「JAタウン」のデータソース、データ活用先とは?
約6兆2千億円の事業収支(単体:約4兆5千億円)をもつ、JAグループの全国団体である全国農業協同組合連合会のフードマーケット事業部 eコマース事業課課長の板倉要介(いたくら・ようすけ)氏は、冒頭から、データ分析の導入からの有効なマーケティング施策によって、いかに事業収支が急成長したかを語られました。
板倉 要介氏(以下、板倉):「私達全農が運営するインターネットショッピングモール『JAタウン』では、全国のJA・JAグループの会社などに出品頂いて、産地直送で商品を販売させて頂いています。実は歴史が意外と長く、2001年にスタートしました。その頃はまだよちよち歩きといった状況でしたが、ヴァリューズ社と出会った約6年くらい前、そこから一気に毎年二桁成長を現時点まで続けています。おかげで3年前には代表理事理事長から特別功労賞の表彰を受けたほどです。」
図:全国農業協同組合連合会 フードマーケット事業部 eコマース事業課 課長 板倉 要介氏
1992年全国農業協同組合連合会入会。1994年よりAコープ(JA系SM)のMD・バイヤー、実店舗での加工食品チーフ、国産農畜産物専門店舗の所長など、リアル店舗での実務に従事。その後2013年から『JAタウン』(インターネットショッピングモール)の運営責任者としてWEB事業の実績をつみ、現在eコマース事業の責任者としてECによる国産農畜産物の新たなマーケットの創出を進めている。
特別功労賞の表彰を受けるほどの『JAタウン』で起きた急激な成長の裏には、どのようなデータマーケティング施策が行われたのでしょうか。
JAでは主に「消費者」と「出品者」の両面にマーケティング施策を打たねばならず、それぞれのデータソースの選択、分析の仕方にも思案したとデータ分析で支援を行うヴァリューズ社の和田は語りました。
図:株式会社ヴァリューズ ソリューション局 マネジャー 和田 尚樹(わだ・なおき)
2009年京都大学情報学研究科修士課程早期修了。2012年京都大学情報学研究科博士後期課程単位認定退学、2012年株式会社ヴァリューズに新卒1期生として入社し3年間新規営業を経験したのち、現在はデータ分析組織のマネジャーを務める。
和田 尚樹(以下、和田):「具体的にどんなデータを使うかという点では、まずWebサイトの解析ツールであるGoogleアナリティクスを使います。そして『JAタウン』会員様の情報、どんな人がどんなものを買っているかというデータを使わせて頂き、あとは外部データとヴァリューズ社が独自に持っている消費者の行動データ、この4つのデータで分析を行っています。これらのデータはTableauというBIツールを使って提供させて頂くことが多いです。Tableauは色々な機能を持っているので非常に使い勝手がよく、データをスピーディーに見やすい形にしてTableauに入れ、やりとりさせて頂いています。」
図:活用しているデータソース
これらのデータは4段階の意思決定フェーズで使い分けられているとのこと。
板倉:「『事業領域の拡大』というフェーズでは、『JAタウン』もしくは全農eコマース事業の中長期的な領域のビジョン・戦略をヴァリューズ社と共有しながら進めています。
その他、『農作物の品種別EC市場規模の策定』『出店店舗向けの商品開発アドバイス』『現状把握のためのモニタリング』の3つのフェーズはどちらかというと短期的な課題ですが、ここは中長期のビジョンをヴァリューズ社ときちんと共有しているからこそ、課題の解決に進めることができています。」
データ分析を意思決定につなげる進め方
『JAタウン』と分析支援のヴァリューズ、両社は具体的にどのような協働プロセスを経て、データ分析を意思決定に活用しているのでしょうか。
クライアントとのコミュニケーションは、これらデータのTableauでのやりとりの他、月に1回の対面での打ち合わせが重要、と和田は加えました。
和田:「月次報告3ヶ月分の時系列の流れを説明します。
まず月次報告①では「JAタウンの中の売り上げ、リピート率をどうやって出していくのかとい」う議論が上がるとします。月次報告②では会員データを分析した結果を報告。「ギフトか、自分のための購入なのか」といった違いや「異常に購入している1%くらいの顧客が出てきた」等というデータを示します。これらの結果から月次報告③につなげていくのですが、このケースだと「業務利用かもしれない」といった仮説へと広がりました。
このような手順を踏んでいると、3ヶ月前に話していた事が違うところに着地するというケースもあるのですが、データをよく見ることで視野が広がり、このケースのように想定していなかった事も出てきたりします。それら結果を柔軟に見て頂きながら意思決定につなげて頂いています。」
板倉:「我々はギフト需要が多いだろうという仮説のもとに施策を打ってきたのですが、ヴァリューズ社のデータで、実はギフト需要よりも自分のための購入の方が多いという実態が見えてからは、方向性を修正でき、違う一歩に踏み出すことができました。」
また、この月次報告②のデータであぶり出された「異常値」も、実は業務用での購入だと可視化されたので、そこには施策として新たに「業務用のサイト」を立ち上げたと板倉氏は付け加えました。
データ分析による可視化が見事に功を奏した例と言えるでしょう。
図:データ分析・報告の進め方について
JA全農側データの整備で重視したこと
サイトの立ち上げという意思決定まで導いたデータ活用の成功の裏には、データ整備も欠かせない要因の一つです。膨大なデータをどのように整備・分類していったか、具体例をモデレーター、ヴァリューズ社の岩村が掘り下げました。
図:株式会社ヴァリューズ データマーケティング局 マネジャー 岩村 大輝(いわむら・だいき)
一橋大学商学部卒業。ヴァリューズには創業初期から参画し、業界最大手日用品メーカーなど大手顧客を中心にデジタルマーケティングを支援。現在はヴァリューズ最年少マネジャーとして、事業会社を中心に担当するコンサルティング組織を統括している。日経 xTREND FORUM TOKYO、MarkeZine Dayなど数多くのマーケティングカンファレンス登壇実績も持つ。
岩村:「実際のところ、『JAタウン』の商品データ分析はどのように進められたのでしょうか。ショッピングモールのデータは情報量も多く、データ整備で課題に直面しやすいとも聞きます。」
和田:「『JAタウン』の中でもすでに商品カテゴリといったデータもあったのですが、分析作業には適さない形だったのが、まず最初の問題でした。
ショップや出店者の思惑に寄った形で既に付けられた分類を、全て付け直すとなると膨大な作業量です。よって、取得できていた『商品名』を分類に使うといったロジックを使ってデータを分類し直しました。」
それによって、正しい形での売上との紐付けが可能となり、売上推移などの分析データをもとに、ショップや出店者に向けて的確なコミュニケーションも可能になったそうです。
図:可視化アウトプット
このように意思決定を目的とするデータ分析が可能となったのには、データ分類のロジックが重要だったと和田は繰り返します。
和田:「意思決定を目的とするならば、まず解釈性・安定性が重要だなと。ショップが増えれば新しいカテゴリも増えるので不安定さが出てくる。しかしここでは安定性を優先すべきなので、細部徹底することにこだわらず、バランスよくシンプルに作っていくことを大事にしています。」
図:分類ロジック
ここで検索データの一例をみてみましょう。
和田:「ヴァリューズ社のパネルの方々が、普段どんなページを見てどんな検索をしているかが分かるデータです。
例えば「紅まどんな」と検索をすると、どんなECサイトで見られているか分かるようになっていて、市場規模の推定がとれるようになっています。そうすると、Amazonがあって、JAタウンがあって…と見ることができると。こういうところから品種毎に競合がわかります。」
板倉:「他社と比べて自分たちはどの辺を走っているのか?ということを想定している側にとって、このように、しかも商品毎に「あなたは今ここを走っていますよ」とはっきりと可視化されることによって、次どこを目指そうかということが明確になってくるデータ。とても役立っています。」
図:市場規模の推計
データマーケティングを成功に導くために
データマーケティングを成功に導くための提言として、「みなし」を有効活用し、取れているデータだけからでもできる範囲で分析を進めるのが必要とのこと。
和田:「意思決定の精度以上にデータ取得・分析の精度をあげても仕方がない。そして、意思決定のための精度の中でブラックボックス化しすぎないこと。何事も「意思決定のため」という道筋から外れずに、判断の基準が明確であることが大事です。
加えて意思決定者がデータ分析の打ち合わせの場に出席するのもとても有意義です。」
図:データマーケティングを成功に導くために
また、デジタルの部分とアナログの部分がうまく絡んでいるのが成功につながっていると強調されたのは板倉氏。
板倉:「ヴァリューズ社の分析データで、我々が見えなかったことが可視化されて方向性がより明確になってきていると感じています。加えて、アナログ面では定例のコミュニケーションの中で、かなり確信性の強い気づきをもらっています。」
岩村:「意思決定をする側と分析をする側が、同じ目線でデータに向き合い、オフライン・オンライン問わずコミュニケーションを重ねて一緒に事業を推進していく。テンポ良く回転する両輪のような関係が、今回の成功につながったとも言えますね。」
まとめ
社外のデータアナリストとパートナーシップを組んで推進された今回の事例は、既に持ち合わせているデータの活用に苦慮している方にも、非常に具体的で参考になったのではないでしょうか。
デジタルをできるところから整備して、アナログのコミュニケーションで隙間を埋めていく。「データドリブン・マーケティング」という言葉がより身近になったように感じられたセミナーでした。
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マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経て現職。
趣味は食と旅行。