音部大輔氏に聞く!ビジネスレビューの技術 ~ 事業を持続的に成長させるPDCA設計のポイント ~|セミナーレポート

音部大輔氏に聞く!ビジネスレビューの技術 ~ 事業を持続的に成長させるPDCA設計のポイント ~|セミナーレポート

マーケティング活動の「振り返り」が正しく行えていない。そう感じる方も多いのではないでしょうか。外部組織に任せているなどの理由から、客観的な「振り返り」ができておらず、「振り返り」のクオリティコントロールをどうすべきかというお悩みも多く耳にします。本来、事業やブランドを持続的に成長させる上で重要な役割を担うビジネスレビュー。このビジネスレビューをどのように行い、どう利活用するべきか。本セミナーでは、クー・マーケティング・カンパニーの音部大輔氏を迎え、企業におけるビジネスレビューや「振り返り」の実態、重要性などについてお話を頂き、後半ではビジネスレビューの具体的なフォーマットを用意し、構成や記入法について解説しました。


スピーカー&Agenda紹介

スピーカー紹介

図:スピーカー紹介

図:スピーカー紹介

Agenda

1. 「振り返り」の重要性と、良い「振り返り」のポイント
2. 振り返りシートの記入手引きと施策別の振り返りフォーマット
3. ヴァリューズのソリューション事例
4. 質疑応答(参加者とのディスカション)

「振り返り」は個々のスキル向上と組織の強さへ繋がる有効戦術

「振り返り」が必要な理由とそのメリットを考える

株式会社ヴァリューズ 小幡のぞみ(以下、小幡):まずは『「振り返り」の重要性と、良い「振り返り」のポイント』というテーマで、音部さんにお話を伺います。

まず1点目のテーマは、期待される「振り返り」の効能とは何かというお話です。常日頃、「振り返り」が大事だと認識していても、実際には「振り返り」の効能が何かということを言語化するのは難しいと感じます。音部さんにとって「振り返り」を行うことはどのようなメリットがあるとお考えですか?

株式会社クー・マーケティング・カンパニー 音部大輔氏(以下、音部氏):そもそもどうして「振り返り」が必要なのかを理解していることが肝心です。その理由として大きく分けると2つのことが言えると思います。

1つ目は、多くの企業でも行っていると思いますが、過去の実績の確認という意味の「振り返り」です。これは、昨年何が起きたのかとか、誰がどのようなことをしたというような、貢献の計測をするための実績値の確認という意味で重要です。

2つ目は、「何を学んだのか」を明確にしておくための「振り返り」です。具体的には、組織を強くしていく、あるいは個々のプロフェッショナルを成長させるためにはどうするかと考えたとき、成長というものを客観的に定義づけて言い換えるのであれば、「昨日できなかったことが明日できるようになる」ということではないかと考えます。

ではなぜ、「昨日できなかったことが明日できるようになる」のか。
その理由の1つとしては、昨日持っていなかった手段を新たに手に入れるからです。そしてもう1つの重要な理由は、あるときにやり方がわかるということです。「長期的で有機的な成長の主成分は知識」であると言えるかもしれません。つまり、経験を知識に変えて普遍的に流通させられる状態です。

「振り返り」では、過去の実績値に加えて、昨日去年今年「何を学んだのか」が明確であると、明日来年の成長にも繋がります。したがって「振り返り」を行う際には、過去の実績がどうだったかだけではなく、その実績を成すにあたって「何を学んだのか」を同時に「振り返り」できることが望ましいと考えます。

また、学んだことを共有化できるようになれば、1人が1年分の成長するとき、5人が学びを共有すれば全員が5年分の成長ができるかもしれません。このような成長に繋がる「振り返り」ができれば素敵だと思います。

ビジネスレビューを通して見る日本企業の人材・組織の育成

小幡:続いて、国内企業におけるビジネスレビューの実態という観点でお話を伺います。一般的にグローバル企業に比べて日本の企業というのはビジネスレビューがあまり上手にできていないと言われるケースが多いようです。このような国内企業の実態という視点では、どんな背景が考えられるでしょうか。

音部氏:日本には日本の、外資には外資の良いところがあると思うのですが、傾向で見ると、日本企業のように終身雇用制であると、暗黙知が構築されやすいと言えます。つまりジョブディスクリプションがなかったり、あるいはそれが曖昧だったりする可能性が高いかもしれません。同時に「スキル」の記述も曖昧だと、人の成長や評価に関しての指針も曖昧になり、本当の意味でのできる人材や後進を育てるということが難しくなります。

「スキル」と「学び」を明確に整理しておくことで、個人の「スキル」だけでなく、ゆくゆくは組織としての「スキル」が増え、組織が強くなり成功にも繋がっていくと思います。

そして改めて、強い組織を作るために欠かせない「振り返り」についてですが、「振り返り」の作業を、敢えてゼロから着手し始めるのではなく、ツールとしてフォーマットを作っても良いと思います。絵を描くときに全員が筆から作り始める必要はないのと同様です。共通のフォーマットを形式知化しておけば効率も互換性も良くなるし、共有もしやすくなると考えます。

小幡:次のセクションへの繋ぎとなるご意見もありがとうございました。ここまでのお話で、「振り返り」の重要性、良いビジネスレビューとはどういったものなのか、定義が具体化されたのではないかと思います。

5項目で成り立つ振り返りフォーマットとは

小幡:実際に「振り返り」を実施しようとする時に、何からスタートすれば良いのかという声もあるのではないでしょうか。そこで、音部さんからも「フォーマットがあると着手がしやすい」というお話がありましたが、今回は音部さんと弊社で「振り返り」のためのフォーマットを作成しました。下図が実際の振り返りフォーマットの構成です。音部さんの活用しているフォーマットをベースに、より日常使いしやすくカスタマイズした内容となっています。

まず、大きくI、II、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴの5つのセクションに分かれており、それぞれ「目的」「戦略/プラン」「結果」「Learning」「Next Action」の項目で構成されています。
ポイントとしては「結果」で終わらせるのではなく、「Learning」「Next Action」まで繋げるように記入欄を設けた仕様となっている点です。

では、それぞれどのようなことを記入していくのか、その内容と注意点を音部さんに解説頂きます。

図:振り返りフォーマットの構成

図:振り返りフォーマットの構成

音部氏:こちらのフォーマットは大きな事業計画だけでなく、単体のプロジェクトやプロモーションの「振り返り」にも使えるように汎用性のある仕様となっています。

これがあることで何が良いのかというと、様々なプロジェクトでそれぞれの担当者が適宜「振り返り」を行い、その上司や部門・会社組織から見た時に、同じ失敗を避けられる、あるいは同じ成功を繰り返せるための礎になるということです。

例えば「目的」にはどのようなことを記入するかというと、その活動をするにあたって、なぜそのようなことをすることになったのか、この活動がある場合とない場合でどのような違いが生まれるはずなのか、記入します。加えて、議論されているissueや、そのissueの発生原因、背景事情なども記入していきます。

仕上がりとして、隣のチームや別のフロアの人が読んでも、あるいは3年後に読んでもわかるような記述であると便利です。さらに言えば、読んだ人全員が概ね同じ理解ができるように記入することが望ましいです。そのような状況に持っていくには、SMAC、すなわちSpecific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(実現可能)、Consistent(一貫性がある)に基づいた数値目標を具体的に記入するというのもひとつの方法です。

「戦略」は、目的達成のための資源利用の指針と捉えることができます。なぜここで「戦略」を定めないといけないかというと、資源が有限だからです。どういう優先順位でどのような資源をどう使う予定かという「戦略」を記入します。そして、この「戦略」についてどのような「実行プラン」を用意したかという記入を加えます。

「結果」には「目的」に記入された具体的数値目標に対してどうだったのか、経緯としてはどのような「戦略」に対して「プラン」を実行し、その結果に至ったのか、を記入できればここまでの「振り返り」としてまとまると思います。

整理すると、「目的」に実現したいことが示され、実現のアプローチとして「戦略」があり、手段として「プラン」ができて「結果」が出たころに「振り返り」をします。そして現時点での「結果」と「Learning」を受けて、次の一手をどうするかというのが「Next Action」。このように一貫して繋げていくことで、次の一手にアクショナブルな「振り返り」が完成すると考えます。

実践解説|振り返りフォーマット記入の手引き

小幡:ここまで「振り返り」の重要性と、振り返りフォーマットの構成について解説頂いてきましたが、実際にフォーマットの運用を開始してみると、記入者やレビュアーによって品質の揺れが生じることも考えられます。特に観点をどれだけ網羅できているか、「振り返り」をどれだけ客観的に捉えられるかという点で、一定の慣れや習熟度が必要となってくるのではないかと考えます。

続いてはそのようなビジネスレビューの品質担保のために工夫できること、ヒント、実際の記入方法などに関して間宮が解説します。

「振り返り」には「振り返る」観点の整理が肝心

株式会社 ヴァリューズ 間宮浩平(以下、間宮):通常は観点の漏れやファクトチェックというところは、上司であるレビュアーが担保するべきなのですが、レビュアー自身が明確な判断基準を保持していないと、どういった観点で「振り返り」をすれば良いのか、現場自体が暗中模索の状態になってしまいます。そうならないためにも、可能であれば事前に「振り返り」の観点を明確にし、記入者に対して提示するのが良いと考えます。

では早速、振り返りフォーマットの流れを見ていきます。
事前に設定した「振り返り」のタイミングに合わせ、振り返り観点シートにそって回答し、その結果をベースに要点を絞って振り返りシートを記入していきます。「振り返り」の観点と測定方法を事前に整理しておくことで、 包括的で客観的な分析に基づいた「振り返り」が可能になります。

図:振り返りフォーマット記入の流れ

図:振り返りフォーマット記入の流れ

PDCA設計から見る、振り返りフォーマット記入の流れ

間宮:まず、PDCAの全体設計という観点から、振り返りフォーマット記入の流れを解説します。

下図、PDCA設計の全体の流れをご覧下さい。まず左側上より、KGIに影響を与えるKPIを設定していきます。次にKGIやKPIに大きく影響を与える指標を洗い出していきます。それからKPIの構造化、つまりKGIやKPIの中間形成を設定し、重点的にマネジメントする指標を設定します。ある程度管理する指標が定まったら、モニタリング計画を策定します。

本日メインでお話ししたいのが右側のモニタリング計画策定の流れの部分となります。

モニタリング計画策定は、どのようなタイミングで何を目的にモニタリングするのかということを定め、次にどのような観点で「振り返り」を行うのか、またどのような方法で「振り返り」を行うのかというところを設定します。

図:(1)PDCA設計の流れとポイント

図:(1)PDCA設計の流れとポイント

4STEPで確認。モニタリング計画策定の流れ

間宮:PDCA設計の中でSTEP5に相当する、先ほど簡単に説明したモニタリング計画策定の部分を、4つの各ステップ別に要旨をまとめて解説します。

STEP1
どのタイミングで何を目的にして「振り返り」を行うのかを設定。下図表中は目安。
表中の項目のほか、キャンペーンレベルの効果測定やデジタル使用など高速でPDCAが回せるものに関しては、ウィークリーやデイリーなどでも設定が可能

STEP2
振り返りシートと「振り返り」の観点を整理。振り返りシートは適宜独自の工夫も推奨。
「振り返り」は網羅的・多面的かつ事実ベースで行えるように「振り返り」の観点を整理しておく。

STEP3
「振り返り」の問いが整理できたら、回答指針のガイドラインを作成。
回答方法は、ある程度調査や分析の専門スキルが必要となるため、社内外のスペシャリストに出来上がった表をもとにオリエンテーションを行い、支援してもらうのがベター。

STEP4
モニタリングする指標について、データソースや集計方法/集計頻度などを整理、指標管理シートを作成。具体的にはどの指標をどのタイミングでどんなデータソースでどのように加工してみるのかというところを整理。ここまで出来上がると、年間のモニタリングに関わる予算なども設定が可能に。

図:例|STEP1|頻度×目的の設定

図:例|STEP1|頻度×目的の設定

図:例|STEP2|振り返りシートと振り返り観点シートの作成

図:例|STEP2|振り返りシートと振り返り観点シートの作成

施策のPDCA設計の一例|有料広告施策のケース

間宮:先ほど音部さんからもあったように、この振り返りフォーマットは、施策単位での振り返りフォーマットとしても利用できるように高い汎用性を備えています。下図に施策の一例として作表したものをお見せします。

こちらは有料広告施策のケースでの活用例となっています。振り返り観点シートも含めて作成しています。詳細は割愛しますが、例えばこのような有料広告のケースであれば、リーチやフリークエンシー、媒体評価というところが観点として組み込まれており、次に狙うべき対策が導ける仕様になっていると言えます。

図:例|施策別(有料広告)の振り返りフォーマット

間宮:ここまで振り返りフォーマットの流れと記入方法についてお話ししてきましたが、実際の運用時には、やはり多少戸惑う場面もあるかと思います。

そこで最後に、ヴァリューズの支援内容について少しご紹介させて頂きます。
PDCA設計及び運用をブランド責任者自らが実行する場合と、PDCA担当者を独自設置する場合があると思いますが、どちらのケースにおいてもご支援は可能です。例えば人材不足で担当者を立てられないケースでは、ヴァリューズが代わりに担当者となることが可能ですし、担当者はいるけれど経験が浅い・不慣れなどというようなケースでは、担当者の方が自走できるような伴走支援も行います。

このようにヴァリューズでは、本日お話ししたようなPDCAガイドライン作成や調査、データ基盤の構築まで一気通貫でのご支援が可能となっています。些細なご不明点からでも構いませんし、是非、PDCAやビジネスレビューの設計についてお気軽にお問い合わせいただけると幸いです

この記事のライター

マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経て現職。
趣味は食と旅行。

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