勉強会・交流会
ボランティアにはひとかたならぬ関心があります。その割には、なかなか一歩踏み出せずにいる自分に恥ずかしさすら感じます。20代後半に上司や先輩達の影響を受け、様々な社内外の勉強会や交流会に参加するようになり、しばしば事務局を手伝うこともありました。そのうち、自らが主宰した会を運営するようになり、特に社外では年齢も職業も職種も幅広く交流する機会を得て、目から鱗が落ちるような情報やなかなか知り合えない有識者や学者・経営者などとの人脈を構築することができ、大変刺激的な経験を積むことができました。
本当の勉強に出会えたと今では感謝多謝です。未だに、会の仲間達とは交流があり、人生における有形無形の財産ともなっています。当時、会の幹事や事務局は仕事以外の業務であり、月1、2回程度であっても連絡や会場のセッティング、終了後の後始末と面倒で手間がかかることが多く、ボランティア精神そのもので対応していたと思います。毎回の参加者数や会が盛況であったか否かなど気にかかることも多く、新しい参加者や熱心で協力的な参加者を常に求めていました。企画力に自信が出てきたのも、会を運営しながら自分の興味がある分野に話題をリードし、参加者から多方面の情報、知見、人脈を授かったことが大きな要因です。その頃、『軍師は調略から』という言葉を知り、大変気に入っていました。
ボランティア
ボランティアとは、自らの意志により志願して参加する人またはその活動です。文部省によるボランティア活動の基本理念は、公共性・自発性・先駆性です。一般的に日本では公共性の高い社会奉仕活動を指し、完全な無償奉仕活動で費用の自己負担が必須と考えられてきました。実費や利益が出るボランティアは有償ボランティアと認識されています。
全国から大勢のボランティアが集まった1995年の阪神・淡路大震災を「ボランティア元年」と呼び、大震災が起こった1月17日を「防災とボランティアの日」と定めています。過去に被災した人々が恩返しとして、他の被災地で災害ボランティア活動や支援活動をする動きが生まれ、熊本地震や西日本豪雨などで復興に尽力したように、良心のサイクルができています。
このように新しいボランティアとは、従来のエリート層による救済型の縦のボランティアと異なり、お互いの助け合いから横のボランティアとして自発性による活動へ変化しました。また、組織的あるいはシステム的な活動へと進化を遂げ、ボランティア活動全体を調整・運営するボランティア・コーディネーターやボランティア・アドバイザーが重要視されています。無償奉仕の原則が日本には徹底されているために、移動したり、自分の食事や飲食を持参したり、事故が起こった場合は自己責任になるなど、ボランティアそのものの地位は向上していないのが課題です。残念ながら観光客気分の参加者や野次馬的参加者など批判されている参加者もいる一方で、熟練された技能を持った技術者や高い識見がある経験者など、熱望されている参加者も存在し、彼らは復興の大きな助けとなっています。
シャドウワーク
シャドウワーク(shadow work)とは1981年オーストリアの哲学者イヴァン・イリイチ氏の造語で専業主婦の家事や妊娠・出産・子育て、地域活動など無報酬ではあるものの社会・経済の基本を支えるための必要不可欠な労働を指します。シャドウワークには仕事上のサービス残業や飲み会への出席なども含まれます。シャドウワークとボランティアの違いは「自発的」であるか否かです。ボランティアは「自発的」ですが、シャドウワークは「自発的」でない場合もあり、家事や育児、地域活動など見えにくく、「ケア」する行為なのです。
日本でも米国でも労働者の生産性が低下傾向にあります。そのひとつの要因にシャドウワークの増大があります。具体的には、今までは他人に任せていた数多くの業務をデジタル機器の活用により、自分自身で行えるようになったことが起因しています。銀行とのやり取りや飲食店や旅行の予約からはじまり、IT関連に関するトラブル処理など自分の時間を使ってこなすことが増え続けています。シャドウワークは市場システムにおいては外部不経済(external diseconomies)であり、サービス業では初級レベルの仕事が減り、低賃金層の生活が脅かされ、労働生産性や経済成長の低下を引き起こす要因となっています。
モチベーションとインセンティブ
個人に対しては仕事に注ぎ込む労力や生産性を高めるように促し、企業に対しては製品の生産量や品質を向上させるよう促す要因をインセンティブと呼びます。インセンティブは経済分析においては基本となる概念のひとつです。仕事では様々な金銭的あるいは非金銭的報酬がモチベーションとなります。通常は仕事の対価として金銭的報酬を求めますが、働く目的がお金だけではない人も存在します。医師や教育者など尊敬される仕事に就いていることから得られる社会的承認などがインセンティブとなっている人や慈善団体の職員など道徳的インセンティブに反応する人もいます。他にも芸術家や職人のように、その仕事が好きだから報酬は低くても構わないと考える人もいます。
行動経済学では、インセンティブとモチベーションを外発的と内発的の二つの種類に分類しています。『外発的モチベーション』とは個人の外部に存在する、お金や社会的成功や社会的承認などの社会的報酬を指します。『内発的モチベーション』とは「自発的」なものであり、義務感、忠誠心、プロとしての誇り、身体を動かす楽しみ、など個人の内なる目標や姿勢から生じるものです。大抵、仕事では外発的、内発的要因が複合的に作用する場合が多く、困難な課題に挑戦するのを楽しんだり、その仕事に取り組むことで満足感を得たり、個人的な志を持つこと、などがモチベーションになったりしますが、自分や家族の生活費は金銭的報酬として必要不可欠です。
労働市場において、非金銭的インセンティブを考慮することは、政府や企業にとっても極めて重要なことです。さらに賃金水準をより高く公平なものにすれば、外発的にも内発的にも労働者は努力するようになり、労働生産性や企業の業績向上につながると予想できます。
働くということには、社会的・心理的・経済的な要因が複雑に絡み合っていて、インセンティブやモチベーションについては今まで以上に深い洞察が求められます。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。