自社のオウンドメディアの運営方針に活かせる
――「オウンドメディアの読者アンケート」の目的はなんでしょうか?
菅原大介(以下、菅原):企業が自社のコンテンツ発信の一環としてメディアを立ち上げることが増えていますよね。一方でオウンドメディア運営に十分な編集体制を整えられないのが現状です。そのような環境下では読者のターゲット理解や他社メディアとの差別化がはかれない、コンテンツ企画がマンネリ化してしまうなどの悩みを抱えてしまいがち。そのような悩みに対して、自分たちの独自性や編集方針を見出し、企画の内容にも活かせるのがオウンドメディアの読者アンケートなのです。
――どのようなジャンルや業種のメディアでオウンドメディアアンケートを行うのですか?
菅原:業種やメディアの規模感にかかわらず、どんなメディアで実施しても効果を得られます。オウンドメディアといってもブログなどの記事形式やSNS、会報誌、最近だとメルマガを含むニュースレターなど様々あります。なかでも今回は、記事やブログ形式のメディアにフォーカスしてオウンドメディアの読者アンケートの話をしていきましょう。
「オウンドメディアの読者アンケート」の3つのメリット
――オウンドメディアの読者アンケートを行うメリットを教えてください。
菅原:オウンドメディアの読者アンケートには3つのメリットがあります。まず1つ目のメリットは読者像を定義できることです。オウンドメディアでは、どのようなターゲットへ訴求していくかを常に想定してコンテンツ制作をしていかなければなりません。しかしWeb上のデータだけでは読者像をイメージしていくのはなかなか難しいのではないでしょうか。
読者へアンケートを実施することで、回答から自社メディアの読者は”〇〇が好きな人”など、読者の志向性が見えてきます。どのようなターゲットに、どのコンテンツを提供していくのかを他社との差別化もはかりながら考えましょう。こういった運営していくための判断材料が得られるのです。
――2つ目のメリットを教えてください。
菅原:2つ目は自身のメディアが対外的にもたらす影響度を把握できることです。メディア運営の紹介として、よく媒体資料が用意されますよね。媒体資料は単なるメディアの紹介だけが目的ではなく、広告販売やコラボ企画としても使われます。媒体資料には顧客構成やメディアの特性を記載しますが、運営初期の段階だとまだ自社メディアの情報を把握しきれません。
そこでオウンドメディアの読者アンケートを行うことで、自社のメディアで広告掲載やコラボを実施したら読者の生活に対してどのような影響をもたらすのか、記事掲載を通してどのような価値をもたらすのか、こういったメディアがもたらす影響度を知ることができます。数値では捉えられない定性的な価値が得られるのもメリットです。
――最後に、3つ目のメリットを教えてください。
菅原:企画を再生産していけることです。オウンドメディア運営において、日々コンテンツ企画を出し続けることはとても大変なことだと思います。企画がマンネリ化している、ヒット記事ばかり狙った結果記事テーマが限定的になっている、ビジネスに従属しすぎて読者ニーズに応えられていない……などはよく聞く悩みです。
そのようなときにオウンドメディアの読者アンケートを実施することで、既存コンテンツに対してのフィードバックを受けることができます。記事企画を洗練させたり、新しいテーマや書き手を拡充していくヒントを得たり、読者が持っている知見や経験をコンテンツ化したりなど、企画を再生産する仕組みをつくり出すことができるのが読者アンケートの大きなメリットです。
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「オウンドメディアの読者アンケート」の3つのモデルケース
――実際に「オウンドメディアの読者アンケート」を行なっている事例はありますか?
菅原:昨今各メディアが読者アンケートを強化しはじめているのをよく見かけますね。今回はオウンドメディア読者アンケートで代表的な3つのモデルケースを解説します。
■1.記事評価モデル
菅原:1つ目は記事評価モデルです。これは読者からメディアへの印象を記事単位で評価できます。今まで公開してきた記事について、具体的にどの箇所がどういう理由で評価を得ているのかを、ユーザーの仕事や趣味、生活と照らしあわせて把握するのに便利なアンケートモデルです。上で紹介した3つのメリットのうち、とくに「読者像の定義」に使える回答が得られます。
――記事評価モデルの質問構成を教えてください。
菅原:まずQ1の「期待する情報」ではたとえば、速報性や詳報性、地域性、特化性など、自社に期待しているであろう読者の価値観や志向性の選択肢を用意します。
次にもっとも印象に残っている記事を「記事名称」と「選択理由」で尋ねます。評価対象を記事単位に絞ることによって、読者の記憶に残っている記事の構成要素はなにかを把握し、そこから自社メディアならではの独自性を検討できます。質問を通じて、読者がメディアに望んでいる役割を確認するのです。
――記事評価モデルの事例はありますか?
菅原:英会話教材大手のアルクが運営している英語学習の情報メディア「ENGLISH JOURNAL ONLINE」です。メディア読者を対象に、好きな記事やその理由、記事の感想でアンケートは構成されていました。回答から記事の総合的な価値判断が得られます。
■2.効果測定モデル
菅原:2つ目はオウンドメディアが事業活動へどの程度貢献できているのかの指標に使える効果測定モデルです。オウンドメディアの記事コンテンツは事業のリード獲得など、マーケティングの入口段階の役割を担っています。上で紹介した3つのメリットのうち、とくに「メディアの影響度の把握」に使える回答が得られます。
――効果測定モデルでは、どのような質問設計が必要ですか?
菅原:読者が記事を読んだあとにどのような行動をとったか、行動経験の種類やその際のエピソードなどで成り立ちます。たとえば地域情報を発信するオウンドメディアであれば、「地元の店の紹介」が記事の主要コンテンツになっていますよね。この場合、店舗への問合せや訪問が増えれば記事の出来は良いと判断されますし、事業貢献へとつながっています。
このように「店への訪問」など、記事を読んだあとのオンライン以外での行動を尋ね、分野や地域への影響度合いを定量的に検証します。また記事をきっかけに社会生活が豊かになったなどの読者体験を通じて、より読者の感性に刺さる記事の再生産へと繋げるのです。
――効果測定モデルの事例を教えてください。
菅原:食品メーカーの「キユーピー」です。キユーピーでは季節行事をテーマに自社のオウンドメディアで特集を立て、レシピを公開しています。たとえばイースター行事をテーマにしたアンケートでは、テーマの認知度や閲覧経験記事、その後のレシピ試行経験について尋ねていました。
イースター行事の認知や関与、キユーピーのイースター特集レシピページを閲覧したあとの態度変容、最後にイースターのシンボルである卵を使ったメニューのレシピ活用実績を尋ねます。その結果、自社商品の利用促進を検証できるのです。
■3.投稿募集モデル
菅原:最後はユーザーの体験談を収集し、コンテンツ制作に反映するための投稿募集モデルです。記事の企画になり、リアリティや共感度向上など、編集の質を上げることにも寄与してくれるアンケートモデルです。上で紹介した3つのメリットのうち、とくに「企画の再生産」に使える回答が得られます。
――投稿募集モデルでは、どのような質問設計が必要ですか?
菅原:アンケートでは読者の体験したエピソードを複数項目に分けて尋ねるといった工夫が大事です。まずは読者の関心分野を選択形式で用意し、関心分野での体験エピソードを自由回答で確認します。最後はその後どうなったのか、なにか変化はあったのかなどの成功体験を尋ねます。
アンケートでは読者の関心や課題について広く尋ね、回答結果は他の読者にも共有していきます。このように投稿募集モデルは読者の閲覧習慣やリアクションの意識を高めることができるのです。
――投稿募集モデルの事例はありますか?
菅原:発達が気になる子どもの保護者や支援者向けサイトの「LITALICO発達ナビ」です。LITALICO発達ナビでは「子育て中の困り事、エピソード募集」と題して、子どもが周囲の人とトラブルになってしまう場面について情報を募集していました。集めた情報はコミックエッセイ化する目的があったため、アンケートでは経験時期や経験種類、経験内容などを尋ねていましたね。
どの企業でも実施しやすい「オウンドメディアの読者アンケート」
――オウンドメディアの読者アンケートは、どのようなタイミングで実施するのがオススメですか?
菅原:読者プロフィールを取得したいタイミングがいいと思います。たとえば年に1回など、そこまで頻繁に行わなくてもいいでしょう。とくにコンテンツ内容について質問したい場合は、読者に記事を読んでもらうための期間をある程度用意してあげなければなりません。
一方、自社で編集部を抱え定量的に記事配信を行っている場合や、月刊誌など定期的に発行しているメディアの場合は、月に1回取得して毎月の特集に活かすケースもあると思います。編集体制やメディアの規模感などで実施タイミングを判断するのがいいですね。
――オウンドメディアの読者アンケートでは、インセンティブは必要ですか?
菅原:いつも通りで良いです。普段用意していない場合は今回も不要ですし、一方でインセンティブを普段から付与している場合は、今回も同じように用意して問題ありません。投稿募集モデルなどでは、企画が採用されたらプレゼント、取材をさせていただく場合にインセンティブなどの方法もあります。
――最近ではコロナ禍の影響で、Webでの接点を持とうという企業は増えていますよね。そういったメディア運営をスタートしたばかりの企業にオススメのアンケートはありますか?
菅原:今回紹介した3つのモデルケースには当てはまらないのですが、県の広報誌についてアンケートを実施したケースがありました。発行頻度や文字の大きさ、レイアウトなどのサイトデザインについて尋ねていましたね。サイトデザインについてのアンケートは初期の段階でも実施しやすいかなと感じています。ある程度コンテンツが溜まってきているケースなら、投稿募集モデルで読者と接点をもち企画に活かすのもいいかと思います。
メディア運営をスタートしてまもない企業から長年運営されている企業、運営体制や規模感などにとらわれず、どの企業でも実施しやすいのが「オウンドメディアの読者アンケート」の特徴といえるのではないでしょうか。
▼今回菅原さんにお話しいただいた周年キャンペーンでのアンケート施策については、菅原さんのnoteでもまとめられています。ぜひ併せてお読みください。
オウンドメディアの企画を読者アンケートを使って洗練させるリサーチ方法|菅原大介|リサーチャー|note
https://note.com/diisuket/n/n7e58bf27a213「自社メディアの発信内容がビジネスと連動していない」「掲載しているコンテンツが他のメディアとあまり変わらない」―オウンドメディアの運営は、活動の自由度こそ高いものの、事業活動から孤立したり、制約で個性を出しづらい難しさがあります。 加えて、編集部内においても、取りためている読者データや過去記事コンテンツをあまり活かせていない課題を持っていることが多く、足元の企画は進めていても、「過去の振り返り」や「未来の見通し」をなかなか提示できないジレンマを持っています。 そこでおすすめしたいのが「オウンドメディアの読者アンケート」を実施する方法です。
菅原大介
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の株式会社学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査業務に従事。現在は国内通信最大手のグループ企業でマーケティング戦略・中期経営計画・UXデザインを担当する。
会社では小売・サービスの分野における市場調査・ユーザーリサーチ・プロダクトリサーチを担当し、自身もマーケティング・広報・店舗開発の実務経験を有する。また、スタートアップから大企業まで各規模のIT企業でリサーチ組織の立ち上げ経験を持つ。
個人でも「リサーチハック」をキーワードに、リサーチの魅力や技能を普及させる著述・講演活動に取り組み、業界・職種・施策・課題ごとの調査設計やデータ分析のノウハウが、マーケティング・調査メディアでの寄稿やセミナー・研修会で好評を得ている。
主な著書に『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』『新・箇条書き思考』(ともに、明日香出版社)がある。
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