユーザー層を取り込んでいるスマートウォッチという製品の、今後の領域拡大の可能性も感じます。
多様なニーズに合わせた商品がしのぎを削るスマートウォッチ市場
国内のスマートウォッチ市場はコロナ禍でブーストがかかり、引き続き拡大していきそうな見込みです。今回の分析では現状「健康管理」や「電子決済」といった用途への利用ニーズが高いという結果になりましたが、多様な機能で幅広いユーザーに応えられるスマートウォッチは、今後さらに新たな市場を開拓していくように感じました。
一見して時代を先取りしていそうな機能を備えた新モデルが発売されても、数年後にはそれが爆発的に広まってマーケットを構築しているかもしれません。続々と世に出続けるスマートウォッチの最新動向は、今後もチェックし続ける価値がありそうです。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2019年9月〜2021年8月
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
国内大手の採用メディア制作部を経てフリーライターとして独立。現在はWebマーケティング、就職・転職、エンタメ(ゲーム・アニメ・書籍)等の各種メディアにて記事制作を担当。「マナミナ」では一人でも多くの読者に楽しく読んでもらえるマーケティングコンテンツを提供していきます。