インバウンド消費
新型コロナの影響もあり、外国人観光客の来日は少ない状況が続いています。観光客が大挙して日本に押し寄せていた頃、特に銀座が好きな彼らを大勢見かけました。観光バスが何台も駐車したり、集団で食べ放題の飲食店に出かけたり、その行動力というべきか積極性にはつくづく驚かされました。当時、3年間銀座で勤務するという幸運なめぐり合わせもありましたが、観光客がオフィスの前に集団で座って、大声で話をしている光景に何度も出くわしました。当時はインバウンド消費が盛り上がりを見せ、手に持ちきれない程の紙袋をぶら下げた観光客をあちらこちらで見かけました。
政府としても、訪日観光客を増やすべく、観光立国推進法に基づいて、様々な施策を行っています。地域経済にインバウンドの需要を取り込み、最近の懸案事項である地域活性化を図るといった政策も進めています。また、訪日観光客の増大は日本を相互に理解する機会として極めて有効で、雇用を増やす効果も期待できます。
日本での「コト消費」
最近、来日する外国人観光客にははっきりとした目的を持った人が増えてきているようです。物を購入するばかりではなく、「コト消費」といわれる体験型の消費を重視する観光客が増加の傾向にあるようです。
日本に来なければできない体験・経験は沢山あるでしょう。テレビ番組にもありますが、日本独自の文化が持つ珍しさや美的感覚、価値観などを実体験することにより、リアルに充実し、それを突き詰めることで幸福を実感するという正の循環を生み出すために、来日して実体験するわけです。日本及び日本人と趣味や仕事で直接触れ合いたいと思う外国人が増えているのはそのような事実に基づきます。新型コロナが終息したら、日本に行きたいと考える外国人が多く、日増しに人気が高まっているという話もよく聞きます。
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経験価値とは
慎ましいかもしれませんが、子供の頃の贅沢で嬉しいレジャーは、家族そろって映画を見てから食事というパッケージというかパターンでした。そのために、かつての映画館、テアトル銀座や松竹セントラル、日比谷映画などに出向き、主に大作や名作映画を楽しんだ後に、洋食が多かったような気がしますが食事をし、午前中に映画館に入り、映画の感想を家族で話しながら、ランチするというパターンがほとんどだったという記憶があります。特に記憶に残っている映画は、アクションスターとして名高いスティーブ・マックイーン主演の「パピヨン」や「タワーリングインフェルノ」。恐怖や斬新さに驚かされたスティーブン・スピルバーグ監督の「ジョーズ」などです。今でもどうしても見たいと思える映画を見つけると家族あるいはひとりでも、このパターンを踏襲することで、満足感と幸福感に包まれます。
モノが溢れている現代、商品やサービス、イベント参加などで得られた『経験』に価値を見つけるという「コト消費」が根付いてきました。これを活用して、企業イメージを高める手法がコロンビア大学ビジネススクールのバーンド・H・シュミット教授が提唱した経験価値マーケティング(エクスペリエンシャルマーケティング)です。
具体的には自分自身のライフスタイルとの関連性を重視し、単純にニーズを満たすだけの消費活動ではなく、『経験』で得られる過程や結果を含めた消費行動が経験価値なのです。感覚的かつ情緒的なものでもあります。ディズニーランドやユニバーサルスタジオで楽しむ『経験』や歴史的なホテルや有名な旅館での他では味わうことのできない心地よいサービスなどは経験価値マーケティングの醍醐味です。そこで得られた満足感や幸福感は何度でも味わいたくなり、常習化することにつながり、日本でも昔から「お馴染みさん」、「お得意さん」などと大事な顧客やファンとして重要視された存在です。
コモディティ化が著しい消費社会では経験価値に裏付けされた顧客への商品やサービスの差別化は商品ブランドや企業のブランド価値を高め、顧客の囲い込みさえ可能にするのです。それぞれのブランドへの愛着を持ってもらう役割も注目できます。
経験価値マーケティング
経験価値マーケティングについて、もう少し掘り下げることにしましょう。経験価値には5つの要素があるとされています。「SENSE」(感覚的価値)、「FEEL」(情緒的価値)、「THINK」(創造的・認知的価値)、「ACT」(身体的価値)、RELATE(所属する組織における関係性から得られる価値)の5つです。もちろん、5つの要素の全てを満たさなくても、経験価値を生み出すことは可能です。それぞれの顧客に則した経験価値を5つの要素をどのように組み合わせて提供するかがポイントです。
経験価値マーケティングは顧客の要望を的確にリサーチし、それを適切に対応するためにふさわしい商品・サービスの質の向上を目指すことです。さらに、「モノ消費」はもちろん「コト消費」の重要性を探りながら、顧客の満足度、幸福感を実感してもらうことです。
これからの時代、経験価値マーケティングは必ずやマーケティング戦略、ブランド構築の柱になると考えられます。
株式会社創造開発研究所所長。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員、一般社団法人マーケティング共創協会 理事・研究フェローなどを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。