こんにちは、ヴァリューズデータ分析チームの本間です。2021年入社で、Z世代と呼ばれる年代です。
私は普段、データアナリストとして大手広告代理店やECサイトを運営する事業会社と調査を行ったり、主にエンタメシーンを題材にした調査記事を執筆したりしています。過去には、「BTSの推し活ファン定着プロセス調査」というテーマで、調査記事も執筆しています。記事末にリンクも掲載しているので、ぜひご一読ください。
調査記事では自らがいちユーザーとして関心を持っているトピックを取り上げることが多く、今回のお笑いライブもその一つです。私自身、2022年に数十本のお笑いライブを鑑賞し、ライブシーンの盛り上がりを肌で感じてきました。
本記事では、盛り上がりを見せるお笑いライブシーンを題材に、有料オンラインライブについて分析します。昨今のM-1グランプリで地下芸人が話題になるなど、注目度の高まっているお笑いライブシーンですが、オンラインライブにおけるリアルライブとの規模感の違いや併用状況、ユーザー属性やリピート状況はどうなっているのでしょうか。ヴァリューズのWeb行動ログデータを用いて分析を行っていきます。
お笑いのオンライン・リアルライブの利用状況を比較
お笑い好きユーザーとしての視点と、マーケティングの観点を掛け合わせて考えてみたところ、以下のような疑問が生じました。
■オンラインライブに対する3つの仮説
仮説1 | リアルライブユーザーが補完的に利用するのか |
仮説2 | ターゲットは会場に行けない遠方ユーザーなのか |
仮説3 | リピートされにくいのか |
上記疑問について、お笑いライブチケットの販売サイトのデータを題材に、オンラインライブとリアルライブの比較分析を行います。集計対象のデータ定義は下記のとおりです。
対象デバイス | PC・スマートフォン |
対象期間 | 2021年11月~2022年10月 |
リアルライブ | yoshimoto.funity.jp(劇場ライブチケット販売サイト) |
オンラインライブ | online-ticket.yoshimoto.co.jp(オンラインライブチケット販売サイト) |
今回分析対象として取り上げるリアルライブサイトでは、よしもと興業が全国に保有する劇場での公演を中心に販売を行っています。
- なんばグランド花月(大阪府)
- よしもと漫才劇場(大阪府)
- 森ノ宮よしもと漫才劇場(大阪府)
- よしもと祇園花月(京都府)
- ルミネtheよしもと(東京都)
- 神保町よしもと漫才劇場(東京都)
- ヨシモト∞ホール(東京都)
- ヨシモト∞ドーム(東京都)
- よしもと有楽町シアター(東京都)
- よしもと幕張イオンモール劇場(千葉県)
- 大宮ラクーンよしもと劇場(埼玉県)
- よしもと福岡 大和証券/CONNECT劇場(福岡県)
- 沼津ラクーンよしもと劇場(静岡県)
仮説1:オンラインライブはリアルライブユーザーが補完的に利用するのか
コロナ禍で実施が制限されたリアルライブの代案として、普及が広まったオンラインライブ。
感染拡大から2年ほど経過した今、リアルライブ・オンラインライブ各サイトの閲覧者・チケット購入者のユーザーボリュームに違いはあるのでしょうか。ユーザー数と併用率を確認してみましょう。
閲覧者の規模では、リアルライブ販売サイトよりオンラインライブ販売サイトが大きくなっています。一方でチケット購入者数ではリアルライブがオンラインライブを上回っており、実際の購入者規模はリアルライブが優勢と思われます。
また購入の併用率は約11%です。これは1年以内にリアルライブとオンラインライブ両方のライブチケットを購入した人を示しています。反対にリアルライブのみ・オンラインライブのみを利用するユーザーの存在も読み取れます。
リアルライブ購入は年間に1度もないがオンラインライブ購入はある、というユーザーの存在は、オンラインライブの浸透を感じさせる結果です。リアルライブの代案としてのオンラインライブが、時間を経て、エンターテイメントを楽しむ1選択肢として普及しているのではないでしょうか。
仮説2:オンラインライブのターゲットは会場に行けない遠方ユーザーなのか
オンラインライブのメリットとして、遠方であってもネットさえあれば鑑賞できるというアクセスの簡便さがよく挙げられます。では実際に、オンラインライブは会場に行けない方が購入者の多くを占めているのでしょうか。
下記はよしもとの劇場有無で都道府県を分類し、オンラインライブチケットサイトの閲覧者・チケット購入者それぞれについて、劇場のある都道府県の在住者かどうかを割合にしたものです。
左のオンラインライブサイト閲覧者の構成比をみると、劇場のない都道府県のユーザー比率が半数を占めていますが、実際のチケット購入者の構成比では劇場のある都道府県のユーザー比率が6割を占める結果となっています。
劇場がない地域のユーザー、すなわち遠方ユーザーは一定オンラインライブへの関心はあるものの、購入に至らないユーザーが多いことが推察されます。
下記は比較対象として、リアルライブサイトについても同様に構成比を算出したものです。
リアルライブサイトにおいては、閲覧者の半数を劇場がある都道府県のユーザーが占めており、購入者の比率も同様の結果となっています。
オンライン・リアルともにチケット購入者の多くは、より劇場にアクセスしやすい都道府県に在住するユーザーであることがわかります。
仮説3:オンラインライブはリピートされにくいのか
仮説2では、オンラインライブは劇場アクセスが難しいユーザーだけでなく、劇場のある都道府県のユーザーにも利用されていることが明らかになりました。では、オンラインライブのリピート率はどうなっているのでしょうか?リアルライブと比較しながら分析していきたいと思います。
年間5回以上購入するヘビーユーザーの比率はオンライン・リアルともに10%程度と、リピーターの比率に大きな差がないことがわかります。
一方、ユーザーの在住地域別の構成比をみると、オンラインライブの年間5回以上購入ユーザー群では約半数を劇場がない地域のユーザーが占めています。オンラインライブ利用は劇場のある都道府県のユーザーにも浸透していることが仮説2で明らかになりましたが、リピート購入者の内訳としては劇場のない都道府県のユーザーも多いようです。
株式会社SKIYAKIの調査では音楽配信ライブにおいて回答者の77.0%が「リアルの方が良い」と回答していることが明らかになっています。一方で、上記集計結果をみると、お笑いライブにおいてはオンラインライブもリアルライブ同様に支持され、リピートにつながっているように見受けられます。
この違いは、エンターテイメントのジャンルによって、ライブの楽しみ方や期待されるポイントが異なるためではないでしょうか。例えば、お笑いライブはテレビを見るような感覚でも楽しみやすい一方で、音楽ライブは音楽番組をみる時とは違う楽しみ方が期待されているのかもしれません。
考察:リアルライブの代替からエンタメの「1つの選択肢」として普及
本分析で検証した仮説の結果とその解釈を下記にまとめています。当初の仮説に対して、オンラインライブの普及度合いや活用のリアルが読み取れる結果となりました。
この調査では、現在のオンラインライブを取り巻く現状を、お笑いライブチケット関連サイトを題材に分析し、3つの仮説検証を行いました。その結果、下記図にもまとめたように、オンラインライブはリアルライブの代替としての立ち位置から、1つの選択肢として普及しつつあることが推察できます。
リアルライブの再開もあり、オンラインライブの必然性は2020年当初に比べると下がりつつあります。しかし、地域を問わず、リピートユーザーも一定存在するオンラインライブは、1選択肢として今後も存続していくのではないでしょうか。
また、今回の分析ではお笑いライブシーンを取り上げましたが、エンターテイメントのジャンルによってもオンラインライブをとりまく現状は異なることが予想されます。コロナが収束に向かう今、オンラインライブの位置づけがどのように変化していくのか、今後も注目していきたいと思います。
BTS初心者が「推し活ファン」に定着する過程を行動ログデータから調査してみた
https://manamina.valuesccg.com/articles/19282013年にデビューし、2019年頃から2021年にかけて日本国内のみならず世界中を席巻したBTS。 では、BTSに関心を持ち始めた人はどのようにして推し活をするようなコアファンとして定着していくのか?今回は、2019年の時点でBTS初心者と思われるユーザーを検索行動から類推し、その後3年間のWeb行動分析から、ファン定着のシナリオを推察します。
参考記事
・劇場一覧
・https://www.yoshimoto.co.jp/gekijyo/list.html
・ライブファン約2,800人に音楽ライブ配信についての意識調査を実施
・https://skiyaki.com/contents/482540
株式会社ヴァリューズ データアナリスト 本間 花(ほんま はな)
東京都出身、津田塾大学総合政策学部卒業。1998年生まれ。
2021年にヴァリューズへ新卒入社。
ヴァリューズのWEBログデータの分析を手掛ける。