企業イメージ経営 ~「パーパス」と企業ブランド

企業イメージ経営 ~「パーパス」と企業ブランド

企業が自社の存在意義を明確にし、社会に与える価値を示す「パーパス(purpose)」が企業経営において脚光を浴びていますが、どのような背景があるのでしょうか。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が、パーパス経営の必要性とブランディングにおけるメリットについて解説します。


人生の目的とは?

人は高邁(こうまい)な目的を持って生きることが出来れば幸せです。「万学の祖」であり、プラトンと並び古代ギリシャ最大の哲学者、アリストテレス。古代マケドニアの世界征服を目指したアレキサンダー大王の家庭教師としても有名です。彼の名言、「人間は目標を追い求める動物である。目標へ到達しようと努力することによってのみ、人生は意味があるものとなる。」社会人になって以来、心に刻まれています。充実した人生をおくるためには、掲げられる目的を持てるか否かが重要な鍵となるとのこと。目的を持つことにより向上心が高まり、それを達成するための努力を続けることこそが意味を持つのです。学生気分が抜けきれない社会人成りたての頃、この名言に強いインスピレーションを受けました。この名言は人にだけでなく、企業にも同じように当てはまるところがあります。目的を見つけるまでの試行錯誤も欠かすことが出来ない経験です。人生の目的を模索し、探し出し、手に入れ、実践することでしか素晴らしい人生を手に入れることはできないという哲人からの戒めでもあります。

パーパスとパーパス経営

VUCAの時代を背景に、企業が自社の存在意義を明確にし、社会に与える価値を示す「パーパス(purpose)」が企業経営において脚光を浴びています。「パーパス」とは元来、目的や意図などの意味があり、存在理由や存在意義、志、抱負など考えの意味を拡げました。この考えを経営の軸として企業活動を行い、社会貢献を実行するのが「パーパス経営」です。

企業理念として、自社の存在意義を明確にし、どのように社会貢献に結びつけていくのかという「パーパス」を掲げた経営のあり方を指します。「ビジョン」や「ミッション」が将来に向けて実現・実行すべき方向性を指すのに対し、「パーパス」は現在、自社が何のために存在しているのかを示すという点が異なります。SDGsを念頭に企業の社会貢献に対する考え方は進展するグローバル社会や多様性社会によって大きく変貌を遂げています。

消費者も社会的に存在価値の高い企業の商品・サービスを購入することで、自身も社会貢献できると考え、「パーパス経営」を実施していると考えられる企業が支持されています。投資でもESG(環境・社会・企業統治)投資が再考されています。企業が環境に配慮したふりをする「ウオッシング(偽装)」が投資家により疑問視され出し、投資収益の獲得だけでなく社会的・環境的インパクトを生み出すことを目的に、社会に貢献できる新しい投資手法として社会的インパクト投資が注目されています。企業経営は人間中心の経営から地球中心の経営へのパラダイム転換が生じています。

パーパス経営の必要性とパーパスブランディング

「パーパス経営」には以下の3つのメリットが考えられます。

まずは、消費者や投資家も含めた企業を取り巻く様々なステークホルダー(利害関係者)からの共感です。「パーパス」に真剣に取り組む企業は、信頼・信用のイメージを醸成させ、ステークホルダーから支持されるようになります。環境を破壊し、利益の拡大を追求する経営のアンチテーゼとして、地球規模での「善」を目指した経営はこれからの企業が持続的な成長をするために必要不可欠な条件です。

次に、パーパスブランディングと呼ばれる共感を得ることによる企業ブランドの構築です。「パーパス」を重視することは、企業ブランドや商品ブランドに対する長期的な愛着につながることは間違いありません。共感から応援へ、長期にわたって企業ブランド価値を高め、拡張することが可能です。

さらに、従業員のロイヤリティーの向上です。従業員がモチベーションを高め、誇りを持って業務を推進することができる「社会善」を目指した経営を志すことにより、①メンタルヘルスの安定と維持、②ポジティブな発想、③向上心の高まり、などを従業員から自然に獲得できます。従業員に自社について知ってもらうための啓蒙運動であるインナーブランディングを遂行できます。自社の目指す方向が明確化すれば、組織の一体感が生まれ、変化や革新を創り出す土壌が整い、さらなる成長が実現できます。多様化社会との共生も含めて、時代に負けない柔軟な企業体質へ改革することも可能です。

改めて企業の存在意義

改めて、パーパス経営がなぜ今注目されるのでしょう。現在、自社の存在意義を見直すには4つ機会が考えられます。①SDGsへの取り組み、②新型コロナウイルスの感染拡大、③ミレニアル世代の台頭、④DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。

大企業にとってはそれぞれの課題について、対応策を練り、対処することができますが、中小企業にとってはそれぞれが難問です。既に広く認知されている大企業に比べて、商品・サービスの認知が弱い企業にとって持続的な成長は困難です。だからこそ、「自社がなぜ存在しているのか」という理由を明確化し、自社の商品・サービスの展開を考え、CSR活動を推進し、それに沿ったPR活動を行うことが企業存続の必要条件です。この混迷の時代だからこそ、立ち止まり、自社の存在意義を見つめ直すことが出来る企業に未来はあります。

これからの企業に求められる条件は『私益(利益を生み出すこと)』と『公益(社会をよくすること)』の両立です。破壊的なイノベーションはもはや必要ありません。社会に優しく人に優しい企業がふさわしいのです。米国などでは短期的な利益を追求する経営が批判され、株主の利益だけでなく、公益となる事業に率先して取り組むと明示した会社形態であるPBC(パブリック・ベネフィット・コーポレーション)が法整備されています。公益と私益は必ずしも対立するものではありませんが、境界線は曖昧です。ただ、昭和までの日本企業には両立を成功させた古き良き経営の知恵が豊富に存在しています。かつての日本の経営者たちは曖昧な境界を丁寧かつうまくマネジメントしてきました。それらも参考にしたパーパス経営の実践は、本来の企業の役割を再認識し、企業の存在意義とは社会善を成し遂げることと同じ意味であることを確認したことになるのです。

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この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

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