企業イメージ経営 ~「レピュテーション」を考える

企業イメージ経営 ~「レピュテーション」を考える

SNSにより企業の評判はプラス・マイナス双方の側面で時として急速に拡大し、全く想定外の方向へと進むこともあり、事前予測が難しい時代になりました。今回は、評判、風評、評価、信用などの意味を持つ「レピュテーション」がテーマ。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏に、企業イメージを戦略的にコントロールするヒントを寄稿いただきました。


「評判がいい」とは?

食べ歩きは楽しいものです。特に今まで行ったことのない街で、美味しい料理や伝統のある建築のお店、あるいは経験したことがないようなサービスに出会うことに幸せを感じるのは私だけではないと思います。ワイン用語にある「マリアージュ」。つまり料理とワインの相性のように、その街への訪問に相応しい、お酒と料理の組みあわせを探し出す。楽しい限りです。地元のお酒や料理であれば、なおさら嬉しくなります。

「評判が評判を呼ぶ」、良い噂が流れると客が多く集まり店が繁盛します。そのようなお店を見つける喜びもあります。その際、しばしば口コミを参考にします。特にSNSを活用した口コミについ影響されてしまいます。

評判がいいとは、何かにつけ、その存在の先行きが明るくなることを指します。社会や学校での評判は個人についてまわるものですし、就職や昇進に影響を与えるかもしれません。企業が業務を続ける上で、あるいは商品・サービスの売れ行きのためには良い評判を得て、それを維持・拡大することが成功の鍵となります。それは、企業イメージや商品イメージを高めることにもつながります。

「バズる」

グローバル化し、ITが深化し、AIが進化するなど、企業を取り巻く環境は刻一刻と変化し続けています。テレビや他の映像媒体で、企業のトップや広報責任者が謝罪する姿を見かけることがあります。以前から、記者会見に社長が泣きながら登場したり、取材する記者の前で興奮した姿を見せたり、印象に残るような映像を見かけることは珍しくありません。企業のイメージを考える上で、マイナスのイメージを持たれるケースには、このような場面の影響もあるでしょう。企業の不祥事は長引く場合もあれば短期間に解決する場合もありますが、不祥事を起因に企業努力を重ね、不祥事前よりイメージを高めたケースもあります。

評判や噂はインターネットを駆け巡る、とは今や当たり前の事象です。ある話題が短期間で爆発的に拡散し、多くの人の注目を集めることを「バズる」といいます。主にインターネットやSNSによる拡がりのことを指します。「バズる」とは話題になることであり、良きにつけ悪きにつけ、これからの新しい口コミの指標もしくは手法となります。活用の仕方を考えると諸刃の刃のような面もあるかもしれませんが、「バズる」を研究し、工夫して最新の注意をしながら活用することにより、広報・PR活動の幅を広げることは可能です。また、売りたい商品・サービスを口コミなどで拡げて、売り上げを向上させる方法として「バズマーケティング」という手法もあります。

「レピュテーション」と「レピュテーションリスク」

それでは、企業にとっての評判とは何を指すのでしょう。企業や団体のような組織で、商品やサービス、従業員、事業、グループ会社などについて、世間に流布する評判や風評などを「レピュテーション」(reputation)といいます。一般のビジネス社会においては、特に世間における企業の評価や信用あるいは製品の評判などを指します。

企業の不祥事や噂、製品の悪い評判によりブランド価値が低下し、売り上げや収益に大きな影響を与え、損害が生じる危険性が「レピュテーションリスク」(reputation risk)です。また、情報セキュリティー分野においては、データの送信元やデータそのものについて、過去の情報を収集して解析し、安全性を確認、評価することを「レピュテーション」といいます。

企業イメージの戦略性

では、改めてイメージが悪くなるのはどのようなケースまたはタイミングなのでしょうか。当然、イメージの対象となるものの弱点や欠点が現れたときに起こることが多いはずです。

イメージを幅広く持たれている場合、弱点や欠点はいつどこに現れるかを予測するのは極めて難しい問題です。ここで、イメージを戦略的にコントロールするためのアイディアとして、2つのポイントを紹介します。ひとつは『積極性』です。新たなイメージアップの種を自らの中に見つけ出してPRすることです。良いイメージの材料をより積極的・攻撃的に活用することが重要です。つまり、戦略的なPR活動が重要なのです。

つぎは、『対応力』です。常にアンテナを拡げて、現在何が注目され、興味を持たれているのか、さらには愛されているのかをキャッチアップし、時代に合ったあらゆるPR手法で対応する必要があります。年齢差はもちろんのこと、あらゆるギャップを念頭に入れながら、スピード感あふれる対処をすべきです。以上の考察は、企業イメージにおいても同様です。

企業イメージは過去から続く歴史的なものから、未来への予測や将来性まで、時間軸が大きく関与します。過去の企業活動が蒸し返されたり、逆に発明や発見などで新しい事業や製品による輝かしい未来を想像できたりと、時間はイメージを醸成する上で大きな役割を持っています。そのため、企業イメージは時系列に測定し、比較を行い、常に現在値を認識することが重要です。

それに伴い、無形資産(インタンジブルアセット)として、企業イメージを経営戦略の武器とするためには、個々の企業の過去・現在・未来それぞれの企業イメージを確認する必要があります。また、具体的には『活気がある』、『個性がある』、『国際化を重視している』など様々なイメージ項目ごとの認識を深め、そのうち強いイメージ項目をさらに強めるのか、弱いイメージ項目をPR活動や広告宣伝などで補い強化していくのか、など戦術面での対応が求められます。もちろん、全ての項目を強化する必要はありませんが、個々の企業にとってふさわしいイメージ項目を見つけて、それに注目し続けることが大切です。

「レピュテーション」や「レピュテーションリスク」を常に気に留め、グローバルな視野から細心の注意を払った企業独自のコミュニケーション活動を進めることにより、無形資産として企業イメージは、経営判断を求められる場面でも重要な役割を果たすでしょう。

【関連】企業イメージ経営 ~ 企業イメージを高める経営・ブランド戦略とは

https://manamina.valuesccg.com/articles/1792

企業イメージやブランドイメージを高める企業経営や戦略とはどのようなものなのでしょうか。個人の価値観が多様化する現代社会において、自社そのものやブランド、サービスに対し、誰にどんなイメージを持って貰いたいかを設計する難易度は増しています。 広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏に、企業イメージを高める経営について解説いただきます。

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

関連する投稿


アテンションエコノミー ~ 課題と今後

アテンションエコノミー ~ 課題と今後

インターネットが一般消費者に普及し始めて何年経ったでしょうか。Windows95が発売された頃からと見做せば、30数年という年月で、インターネットは私たちの生活にはなくてはならないテクノロジーとなりました。そして今や私たちの受け取る情報は溢れるほどに。その情報は真偽だけでなく善悪という側面を持ち、経済活動にも大きく影響しています。本稿では「アテンションエコノミー」と題し、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が今後の課題へも言及し解説します。


本物に出会う ~ 国宝・重要文化財

本物に出会う ~ 国宝・重要文化財

日本の宝。それは国民、領土、経済…。一言では言い表せられないものかもしれません。そのような中に「文化」も入るでしょう。本稿ではこの「文化」にフォーカスし、文化財の定義などを改めて知り、本物を見る目を持つ大切さを示唆。文化財保護法の具体的な内容や、現在文化財が置かれている実情などを踏まえ、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、本物とは、そしてそれを維持し守ることの大切さを解説します。


認知的不協和とは ~ 態度と変容の応用

認知的不協和とは ~ 態度と変容の応用

営業やマーケティングにも深く関係のある「認知的斉合性理論(cognitive consistency theory)」をご存知でしょうか。この理論に含まれる概念に本稿のテーマにある「認知的不協和」が含まれるのですが、これは自分が認知していることに2つの矛盾する考えや行動がありストレスを感じることを表した心理状態を指します。この意識をどう誘導し変容させるかによって、その人の行動も180度変わってくると言えるこの理論。本稿では、バランス理論にも言及し、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


食の安全保障 ~ 日本の現況と将来

食の安全保障 ~ 日本の現況と将来

日本の食料自給率の低さについては、度々議論にもなる重要な問題です。しかし、そのためにどのようなアクションが必要なのか、実際に動いている経済や業界はあるのかと聞かれると、スムーズに答えられる人はなかなかいないのではないでしょうか。本稿では、フードロスの現状、進められているフードテックの状況、そして国際社会に依存している日本の食料事情などを俯瞰し、今できることは何なのか、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏がヒントを導き出します。


デフォルト効果 ~ 心理的障壁を超えて

デフォルト効果 ~ 心理的障壁を超えて

日常的に使うことも多い「デフォルト」という言葉。使用環境によっては意味も大きく変わります。特に、本稿で解説する「デフォルト効果」では、人の行動心理に大きく関わってくる重要なワードとなるようです。元来保守的な生き物と言われている人間。私たち人間の思考の底にあるデフォルトやバイアス、保有欲など、それらをどのように意識し、効果的な活用をすれば良いのか、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


最新の投稿


Perplexity、ソフトバンクとの連携により国内で法人向けプラン「Perplexity Enterprise Pro」の提供を開始

Perplexity、ソフトバンクとの連携により国内で法人向けプラン「Perplexity Enterprise Pro」の提供を開始

AI回答エンジンPerplexityを展開するPerplexity AI, Inc.は、ソフトバンク株式会社との連携により、法人向けプラン 「Perplexity Enterprise Pro(パープレキシティ・エンタープライズ・プロ)」を、国内の法人向けに販売を開始したことを発表しました。


博報堂DYMPとHUUM、インフルエンサーによるPR施策の効果を可視化するソリューションを提供開始

博報堂DYMPとHUUM、インフルエンサーによるPR施策の効果を可視化するソリューションを提供開始

株式会社博報堂DYメディアパートナーズ、株式会社HUUMは、インフルエンサーによるPR施策の効果を可視化するソリューション「Influencer Power Measurement」の提供を開始したことを発表しました。


SEO業者選定時に「SEO対策」「SEO」をはじめとした難関キーワードでの上位表示実績を重視する企業が約8割【ランクエスト調査】

SEO業者選定時に「SEO対策」「SEO」をはじめとした難関キーワードでの上位表示実績を重視する企業が約8割【ランクエスト調査】

株式会社ecloreは、同社が運営する「ランクエスト」にて、SEO業者への発注経験または検討経験がある方を対象に「SEO業者の信頼性」に関する調査を実施し、結果を公開しました。


【2025年3月31日週】注目のマーケティングセミナー・勉強会・イベント情報まとめ

【2025年3月31日週】注目のマーケティングセミナー・勉強会・イベント情報まとめ

編集部がピックアップしたマーケティングセミナー・勉強会・イベントを一覧化してお届けします。


日本インフォメーションら、オーディション企画「timelesz project(タイプロ)」に関する調査結果を公開

日本インフォメーションら、オーディション企画「timelesz project(タイプロ)」に関する調査結果を公開

日本インフォメーション株式会社は、インフルエンサーを活用したショートムービーマーケティング事業を行う株式会社TORIHADAと女子大生・女子高生マーケティング集団「Trend Catch Project 」 を運営するRooMooN株式会社が設立した、若年層の「今と未来」について調査・研究するプロジェクト「Next Generation Lab」に参画。共同調査の第一弾として、timelesz project(タイプロ)の視聴実態と、Z世代の推しに対する価値観を明らかにするための調査を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ