SDGs(Sustainable Development Goals)旋風とでも言いましょうか。多くの企業・団体で決算報告やHPにSDGsに関する取り組みを掲げることがある種の常識のようになってきています。
かく言う私も1年半ほど前、2020年8月に出版した『アフターコロナの経営戦略』以降、企業がSDGsに取り組むことの重要性を訴えてきました。
ただし、SDGsの流行とは裏腹に、その経営戦略・マーケティング上の重要性が理解されないままに、CSR活動のトレンドとして取り組んでいる企業も数多く見られます。そこで今回は、タイトルの通り、SDGsを新規事業開発に関するヒント、種まきとして見つめ直すという試みをしてみたいと思います。
【関連】ビジネスパーソンのためのSDGs・ESG超入門 ー 今さら聞けないSDGsとESGの違い
https://manamina.valuesccg.com/articles/1648近年「SDGs」や「ESG」といったワードを書籍やニュースなどで見聞きすることが増え、重要なトピックとして頭ではわかっているけれども実はよくわかっていない…と焦っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この記事では「SDGs」や「ESG」が今後のビジネスやみなさんの生活にどのように関わるのかをできるだけ分かりやすく解説していきます。
ウェディングケーキに見立てた「SDGsの3層構造」
今回、改めて経営者や経営企画・マーケティング担当の方に「SDGsについて説明できますか」とヒアリングをしてみました。SDGsと言われると、「17個のゴールと169のターゲットがある」となんとなく理解されている方は多くいらっしゃいます。
SDGsの17のゴール
より詳しい方ですと、「Well beingのためにSDGsはあるのだ」というSDGsの目的を理解されている方もいらっしゃいましたし、「弊社のマテリアリティは〜」とご説明いただくケースもありました。
しかしながら、具体的なお話になればなるほど、従来型のCSR活動と何が違うのだろうかと思わざるを得ないことが多くありました。少し言い方がきついかも知れませんが、SDGs活動における人気ワードである「エシカル 」や「カーボンニュートラル」のように、欧米のおしゃれなコンセプトに乗っている感を感じざるを得ません。
まず重要なのは、SDGsのゴールはどれも同じレベルにあるものではないということです。ストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム氏は、SDGsの17のゴールをウェディングケーキに見立て、3つの階層(トリプルライン)に分けて説明しています。
The SDGs wedding cake © Azote for Stockholm Resilience Centre, Stockholm University クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
日本語表記のものは『事業者のための生物多様性民間参画ガイドラインのご紹介』(p3)等を参考。
https://www.env.go.jp/nature/biodic/gl_participation/BDGL2_pamph_ja.pdf
まず土台となる階層は、自然資本・グリーンレジリエンスに関する階層です。ここでは、ゼロ・カーボン(カーボンニュートラル)、農業林業促進、海洋資源保護など4つのゴールが定められています。
一方で、CSRのイメージのある自然資本に関するゴールはこれら1階層目に位置づけられており、SDGsのほとんどの目標はより高次元かつ抽象的なゴールになります。だからこそ、多くのSDGsプロジェクトがわかりやすいCSR的な活動になってしまっているのではないかと考えます。
2つ目の階層が社会関係資本に関する階層です。この階層は大きく分けて、社会の発展に関することと公平さを担保するための活動に関することの2つの観点があります。
社会については、エネルギー、まちづくり、貧困解決、平和と公正さのゴールが割り振られており、公平さについては、健康・福祉、教育、ジェンダー、飢餓防止の4つのゴールが割り振られています。
後ほど詳しくご紹介しますが、この社会関係資本よりも上位の階層に、新規事業の種があるということを肝に銘じておく必要があります。貧困解決、健康増進、教育機会の均等などに自社のサービスがどう貢献するか、そのように考えるのです。
これはゴールから考える思考法「バックキャスト型」と言われています。日本企業の得意な「現在地から将来を考える」思考ではなく、将来から今を考えるということです。
最後に3つ目の階層が、人的・財務・知的資本に関することです。ここではより高次のゴールとして、技術革新や働きがい、製造・使用責任、不平等の解消というテーマが掲げられています。
これらのゴールに関しては、我が事で考えなければ企業としてネタを考えること自体が難しいでしょう。そしてこれら3つの階層(トリプルライン)を貫く軸に、パートナーシップというSDGsを実現するための方法があります。
こんなにたくさんある、SDGsと新規事業のタネ
以上のように、抽象的なテーマをバックキャスト型で考えることが重要だとしても、具体的な方法論がなければ、前に進めません。そこでぜひ活用いただきたいのが、デロイトトーマツコンサルティングが公開した「SDGsビジネスの市場規模」というレポートです。
出所/デロイト トーマツ グループ:SDGsの各目標の市場規模試算結果(2017年)
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/dtc/sdgs-market-size.html
このレポートを見ると、それぞれのゴールごとにどんなテーマがあるのか、その市場規模はどの程度かを理解することができます。レポートに掲載されているのは2017年のデータですが、ゴールの3には「ワクチン開発」という項目があります。当然ながらコロナウイルスを予期したものではありませんが、ワクチン開発というSDGsのゴールから大きな市場が生まれていることは明らかです。
他にもEラーニングやロボット、セキュリティなど5年前のデータながら、現在でも十分に活用できるネタが示されています。自社の事業・サービスであればどこを狙うことができるのか、ぜひ全社で議論いただきたいと思います。
さらにこのデロイトトーマツコンサルティングのレポートが良いのは、具体的な戦略策定方法までを提示している点にあります。
出所/デロイト トーマツ グループ:目標1に関するSDGsビジネス (製品、サービス、プラットフォーム)(2017年)
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/dtc/sdgs-market-size.html
ここで指南されている戦略策定方法では、まずSDGsの169のターゲットの中から自社に関連するもの10個ほどピックアップします。
次に、それらのテーマからどのようなSDGsビジネスを生み出せるかを考えます。軸としては、B2C,B2B/B2Gの2つの観点と、製品・サービス・プラットフォームの3つの観点から、具体的なビジネスのあり方を考えていくというフレームワークです。
ちなみに表ではB2B/B2Gが同じになっていますが、企業と公的機関では意思決定プロセスや目標が異なるため、私であれば分けて考えます。
また、サービスとプラットフォームの分類が難しいことから、顧客と企業が1対1のものがサービス、1対N(もしくはN対Nの場合もある)がプラットフォームと定義しておくことで、具体的な案を考える際に、混乱することがなくなるでしょう。
高速インプット/高速アウトプットを繰り返すフレームワーク
SDGsはその深淵さから、企業でも超長期的な時間軸で動きがちです。しかしながら、変化の早い世界において、動き出しは早いに越したことはありません。動きながら考え、直すことで十分です。その際に参考になる考え方が、Googleベンチャーズが示す「スプリント」という新規事業開発方法です。
「スプリント」の6つのフェーズ
https://designsprintkit.withgoogle.com/methodology/overview
スプリントは、新規事業開発を1週間に濃縮させることで、早く、確実にチームで新規事業を生み出すための手法です。1日目にサービスに関する市場の課題の洗い出し、2日目に課題に対応するソリューション(誰の何のターゲットか)を多数ホワイトボードや紙に書き出す。3日目にその中から1つのソリューションを選び出します(これが日本企業には難しいと思われます。なんでも良さそうに見えてしまうから)。
4日目には早くも3日目のソリューションについて、デモを作成していくことになります。今ではシステム開発なく簡単にサイトやアプリを作ることができるため、ウェブサイトやスライドでイメージを形にするだけでも良いでしょう。そして、最終の5日目には想定顧客にデモを元にヒアリングするという流れになります。
スプリントであれば、通常3ヶ月から1年かかる新規事業開発を一気に短縮することが可能です。このスプリントをデロイトトーマツコンサルティングのフレームワークと組み合わせることで、非常に時間軸の長く複雑な問題を超高速で検証できるようになるのです。
以上のように、SDGsは非常に有効な新規事業開発のタネであり、中長期的な売上向上、ブランド工場に寄与すると考えられます。CSRとしてだけではもったいなく、マーケティング戦略上、特に重要なテーマと言えるのです。今回ご紹介したフレームワークをぜひ実務に取り入れてみてください。
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株式会社森経営コンサルティング代表取締役。実家が老舗葬儀会社を経営していることから、将来は中小零細企業を救う仕事がしたいと経営コンサルタントを志す。東京大学大学院経済学研究科経営専攻卒業。東京大学ではものづくり経営論で著名な藤本隆宏教授に師事。卒業後、経営コンサルティング会社、ラクスル、Buysell Technologiesにて、経営企画、デジタルトランスフォーメーション、M&A、新規事業開発に従事。「どんな産業・規模の企業でも必ずデジタル化できる」を信念に大企業から中小零細企業のデジタルトランスフォーメーション、新規事業開発を推進。アフターコロナで取り組むべきデジタルトランスフォーメーション事例などをまとめた初の著書『アフターコロナの経営戦略』を発売。2021年2月8日『アフターコロナのマーケティング』を発売。