メタバースブーム、中国ビジネスに新しい風

メタバースブーム、中国ビジネスに新しい風

Facebookが社名を「メタ」に変更したことでも話題になり、注目が高まっている「メタバース」。TikTokなどのSNSマーケティングやOMO施策の最前線に立つ中国では、どのようなメタバースビジネスが展開されているのでしょうか。メタバースとEC、SNS、飲食それぞれ掛け合わせた中国ビジネスを中心に、動向を解説します。


「メタバース」とは

メタバースとは、いつでもどこからでもアクセスできる、世界共通の3D仮想空間のこと。ヘッドセットやARグラスを装着することで、3Dの仮想世界を自由に体験できるサービスが提供され始めています。

Facebookの創業者であるザッカーバーグが、自社を5年程度でソーシャルメディア企業からメタバース企業へと転換する意向を表明したことで、AppleやSONY、Microsoft社などから、VRやMR(複合現実)のヘッドセットが続々と登場するとみられており、世界中の多くのインターネット企業が次々とメタバース市場の整備に乗り出すことが示唆されています。

ブルームバーグ・インテリジェンスによると、「メタバース」市場は2024年までに8000億米ドルに成長すると推定されています。 バンク・オブ・アメリカもメタバースに注目しており、人間の生活を大きく変える可能性のある14のテクノロジーの1つに挙げています。
中国でも、大手企業がいち早く追随し、メタバースはさらに身近なものになってきています。

メタバースとは?話題のテックトレンドを解説

https://manamina.valuesccg.com/articles/1734

仮想空間とそこで展開されるサービスを指す「メタバース」。ここ数年、注目を集めている技術です。基本事項からVRとの違い、利用例やメリット・デメリットなど、メタバースについて解説します。

中国におけるメタバースビジネス

①ECプラットフォーム

メタバースは、中国の主要なeコマース・プラットフォームにも進出しています。
今年4月、早くもラグジュアリーブランドの六福珠宝はメタバースを本格的にスタートしました。NFT(※)を次々と立ち上げる一方、「LOVE∞メタバース」をイメージした未来的で夢のあるメタバースポップアップストアを全国で展開したのです。
NFT:主にイーサリアムのブロックチェーン上で構築できる代替不可能なトークンのことで、ゲーム分野や不動産分野で活用されている

六福珠宝に続き、TOM FORDはバーチャルアイドルの分野をターゲットとし、锘亚Noah(中国バーチャルアイドル)と提携しました。 これらのブランドは、メタバースマーケティングがすでにデジタル・マーケティングの最前線にあり、「すべてがメタバースになりうる」時代が到来していることを改めて示したといえるでしょう。

また、TMALLは618キャンペーンでメタバースショッピングをローンチしました。この618キャンペーンに備えるため、TMALLは特別なプロジェクトチームを設置し、バーチャルショッピング会場を最適化。ショッピングやインタラクションのシナリオを模索しているようです。

大手企業である国美も、メタ・ユニバースへの参入を最重要戦略方針としており、7月上旬に一部開始する可能性があると公表しました。その中でもメタバースワールド、メタバースeコマース、デジタルピープル、バーチャルアイドル、デジタルコレクションなどを事業領域としているようです。

②SNS(Kuaishou、Douyin)

バーチャルアイドルやデジタルヒューマンライブ配信など、最新のライブ配信モデルが話題を呼んだばかりですが、最新のメタユニバースライブ配信が登場しました。

Kuaishouはバーチャルライブ配信の関連機能を提供するアプリ「快手虚拟演播助手」を発売する予定です。バイトダンスは、オールインワン「Pico VR」を使って、従来のライブ配信の「画像」の壁を超え、生放送をVRで視聴できるようにしています。BiliBiliのバーチャルアイドル生放送も従来よりインタラクティブになっていて、観客との会話に重きを置くようになっています。。

今年の夏、Douyinは二次元バーチャルアイドル「默默酱」と協力し、若者向けのオンラインクラブ風サマーパーティーを開催しました。
生配信ルームでは、アンカー(ライブ配信者)と実在の人物が登場することはありません。ユーザーが生配信ルームに入ると、ゲームやパーティシーンなどのバーチャルシーンが現れるようになっています。ユーザーはその仮想シーンで仮想的な身分を与えられ、コメントやいいね、ギフトを送るなど、同じ生配信ルームにいる他の視聴者とコミュニケーションすることができるようになっています。

メタバース生配信ルーム

現在では、このような没入型バーチャルライブ配信はそれほど技術を必要とせず、携帯電話とシーンテンプレートがあれば24時間365日ライブ配信が可能になっています。敷居が低いことから、企業アカウントだけではなく、DouyinやKuaishou、BiliBiliでも個人アカウントによるライブ配信も増えていくでしょう。

また、メタバースライブでは、VRゲームのインタラクティブなゲーム性を利用しています。そのため、ユーザーはサードパーティーのプラットフォームをダウンロードしてそちらに遷移することなく、ミニゲームの楽しさを味わうことができるようになっていて、この種のライブストリーミングモデルがさらに重宝されています。

メタバースライブ配信のプラットフォーム側として、DouyinやKuaishou、BiliBiliもバーチャルライブ配信を強力にサポートしています。Kuaishouのバーチャルスタジオはますます人気が高まっており、今後、視聴者がメタバースライブストリーミングを体験したい場合、バイトダンス発のPico VRオールインワン機を装着するだけで、A-SOUL初のVRナイトトークの現場に入り、没入感のあるシーン体験を感じることができるのです。

③その他

ここ2年ほどで、メタバースに注目する食品大手が増え、NFT市場の急成長とともに、食品とNFTを融合させるソリューションを積極的に模索し始めています。製品をデジタルの世界に組み込むことで、物理的な世界とバーチャルな世界をつなぐ存在となり、消費者に没入感のある飲食体験を提供することができるようになっています。

その中でも、外食産業の代表格であるマクドナルドは、メタバースの流れに積極的に乗っています。マクドナルドは2021年以降、自社の商品やレストランチェーン、カフェについて、10件以上のメタバース関連の商標を出しています。またマクドナルドは、仮想世界で注文した料理を現在の居住地まで配達する、宅配型のオンラインバーチャルレストランを開設する計画があるようです。同時に、マクドナルドが提供するバーチャルフードを、アートワーク、テキスト、オーディオ、ビデオ、NFTなどのマルチメディアファイルとしてダウンロードすることもできるようになる予定です。

マクドナルドが提供する宅配型のオンラインバーチャルレストラン

海外のコンシューマーブランドがメタバースに踏み込み、関連するデジタル・バーチャル製品を発売する一方で、中国国内企業はブランディングやマーケティングで勝負する傾向が強くなっています。

2021年12月、中国で人気のお茶専門チェーン店「奈雪的茶」が、メタバースのコンセプトを活かして「美しい多元宇宙」を創造し、初のブランドアンバサダーを正式に発表するとともに、関連するNFTデジタルアート作品をブラインドボックス形式で限定販売しました。

奈雪的茶によるNFTデジタルアート作品

同時に、中国の乳製品大手「蒙牛」はデジタルコンテンツ制作として、「蒙牛ランド」メタバースを正式にローンチし、若年層をターゲットにメタバース世界を構築しています。 ブランドとクリエイターが協力して、関連するコンテンツを制作、消費・娯楽シナリオを構築し、若いユーザーと深くつながり、ブランド価値革新・体験革新・製品革新を進めています。


蒙牛が手掛けたメタバース世界

メタバース市場における代表的な企業・プレイヤー(前編)|メタバースの現在地と未来を考える

https://manamina.valuesccg.com/articles/1511

経営コンサルタントで上級VR技術者としてXR(XReality:VR、AR、MRなどの総称)の市場調査や新規事業創成支援等の活動を行っているパトリック・ショウさんが、XRビジネスの今と未来を解説する連載企画。第2回は今後のテックトレンドとしてマーケターの注目度も高まっている「メタバース」に関して、おさえておきたい主要企業やプレイヤーを紹介していきます。

今後の展望

メタバースは、現在でもゲームやオンラインショッピングなどで活用されていますが、これからさらに多くのサービスが生まれると予想されます。
ただし、中国ではメタバースはまだ発展途上の概念であり、課題が多いとも指摘されています。世界中の一般ユーザーに普及するのは5~10年ほどかかるとみられており、今後さらなる発展と普及が期待できるでしょう。

嵐のような10年間を過ごしてきた中国のインターネット企業にとって、「新しい物語」が必要とされています。この時点で、インターネット企業の「救い」として、メタバースが登場しました。一方で、個人側でもバーチャルオフィスやリモートワークなど、新しい働き方やビジネスチャンスにもつながる可能性がるため、今後も注目していきたい市場といえるでしょう。

参考URL

「暗火的元宇宙直播生意经:主播靠打赏躺赚,开发模版月入超十万」
https://www.163.com/dy/article/HE898P0605319LDA.html
「520大考:浪姐3、周杰伦、李佳琦,谁赢了?」
https://www.163.com/dy/article/H7RCK00U051284V8.html
「国美进军元宇宙?公司回应来了」
http://www.iceo.com.cn/news2013/2022/0623/309895.shtml
「元宇宙的世界里 食品品牌如何开疆拓土?」
https://finance.sina.com.cn/blockchain/roll/2022-07-05/doc-imizirav2005797.shtml?cre=tianyi&mod=pcpager_news&loc=2&r=0&rfunc=85&tj=cxvertical_pc_pager_news&tr=174
「元宇宙“冷静期”,下一步该怎么走?」
https://letschuhai.com/meta-reality-future
「奈雪的茶6周年,携首位品牌大使 NAYUKI 进军元宇宙」
https://www.digitaling.com/projects/187242.html
「拆完蒙牛的元宇宙营销,我看懂了未来品牌营销的新玩法」
https://www.8btc.com/article/6747922
「メタバースって何?メタバースでできること・できるかもしれないことを解説」
https://www.shikokubank.co.jp/room/2022/07/metaverse.html

この記事のライター

慶應義塾大学在学中。

関連する投稿


より早いスピード感xディスカッション会!中国市場Web調査ツール「ValueQIC」ワークショップ機能のご紹介【第4回】

より早いスピード感xディスカッション会!中国市場Web調査ツール「ValueQIC」ワークショップ機能のご紹介【第4回】

トレンドの変化が速い、と言われている中国市場。「最近、中国市場の変化が掴めない。言語の壁もあり、中国人生活者の考え方がよくわからない。」というのも多く耳にします。従来の調査には1ヶ月以上の時間が必要ですが、Web調査ツール「ValueQIC(ヴァリュークイック)」なら、定量調査のほかに、動画を介して、迅速に、中国人の実態調査を実施することが可能です。 第4回は、ワークショップ機能の特徴を事例とともにご紹介します。


中国EV市場 〜 爆発的成長の裏で進行する4つの課題

中国EV市場 〜 爆発的成長の裏で進行する4つの課題

中国の電気自動車(EV)市場は、販売台数で世界トップを誇り、街には新ブランドの車があふれています。価格競争も激しく、「誰でもEVを買える時代」が到来したかのように見えます。しかし、その華やかな表舞台の裏では、値下げ合戦による収益悪化、生産過剰による中小メーカーの淘汰、中古市場の急拡大、そしてバッテリー寿命という深刻な課題が同時進行しています。本記事では、この急成長市場を揺るがす4つの課題を整理し、今後の行方を探ります。


高まる健康意識!中国サプリメント市場が需給共に拡大中

高まる健康意識!中国サプリメント市場が需給共に拡大中

2024年、中国では65歳以上の高齢層が2.3億人を突破し、高齢化がますます加速しています。さらに健康意識の高まりや生活の質を追求する動きが重なる中、高まってきた需要の一つがサプリメントです。この記事では、サプリメントの市場動向と注目製品を紹介します。


中国の人気ドリンク“冰紅茶(ビンホンチャ)”に新トレンド

中国の人気ドリンク“冰紅茶(ビンホンチャ)”に新トレンド

中国における人気ドリンクの一つである「冰紅茶(ビンホンチャ)」はレモン風味が特徴のアイスティーで、同名のペットボトル飲料がよく見られます。暑い時期の夏バテ対策にピッタリなこの飲料ですが、近年は「冰茶(ビンチャ)」と名がつく製品が急速に増えており、市場に多様化の傾向が見られます。この記事では、「冰紅茶」及び「冰茶」の動向を人気商品と共に紹介します。


中国スキンケア市場は『科学・効果・シンプル』志向に

中国スキンケア市場は『科学・効果・シンプル』志向に

中国のスキンケア市場は、従来の広告やスター起用に依存する段階を超え、科学的根拠や実証データに基づく「サイエンス志向」へと急速にシフトしています。消費者は効率性・簡便性・コストパフォーマンスを重視し、成分そのものではなく作用メカニズムや臨床的エビデンスを求める傾向を強めており、さらには、ライト医療美容の普及やEC・ライブ配信販売の拡大が相まって市場競争は激化。ブランドが生き残る鍵は、「スキンケアの科学化」「医療美容との共生」「シンプルケア」の三大潮流をいかに取り込み、科学と生活シーンを結びつけた価値提案を行えるかにかかっていると言えそうです。


最新の投稿


3人に1人が「AIで失敗した」経験あり!誤情報の鵜呑みや指示出しの難しさも…9割が「それでも使いたい」【LiKG調査】

3人に1人が「AIで失敗した」経験あり!誤情報の鵜呑みや指示出しの難しさも…9割が「それでも使いたい」【LiKG調査】

株式会社LiKGは、生成AIを仕事で活用している全国のビジネスパーソンを対象に、「生成AIの業務活用と“しくじり”実態調査」を実施し、結果を公開しました。


おじさん構文、おぢポ、無課金おじさん...なんで“おじさん”ってバズるの?

おじさん構文、おぢポ、無課金おじさん...なんで“おじさん”ってバズるの?

おじさん特有のLINEの文面「おじさん構文」、軽装備のオリンピック選手「無課金おじさん」など、聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。ポイ活アプリ「おぢポ」は250万ダウンロード、「おじさん構文」をテーマとした楽曲は3,000万回再生というようにバズっています。なぜ数々の「おじさん」は流行するのでしょうか?この記事では、おじさんがヒットの要因となる理由を探ります。


同条件でも52.3%が「情報の分かりやすさ」で取引先を決定!?信頼できない発信で44.9%が取引見送りに【IDEATECH調査】

同条件でも52.3%が「情報の分かりやすさ」で取引先を決定!?信頼できない発信で44.9%が取引見送りに【IDEATECH調査】

株式会社IDEATECHは、製品・サービスの選定・導入に関与するビジネスパーソン(過去1年以内に、勤務先で利用する製品やサービスの選定・導入・発注に関わった経験あり)を対象に、BtoB企業における「信頼発信」と意思決定への影響調査を実施し、結果を公開しました。


Yahoo!ショッピング、中国最大の越境ECモール「天猫国際」への出品から配送までを一貫してサポートする「天猫国際コマース」を提供開始

Yahoo!ショッピング、中国最大の越境ECモール「天猫国際」への出品から配送までを一貫してサポートする「天猫国際コマース」を提供開始

LINEヤフー株式会社は、同社が運営する「Yahoo!ショッピング」にて、Tmallジャパン株式会社と連携し、出店ストアが中国最大級の越境ECモール「天猫国際(TMALL GLOBAL)」に簡単に出品でき、配送までを一貫してサポートする「天猫国際コマース」の提供を開始したことを発表しました。


企業の購買行動、営業面談前に85%が候補を選定!高額取引ほどプロセスは複雑化・長期化する傾向【ワンマーケティング調査】

企業の購買行動、営業面談前に85%が候補を選定!高額取引ほどプロセスは複雑化・長期化する傾向【ワンマーケティング調査】

ワンマーケティング株式会社は、企業の購買・仕入れに関わるバイヤーを対象に実施した「BtoB購買プロセス白書2025」の調査結果を発表しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ