自動車サブスク業界のこれまでの動き
近年の「所有よりシェア」の動きやコロナ禍の影響もあり、自動車についても自ら所有することなくサブスクリプションサービスが浸透してきています。以下ではこの市場を切り開いてきた自動車サブスクサービス「KINTO」に加えて、代表的なサービスである「NISSAN ClickMobi(クリックモビ)」「Honda マンスリーオーナー」の3サービスを軸に、黎明期から現在に至るまでの市場状況をデータを用いて分析していきます。
まずは3サービスのこれまでの動きをまとめておきましょう。トヨタグループの提供する「KINTO」が、2019年1月にサービスを開始したところから車のサブスク市場が誕生。そしてKINTOに遅れること約1年、2020年1月にホンダが「マンスリーオーナー」を開始し、同年3月に日産が「クリックモビ」をスタート。共に自動車サブスクの黎明期を形作ってきたと言えます。
その後、コロナ禍で外出自粛が始まり、「自家用車の普段使いが減った」という層からも注目を集める形で、自動車サブスク市場は拡大。直近のニュースとして、2022年半ばからはKINTOが中古車のサブスクも提供開始する予定となっており、半導体不足やコロナ禍で新車の納車遅れが起きている現状に対し、「つなぎで一時的に乗用車を確保したい」という消費者の需要にも応えていくことが期待されます。
また、欧米では日本よりも早期に各メーカーのサブスクリプションモデルが試験的に開始され、現在でも一定の普及を見せています。2017年にはポルシェが「ポルシェパスポート」、ボルボが「Care by Volvo」をそれぞれスタート。ボルボは「SMAVO(スマボ)」の名称で、いち早く欧米展開と同時期から日本でのサービス提供も行っています。
このように、いわゆる「外車」と呼ばれる高級自動車メーカーにおいても、サブスクリプションのモデルが提供され始めました。そのため今後、自家用車を所有するランニングコストを減らす、一時利用する車が欲しい、といったニーズとは別に「自分では買えない高級車をサブスクで利用したい」といった、ラグジュアリーな嗜好を持つユーザーも利用者として浮上していきそうです。
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自動車サブスク市場の過去3年をDockpitで振り返る
前章で自動車サブスク市場の現状を書いてきましたが、国内メーカーが過去3年で辿ってきた市場の変遷はどのようなものだったのでしょうか。「KINTO」「クリックモビ」「マンスリーオーナー」の3サービスのデータを、行動ログ分析ツール「Dockpit」を使って調べていきましょう。
はじめに、業界の黎明期にあたる「2019年4月~2020年9月」の、各サービスWebサイトへのユーザー訪問数です。
「KINTO」「クリックナビ」「マンスリーオーナー」の訪問ユーザー数の推移(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2019年4月〜2020年9月
デバイス: PC・スマートフォン
3サービスのWebサイトユーザー数を比べると、KINTOはサービス開始から順調にユーザー数を伸ばしている様子です。特に、2019年末から2020年始めにかけては、平均30万人程度だった月次訪問者が、40万人を超えて推移し始めています。おそらく、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、自動車サブスクに関心を寄せる人が増えたことが影響しているのではと考えられます。
一方、クリックモビでは市場黎明期の2019年5月に、一時的に訪問ユーザー数が上昇していました。これはクリックモビが正式ローンチ前に東海エリア限定で、試験的なサービス展開を行っていた影響です。
次に、直近の2020年10月~2022年3月のサイトユーザー数も見ていきます。まずはクリックモビとマンスリーオーナーのデータからです。
「クリックナビ」と「マンスリーオーナー」のユーザー数推移(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2020年10月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
2サービスのサイトへの訪問ユーザーは、先ほどの期間と同様に10万ユーザーを超えない水準で推移している様子です。全体的にクリックモビのユーザーがやや多いですが、その差は数千~数万ユーザー程度となっています。
なお、2021年5月にはマンスリーオーナーのユーザー数が一時的に跳ねていますが、このタイミングで「楽らくまるごとプラン」という新しいサブスクプランも開始しているため、その報道が増えた影響がありそうです。
両者の集客構造の違いも見てみましょう。
「クリックナビ」と「マンスリーオーナー」の集客構造(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2020年10月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
サイトへの集客経路は、クリックモビは「ソーシャル」や「ディスプレイ広告」「メール」が多く、マンスリーオーナーは「自然検索」や「リスティング広告」が多い様子です。この状況を見ると、クリックモビは自動車サブスクの潜在層、マンスリーオーナーは顕在層のユーザーへのアプローチをそれぞれ重視していそうです。
つづいて、同期間のKINTOのデータです。
「KINTO」のユーザー数推移(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2020年10月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
KINTOは前期間のデータで月間40万ユーザーを超えて推移し始めたことに触れましたが、その後もコロナ禍で順調に訪問者を増やし、2021年8月には月間100万ユーザーのサイトアクセスを記録しています。以後も他2サービスと比べ、数倍のアクセス数を維持しているのがわかります。
この好調要因はどこにあるのでしょうか。KINTOの集客構造を見てみます。
「KINTO」の集客構造(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2020年10月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
KINTOの集客構造は、「自然検索」や「リスティング」といった顕在層へのアプローチも、「ディスプレイ」や「メール」といった潜在層へのアプローチも、同程度の割合でバランス良く実施されている印象です。どちらかへの偏りが無く、幅広いチャネルで利用者を増やしていこうとする取り組みがありそうですね。
また、利用ユーザーの年代に関しても、他の2サービスと比べて偏りが少ない様子が見て取れます。
「KINTO」「クリックナビ」「マンスリーオーナー」の訪問ユーザーの年代(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2020年10月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
上記グラフを見ると、クリックモビは20代~30代の若年層の利用が少なく、60代のユーザーの割合が高いです。反対に、マンスリーオーナーは若年層の利用が比較的多いですが、70代以上の高齢者は割合が少なくなります。そして、2サービスと比べて、KINTOは若いユーザーから高齢のユーザーまでバランスの良い割合で集客し、「ネット利用者全体」のグラフとも近しい軌跡を描いている印象です。
こういった、集客チャネルの豊富さや各年代へバランスよくリーチできている点が、KINTOへの訪問ユーザー数が大きく伸びている要因の1つなのではないでしょうか。
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分析のまとめ
自動車サブスクの3サービスを通じて市場調査をしてきましたが、最も好調にユーザーを集めるKINTOの状況を見ると、バランス良く幅広い年代別にアプローチをしている点が特徴的でした。
とはいえ、自動車サブスク市場はまだまだ始まって数年の黎明期です。KINTOのような成功ケースはありつつも、元々ニーズ的に成熟した顧客がプールされたマーケットではありません。事業者は「どの年代に、どういうアプローチで車のサブスクをPRするか」という点を探りながら事業活動を進めていく必要があるでしょう。
むしろ、その試行錯誤を行った結果として、現状のKINTOが全年代のユーザーをバランスよく囲えている状況にあるのかもしれません。どういう用途で、どういう人が使うべきサービスなのかを顧客と一緒に考え、今後の市場を成長させていくべきフェーズにあるのではと思います。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2019年4月〜2022年3月
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えます。Dockpitには無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
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