サーキュラーエコノミー ~ 循環型社会の到来

サーキュラーエコノミー ~ 循環型社会の到来

年々注目度が増し、避けては通れなくなりつつある「SDGs」。この目標達成に即した企業活動として、現在注目されている「サーキュラーエコノミー(=循環型経済)」。企業の事業展開において、廃棄物も汚染物も出さないという理念に基づき、収益を創造してゆくこの事業モデルの必要性、そして現代における「再生・再利用」への問題に関する示唆も含め、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が解説します。


もったいない感覚

飲み干したコーラなどの空き瓶を近所の酒屋へ持ってゆくと、わずかながらお駄賃を貰えたような記憶があります。子供の頃、面白がって空き瓶を拾い集めていた時期がありました。もちろん、お駄賃ですから大した金額にはなりませんでしたが、アルバイト的な感覚を実践できたような気がします。頂いた小銭はすぐに使ってしまいましたが。リサイクルして何度も瓶を使用するということが環境に良いことだと、大人達から教えられたことがきっかけです。友達と世の中の役に立つような気分になり、瓶集めをしたことが思い出されます。

もったいないと感じることがよくあります。まだ使えそうなモノがごみになったり、食べ物を注文したのに殆ど食べずに残したり、賞味期限が切れてしまったり、と常に身の回りに起こります。しかし、仕事に忙殺されたり、プライベートで気になる案件や用件を抱えたりすると、もったいないという感覚すら忘れてしまう状態に陥ることもあります。

瓶集めはリサイクル運動の教材として、豊かな消費生活の裏側で犠牲になっているものに配慮した環境保全のあり方を教えてくれたのかもしれません。改めて、責任ある消費行動には大人も含めての教育と実践が必要であることがわかります。

リサイクルと3R

ごみを様々な手法を駆使して資源に戻すことがリサイクル(Recycle)です。古新聞紙を加工して紙の原料であるパルプに戻すことは誰もが知っていますが、それ以外にもプラスティック容器やガラス、アルミ、鉄など多くの種類のごみはリサイクルが可能です。いわゆる「リサイクル資源」なのです。もちろん、ごみを捨てる際の適切な分別がリサイクルを進めるために求められる作業です。
リサイクルを行うには多くのエネルギーやシステムの構築、労働力などが必要となります。また、必ずしも環境に良いとばかりはいえません。さらに、リサイクルと同時に、ごみを出さない=リデュース(Reduce)、繰り返し使用する=リユース(Reuse)の3Rの推進が鍵となります。

リサイクルには課題もあります。環境・資源問題への関心が市民に高まり、それぞれの自治体によるごみの分別収集以外にも、NPOや市民団体による資源回収活動「集団回収」が盛んです。その結果、回収量が急増し、せっかくの「リサイクル資源」が需要に対し供給量が過剰となり、回収された一部が有効に利用されることなく廃棄物として処分されることや、引き取り料を支払う逆有償といった例すらあります。

「リサイクル資源」の有効活用はサスティナブル社会の実現において必須です。これらの課題を解決するにはそれぞれの関係者・団体が連携を深め、リサイクルの仕組みを再検討することも重要です。

他にもリサイクルに有効な制度があります。製品の価格に一定金額の預託金(デポジット)を上乗せして販売し、製品や容器の使用後に返却された際、預託金を返却することで製品や容器の回収を促進する制度で、預り金払い戻し制度と呼ばれています。

サーキュラーエコノミー

サーキュラーエコノミー(Circular Economy)とは「循環型経済」を指します。経済活動で作られ、廃棄されていた原材料や製品などを「リサイクル資源」として、再利用・再活用し、資源を循環させる経済システムです。

人口爆発と経済成長による、大量生産・大量消費は世界中で繰り返えされ、大量の廃棄物が環境を破壊・汚染し、生態系や気候に莫大な被害を与えています。地球上の限りある資源やエネルギーを有効に活用し、地球環境を守り、経済を維持するためにも循環型の経済システムの構築が必要不可欠です。

従来型の経済システムをリニアエコノミー(Linear Economy)と呼びます。リニアエコノミーは大量生産・大量消費の一方通行の経済で最終的には大量の廃棄物を生み出します。これに対し、サーキュラーエコノミーは製造の段階からリサイクルや再利用しやすい設計を構築し、実行することで廃棄物を最小限に抑えることが可能です。資源を効率的かつ有効に活用することで、最大限の付加価値を模索する経済政策といえます。

シェアリングエコノミー(共有経済)はインターネットを活用し、モノや場所、時間などを貸し借りする経済モデルで、サーキュラーエコノミーの実例のひとつです。

3Rはサーキュラーエコノミーと似ていますが、少なからず廃棄物が出ることが前提です。

サーキュラーエコノミーは「廃棄物や汚染は発生させない」という考えに基づいています。

製品を生産する際にリサイクルや再利用しやすい設計を構築したり、製品の寿命の延長さのためのメンテナンスを充実したり、シェアリングやリースを推進するといったことも重要です。近年、本来であれば捨てられるはずのものにデザインや機能性を付加することで、より価値の高いものへ生まれ変わらせる「アップサイクル(upcycle)」も注目されています。

SDGsとサーキュラーエコノミー

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)。「持続可能な開発目標」は2016年から2030年までの15年間で達成すべき17のゴールと169のターゲットで構成されています。さらに、その達成状況を図るための指標が232もあります。SDGsは経済や環境、社会の課題が幅広く取り上げられていて、地球規模で持続可能な社会の実現を目指して国連が主導しています。

SDGsのゴール12の「つくる責任、つかう責任」は持続可能な消費と生産の実現を目指しています。サーキュラーエコノミーはこのゴール12の意図に即した考え方です。SDGsとサーキュラーエコノミーは関連性が高く、ゴール13「気候変動に具体的な対策を」、ゴール14「海の豊かさを守ろう」、ゴール15「陸の豊かさも守ろう」、などSDGsの他の目標とも高い親和性があります。SDGsの達成にサーキュラーエコノミーの実践は欠かせません。

サーキュラーエコノミーの助け舟として、AI(人工知能)の進化があります。製品の余分な生産を防ぐといった生産・消費システムへのAI技術の導入が進んでいます。ますますの高度なレベルでの進展が期待できそうです。

SDGsを支え、無駄を収益に変えるビジネスモデルがサーキュラーエコノミーなのです。

【関連】企業イメージ経営 ~ 企業イメージを高める経営・ブランド戦略とは

https://manamina.valuesccg.com/articles/1792

企業イメージやブランドイメージを高める企業経営や戦略とはどのようなものなのでしょうか。個人の価値観が多様化する現代社会において、自社そのものやブランド、サービスに対し、誰にどんなイメージを持って貰いたいかを設計する難易度は増しています。 広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏に、企業イメージを高める経営について解説いただきます。

【関連】SDGsはただの流行ではなく新規事業の「種まき」になり得る。そのための方法を解説

https://manamina.valuesccg.com/articles/1716

SDGsの流行とは裏腹に、その経営戦略・マーケティング上の重要性が理解されないままに、CSR活動のトレンドとして取り組んでいる企業も数多く見られます。SDGsを新規事業開発の「種まき」にする方法について、『アフターコロナのマーケティング』著者であり、株式会社森経営コンサルティング代表取締役の森泰一郎さんに解説いただきます。

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

関連する投稿


スリープテック ~ 睡眠の質とテクノロジー

スリープテック ~ 睡眠の質とテクノロジー

疲労回復、毎日のコンディション管理に必要不可欠な「睡眠」。その睡眠、あなたは足りていますか?最近ではニュースでも多く取り上げられた通り、日本は世界規模での「不眠大国」。実に日本人の平均睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)の加盟国33ヵ国の中で最下位とも言われています。そして睡眠はただ眠るだけではなく、経済とも大いに関わりがあるのです。本稿では広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、良質な睡眠の鍵を解説します。


ARPUとは?客単価との違いや計算方法・向上のための6つの施策

ARPUとは?客単価との違いや計算方法・向上のための6つの施策

ARPU(アープ)とは、ユーザー一人当たりの平均収益・売上を示す指標です。 もともとは携帯電話等の一契約当たりの売り上げを表す際に用いられていましたが、Saasや課金制のビジネスモデルでもARPUが活用されています。ARPUを用いることで、「優良顧客の選定」や「事業の成長性や収益性の判断」といった経営判断を行えます。本記事では、ARPUの計算方法に加え、ほかの関連指標との違い、ARPUを向上させる施策について解説します。SaaSの運営や、課金のあるサービスの運営をしている方や、ARPUの数値を改善したい方は参考にしてください。


忘年会 ~ 従業員エンゲージメントの秘策

忘年会 ~ 従業員エンゲージメントの秘策

日本の年間恒例行事のひとつでもある「忘年会」。「忘年会」と聞いてどのような会を思い出しますか?そのコミュニティはどのような集まりでしょう。「無礼講」の下、飲んで騒ぐといった「酒宴」は過去の産物なのでしょうか。本稿では、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が「忘年会」の起源に触れ、現代社会においてあるべき社内コミュニケーションの姿、従業員エンゲージメントについて解説します。


感性について ~ マーケティングとハプティクス

感性について ~ マーケティングとハプティクス

人には5感が備わっています。さらに突き詰めれば第6感という感覚も。それら人の持つ感性や感覚を補うべくあらゆる技術も日々進歩していますが、人のそれらの代替となるような技術はまだ未完の途上です。それほどに他に取って代われない私たちの感性・感覚。本稿では、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、広告やマーケティングを通して人の感性の深さを説き、ハプティクス(Haptics)を用いて人の感覚の重要性を解説します。


食料危機 ~ 天災か人災か

食料危機 ~ 天災か人災か

食料・食糧の危機が迫っています。地球上では、気候問題や行政の責任下で今なお続く飢饉もあります。私たちの未来を豊かにするために欠かせない食料・食糧。それを恒常的に守っていくためには、今この時にどのような行動が必要なのでしょうか。基本的な言葉の意味の説明や、それぞれに対する詳細な対策案を交え、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


最新の投稿


タイのコーヒーの特徴とは?タイのコーヒー市場の現状やショップを紹介

タイのコーヒーの特徴とは?タイのコーヒー市場の現状やショップを紹介

近年タイではコーヒーブームが起こっています。バンコクには次々と新しいカフェができており、SNS映えする店内だけではなくコーヒーの味にもこだわりを持つカフェが増えています。実際に、起業してカフェオーナー兼バリスタになるのはタイでは一つのトレンドです。 近年、タイのコーヒー市場は右肩上がりに伸びており、タイのコーヒー市場は日本円で1440億円を超えると言われています。 そこで本記事では、タイのコーヒー市場の現状を読み解くとともに、タイでなぜコーヒーの人気が高まっているのかを、タイのコーヒーブームの歴史と共に解説します。


2025年上半期Z世代トレンド予想!Trepo、「ファッション」「グルメ」「コト・モノ」の3部門のランキングを発表

2025年上半期Z世代トレンド予想!Trepo、「ファッション」「グルメ」「コト・モノ」の3部門のランキングを発表

株式会社Creative Groupは、同社が運営するメディア『トレンドメディアTrepo(トレポ)』にて、10代~20代の女性を対象に、2025年上半期のZ世代トレンド予想調査を実施し、結果を公開しました。


ADK MS、「ゲーム総合調査レポート2024」を発表!最新のゲーム市況の把握から、ゲームプレイヤーの行動・心理の分析まで網羅

ADK MS、「ゲーム総合調査レポート2024」を発表!最新のゲーム市況の把握から、ゲームプレイヤーの行動・心理の分析まで網羅

株式会社ADKマーケティング・ソリューションズは、ゲームプレイヤーの心理・行動を分析し、分かりやすく彼らの実態を可視化した「ゲーム総合調査レポート2024」を作成し、公開しました。


スリープテック ~ 睡眠の質とテクノロジー

スリープテック ~ 睡眠の質とテクノロジー

疲労回復、毎日のコンディション管理に必要不可欠な「睡眠」。その睡眠、あなたは足りていますか?最近ではニュースでも多く取り上げられた通り、日本は世界規模での「不眠大国」。実に日本人の平均睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)の加盟国33ヵ国の中で最下位とも言われています。そして睡眠はただ眠るだけではなく、経済とも大いに関わりがあるのです。本稿では広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、良質な睡眠の鍵を解説します。


BtoBマーケティングの成功は"ファクトファインディング"が重要!本質的・潜在的な課題・ニーズを引き出すことが成功のカギ【PRIZMA調査】

BtoBマーケティングの成功は"ファクトファインディング"が重要!本質的・潜在的な課題・ニーズを引き出すことが成功のカギ【PRIZMA調査】

株式会社PRIZMAは、全国のマーケティングコンサルタントを対象に、「BtoBマーケターが始めた方が良いこと」に関する調査を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ