中国の「怠け者経済」が産んだ、美容の最新トレンドとは?

中国の「怠け者経済」が産んだ、美容の最新トレンドとは?

朝9時に出勤し、夜9時に退勤、それを週5、6日繰り返す。そんな「996/995工作制」と呼ばれる雇用制度が中国で広がっており、4割以上の社会人が「996/995工作制」を経験しています。多忙な毎日において家で休める時間はますます貴重なものとなり、特に若者においては、家の中での様々なタスクについて時間と労力をいかに節約できるかが重視されてきています。本記事では美容面に注目し、現代中国の「怠け者経済」が産んだ新しい美容トレンドを紹介します。


多忙な現代中国人と美容面での需要

社会の進歩に伴い、生活の様々な場面において便利さ、手軽さが増しています。多忙かつ精神的負担も増えている現代人の中には、日常生活において自らの手を煩わせることから解放されたいという人がますます増えています。特に若者にこの傾向が強く、お金を払ってでも楽をしたいという人は増加の一途をたどっています。このような「怠け者」の人びとをターゲットにしたビジネスが現在の中国では盛んに行われています。

その1つが美容です。「手軽に美しくなりたい」と願う人々は、美容品、美容機器に利便性と効率の良さを求め、その需要に応えるような製品が多く生み出されています。また、手軽に美しくなりたい人々は新たなメイクのトレンドももたらしました。

注目を集めている美容製品

多效合一化妝品(オールインワン化粧品)

注目を集めている美容製品として、まずは多效合一化妝品(オールインワン化粧品)が挙げられます。オールインワン化粧品は、化粧水、乳液、美容液、UVカットなど、複数の化粧品を使うことによってもたらされる効果を、たった1つの化粧品で補えるというものです。化粧液、ジェル、クリーム、フェイスパックなど、様々な形のオールインワン化粧品が販売されています。

実際に中国で販売されているオールインワン化粧品の例

自社プラットフォーム上での通信販売も行っている抖音は、2022年における「多効」キーワードの検索指数が前年同期比271.3%の伸びを記録したと発表しました。ここからも、中国では複数の機能・効能を効率よく得ることが重要視されていることが分かります。

自動巻髪棒(オートカールアイロン)

手間をかけずに素敵な髪型にしたい中国人の間では、自動巻髪棒(オートカールアイロン)も注目を集めています。アイロンに髪をセットしスイッチを押して数秒待つだけで、髪に綺麗なカールをかけることができるオートカールアイロンは、朝の身だしなみを整える時間を節約するために重宝されています。

中国で人気のオートカールアイロン、ひと月に500台以上の売り上げを記録

オートカールアイロンはただ手軽に髪にカールをかけられるだけでなく、巻く向きの選択や髪質に合わせた温度調整、マイナスイオンによる髪の毛のケアなどの機能も備えられています。また、オートカールアイロンに内蔵されたAIが使用状況を感じ取り、電源が入って30分以上未使用だと自動的に電源を切るなど、時間がなく慌てて家を出てしまう人も安全に使用できる商品もあり、まさに多忙な現代中国人にとっての助けとなる商品です。

懶人美容儀(美容機器)

懶人美容儀(美容機器)とは、「怠け者」の人びとが好んで使う美容機器を指します。そもそも中国では美容機器市場の規模は広がりを見せており、2021年には市場規模が110億元を突破、そして2026年には200憶元を突破することが見込まれています。美容機器の需要は2014年の131.9万台から2019年には655.2万台に増え、4割近くの伸びを見せています。さらに美容機器を取り扱う中国国内企業は10万社を超え、その80%以上の企業が5年以内に設立された企業です。

現在の美容機器は種類が多用になってきており、洗顔美容器、イオン導入器、高周波美顔器、LED美顔器、MS微電流美顔器など機器がもたらす効能も多岐に渡っています。エステサロンなどに行く手間を省け、かつサロンより安価に美容ケアができるこれらの美容機器は、消費者、特に90後(1990年以降生まれ)の若者に人気を集めています。

LED美顔マスクを使用している若者。「寝ながら美しくなれる、両手もフリー、毛穴縮小効果はサロン以上!」とコメントしている

1枚のLED美顔マスクで複数の効能を享受できる。上から順にニキビケア、スキンケア、肌の明るさアップの効果をもたらす

サロンに行くお金も時間もなく、家で手軽に美容ケアをしたい。そんな現代中国人にとって、安く簡単に様々な効果を得ることのできる家用美容機器は欠かせないものになっています。

新しいメイクのトレンド、「早8素顔妝」

現在、中国の若い女性の間では「早8素顔妝」という化粧スタイルが流行しています。
「早8」とは午前8時を指し、もともと大学の1限目が始まる時間を表していました。ネットで用いられていくうちに「午前8時に出勤する人」のことも表すようになり、今では学生だけでなく毎日の労働で疲れている社会人を比喩する言葉として用いられています。

また、「素顔妝」とはいわゆる「すっぴん風メイク」のことで、メイク後もすっぴんのように見えるメイクのことを指します。この2つの語が組み合わさった「早8素顔妝」とは、「朝に時間がない人のためのお手軽すっぴん風メイク」を意味しています。

動画投稿サイト・bilibili動画や、中国の若者が多く利用しているSNS・小紅書(RED)では、「早8素顔妝」に関する投稿が多く見られます。bilibili動画では、最も再生回数が多い動画で191.4万回再生、獲得いいね数4.5万、お気に入り登録数3.6万を記録しています。

動画内では、普段なら化粧下地、ファンデーション、フェイスパウダーと何工程も踏まなければならないベースメイクを、1本で完結できる化粧品を紹介しています。

小紅書(RED)ではお気に入り登録数が10万を超える「早8素顔妝」動画投稿が複数件見受けられます。また、画像投稿は「早8素顔妝」にオススメの化粧品を紹介している投稿が人気を集めています。

「早8素顔妝」にオススメのベースメイク化粧品を紹介した投稿

「早8素顔妝」にオススメの化粧品3点セットを紹介している投稿

このように、毎日忙しい現代中国の若者は、朝のメイクにかける時間をいかに節約するかに注力しています。すっぴん風メイクは従来のメイクと比べ、少ない工程で完結できるのが特徴です。すっぴん風メイクを行うにあたって、手軽かつ完成度の高いメイクを実現できるような化粧品は何か、若者たちはSNSの「早8素顔妝」投稿を参考にして探求しているのです。

まとめ

多忙な毎日を生きる現代中国人は、美容の面においても効率よく高い効果を得ることを重視しています。そんな需要に答え、オールインワン化粧品やオートカールアイロン、自動美顔器などの製品が次々と開発され、中国の美容市場は広がりを見せています。

またメイクの習慣面においても、少しでも長く睡眠時間をとるために、いかにメイクの工程を減らしつつ完成度を高くするか、ということを追求する人が増えています。さらにSNSで共有することによって、より多くの人が新しいメイクの習慣を目にし、自分も真似してみようという行動を生み出し、更なる広がりを創出しています。

参考URL

「上门做饭、代收垃圾、收纳整理……“懒人经济”市场火爆」
https://news.dayoo.com/finance/202302/03/139999_54416735.htm 
「《抖音电商个护家清鲜花行业报告》:“精准拿捏”六大消费新趋势」
http://www.cinic.org.cn/zgzz/qy/1342704.html 
「自动卷发棒轻松掌握秀发 发型不重样自己说了算」
https://family.pconline.com.cn/1584/15843964.html 
「资本押注、行业内卷,美容仪混战2022」
https://www.chinaventure.com.cn/news/80-20220822-370696.html
「颜值经济升温,2021年国内家用美容仪市场规模将破百亿」
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1693098781083009186&wfr=spider&for=pc

この記事のライター

早稲田大学在学中。

関連する投稿


中国Z世代における消費観“情緒経済”の特徴とは|ホワイトペーパー

中国Z世代における消費観“情緒経済”の特徴とは|ホワイトペーパー

巨大市場中国。本調査は、中国の消費者の消費動向、購買実態や新しい消費トレンド、消費観を明らかにすることを目的として調査。中でもキーとなるのは、世代間比較。この比較を行うことで、“情緒経済”を重視していると言われているZ世代の特徴や、居住地域によるZ世代内の消費観の差について検討が可能となっています。海外展開事業担当者の方や中国Z世代向けマーケティングを考えている方必見のレポートです。※調査レポートは記事末尾のフォームより無料でダウンロードいただけます。


中国におけるAI。スポーツ、就職、人材育成での活用動向

中国におけるAI。スポーツ、就職、人材育成での活用動向

さまざまな文化、技術発展の速い中国。そんな中国人は新しい技術に対して楽観的な態度を持つことが多く、AI技術も例外ではありません。2023年にスタンフォード大学が発表したAI Index Report の調査結果によると、中国人はAIに対して最も楽観的な態度を持っています。AIがもたらす可能性のあるプライバシー侵害などのリスクよりもAIが生活をより便利にすることが信じられているようです。本稿では中国AI業界の最新情報を詳しく紹介します。


健康志向が浸透する中国、飲料品トレンドを調査

健康志向が浸透する中国、飲料品トレンドを調査

近年、中国では人々の収入が高くなるにつれて生活の質に対する要求がますます高まっており、健康意識の向上が顕著になりました。さまざまな分野で健康志向に基づいたトレンドが生まれ、その影響は飲料品にも表れています。今回は、飲料品の流行にどのような変化が起こっているのかを紹介します。


東南アジアにおけるスキンケアアイテムの使用に関する実態調査 (タイ・ベトナム・インドネシア)

東南アジアにおけるスキンケアアイテムの使用に関する実態調査 (タイ・ベトナム・インドネシア)

経済成長が著しい東南アジア市場。日本への好意度も高く、多くの日本企業の関心が高まっています。特に、インドネシアやベトナムなどでは若年層の比率も高く、今後の成長が強く見込まれる魅力的な市場です。一方では、国によって言語や文化が異なり、1つのエリアとして捉えるのが難しい複雑な市場でもあります。本調査では、今後大きな成長が期待されるタイ・ベトナム・インドネシアの消費者を対象にアンケート調査を実施。スキンケアアイテムの利用実態や商品認知と購買の際の情報源、SNS利用実態などを明らかにし、日本ブランドの認知度・購入実態、美容・スキンケアに対する価値観もご紹介します。※調査レポートは記事末尾のフォームより無料でダウンロードいただけます。


【調査リリース】Z世代メンズの美容意識を調査 ミレニアル世代より10%以上高く70%以上が美容に関心

【調査リリース】Z世代メンズの美容意識を調査 ミレニアル世代より10%以上高く70%以上が美容に関心

SNS上のバズやトレンドへの感度が高く、流行を生み出す世代として注目のZ世代。企業のライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を高めるためには、顧客ライフサイクルが長いと思われる若い世代の獲得は避けて通れません。そこで今回は、「メンズメイク」「メンズコスメ」への関心が高まっているという背景から、Z世代男性の美容に関する意識や購買行動を、ミレニアル世代と比較しながら調査。美容潜在層を顕在層にするために、どのような環境やきっかけが必要なのか、現役Z世代アナリストが分析しました。


最新の投稿


取り上げられるプレスリリースは「内容の興味深さ」!共感を呼ぶストーリーや他社と異なる独自性が重要【PRIZMA調査】

取り上げられるプレスリリースは「内容の興味深さ」!共感を呼ぶストーリーや他社と異なる独自性が重要【PRIZMA調査】

株式会社PRIZMAは、メディア関係者を対象に、「プレスリリースに関する調査」を実施し、結果を公開しました。


宅配サービスの直近の利用率は約4割でコロナ禍であった2年前より低下 受け取り方は「自宅で手渡し」が依然として高い傾向【クロス・マーケティング調査】

宅配サービスの直近の利用率は約4割でコロナ禍であった2年前より低下 受け取り方は「自宅で手渡し」が依然として高い傾向【クロス・マーケティング調査】

株式会社クロス・マーケティングは、「宅配」に関わる利用実態や意識・行動に関する調査として、全国47都道府県に在住する20~69歳の男女を対象に「宅配に関する調査(2024年)」を実施し、結果を公開しました。


博報堂DYホールディングスと博報堂テクノロジーズ、デジタルクリエイティブ制作における戦略や企画の効率化・高度化を行う「CREATIVE BLOOM PLANNING」を開発

博報堂DYホールディングスと博報堂テクノロジーズ、デジタルクリエイティブ制作における戦略や企画の効率化・高度化を行う「CREATIVE BLOOM PLANNING」を開発

株式会社博報堂DYホールディングスと株式会社博報堂テクノロジーズは、統合マーケティングプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM (クリエイティビティ エンジン ブルーム)」に、デジタルクリエイティブ制作における戦略や企画の効率化、高度化を行う「CREATIVE BLOOM PLANNING」を開発し、社内での利用を開始したことを発表しました。


約6割がタレント起用の広告を見てブランドをより好きになった経験あり!消費者の購入意欲度を高めることや購買行動を促す効果も【エイスリーグループ調査】

約6割がタレント起用の広告を見てブランドをより好きになった経験あり!消費者の購入意欲度を高めることや購買行動を促す効果も【エイスリーグループ調査】

エイスリーグループは、Z世代・Y世代の男女を対象に、タレント起用の広告が消費者に与える影響を調査し、結果を公開しました。


電通デジタルと電通、SmartNewsアプリ内「記事閲読行動データ」の活用で、生活者のモーメントを捉えたアプローチを実現

電通デジタルと電通、SmartNewsアプリ内「記事閲読行動データ」の活用で、生活者のモーメントを捉えたアプローチを実現

株式会社電通デジタルと株式会社電通は、スマートニュース株式会社と共同で、ユーザーのプライバシーを保護しながら安全にデータ分析ができるデータクリーンルーム「SmartNews Ads Data Pot」を構築。スマートニュース株式会社が運営するニュースアプリ「SmartNews」の記事閲読行動データなどを活用し、生活者のモーメントを捉えたマーケティング支援を開始したことを発表しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ