日産が行う、カスタマー理解のための“ Non  Asking ”データ活用術 ~ 自動車メーカーのデジタルマーケティング事例

日産が行う、カスタマー理解のための“ Non Asking ”データ活用術 ~ 自動車メーカーのデジタルマーケティング事例

「アンケートやインタビュー中心のAskingデータだけでなくWeb上の行動から得られるNon Askingデータを組み合わせて分析し、カスタマー理解を深めたい」。そう語る笹岡さんはDockpit(ドックピット)を愛用する一人。ユーザー行動の理解を深め、課題解決に至ったエピソードを聞きました。


日産自動車株式会社 笹岡 岳陽さん

日産自動車株式会社
Japan-ASEAN企画本部 市場情報部
笹岡 岳陽さん

新卒で日産自動車株式会社に入社後、研究開発職を経て、社内公募でマーケットインテリジェンス(MI)職に転身。連結従業員数が13 万人超の日産において、数十人という精鋭のMI職として日本市場を担当する。

Web上の行動ログデータでカスタマー理解を深めたい

日産自動車が行うのは、データを駆使した精緻なカスタマー理解。笹岡さんの職種はマーケットインテリジェンス(以下、MI)で、カスタマーやマーケットに関するリサーチを通じて、消費者インサイトやニーズのみでなく競合各社の状況、将来トレンドに至るまでを分析し、社内で中立的な立場で、商品企画やマーケティング、販売戦略などの社内各部署に取るべき戦略や方策を提案する役割になります。

グローバルに事業を展開する日産では、各国のMIチームがとらえた情報を、グローバルMIが束ねる仕組みとなっており、そのなかで笹岡さんは日本市場のMIを担っています。

「MI は、社内の誰よりもカスタマーのことを理解して、経営層や各部門に届ける仕事です。MIの仕事の評価指標には、どれだけカスタマーの声を代弁できたかも含まれており、よく『イタコになれ』と言われます」

これまでのマーケティングリサーチは、お客様にアンケート調査やインタビューを行って得た情報、いわゆる「Asking データ」を収集・分析するやり方が中心だったといいます。

「アンケートやインタビューなどによるAsking データは、カスタマーやマーケットに関する情報が直接得られる一方で、課題もありました。データを得るための時間やコストがかかるだけでなく、調査対象者への負担も大きいため、細かい情報を深く聞くことが難しいのです」

加えて、既存の売れ筋商品だと購入者や検討者の十分なサンプル数があるが、新しいサービスや商品に興味を持つ人についてはそもそもの母数が少ないため、調査が成立しないという量的な課題もありました。

「マーケットの変化にともなって、自動車業界でも商品開発のサイクルが短くなり、カスタマー理解に関するPDCA も早く回す必要が出てきました。『今すぐこういうデータを見たい』という社内ニーズの高まりもありました」

そこで着目したのが行動ログデータなどの、いわゆる“Non Asking”なデータ。Webやアプリ上の行動データには消費者の思考過程そのものが残されます。上手く活用できれば、素早くカスタマーインサイトのヒントをつかみ取ることが可能です。ただし、これには難点もあります。

「Non Asking データはそもそも非構造なデータなので、集計して分析するプロセスが必要です。そこに時間やコストがかかりすぎると本末転倒になるリスクがありました」

加えてNon Asking データだけではどんな人がどのような文脈から残したデータかわからず、データに性別・年代などのデモグラ属性が紐づいていないと、表面的な理解にとどまってしまう難しさもあります。

いくつかの分析ツールを検討するなかで、笹岡さんが「これだ!」と決めたのがDockpitでした。

Dockpit は、Webのログデータと属性をつなげて見ることができます。加えて、競合メーカーのサイトを比較できるのが大きいですね。自社データだけだと、それが世の中のトレンドから外れた方向に行ってしまったり、局所的な最適解に陥ってしまったりすることがあります。属性別の分析などに必要なサンプル数も確保されていることから、2018年からDockpitの導入を決めました」

「Dockpit は操作が簡単で使いやすく、社内でデータ活用を推進する点においては非常に重要です」と笹岡さん

「Dockpit は操作が簡単で使いやすく、社内でデータ活用を推進する点においては非常に重要です」と笹岡さん。他グループでの活用も進んでいるという

属性データとWebログデータを繋げて見られるのがDockpitの魅力

クルマの販売UPの鍵はLPにあった

ある日、笹岡さんのもとに社内から相談が寄せられたそうです。「A(仮)」というクルマの販売台数が伸びず、販売店への来場者数も不調とのこと。その原因を調べてほしいという依頼でした。

「まず、クルマの購入検討者との大きなタッチポイントであるホームページに着目しました。近年の購入検討者の多くは、Web上でクルマに関する情報収集を行い、販売店へ足を運ぶ前には、本命のクルマを決めています。つまり来店前にすでにほぼ勝負がついているんですね。そこでDockpitを使って、クルマAのホームページへ流入する際の行動ログ分析を行いました。

クルマAのランディングページを確認すると、約7割が商品のトップページに流入していました。その上で、競合車とのトップページのパフォーマンス比較を行いました。

「具体的には、ユニークユーザー数や一人あたりのPV 数、平均滞在時間、直帰率といったデータを様々な角度から比較分析しました。すると、検索流入のユーザーの行動は競合よりも優れていた一方で、広告流入のユーザー、つまり比較的受け身のユーザーの行動が大きく劣っていたのです。」

さらに別の調査結果から、クルマAのカテゴリーに関心を持つ人は、エクステリアデザインやスタイリングに魅力を感じることがわかっていた。そこでクルマA のトップページにおいて、エクステリアデザインの魅力がどの程度伝わりやすくなっているのか、競合モデルと比較していくことに。

「するとクルマA のトップページでは複数の観点で課題が見つかりました。外装の写真の枚数やビューアングルが少なく、ボディーカラーのシミュレーションへの動線もわかりづらくなっていました」

そこで笹岡さんは、「トップページ上でのエクステリアデザインの魅力訴求が不十分である」という仮説を立てて関連部門へ報告。社内では直ちに、エクステリアデザインの魅力を伝えるためのフォトギャラリーの設置や、ボディーカラーのシミュレーターをトップページに設置するといった対策が実行されました。

「対策後は、劣っていたパフォーマンスが向上。さらに販売店への来店者数も増加し、当初の課題を解決できました」

分析で笹岡さんが使用したのはDockpitの『競合分析』。ベンチマークサイトのURLを入力するだけで、アクセス状況や集客構造など、競合分析に使えるデータをその場で直感的に把握できる。属性データで絞り込み、詳細な分析が行えるのも魅力だ。(※数値はイメージ)

競合分析からWebサイト改善まで 短期間でスピーディーに実施

Key VALUES

困りごとの相談から解決までに要した期間は約3カ月。PDCAを短期間で回し、課題解決につながったケースです。笹岡さんはDockpitをこう評価します。

Non Askingデータ『だけ』が大量にあっても、ユーザー属性がわからなければ深い分析は困難です。Dockpit にはその両方があり、日常業務ですぐに切り出して深掘りできる。さらに、階層単位でも競合サイトを分析できるのは大きな利点ですね。Dockpit は誰でも簡単に使えるだけでなく、アイデア次第で価値が飛躍的に上がる優れた分析ツールです

取材協力:日産自動車株式会社

この記事のライター

マナミナは" まなべるみんなのデータマーケティング・マガジン "。
市場の動向や消費者の気持ちをデータを調査して伝えます。

編集部は、メディア出身者やデータ分析プロジェクト経験者、マーケティングコンサルタント、広告代理店出身者まで、様々なバックグラウンドのメンバーが集まりました。イメージは「仲の良いパートナー会社の人」。難しいことも簡単に、「みんながまなべる」メディアをめざして、日々情報を発信しています。

関連する投稿


リピートされる観光地を目指したDMP構築とデータ活用組織作り【広島県観光連盟インタビュー】

リピートされる観光地を目指したDMP構築とデータ活用組織作り【広島県観光連盟インタビュー】

コロナ禍を経て活況が戻った観光業において、データドリブンの施策を展開する広島県観光連盟(HIT)。本稿では「圧倒的な顧客志向」を掲げるHITでの、VALUESのデータ分析伴走支援サービスを通じたチャレンジに迫ります。


キーワードは「価値創造」。日本のマーケティングの未来像を語る【日本マーケティング協会会長 藤重氏×ヴァリューズ代表 辻本】

キーワードは「価値創造」。日本のマーケティングの未来像を語る【日本マーケティング協会会長 藤重氏×ヴァリューズ代表 辻本】

コロナ禍を経て大きく変わりつつある企業の経済活動。日本企業のマーケティング活動の現在地と未来図、そしてマーケターが取り組んでいくべきことは何か。日本マーケティング協会会長 藤重氏とヴァリューズ代表 辻本による対談をレポートします。


非財務の企業価値影響を測る「非財務価値サーベイ」と、サステナビリティ経営視点でのDockpit活用法|「VALUES Marketing Dive」レポート

非財務の企業価値影響を測る「非財務価値サーベイ」と、サステナビリティ経営視点でのDockpit活用法|「VALUES Marketing Dive」レポート

“データを通じて顧客を深く考える”“マーケティングの面白さに熱中する”という意味を込めたヴァリューズによるマーケティングイベント「VALUES Marketing Dive」。10/25に開催された今回の全体テーマは『未来を創り出す顧客理解の力』。顧客理解の追求は、マーケティング活動だけではなく、人材成長・組織活性化にも繋がると考えます。本セッションでは「サステナビリティ経営においてDockpitをどのように活用できるのか」というテーマのもと、具体的な分析結果を交え、電通・GLIN Impact Capital・ヴァリューズの3社で議論。また国内電通グループのオリジナルソリューション「非財務価値サーベイ」も紹介されました。


事業戦略や投資判断をより確実に!スカイライト コンサルティングに聞く、コンサル業界のDockpit活用例

事業戦略や投資判断をより確実に!スカイライト コンサルティングに聞く、コンサル業界のDockpit活用例

Web行動ログ分析ツール「Dockpit」というと、広告やデジタルマーケティングに携わっている人が使うものといった印象を抱いている人も多いのではないでしょうか。今回お取り組みを紹介するのは、ビジネスコンサルティングサービスを提供するスカイライト コンサルティング株式会社。どのようにDockpitを活用されているのか、同社 シニアマネジャーの清水氏にインタビューしました。


花王独自の顧客理解・データ活用文化の醸成方法 ~ 新卒社員が企画実行したデータアナリスト育成研修とは |「VALUES Marketing Dive」レポート

花王独自の顧客理解・データ活用文化の醸成方法 ~ 新卒社員が企画実行したデータアナリスト育成研修とは |「VALUES Marketing Dive」レポート

「VALUES Marketing Dive」は、“データを通じて顧客のことを深く考える”、“マーケティングの面白さに熱中する”という意味を込めた、新しいマーケティングイベントです。第3回目となる今回の全体テーマは『未来を創り出す顧客理解の力』。大手日用品・化粧品メーカー「花王」では、マーケティングにおける顧客理解の質と組織的能力を高めるために、データアナリスト人財の育成や、デジタル化時代におけるデータ活用文化の醸成を進めています。本セッションでは、社内のデータアナリスト育成研修など多様な取り組みをご紹介いただきました。


最新の投稿


日本テレビ、AR撮影装置を活用した「没入体験型CM」の実証実験を開始 GW期間内に大型ショッピングモール内にて

日本テレビ、AR撮影装置を活用した「没入体験型CM」の実証実験を開始 GW期間内に大型ショッピングモール内にて

日本テレビ放送網株式会社は、日本テレビが事業展開する XR分野のコンテンツ制作および開発支援サービス『日テレXR』において、新たな広告没入体験ができるサービスの実証実験を開始しました。


ギブリー、生成AIがマーケティング業務を支援するサービス「マーケGAI」の提供を開始

ギブリー、生成AIがマーケティング業務を支援するサービス「マーケGAI」の提供を開始

株式会社ギブリーは、生成AI技術を活用してマーケティング業務を自動化・効率化するAIマーケティング支援ツール「マーケGAI」の提供を開始したことを発表しました。


「○○とは」検索に見るトレンドや生活者の気になりごとは?「インボイス」「NISA」「猫ミーム」など

「○○とは」検索に見るトレンドや生活者の気になりごとは?「インボイス」「NISA」「猫ミーム」など

検索エンジンで調べ物をするときによく使われる「〇〇とは」検索。今回は、直近1年間で検索数が多かった注目ワードや、時期によって急上昇したトレンドワードをご紹介します。「とは」検索から見えてくる最新の流行りやみんなの関心事を読み解いていきます。


GWに10連休を取得する人は約2割!連休の予定はインバウンドの影響か「国内旅行」が下降し「家事」が上昇【mitoriz調査】

GWに10連休を取得する人は約2割!連休の予定はインバウンドの影響か「国内旅行」が下降し「家事」が上昇【mitoriz調査】

株式会社mitorizは、消費者購買行動データサービス「Point of Buy®」の会員に対し「大型連休に関する調査」を実施し、結果を公開しました。


Supportive fans are willing to spend money? “Oshikatsu” insights & applying it to marketing strategy

Supportive fans are willing to spend money? “Oshikatsu” insights & applying it to marketing strategy

“Oshikatsu” stimulates consumption in Japan. In fact, more than 80-90% of teens answered that they have an “Oshi.” We will deepen our understanding by investigating the current state of the “Oshikatsu” market, behaviors like time and money spent on “Oshikatsu,” and its connection with collaborations, etc. in marketing.


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ