タイのキャッシュレスといえば、クレカでなくモバイル決済
日本で昔からあるキャッシュレスというと、クレジットカードが挙げられます。日本ではサラリーマン比率が8割を超えていますので、ある程度の規模の会社に勤めていれば、クレジットカードは簡単に手に入るでしょう。
一方タイは、明確な階層社会であり、農業従事者や自営業者が圧倒的多数です。したがってクレジットカードを保有できるのは、わずかな人たちに限られています。
そのような環境のタイで、インターネットの普及率やスマホの保有率をみると、普及には時間がかかったものの、現在では日本とほぼ同じレベルにあります。また銀行口座の保有率も日本同様に高いことから、ほとんどのタイ人が、銀行のモバイルアプリをスマートフォンにインストールしています。
タイのキャッシュレス普及率は、日本の倍以上?
このような現状に加え、タイ政府の積極的なデジタル政策の影響もあり、タイにおいてはここ数年、急速にキャッシュレス化が進んできました。2019年時点でタイのキャッシュレス化率は69%と、東南アジアでは頭ひとつ抜け出た存在になっています。私の肌感覚ではありますが、現在ではさらに進んで80%ぐらいではないかと考えています。バンコク中心部のみならず、地方都市や農村部まで、全国的に普及が進んでいます。
ちなみに日本政府は、「2025年度までに40%のキャッシュレス普及率を目指す」としています。いかにタイでキャッシュレス化が進んでいるかがわかります。
ちなみに水道代や電気代などの光熱費は、モバイルアプリから支払いが可能です。その他、ガソリンスタンドやスーパーマーケット、屋台の麺屋さんまでもが、モバイル決済が可能となっています。
日本よりも生活に浸透する、銀行アプリとモバイル決済
タイでは日本と違い、スマホにダウンロードできる銀行のアプリがかなり普及しています。スマホアプリでの送金手続きは、異なる銀行間であっても、手数料はかかりません。
また、送金手続きも簡単です。登録している銀行口座のQRコードをアプリの中で開き、それをかざせば、外部との入金・送金のやり取りが24時間いつでも行えます。
このような利便性に加えて、店舗サイドでも手数料が発生しません。モバイル決済の方が、手数料が発生するクレジットカードよりも店舗サイドにとって都合がいいことも、急速なモバイル決済の普及に拍車をかけている要因と考えられます。
キャッシュレス化によるタイ人の消費行動の変化
自宅に居ながらにして、いつでもどこにでも手数料無料で送金できる機能により、FacebookやInstagramなど、SNS上で売買が活性化しています。現在では、自動車や土地、住宅などの高額商品まで、Facebook上での売買をよく見かけるようになりました。
本来は、このような高額商品の売買は、消費者同士のCtoCがメインでした。しかしキャッシュレス化があまりにも進んだので、最近では中古車業者や土地や不動産会社なども、Facebookに物件を掲載するなどして、SNS上での販売に力を入れてきています。
その他、家電や化粧品、食べ物、衣類など数多くのカテゴリーが、CtoC、BtoCともに混在した形で、Facebook上で売買されています。
一方で、タイにおけるBtoCのオンラインチャネルは、かつて”Lazada”と”Shopee”の独占状態でした。しかしここ数年でSNSでの売買が急速に活性化したことで、勢いが衰えてきています。”Lazada”や”Shopee”では現在、会員の囲い込み施策として、メンバーへのポイントの還元や、独自の割賦支払いサービスなどに力を入れ始めています。
このようにキャッシュレス化が進むことにより、消費者の消費行動にも変化が生まれてきています。
タイにおける販売活動においては、従来の店舗型中心から、今後はオンライン、特にSNSでの販売にも力を入れていく必要があるでしょう。早急な戦略の見直しが求められます。
株式会社ヴァリューズ相談役
Shyu Co., Ltd.代表取締役
在タイ23年目。タイをはじめとする東南アジアでのマーケティングリサーチとブランドマーケティングを専門とし、消費者分析にとどまらず、製品・流通レベルの課題も加味した上で、次期課題を浮き彫りにしていく手法は、多くのクライアントより好評を博している。