セグメンテーションマップ(顧客理解のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

セグメンテーションマップ(顧客理解のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回は、セグメンテーションマップ(顧客理解のアウトプット)について寄稿いただきました。


1.セグメンテーションマップとは

●全体像イメージ

●概要

セグメンテーションマップとは、自社の事業ドメインのユーザーを任意の分析軸によりカテゴライズし、市場でのターゲット分布を確認したうえで、ブランドターゲットとセールスターゲットを定義するためのアウトプットです。

このターゲット設定により、利用者層に一定の志向性を持って運営する「ターゲットメディア」の役割機能を持つことができ、ボリュームゾーンにいるユーザーの加齢と共に商材やサービスを変える非効率な運営を回避できます。

有意差が出やすいセグメンテーションの切り口には、例えば「ライフステージ年齢」があり、データから生活の変曲点を捉えることで、仮に強みがなくてもポジショニングの妙でユーザーニーズに応えていくことができます。

ユーザープロファイルの成果物と同様、アンケートを使うと分析軸に設定する項目アイテムを自由に設定できるので、調査手法の特性が活きます。自社の行動ログ分析ではたどり着かなかった創造性のある議論が可能になります。

※この元データを作成する時は、各分析軸のサンプルが十分な状態を保てる規模感でアンケート調査を計画しましょう(分析軸単位で見るとサンプルが不十分で、分析が未遂に終わってしまうケースもよく見かけます)

●種類

セグメンテーションマップは切り口に応じて様々な種類が存在します。

まず、代表的な「セグメンテーション変数」を押さえておきましょう。

<セグメンテーション変数>

・人口動態変数:性別、年齢、世帯構成、世帯収入、職業
・地理的変数:地域、季節
・心理的変数:価値観、志向性
・行動変数:利用や契約のステータス、ユースケース

次に、プロダクトリサーチの実務で調査結果に有意差が出やすいセグメントの切り口に整理し直すと以下のようになります。

①サブカテゴリー(特定カテゴリー内の詳細な商品構成による分類)
②利用ステータス(行動要件や契約要件による分類)
③ライフステージ年齢(生活や健康における年齢ステージによる分類)
④価値観クラスタ(価値観・志向性による分類)
⑤決裁権限レベル(決裁権による分類)※BtoBで特に有効

セグメンテーションというと、性別・年代を基本として、世帯収入や居住地域が分析軸の候補に上がりやすいのですが、この軸は必ずしも万能ではないので注意してください。

●構成要素

セグメンテーションマップの構成要素は以下のようになります。

※本稿ではアウトプットとして万能でデータも安定しやすい「ライフステージ年齢」を分析軸に設定した時の例をモデルにします。

<縦軸:ユーザーの行動・意識>
・自社プロダクト イメージ
・カテゴリー購入・利用時の重視点
・自社プロダクト 購入カテゴリー
・自社プロダクト 購入商品の利用者
・新サービス コンセプト受容度
・よく使うアプリジャンル

<横軸:ライフステージ年齢>
・25歳未満
・25歳~34歳
・35歳~44歳
・45歳~54歳
・55歳~64歳
・65歳以上

●よくある課題

「ファンユーザーをどこから広げるとよいのか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット

①ボリュームゾーン=ターゲットというケース

データアナリティクス主導でターゲットのデモグラ分析を行うと、現在のボリュームゾーンをそのままターゲットとする流れになります。目に見えているデータで判断するのは正しい意思決定法ですが、一方でこの方法にはリスクもあります。

現在のメインユーザーが歳を取ると、経年と共にそのままターゲットの年齢が持ち上がるので、プロダクトの運営もそれに合わせて商品やサービス(テーマ)を変えていかねばなりません。この状況は中長期に非効率な運営を強いられます。

②方向性が中庸すぎて無難になっているケース

ターゲット設定に際して、特にM&Aを軸に事業成長をしてきたプロダクトでは、ステークホルダーが多くて尖った方針を立てづらいことがあります。その結果、プロダクトの方向性が中庸すぎて無難な運営になってしまう懸念があります。

こうした状況にある組織では、カテゴリー戦略・サービス企画で何かに振り切ろうとすると既存事業からの反発が大きいため、あくまでベーシックなユーザーデータの中から方針を考えることが企画を軟着陸させるポイントとなります。

2.作り方

①任意の分析軸に基づいてユーザー調査を行う

※アンケートならではの項目:イメージ、趣味、よく使うアプリジャンルなど


②縦軸に分析軸をセットする

・ユーザーの行動・意識のデータアイテムを設定する


③横軸に分析軸をセットする

・ライフステージ年齢のデータアイテムを設定する


④年齢層項目ごとにデータ記載する

・ライフステージ年齢のデータアイテムごとに割合や分布を記入する
・データは、ランキング形式、TOP2BOX(5段階評価のポジティブ回答の合計)の足し上げ表示・ベンチマーク項目を記載する、などの工夫により読みやすくする
・全体平均よりも高い(低い)データ項目はカラーで目立たせる


⑤生活の変曲点を矢印マークで示す

・ライフステージの変遷と共に現れる増減の傾向を矢印マークで示す


⑥質問項目ごとにn数を記載する

・すべてのマスにアンケートデータの回答者数を記載する(一枚のスライド内で異なる質問間データを比較するため)

3.使い方

①ブランドターゲットとセールスターゲットを定義する

ブランドマネジメントでは、自社の世界観に合った顧客層を「ブランドターゲット」、経済的に合理性が高い顧客層を「セールスターゲット」と位置づけます。この両者を定義することによって、ターゲット層を常に一定にコントロールすることができます。

特に、集客を大きく獲得する施策では「ブランドターゲット」を、売上を大きく回収する施策では「セールスターゲット」を、それぞれ意識することで、利用者層に一定の志向性を持って運営する「ターゲットメディア」の役割機能を持つことができます。

プロダクトマネジメントに置き換えると、ブランドターゲットは周囲に関係なく積極的に使用してくれる「アーリーアダプター」(初期採用者)の素質を含む存在です(※サービスによってはブランドターゲットがセールスターゲットの素質を含むこともあります)


②ターゲット効率が最大化するストーリーを見つける

セグメンテーションマップでライフステージ年齢の変遷によるデータを見ていると、全体の変曲点となるセグメントが特定できるはずです。例えば、ポイ活のニーズは○歳~○歳から上がってくるが、定期購入のニーズは○歳~○歳から下がっていく、などです。

分析時のポイントは、自社が重視するデータアイテムについて、上昇してくるニーズをピッタリ吸収できるタイミングと、下降してしまうニーズをギリギリ回避できるタイミングのバランスを取ることです。そこがターゲット効率が最大化するセグメントです。

組織で取り扱っている商材やサービス、これから始めたいことなどに鑑みてセグメンテーションマップの内容を精読することで、仮にさしたる強みが無いプロダクトであったとしても、ユーザーニーズに合わせたポジショニングを選択できることでしょう。

この記事のライター

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でUX戦略・リサーチ全般を担当する。

個人でリサーチに関する著作を持ち、デザイン・マーケティング・経営を横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行うほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。

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