企業イメージ経営 ~ ステークホルダー資本主義とは

企業イメージ経営 ~ ステークホルダー資本主義とは

2020年1月のダボス会議の主題となった「ステークホルダー資本主義」。「アメリカでは大企業がステークホルダー経営の実践を推進することを宣言し、グローバル経済の影響を考えるとステークホルダー資本主義が世界中へ浸透することが予想できる」と語るのは、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏です。なぜ今「ステークホルダー資本主義」が注目を集めているのでしょうか。近江商人の精神との共通項にもヒントがありそうです。


近江商人と「三方よし」

入社して配属されたのは京都でした。担当は京都府と滋賀県全域。関西方面への訪問は修学旅行程度で、新社会人としてはとても不安でした。TVのチャンネル、天気予報と今までの実家での生活から赴任先では身の回りが大きく変化しましたが、慣れてくると古都京都の素晴らしさや琵琶湖の雄大さに親しみを覚え、充実した毎日を過ごせたことが懐かしく想い出されます。特に仕事で滋賀方面へ赴き、バルブの産地彦根や草津、近江八幡、甲賀と今まで訪れたことのない駅に初めて降り立った頃が夢のようです。

大阪商人、伊勢商人と並ぶ三大商人のひとつ近江商人(=江商)。近江商人の流れを汲む大商人、大企業は枚挙の暇がありません。伊藤忠商事や丸紅などの商社をはじめ東レ、ワコールなど繊維関連、高島屋や西武鉄道など、その他多数で綺羅星の如くです。中世から近代にかけて日本中で活動した近江商人の精神「三方よし」。「売り手よし、買い手よし、世間よし」は日本の商人は昔から短期的な利益だけを求めず、社会に貢献することを常に心がけるという経営方針を持っていたことがわかります。当時から近江商人はステークホルダー経営を貫いていたのだと感心します。私自身、上司や先輩達から「三方よし」の精神を教えられ、商売をする上での大切さを覚えました。

ステークホルダーとは

改めて、ステークホルダー(stakeholder)とは企業活動における直接的または間接的に影響を受ける利害関係者を有するグループまたは個人のことです。

英語の「stake(掛け金)」と「holder(保有する)」が由来とされて、ビジネス用語に浸透したといわれています。利害関係者であっても、必ずしもお互いの利害が一致するとは限りません。経営者はステークホルダー間の利害の調整をはかり、バランスを取りながらビジネスを行い、企業を成長へと導かなければなりません。

ステークホルダーを分類すると「直接的」ステークホルダーには、株主・従業員・消費者・顧客・仕入れ先・金融機関などが挙げられます。「間接的」ステークホルダーには政府・自治体、地域社会、従業員の家族、労働組合、業界団体などが考えられます。ただ、デジタル社会の進展やグローバル化により、「直接的」、「間接的」の垣根は低くなりつつあります。

企業がブランディングを展開する際、企業イメージの向上が最重要目標となりますが、主要なステークホルダーとして株主や顧客だけを重要視した企業活動を行うのではなく、その時点で存在し得るあらゆるステークホルダーへの対応を考慮する必要があります。進展する多様な社会との共生において、ステークホルダーの存在は入れ替わりが頻繁のはずです。今まで以上に時間軸を念頭に入れた丁寧できめの細かいブランド戦略が求められます。

マネジメントとエンゲージメント

プロジェクトの進行を円滑に進めるための手段として、ステークホルダーマネジメントが重要です。まずは、自社のプロジェクトの進行や成果に対して、影響を与えるあるいは受ける個人やグループを明確にする必要があります。そのうえで、取り組むべき問題点や課題を見つけ出し、優先順位を決め、利害を調整し、管理する必要があります。様々なプロジェクトには多数のステークホルダーが存在します。それぞれの利害が異なるのは当然ですが、ある特定のステークホルダーのみを重視するプロジェクトは成功しません。各ステークホルダーと良好な関係を構築し維持することは一種の経営資源の獲得であり、企業の成長・発展にとって欠かすことはできません。

ステークホルダーが関心ある事柄や情報に対して、対話や提供の機会を作り、理解を深めてもらい、意思決定を支援することで、企業価値や業績アップにつなげる取り組みがステークホルダーエンゲージメントです。コミュニケーション活動を通した信頼関係の構築です。エンゲージメント(engagement)の意味は取り決め、約束、ですがこの場合は「個人と組織が一体となって、お互いの成長に貢献し合う関係」を指します。具体的なステークホルダーエンゲージメントには、Webサイトやパンフレットなどを活用した情報開示・情報発信、アンケートの実施・結果報告、問い合わせ窓口の充実、地域貢献活動などがあります。

ステークホルダー資本主義

2020年1月に開催された世界の賢人が集まるダボス会議の主題となったのがステークホルダー資本主義です。従来、企業は株主の利益を最大化することを目的とする「株主資本主義」が主流でした。これに対してステークホルダー資本主義は企業活動に影響を与える全てのステークホルダーに貢献すべきという思考です。

短期的な利益を追求するために、環境や地域社会へ負荷をかける経営を見直す時期が到来している背景もあり、これまでの資本主義への懸念が高まっています。ESG(環境・社会・企業統治)投資はグリーンウオッシュなどの批判はあるものの隆盛で、投資家も良い企業を選ぶことから良い企業に育てることへと変化しています。新型コロナの感染拡大も企業経営に大きな影響を与えました。アメリカでは大企業がステークホルダー経営の実践を推進することを宣言していて、グローバル経済の影響を考えるとステークホルダー資本主義が世界中へ浸透することが予想できます。

現状、世界は地球規模で様々な問題を抱えています。このままでは資本主義自体が立ち行かなくなる可能性が出てきました。サステナブルに地球及び人類が共存・共栄するためにも今までのシステムの見直しは必然です。それぞれの企業が自社の利益拡大と社会課題の解決の両方を実現することでその存在意義が生まれ、企業価値が高まるという新しい資本主義のシステムを構築し実践することが必要です。株主資本主義でもなく、中国のような国家資本主義でもない、社会全体の利益を追求する公益資本主義の発想に近いものがあります。

企業ブランド価値の向上も、「三方よし」の精神を経営者が先頭立ってステークホルダーと共に歩み続ける姿勢を示し、結果を出すことが最適な戦略だと確信します。  

日本を含めて新しい資本主義のあり方は地球規模での共存・共生にヒントがありそうです。

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この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人ギフト研究所 主筆。
広告・マーケティング業界に約40年従事。日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

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