2022年1月に入ってからTwitterでよく目にする、灰、緑、黄の四角形が並んだ謎のツイート。初めて見たときは「なんだこれ?」と思った方も多いのではないでしょうか。
今では”おなじみ”になりつつあるこのようなツイートは、Josh Wardle氏が開発した言語ゲーム『Wordle』のプレイ結果のシェアツイートです。
「Wordle」はいわゆる単語当てゲームで、お題(5文字の英単語で、1日1個のみ設定される)の単語を当てていくシンプルなゲームです。6回のトライの内にお題の単語を当てることができればゲームクリアという仕様で、トライするごとに入力した5文字のアルファベットのうち、お題の単語に含まれているアルファベットには色がつきます。黄色は”お題に含まれているが場所が違うアルファベット”、緑色は”お題に含まれており、かつお題と同じ位置にあるアルファベット”、灰色は”お題に含まれていないアルファベット”を意味しています。
プレイ後には自分のプレイの棋譜をSNSなどでシェアできます。Wordleを知らない人がみると「なんだこれ?」という感じですが、プレイヤー同士なら「あー最初の1文字がずっと分からなかったのか」「いきなりこんなに分かるなんてスゴイ!」のような”知っている人同士のみ伝わる”ようなシェアの設計になっています。
「Wordle」は2021年10月に一般公開され、2022年1月2日時点でMAUは30万人となっているそうです。日本でも1月に入ってから人気に火がつき、Twitterでよく見かけるようになりました。今では日本語版の『WORDLE ja』や、ポケモンの名前を当てる『ポケモンWordle』などの二次創作もみられています。
今回はヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用いて、Wordleの日本国内のユーザー数や、どんな人がWordleをプレイしているのかを調査しました。
「Wordle」検索者は2か月で約25万人に急増
まずは、「Wordle」と検索したユーザー数の推移をみてみます。
「Wordle」検索ユーザー数の推移
期間:2021年12月~2022年2月
分析ツール:Dockpit
ユーザー数は12月の時点ではほとんどみられませんでした。Wordle自体は10月から一般公開されていたものの、日本で関心が高まってきたのは2022年1月以降のようです。また、1月から2月にかけてユーザー数が約2倍に増加していることから、Wordleの認知拡大のスピードの速さがうかがえます。
続いて、「Wordle」と検索していたユーザーがどのようなキーワードで検索していたのかを確認してみます。
「Wordle」検索ユーザーの検索キーワードランキング
期間:2022年1月~2022年2月
分析ツール:Dockpit
「Wordle」のみのキーワードで検索しているユーザーが大きなボリュームを占めています。平均滞在時間が1分以上であることから、おそらくそのままWordleのゲーム画面に遷移し、Wordleをプレイしている人が多いのではないでしょうか。
2月以降に検索数が増加しているキーワードには、「Wordle 日本語」や「ポケモン Wordle」などの派生版のWordleに関するキーワードが見られました。特に「ポケモン Wordle」は平均滞在時間が約4分(本家Wordleの倍以上)となっています。私もポケモン版Wordleをプレイしてみましたが、ポケモンWordleは非常に難易度が高く、10分以上かけても結局答えがわからず、断念してしまいました。
また、Wordleはプレイ方法を説明するようなチュートリアルはなく、いきなりゲームがプレイできる仕様なため、「Wordle とは」「Wordle 遊び方」「Wordle やり方」など、そもそもWordleとは何か、みんなはどうやってプレイしているのかといった"さぐる"検索動機も見受けられました。
【関連】「バタフライ・サーキット」が示す情報探索動機と、消費者に刺さるクリエイティブのつくり方とは?〜 デジタルマーケターズサミット
https://manamina.valuesccg.com/articles/1715ヴァリューズがGoogleと博報堂との共同研究で発案した情報探索行動モデル「バタフライ・サーキット」。2月28日に開催されたデジタルマーケターズサミットでは、「化粧品の購入」をテーマに実施したアンケート調査と消費者Web行動ログの分析から明らかにした「バタフライ・サーキット」の実態と、施策への応用方法が紹介されました。
消費者の検索行動についての情報収集モデルが「バタフライ・サーキット」。「さぐる」と「かためる」のモチベーションを、消費者が行ったり来たりするとしたこのモデルについては、上記の記事で解説しています。
「Wordle」を実際にプレイした人はどれくらい?
続いて、Wordleを実際にプレイした人数を探るべく、ゲーム画面に訪問したユーザーを調査します。Wordleは1月31日に米The New York Timesに買収され、その前後でURLが変わっているため、今回は両方のURLを対象に調査します。
買収前:www.powerlanguage.co.uk/wordle/
買収後:www.nytimes.com/games/wordle/index.html
※2月以降にwww.powerlanguage.co.uk/wordle/ に訪れたユーザーはwww.nytimes.com/games/wordle/index.html
にリダイレクトされています。
Wordleのゲーム画面に訪問したユーザー数の推移
期間:2021年12月~2022年2月
分析ツール:Dockpit
1月から2月にかけて、「Wordle」検索ユーザーは約2倍に増加していましたが、実際にWordleのゲーム画面に訪れたユーザー(以後、「Wordle」プレイヤー)の増加率は約1.4倍となっています。
Wordleが気になって調べてみたものの、実際にプレイはしていない、という人も多いようです。
「Wordle」を実際にプレイした人にはどんな特徴が?
続いて、「Wordle」プレイヤーの特徴をデモグラフィック属性(性年代、居住地域、世帯年収)から調査してみます。
「Wordle」プレイヤーの性別比率
期間:2022年1月~2022年2月
分析ツール:Dockpit
「Wordle」プレイヤーの年代別比率
期間:2022年1月~2022年2月
分析ツール:Dockpit
「Wordle」プレイヤーの世帯年収別比率
期間:2022年1月~2022年2月
分析ツール:Dockpit
青色が買収前のWordle、ピンク色が買収後のWordleのページに訪れたユーザーの特徴を示しています。買収されたのは1月31日なため、ざっくりと青色が1月のWordleプレイヤー、ピンク色が2月のWordleプレイヤーの特徴として捉えられそうですが、性年代、世帯年収の観点からは両者に大きな違いはみられません。
性年代の点では、男性の割合が7割以上、20代の割合が50%強、30代の割合が20%弱となっており、若年層の男性に特徴的に利用されている様子がみられました。
世帯年収別の割合では、ネット利用者全体の構成比と比較して高い割合となっているのは、世帯年収400万円未満と、1000万円以上のユーザーでした。Wordleは20代の利用率が高い特徴があり、その中には学生のユーザーも一定数いるはずです。世帯年収400万円未満の割合が高いのはこの若年層の比率の高さが起因していそうです。
世帯年収1000万円以上の高所得者層の利用率が高いのも面白いポイントです。一見謎なシェアツイートをみて「これはなんだ?」と調べて行動に移すような知的好奇心の高い層やトレンドへの関心が高い層に刺さったのではないでしょうか。
ニュースやブログ系メディアに関心
続いて、「Wordle」プレイヤーがどんなサイトに関心があるのかを調査し、人物像をさらに深掘っていきます。
「Wordle」(www.powerlanguage.co.uk/wordle/)
プレイヤーの関心サイト
期間:2022年1月~2022年2月
分析ツール:Dockpit
▼リーチ差の計算式
リーチ差 = リーチ率 ー 一般リーチ率
▼リーチ率、一般リーチ率の定義
リーチ率:指定した対象サイトに訪問していたユーザーのうち、当該サイトを訪問していたユーザーの割合
一般リーチ率:全国のインターネット利用者のうち、当該サイトを訪問していたユーザーの割合
こちらは、「Wordle」プレイヤーの関心サイトを”リーチ差”順に並べたランキングです。リーチ差は上記の定義で算出されており、 全国のネットユーザーと比較して、「Wordle」プレイヤーが特徴的に訪問しているサイトを可視化することができます。
関心サイトは大きく、ブログメディア(note、FC2 ブログ、アメーバブログ、Qiita、livedoor ブログなど)、SNS(主にTwitter)、ニュースメディア(Yahoo!ニュース、マイナビニュース、ITmedia、日本経済新聞など)の3つに分類できそうです。
下図は関心サイトをブログメディア、SNS、ニュースメディアの3つに分類したものです。
関心サイトからみる「Wordle」プレイヤーの特徴
ブログメディア
特に大きな特徴がみられたのはnoteでした。他にも、FC2 ブログ、アメーバブログ、Qiita、livedoor ブログなどのブログメディアも上位にみられました。
こちらは、各ブログメディアでのWordleに関するブログの一例です。
各ブログメディアの「Wordle」クエリの検索上位ページ
各ブログサイトでは、Wordleの攻略法や体験記などのブログが多く見られました。ブログを通して”そもそもWordleとは何か”を知ったり、Wordleの攻略法を調べたりしている人が多いのかもしれません。
SNS
WordleはTwitterでのシェア投稿を通して広まったこともあり、「Wordle」プレイヤーはFacebookやInstagramなどの他のSNSと比較してTwitterを特徴的に利用しているようです。
ニュースメディア
Yahoo!ニュースやマイナビニュース、日本経済新聞などのニュースメディアも特徴的に利用している傾向がみられました。先ほどのブログメディアと同様、これらのニュースサイトでもWordleに関するニュース記事がいくつかみられていることから、「Wordle」プレイヤーはWordleに関するニュースもチェックしている人が多いのではないかと思われます。
この結果を踏まえた上での仮説として、「Wordle」プレイヤーの一連の行動ではたとえば下記のようなものが考えられます。
1.Twitterのタイムラインで「Wordle」という謎のワードを知る
2.検索エンジンで「Wordle とは」などと検索して、ニュースサイトや体験ブログを訪問する
3.実際にWordleをプレイする
4.どういう風にプレイするのが効率的なのか気になり、攻略法に関するブログを閲覧する
知的好奇心の高い層やテック系業界層に親和性が高い
続いて、”特徴値”の高い関心サイトを調査し、「Wordle」プレイヤーの人物像を深掘っていきます。特徴値は下記の定義で算出されており、規模が小さいながらも対象者に親和性の高いサイトを可視化することができます。
「Wordle」(www.powerlanguage.co.uk/wordle/)
プレイヤーの関心サイト(特徴値ランキング)
期間:2022年1月~2022年2月
分析ツール:Dockpit
■各サイトにおける特徴値の計算式
特徴値 = 指定したサイトへ訪問し、かつ当該サイトへも訪問した人数 ÷ 当該サイトの訪問者数
例として、「サイトA」を入力して検索した場合の「サイトB」の特徴値の計算方法は、
「サイトA」を訪問し、かつ「サイトB」も訪問したユーザー数 ÷「サイトB」を訪問したユーザー数
となります。
上記の関心サイトランキングからは、「Wordle」プレイヤーの”知的好奇心の高さ”と”IT業界、特にテック系業界との親和性”が見受けられました。
最も特徴値の高いサイト「RIDDLER(リドラ)」は、謎ときクリエイターである松丸亮吾氏が代表を務めるRIDDLER株式会社のサイトです。”謎解き”に関する様々なコンテンツを発信しています。
続いて、自分でクイズをつくったり答えたりできる「クイズメーカー」、”あなたの知らない沼がある”をキャッチコピーとする楽天グループのメディアサイト「ソレドコ」などがランクインしていることからも、”知的好奇心の高さ”がWordleプレイヤーの特徴の1つと言えそうです。
また、「ITnews」「paiza開発日誌」「paiza」など、IT業界、特にエンジニア向けのテック系メディアにも特徴がみられました。
「The Vearge」「The Guardian」「The New York Times」などの海外のニュースメディアにも特徴がみられました。「The New York Times」はWordleを買収したことも影響していそうですが、Wordleプレイヤーには海外の最新動向への関心が高い人も多いようです。
Wordleプレイヤーの分析まとめ
ここまでの分析結果からみえてきた、「Wordle」プレイヤーの人物像を下記にまとめます。
<Wordleプレイヤーの人物像>
デモグラフィック | 性別:男性の割合が7割以上を占める 年代別:20代が50%強、30代が20%弱と、若年層の割合が高い 世帯年収別:400万円未満、1000万円以上の割合が高い |
サイコグラフィック | 知的好奇心が高い テック業界に親和性が高い 海外の最新トレンドに関心がある |
Wordleは、無駄を省いたシンプルなゲーム設計と、「なんだこれ?」とついつい気になってしまうシェアの”謎フォーマット”の設計で、ものの数か月で急速に広まりました。その特徴的なSNS上での拡散は、1つのケーススタディとしても着目したいところです。今回の調査が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
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▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えます。Dockpitには無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
2022年4月に新卒としてヴァリューズに入社しました。それまでは大学院でダイヤモンド半導体について研究しつつ、ヴァリューズの内定者アルバイトとして働いていました。