高齢者マーケットを掴む ~「聴く力」とビジネス

高齢者マーケットを掴む ~「聴く力」とビジネス

内閣府による2022年版高齢社会白書によると、65歳以上人口が総人口に占める割合は28.9%にものぼる高齢化社会の日本。このような世情の中でビジネスを進めるには、的確に高齢者マーケットを掴むことが必要不可欠と考えられます。高齢者との共生を目指す豊かな社会実現のためには「聴く力」がキーとなる、と語るのは広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏。高齢化経済におけるビジネスにとって重要となるポイントを解説します。


親と話す

結婚直後の期間を除いて、自分の両親と同居しています。結婚当時はもう少しで還暦を迎える年齢だった両親が年々年老いてゆく姿を身近に接してきました。二人共、健康で元気でしたが、少しずつ体調に変化が見られ、目が見えにくくなったり、耳が聞こえなくなったり、足が弱くなったり、歯が抜けてきたりと老化現象が目立つようになり、様々な病院通いが日課となり、早い時間に寝床につくような毎日を過ごすようになってきました。特に新型コロナの感染拡大により、人づき合いも減り運動不足となり元気がなくなり、何となく一日が過ぎ去るような面白みのない日々のように見受けられます。話を聴くにしても、耳が不自由のため、なかなかやり取りが難しいのと、昔の話や同じ話がほとんどで聴かされる側も辟易してきます。ただ、よく我慢しながら話を聴いていると、両親が苦労しながら生活してきたことがわかり、感心したり尊敬したりすることもあり、親のありがたみに改めて感謝します。

人の話を傾聴することはビジネスでは最も大切です。特に営業は話をすることも大事ですが、それ以上に客の話を題材に提案したり、ヒントを貰いビジネスにつなげたり、教えられたり学んだり、客の話からビジネスは創造されます。自分の家族や肉親の話を傾聴することは、家族団らんの秘訣でもあり、ビジネスの原点なのです。

親と話す

聴く力(傾聴力)

傾聴(Active Listening)とは言葉通り、積極的に聴くことを指します。相手が話をしていることを聴き、話した言葉その本来の意味を理解した上で相手の表情やしぐさ、声などの要素から相手の求めることをしっかり汲み取ることが「聴く力(傾聴力)」です。それには相手への共感、相手の話の受け入れ、さらに相手への理解を測る工夫が大切です。相手の言葉の含む意味を的確に察知し、相手の言葉の意図を踏まえて、適切な対応をとるまでが真の「聴く力」なのです。

最近では愚痴聴き屋・話し相手サービスといった電話やスカイプ、直接面会など様々な手段で依頼主相手に親身になって話を聴くビジネスが流行りです。友達や家族では関係が深過ぎるため、人間関係やつき合いに影響が生じる可能性もあり、これらのサービスを活用して解消します。最近、企業によっては認められつつある副業や主婦も含めたパート等で客としても仕事としても人気があるサービスで、これも「聴く力」を活かした現代のビジネスモデルなのかもしれません。また、高齢者にむけた傾聴ボランティアも増加傾向です。チャットGPTなどの対話型AIや人型ロボットの進化により、新しい展開も期待できそうです。

ビジネスにはコミュニケーション能力が必要不可欠です。コミュニケーションにはまずはお互いの信頼関係の構築が基本であり、円滑なコミュニケーションにとって「聴く力」や「話す力」は重要です。ただ、「聴く力」はビジネスにおけるテクニックとして考えると、「話す力」以上にビジネスを成功に導く鍵になると思います。

聴く力(傾聴力)

高齢者マーケット

2022年4月15日に公表された総務省の人口推計(2021年10月1日現在)によると、総人口は1億2550万2000人、前年比64万4000人の減少で11年連続の減少かつ減少幅は過去最大となりました。65歳以上が総人口に占める割合は28.9%、75歳以上は14.9%で65歳以上と75歳以上の人口は過去最大となりました。2040年には65歳以上の高齢者は約3人に1人となる時代を迎え、改めて高齢社会が進んでいることが実感できると共に高齢者にむけたマーケティングや商品開発は企業にとっても避けられない課題です。

「人生100年時代」とも呼ばれる長寿社会です。特に前期高齢者(65~74歳)はまだまだ健康で元気な毎日を過ごしている人も多く、「若返り現象」とも呼ばれています。2017年には日本老年学会と日本老年医学会が75歳以上を高齢者と定義すると提言して話題となりました。現在の高齢者は身体機能の変化が10~20年前と比べて5~10年遅れているようです。ただ、2025年には人口のボリュームがある団塊世代の全ての人が75歳以上の後期高齢者となり、ますます高齢者マーケットの規模が拡大します。

流石に若返ってきたとはいっても高齢者の好奇心は年齢と共に減少する傾向にあることや消費に対する基準が永年において確立しているために、なかなか高齢者向けのヒット商品を生み出すことは困難です。そのため、未だに高齢者マーケットはブルーオーシャンであり、日常生活にある不便さやニーズを上手く取り込めていないのが現状です。

聴く力と多様性社会

評判の良い電器屋さんがあります。そのお店で購入すると価格は安くはありませんが、電器製品の備え付けから、アフターフォローまで熱心に動いてもらえます。融通が利き、わかりやすい説明で優しく接客してもらえることから高齢者にも人気のお店です。購入した製品を長い間使用する場合、安全や安心を求めれば値段の安い量販店やネット通販より、トータルなサービスを考えて身近な街の個人商店を選ぶのです。顧客の要望をとことん聴く姿勢を貫き顧客満足度を向上させることは高齢者マーケットを掴むためのヒントです。

高齢者マーケットを開拓するには若者を消費の中心と考えてきた従来の発想を改めなければなりません。例えば、ペットボトルのスクリューキャップや缶のプルトップも若者は簡単に開けることができますが、誰もがすんなりと開けられる訳ではありません。握力が弱くなった高齢者では困難です。企業にとって、容器の工夫は高齢者マーケットの開拓の一歩となり得ます。高齢者や障害者に配慮して商品を使いやすくする考え方は「アクセンシビリティ-」と呼ばれ、米国企業には「チーフ・アクセンシビリティ-(CAO)」という役職を設置する動きがあります。高齢者の目線に立ち、丁寧に粘り強く要望を聴き出して商品化する必要があります。また、高齢者のニーズを捉えるために商品開発には高齢者を開発チームに加えるべきです。使ってみたくなり使いやすい商品を考えてもらい、それを形にするのです。

多様性時代を迎えて日本の企業は高齢者の多さを強みと考え、高齢者との共生を目指す豊かな社会実現のためにも「聴く力」を活かし、さらには研ぎ澄ます努力が必要不可欠です。

聴く力と多様性社会

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この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

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