人の心理に迫る行動経済学 心理学とはなにが違う?

人の心理に迫る行動経済学 心理学とはなにが違う?

行動経済学の理論のひとつに「プロスペクト理論(人は損失を過大に評価する傾向があり、実際の損得と心理的な損得は一致しない)」というものがあります。経済学や経済行動に心理学を交えて分析する行動経済学ですが、こうした理論は心理学とはどのように違うのでしょうか。行動経済学と心理学の違いを解説していきます。


行動経済学=経済学+心理学

行動経済学=経済学+心理学

一般的な経済学では、物事を一般化・抽象化するために、人は常に自分の利益を最大化する意思決定を行うという「合理的経済人」の前提を置いています。これに対し、実際の購買行動では、売り切れ間近!と言われると必要もないのに買ってしまうなどの合理的ではない行動が見られます。

「行動経済学」の基本は、「経済学」に人間らしいと言える非合理さ、言うなれば心理学的なアプローチを加え、人が経済行動においてどのように考えどのように行動するかを理論化しようとするものです。

行動経済学がマーケティングなどで注目される理由は、どの業界も成熟が進み他社との差別化を図りづらい状況が挙げられます。こうした状況において、「経済的な報酬や罰則などの手段を用いるのではなく、人が意思決定する際の環境をデザインし、自発的な行動変容を促す」という行動経済学の理論が差別化の実現につながる、として注目を集めています。

さらに、公共政策の分野でも、報酬によるインセンティブや刑罰によらず目的を実現できる点が注目され、政策に取り入れられる動きも出てきています。

マーケティングで活用がすすむ「行動経済学」とは?

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経済学や経済行動に心理学を交えて分析する「行動経済学」。サンクコストや現状維持バイアスなど有名な理論も含まれ、2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞し、さらに注目を集めるようになりました。今回は、行動経済学と経済学の違いから行動経済学をビジネスやマーケティングにどのように落とし込んで実践するかを解説します。

行動経済学と比較される心理学とは?

行動経済学と比較される心理学とは?

心理学は、深層心理なども含む人の心の動きや行動、言動のパターンを研究するもので、「行動の科学」とも呼ばれたりもします。心理学は大別すると「基礎心理学」と「応用心理学」の2つから成り立っています。

基礎心理学

「心」のメカニズムを科学的に解明するため、心理学的な実験・研究を行うのが基礎心理学です。心、つまり脳で行われる情報処理やその実行、つまり行動を実験で分析し、人の大半が持っているであろうとする「心」を一般的な法則とし、それについて理論的に研究、解明を目指した学問となります。

基礎心理学の代表例として「生物(生理)心理学」「発達心理学」「学習心理学」「人格心理学」「社会心理学」があります。

応用心理学

応用心理学は、基礎心理学で得られた結果を、実生活の場などさまざまなシーンで役に立つよう研究する学問です。具体的な分野としては政治、経済、産業、教育から、スポーツや恋愛までが考えられます。

「産業心理学」「臨床心理学」「犯罪心理学」「教育心理学」「認知心理学」「スポーツ心理学」などが応用心理学の代表例です。

行動経済学と対比される心理学は「社会心理学」

基礎心理学のひとつ「社会心理学」は、行動経済学と対比される場合があります。

この社会心理学は、社会などの集団がその構成員である個人の心理や行動にどのような影響を与え、またその個人が社会にどのような影響を与えるのか、という相互作用を明らかにすることを目標とした学問です。

そして、社会心理学の理論と実験は、私たちの心理や意志といったものが思わぬメカニズムで決定されている可能性を示唆しています。この部分が行動経済学と重なる部分で、マーケティング分野でも活用できる可能性があります。

社会心理学の理論が行動経済学との違いを知るヒントになる?

社会心理学と行動経済学の違い

以下、社会心理学の代表的な理論を3つ紹介します。これらを知ることで、心理学はあくまでも「人の心の動き」を研究しているものだと理解しやすいでしょう。心理だけではなく、それを人の行動変容にどのように活かすかまでを考える行動経済学との違いをイメージしやすくなるはずです。

ヒトの行動を考えるときに有用かもしれない3つの社会心理学の理論

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社会と個人の相互作用に焦点を当てる「社会心理学」。「ヒトの行動を考える」シーンはマーケティング活動において必ず発生します。社会心理学がマーケティング戦略を考える際にどのように使えるのか、行動経済学との関わりも示しつつ、社会心理学の3つの理論「認知不協和論」「リベットの実験」「少数派影響論」について解説します。

リベットの実験

ビジネスシーンではよく「意志決定」という言葉が使われますが、そもそもの「意志」とは何でしょう。

私たちは普段、何をするにしても自分の自由意志が体を動かすと思っている方が多いかもしれません。コップの水を飲むときには、(コップの水を飲もう)とまず考えて、コップに手を伸ばし、水を飲む、という、脳からの司令が行動を起こす……と考えるのが一般的です。

しかし、ベンジャミン・リベットという生理学者の行った実験によって、この感覚が誤りである可能性が示唆されています。リベットは彼が行った実験に基づき、意志が発生するのは行動が起こった後であると主張しました。

この主張は不思議な感覚に陥りますが、脳の運動指令と意志はほとんど同時に生まれるため、私たちは意志を持つ前にすでに行動してしまっているということに気づいていないだけだということになります。

行動が生まれたあと、意志が後付けのように意識される。すなわち、意志とは、私たちの感覚とは異なるメカニズムで作用するものなのかもしれない、とするのが、このリベットの実験です。

意志の形成を深掘る「認知不協和論」

レオン・フェスティンガーが唱えた「認知不協和論」の骨子は、イソップ物語のキツネとぶどうの逸話にて見ることができます。キツネは「ぶどうが欲しい」「ぶどうは手に入らない」という矛盾した認知に苦しむことになります。このキツネが置かれているような苦境が、社会心理学において「認知不協和」と呼ばれる状態です。

ぶどうが手に入らないとわかったキツネは「あんなもの、どうせ酸っぱいに決まっている」と負け惜しみを言います。これは「ブドウは酸っぱい(まずい)」という理屈を追加することによって、「ブドウが欲しい」という認知を「(酸っぱいので)ブドウは欲しくない」に変更します。

この考え方を突き詰めると、「人は自覚的には意志によって行動を起こしていても、実際は外的要因で行ったことに理由を後付けして、それをあたかも自分の意志であったかのように納得している場合がある」という、常識に反する結論につながります。

意見はどのように変わっていくのか?「少数派影響論」

社会心理学者のセルジュ・モスコヴィッシは、多数派の意見と少数派の意見は、そのあらわれ方が異なるだけで、どちらにも影響力があると唱えています。

多数派の意見はその多数派の人々がいるところでは大きな威力を発揮し、少数派の意見は見向きもされません。しかし、家に帰るなどして一度多数派の存在が感じられない環境に身をおくと、多数派であるという理由で選択した意見は力を失い、少数派の人々が言っていたことが気になり始めます。そしてこの時、それが少数派の意見の影響であるということは往々にして自覚されず、あたかも自分で思いついた意見であるかのように錯覚してしまいます。

多数派の影響は社会において表面的に表れやすいけれども、本心には影響を与えず、また多数派影響は時間とともに色あせるとされています。一方で、少数派影響は、表面的には現れないけれども、こっそりと本音の意見を変えていきます。また、その変化は無意識に及び、さらに時間がたてばたつほど存在感を増していくとされています。

ここまで紹介した社会心理学の各理論の詳細は、以下のリンクにて詳しく紹介しているので、ぜひご一読ください。

プロスペクト理論とは?ビジネスに応用する行動経済学理論

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行動経済学のプロスペクト理論は「損失回避性」とも呼ばれます。「期間限定」や「もう一品で○円」などは、それを使わないと損するのではという心理が働くと説明できます。こうしたプロスペクト理論の基礎からビジネスへ応用する方法を説明します。

ヒトの行動を考えるときに有用かもしれない3つの社会心理学の理論

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社会と個人の相互作用に焦点を当てる「社会心理学」。「ヒトの行動を考える」シーンはマーケティング活動において必ず発生します。社会心理学がマーケティング戦略を考える際にどのように使えるのか、行動経済学との関わりも示しつつ、社会心理学の3つの理論「認知不協和論」「リベットの実験」「少数派影響論」について解説します。

行動経済学の理論を知ればさらに心理学との違いを明確に理解できる

行動経済学を一言で表すなら「意思決定の仕組みを分析」となります。その中の代表的な理論を知ると心理学との違いを把握しやすいので、ここからは行動経済学の代表的な理論を紹介します。

損失を回避する意思決定をしがちな「プロスペクト理論」

プロスペクト理論とは、人は損失に対して過大に評価する傾向があり、実際の損得と心理的な損得は一致しない、という理論で、別名「損失回避性」とも呼ばれます。

最大利益より目先の利益を優先してしまう「現在バイアス」

現在バイアスとは、未来にある大きな利益を得られる可能性よりも目先の小さな利益を優先してしまう心理を指します。

利他的行動も取る「社会的選好」

社会的選好とは、人の行動が他人の状態を考慮する、もしくは、相手に合わせて行動する、つまり自分以外の状況を見て行動することを指します。

先入観や経験から答えを導き出しがちな「ヒューリスティックス」

ヒューリスティックスとは、経験則や先入観から最適解を導き出そうとする理論です。

これらの理論について、以下のリンクで解説しているので、併せてご一読ください。

行動経済学の“使い方”は?マーケティングから政策まで

https://manamina.valuesccg.com/articles/1435#outline13

経済学に心理学をミックスして経済活動を分析する「行動経済学」。報酬や罰則以外の方法で意思決定を誘導できる手段として、ビジネスはもちろん政策分野にも導入が進められています。行動経済学がなぜ注目され、どのような使い方が想定されているか解説します。

まとめ

心理学と経済学をミックスしたものとして登場した行動経済学。心理学、なかでも基礎心理学のひとつである社会心理学と似ている部分があるためにその差異がわかりづらくなっているかもしれません。

しかし、社会心理学はあくまでも人の「心」を知ろうとする学問で、行動経済学はそれをさらに発展させ、「意思決定の仕組みを分析」するものと言えます。

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