広告業界のプランナーに取材します
こんにちは、小幡です! 私は大学でマーケティングを勉強しながら、データマーケティングの会社、ヴァリューズでインターンとして働いています。いまは大学4年生で、来年の春からはヴァリューズに入社する予定です。
就活のタイミングで将来何になりたいかと考えたときに、マーケターになりたい!と思いました。でも、営業職や事務職は大体イメージできるけれど、マーケターの普段の業務はいまいち分からなかったんです。新商品の企画・プロモーションなどは目立つ仕事ですが、マーケターの仕事はそれだけではないはず。
そこで「マーケターは普段どんな仕事をしているのか」「どうやってマーケターになったのか」を明らかにするため、いま活躍されている現役のマーケターのキャリアについてお話しを聞いていきます。そうすれば、マーケターになりたい!と思っている、昔の私のような方々のためになるのではないでしょうか。
第3回では、株式会社ディノス・セシールでCECOをされている、石川森生さんにお話を聞きました。「マーケティングをやる上で必要なのは商売っ気」と断言されていたのが印象的でした。
そして今回は外資系広告代理店のグループエムジャパンで、メディアプランニングを担当されている氏川恭輔(うじかわ・きょうすけ)さんにお話を聞きます。学生の間で人気な職業ではありながら、外からはわからない部分が多い広告代理店の仕事内容やキャリアパスを詳しくお話しいただくことができました。では早速インタビューの模様をお届けします。
学生時代はコンサル志望、でも広告業界へ
小幡:本日はよろしくお願いいたします! まず、学生時代はどんな仕事がしたいと考えていらっしゃったんですか?
氏川さん:就活の軸は2つありました。ひとつはロジカルに物事を考えて出していく仕事ができること。もうひとつは日系ではなく外資系であることですね。これは大学に1年間ほど留学に行っていたことがあり、海外での仕事に強く興味を持っていたからです。この軸に沿って考えた結果、いわゆる外資系コンサルティング会社を目指すことにしました。
グループエムジャパン株式会社 マインドシェア
プランナー 氏川恭輔(うじかわ・きょうすけ)さん
早稲田大学 国際教養学部卒業後、2017年4月グループエムジャパンに入社。2018年には、「Winner of Mindshare Global Wild Card 2018」を受賞した経歴を持つ。
氏川さん:そういった企業は就活が始まるのが早いので、大学3年生の後期から就職活動を始めました。その後4年生の6月頃まで面接を受けていたんですが、たまたま海外学生向けのキャリアフォーラムに行き、そこでグループエムを見つけたんです。広告やマーケティングには興味がなかったんですが、業種は違えどやっていることはコンサルティング職に似ているところがあると思いました。
小幡:なるほど。広告やマーケティングに興味がなかったというのは意外です。グループエム以外の代理店は受けられていないんですか?
氏川さん:代理店はひとつも受けていないです。業種で選ぶというよりは職種で選んでいたという形ですね。
広告プランナーとはどんな仕事?
小幡:次に普段の仕事内容をお聞きしたいです。プランナーの仕事をされているとうかがったのですが、普段はどんな仕事をされているんですか?
氏川さん:基本的にはコンサルティングに近い仕事が多いのかなと思っています。クライアントに「こういう課題があって、この目標を達成したい、予算はこの金額」という要望があって、どのメディアでどんな広告をやればいいかという投げかけに対して、データや消費者インサイトを分析し、戦略を作っていきます。例えば「ターゲットがこんな人たちだから、テレビCMをやった方がいい」とか「テレビCMだけでなくデジタル、特にSNSもやっていきましょう」というところから始まり、「Instagramのストーリー機能で認知をさせて、そのあとに○○をしてもらう」という消費者の導線までを考え、実施していくという形ですね。
小幡:分析をして、戦略をたてて、実施するというところまで、一気通貫で関わっていらっしゃるんですね。通常どのぐらいの数のプロジェクトを抱えていらっしゃるんですか?
氏川さん:時期にもよりますが、基本的には常時2~3クライアントの支援をしています。年末は来年に向けた取り組みが起こる時期なので、さらに2、3のクライアントを追加で受け持つような形ですね。
小幡:やはりお忙しいんですね……。そのプロジェクトというのも、業界は多岐にわたっているのでしょうか。
氏川さん:そうですね。多業種にわたります。toC企業もあればtoB企業もあり、FMCG(日用消費財)メーカーもあればテック系メーカーもありと。本当にさまざまです。
情報収集は自分の興味ベースでいい
小幡:課題を見つけて分析をするという段階で、その業界の情報は常にキャッチアップされているのではないかと思います。普段はどんな風に情報収集をされていらっしゃいますか?
氏川さん:普段からインターネットの記事から情報は集めるようにしていますが、それ以外だとSNSを活用したりもしますね。例えばラグジュアリーブランドの担当になったときは、自分のInstagramアカウントでインフルエンサーや競合ブランドのアカウントを一気にフォローして、常に情報に触れる状態にしていました。
小幡:SNSを活用するのは、ラグジュアリーを買う消費者の立場に立ってみるといった目的のためですか?
氏川さん:もちろん消費者目線に立って、「何が一番彼らの心を動かすのか」「彼らはいつも何をやっているのか」といったことも日々確認しています。あとはしっかりトレンドをカバーしておくことも必要ですね。具体例を挙げると、例えば「Diorのデザイナーが変わったみたいですね」といった話もできるようにしています。業界全体のトレンドも追いつつ、そういった消費者の情報も観察して、どんなものが彼らに響くのかも常に考えていますね。
小幡:分かりやすいです。これは抱えられているプロジェクトに対して行うのか、それとも今伸びている業界、これからもしかするとプロジェクトとして入ってくるかもしれない業界についても行っているんですか?
氏川さん:あまり意識はしていないですが、プロジェクトに関わる部分だけを見るのではなく、全体を見るようにしています。あとは、面白い事例を集めるときは日本だけでなく世界中の事例から探すようにしていますね。例をひとつ挙げると、メントスのCMがあります。
カフェでWifiを使おうとすると、ポップアップが出てきますよね。そこに「隣の人に話しかけたらパスワードを教えます」と表示して、人と人がつながっていくという内容のCMです。このCMは海外の広告代理店が制作しているのですが、社会的な問題、ここではあまり人々が互いに会話をしなくなっているという部分に目をつけて、面白いものを作っていく。日本ではあまり見られない、メッセージ性のある訴求がとても参考になります。
クラシエ(Kracie)の公式ウェブサイト。企業情報、商品情報、オンラインショップやお得なキャンペーン・プレゼント情報などをご覧いただけます。
小幡:面白いです。私自身、情報収集をしないといけない、ということは分かっているのですが、とりあえずニュースメディアに登録しても網羅的に集められている気がしないです。氏川さんが今やられている情報収集を学生がやるとしたら、どんな方法が取れると思いますか?
氏川さん:自分の興味関心が持てる範囲でやってみる形で十分だと思います。僕も学生のときはあまりニュースに目を向けていませんでしたし、どちらかというとこの業界に入れば自然と入ってくるようになるんですよね。仕事の上では、ある業界の成長率や国内のマクロ経済の動きは必ず調べなければなりません。僕もプライベートでは自分の興味関心に合わせて広げている形なので、苦にならない範囲で楽しみつつニュースに触れてみるのがいいと思います。
提案では自ら考え抜くのが大事
小幡:次に、マーケティングの捉え方のお話をお聞きしたいです。様々なプロジェクトに携わっていらっしゃる中で、共通して必要となる課題解決の考え方や、大切にされていることはありますか?
氏川さん:課題解決のために必要な考え方とは少し違うかもしれないですが、自分のインサイトに自信を持つことは大切です。仕事をしていると、ビジネス上の取引先などとの関係性など、考えなくてはいけないことが様々ありますが、できるだけ予備情報に惑わされずに、与えられた課題に対していつも「自分が思う一番の答えは何か」を考えていくことですね。
クライアントから「ターゲット層が10~20代の女の子です」と言われた時に、それをただ真摯に受け止めるだけではなくて、「実は10代・20代の女の子だけではなくて、男の子もターゲットなんじゃないか?」などと疑問を持つ。言われたことをただやるだけではなくて、自分たちが分析して導き出したインサイトに自信を持って「もっとこうなんじゃないですか?」と提示していく、ということです。まずは前提を捉え直し、疑問をぶつけて話してみることによって議論が生まれ、より良いものを作ることができると思います。
小幡:プランニングの上では、フレームワークも使いながら考えていくのですか?
氏川さん:フレームワークは大変便利で思考の整理ができるから良いのですが、フレームワークだけで作成すると代理店の人間としての意思があまり見えてこないプランになってしまうと個人的に思っています。
フレームワークに沿ってプランを作ると、もちろんクライアントのやりたい落としどころにははまるんですが、それではつまらないと思います。我々が第三者の立場で関わる以上は、我々の意見が入っていないと代理店としてのバリューが低くなるでしょう。なのでフレームワークももちろん使いながら、自分たちのインサイトや経験を活かして提案を持っていくことが必要だと思います。
正解のない問いに答えるロジカルさとは
小幡:いろんな業界を担当されてきたと思うんですけど、どんな業界のマーケティングにも共通して必要となる能力について、スキル面・マインド面の2つからお聞きしたいです。
氏川さん:広告代理店が担当する広告分野はマーケティングの本当に一部になるので、あくまでその立場から考えてですが、スキルはロジック・インサイトを導く力、マインドの面だと人間関係ですね。特に代理店だとクライアントやメディア会社・他の広告ツール販売会社などたくさんの人に会うので、そこで良い人間関係を築いて情報を引き出すことがすごく大切だと思います。
小幡:スキル面について、ロジックやインサイトを導く力をつけるために、学生時代にできる有効な経験や勉強はありますか?
氏川さん:僕の経験から言うと、コンサルティング会社での長期・短期インターンはすごく活きるなと思います。会社の大小に関わらず、いろんな会社でやってみると良いです。マーケティングに対する課題を与えられて、そこに対する課題解決を学生同士で考えるといった、実際に業務でやっているような経験ができます。あとはコンサルティング会社で行われる試験を解いてみることもロジカルさを身に付ける上では有効だと思いますね。テストを通してロジックの考え方を頭に入れた上でインターンに行くことで、実際の業務でどういうことをやっているのかを、より効果が大きい形で疑似体験できる思います。
小幡:1dayや1weekのインターンは、業界を知るという意味合いが強いと思っていて、まずはいろんな業界のものに参加してみるようにしていたんですが、コンサルティング業界で言えば、ロジックやインサイトを導く力を身に付ける目的でも利用できるということですよね。
氏川さん:そうですね。とはいえ、普段から論理的思考力を鍛える習慣も有効です。結構僕もやっているのが、いろんなものに疑問を持つということですね。例えば、少し前までSnapchatが流行っていたのに、今はみんなInstagramを使っています。それはなぜかと考えてみたり、または最近流行っている広告はなぜ流行っているんだろうか、とひたすら問い続けてみる。すると最終的には消費者のインサイトに結び付くはずですし、論理を回していく練習においても良いと思います。
マーケティングは答えがないものなので、何かしらの合点を付けて実施していかないといけません。答えがない問いに対して自分なりに答えを出していく訓練をすることは、マーケティングの考え方を身に付ける上ですごく大切だと思いますね。
成長のチャンスは誰にでもある
小幡:外資系の代理店は、内部でも競争率が高いイメージなんですが、そういった環境でインパクトの大きい案件に関わる、自分のやりたい案件に関わるために有効なことはありますか?
氏川さん:前提として、競争率が高いイメージがあると思うんですけど、実際は逆なんです。競争もほとんどなく、みんな和気あいあいとしていて、一般的なイメージとは違うと思います。
ただ前提として、チャンスは自分でつかまなければいけないので、やりたかったらやりたいと言い、やれなくてもやりたいと言って、どんどんプッシュしていくべきです。どうしようと悩んでいると、最初にやりたいと言った人に先を越されてしまいます。
小幡:なるほど、すごく意外です…!和気あいあいとした環境の中で、それでも自分の成長スピードを上げていくために有効なことってありますか?
氏川さん:成長スピードは本当に個人のやる気次第ですね。日系の会社だと入社後数か月間は一緒に研修を受けて配属されるといったことが多いですが、外資系企業は入って3日ぐらいで「これやって」と最初から渡されるような形が多いです。定時で帰りたい人は帰れますし、逆に若いうちにいろんな経験をしてスキルを付けたい人は、自分からどんどん手を挙げることでたくさんのプロジェクトに関わることもできます。
氏川さん:ただ、それが良い悪いという話ではなくて。ワークライフバランスを大切にしている人はそれでいいし、スキルをつけたい人はそれでいい。そんなスタンスなんです。たくさん仕事をして、スキルを付けていくことだけが人生のゴールではないので。
小幡:ありがとうございます。これから代理店に入ろうと思っている学生や実際に内定をもらっている学生が新卒の時にこれだけは持っておいた方がいいことってありますか?
氏川さん:自分の関わっている仕事を面白いと思う気持ちは持っておいた方がいいと思います。忙しいので時間もなかなか確保できず、とりあえず完成させようというスタンスになってしまうと、自分も疲れますし、クライアントにとっても良い環境とはいえません。忙しいからこそ、心の中に「なんか面白いことやりたいな」という遊び心は持っておいた方が良いと思います。それは、クライアントの自分に対する評価の面でも、自分の心を保つうえでも有効で、そんな気持ちを持って仕事に臨んだ方が生き残っていけると思います。
小幡:では最後に、今のご自身が学生の頃の自分に言えること、将来のキャリアを考えていく上でこんな風にした方が良かったと言えることはありますか?
氏川さん:僕はコンサルタントを志望していましたが、結果的にあまり想定していなかった広告業界に入りました。しかしやってみると意外に面白い発見がたくさんあったんです。だからこそ企業選びの段階ではあまり絞りすぎずに、興味本位でインターンに行ってやりたいことを探してみるのも良いと思いますよ。
学生の段階で、将来40年にわたって従事するやりたいことを見つけなさい、と言われても無理だと思います。どこかしらとりあえず経験してみて、違うな、合わないなと思ったら違う環境に行ってみる、それでいいと思います。また、やりたいことが明確にあったとしても、実際に仕事をしてみるとぴったり合わないという可能性は誰にでもあります。そのときにひとつの業界しか見ていないと困ってしまうので、幅広くいろんな事をやってみて、自分に合うものを探してみることも必要だと思いますね。
まとめ
最後に取材のお話を振り返ります。競争率が高いイメージの外資系代理店のお仕事ですが、実際は違いました。成長スピードは自分のやる気次第とはよく言われることですが、その真意は、「やりたいと手を挙げることで任せてもらえる環境でいかに挑戦するか」にありました。「作ったプランに意思が感じられない」状態は、ビジネスだけではなく、就活においても起こりうるのではないでしょうか。フレームワークに当てはめて自己分析をする、志望動機を考えるだけではなく、自分の意思をしっかりと伝えることが必要だと思います。
また、コンサルティング業界を志望していた氏川さんが、いま現在は広告代理店で活躍されているように、学生の頃の志望業界・職種が自分の適職かは分かりません。だからこそ、就活のタイミングで一つの業界に限らず、幅広く見ておくことが今後のキャリアに役立つのではないかと思いました。
氏川さん、ありがとうございました!
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大学でマーケティングを勉強しながら、ヴァリューズでインターンとして働いていました。2020年の春からは新卒としてヴァリューズに入社しました。