企業イメージ経営 ~ ネーミング力とブランド価値

企業イメージ経営 ~ ネーミング力とブランド価値

ヒット商品や長く愛されるブランドを支える重要なキーが「ネーミング」。良いネーミングとはどのようなものなのでしょうか。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏の寄稿により、ブランド価値を醸成する3つの力とネーミングの役割について解説します。


人名とネーミング

桜、薔薇、菖蒲、紫陽花と季節ごとに旬の花が咲く姿を見ることで幸福感に包まれ、ストレス解消にもつながります。花に関する知識には自信がありませんが、目立たなくても存在感を持った花もあります。例えば栗に咲く花をご存じですか。テレビ放映や映画が大ヒットした話題のアニメ『鬼滅の刃』。ここで活躍する女流剣士に栗花落カナヲがいます。なかなか読みにくい苗字ですが「栗花落」と書いて「つゆり」と読むとのこと。難解な読み方ですが、栗の花が散る季節=入梅の時期を表すようです。すでに炎暑の夏ですが、アニメの作者の美的で味のある感覚には共感できますし、実際、この苗字の方は実在しています。

人の名前には昔から関心を持っています。最近、人気がある男の子の名前ですが、蓮(れん)や陽翔(はると)、蒼(あおい)など。女の子の名前で人気があるのは陽葵(ひまり)、結菜(ゆいな)、紬(つむぎ)などです。

もちろん、人名にも流行り廃りがあります。小学生の頃、苗字は異なりますが、同じ名前の子供がクラスに何人かいたような気がします。また、驚かされるような名前の子供は少なかったと記憶しています。1990年代半ば以降から増加したといわれるキラキラネームあるいはDQNネーム(ドキュンネーム)。一般常識的には考え難いものや当て字、外国人名やキャラクター名などを用いた奇妙かつ不思議な名前の総称です。名前はそのものの個性を形作るので、一生つき合うと考えると他人事ながら心配にもなります。

名作漫画のネーミング

少し古いかもしれませんが、名前で印象に残っている漫画に『男どアホウ甲子園』があります。原作は佐々木守氏、漫画は水島新司氏で野球漫画の代表作のひとつとして、1970年から1975年まで週刊少年サンデーに連載され、1970年から1971年にはテレビアニメも放映されました。主人公の名前は藤村甲子園。今を時めく大リーガ―大谷翔平氏の如く、剛速球のピッチャーで投打共に活躍、もちろん甲子園出場を目指す球児を取り上げた熱血スポ魂系の漫画です。甲子園という名前からあふれる、汗と涙、練習と創意工夫、夢と希望、精神力と身体能力などが混ざり合い、少年漫画の全盛期に主人公の藤村甲子園は愛読者である少年達の間で大活躍しました。我々世代には忘れられないヒーローです。まさしく、ネーミングによって、漫画に力を宿した成功例といえるでしょう。

良いネーミングとは?

その年のヒット商品を取り上げる際、そのネーミングの巧みさにいつも感心します。新型コロナの感染拡大の影響もあり、旅行の機会が減少していました。最近になり、抑えられてきた旅行への意欲もやっと復活の兆しが見えつつあります。これが『リベンジ旅行』です。今まであるいは日常の不満・我慢を発散させるという意味からも、今後ますます増える傾向にあり、まさしくリベンジといえます。

また、ロシアのウクライナ侵攻など、ここのところ不安定な国際情勢が続き、その影響で食品や日用品などの値上げが目立ってきました。もちろん、消費者も黙っていません。生活防衛意識を高め、価格据え置きのスーパーやディスカウントストアが支持され、大手スーパーのプライベートブランド(PB)がシェアを拡大しています。この消費を『値上げ消費』と名付けていて、思わず唸ってしまう程、考えられた良いネーミングの例です。

それでは良いネーミングとはどのようなものなのでしょうか。具体的には音感や視覚に訴えるものでしょうし、意味が容易にわかるものが求められます。また、時流に乗ったセンスの良さ、楽しさ、美しさ、奇抜さなど多面的な要素が必要です。

グローバル社会、多様性社会へ順応することももちろん、紙や映像、Web、アウトオブホームメディア(OOHメディア)など様々なビークルへの適切な対応も外せません。つまるところ、「わかりやすくて」「見やすくて」「覚えやすくて(忘れにくくて)」「面白くて」「読みやすくって」「書きやすくて」「カッコ良くて」「話題にしやすくて」などネーミング成功には多くの条件を見事にクリアすることが重要です。

ネーミングとブランド価値

当たり前のように刻々と進展するITやグローバル化により、ネーミングの重要性、価値はますます高まっています。商品名、サービス名、社名などそれぞれのネーミングが企業の売り上げ、利益、業績など様々な経営指標に大きな影響を与えていることは周知の事実ですし、ブランド構築におけるネーミングの役割は多大なものがあります。ブランドの持つ個性や独自性を支えるには、高額商品であれ、日用品であれ、ネーミングの力を重視したブランド戦略を推進することが求められます。

ブランド価値が醸成される上では『識別力』、『保証力』、『存在力(信頼性)』といった三つの力が必要とされます。真のあるいは信のブランドはこれらの三つの力を維持すること、あるいは拡張すること、さらには融合することで価値を高めてゆきます。

『識別力』によって、他の商品・サービスとの差別化をはかります。その商品・サービスを購入あるいは所有することにより得られる安心感や満足感は『保証力』です。また、伝統や技術を通して価値ある商品・サービスと認識されるものが『存在力(信頼性)』です。子や孫の代まで使用させたい、継がせたい商品・サービスは三つの力を併せ持ったブランドであり、王道を歩み続けるブランドです。

これからのネーミングには詩や短歌、俳句など、芸術的あるいは古典的な言葉や言い回しを今まで以上に研究し、参考にする必要があると思います。伝統や歴史・文化から導き出された人間本来の姿を表わす言葉、長い間休眠していた言葉を発掘して活用する。例えば万葉集や源氏物語等古典を紐解くことにより、新しいアイディアが生まれる可能性は大きいはずです。“温故知新“ということわざがある通り、ネーミングの発想の一助となる可能性を秘めていると考えます。

【関連】企業イメージ経営 ~ 企業イメージを高める経営・ブランド戦略とは

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企業イメージやブランドイメージを高める企業経営や戦略とはどのようなものなのでしょうか。個人の価値観が多様化する現代社会において、自社そのものやブランド、サービスに対し、誰にどんなイメージを持って貰いたいかを設計する難易度は増しています。 広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏に、企業イメージを高める経営について解説いただきます。

【関連】企業イメージ経営 ~「レピュテーション」を考える

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SNSにより企業の評判はプラス・マイナス双方の側面で時として急速に拡大し、全く想定外の方向へと進むこともあり、事前予測が難しい時代になりました。今回は、評判、風評、評価、信用などの意味を持つ「レピュテーション」がテーマ。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏に、企業イメージを戦略的にコントロールするヒントを寄稿いただきました。

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

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